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46.予定表作り


 俺はモルディート邸に滞在中の予定をマーガレットの希望も聞いたので、改めて紙に書きだすことにした。

 彼女は本を見てくると言って書棚へと向かった。以前に崩れ落ちた本により怪我をしたことがあるので、梯子を使うような高い位置の本は決して一人で取らないよう念を押せば、彼女もトラウマだったのか、物凄く強く頷いてくれた。


 さて。

 つい予定表は日本語になってしまう。だが、陛下の頼み事は日本の調味料だ。この世界には存在しないレシピかもしれない為、見られても分からない文字で綴るのがいいだろうという判断した。もちろんこれまで医学関係について記した物も全て日本語にしている。


 大まかにピックアップした観光地と店の配置などから、最適なルートを模索していく。

 体力のないマーガレットの為に極力歩かせないためだ。


「うーむ。。ここまで行きたいが。。。時間と距離的に。。。2日に分けるか。。。こちらのルートでは馬が良いのだが。。乗り物酔いは。。。」

 完全なる休息日も含め10日間ほどを決め、改めてこちらの文字に転記した。



 コンコン。


 机の端をノックされ顔を上げれば、そこには申し訳なさそうな顔をしたマーガレットの姿。

 手には何も持っていないところを見ると。。


「欲しい本が見つかったか?」

(はい。)

「では、取りに行こう。」

 頼まれる前に答えれば、彼女はパッと笑顔になる。やはり頼み難かったのだろう。


「これとこれだな。。で、こちらもか。」

 彼女に言われるままに取った本を持って、もう一度ソファーに戻ったのだが。。。


 目の前に置かれた分厚い本を見て彼女は満足そうではあるのだが、俺としては???が続く。

「マーガレット。。」

(・・・はい。)

「部屋に持って行くのだろう?・・・本当にそれでいいのか?」

(はい!!!)

 嬉しそうに返事をする彼女なのだが。。。やはり俺からすると???なのだ。。だって、図鑑なのだもの。


「娯楽用の書物もあっただろう?」

 その言葉で、ようやく俺が不思議がっていることが分かったようで、スラスラとペンが走る。


(本は、どんなジャンルも大好きなのですが、この図鑑の著者は亜熱帯地域の植生が専門のはずなのに。。これはこの海岸線地域の植生を纏めているのです。)

 とても熱く語る。。というかメモを書いていく。彼女の新たな一面を見ることができたようで嬉しい限りだ。


「ははっ。君の知識は聞いていた以上のようだ。」

(聞いていた?)

「あぁ。婚姻前に君の御父上からね。君は官吏並の知識があると聞いていたが、そのような一般的なレベルではないだろう。」

 婚姻前、父親。というワードが出た途端に彼女の顔が強張った。だが俺としても嘘はつきたくない。


「この表装に使われている、この布地。これはオルティース公爵家のみが所有するものだ。うちが各著者に編纂してもらった原本であり、複製は認めていない。だからこの世に1冊のみとなる。」

 そこまで言うと、先ほどまで強張らせていた顔が今度は青ざめていく。

(そんな。。。たいせつな。。)

 唇が震えているが、確かにそう動いた。


「問題ない。読む者がいなければ、これはただの紙となってしまうだろう?君がこの本の価値を理解している。それだけでも素晴らしいことなのだ。」

(・・・でも。)

 彼女はさっきまで嬉しそうに表紙を撫でていたのが嘘のように、手を引っ込めてしまっている。


「マーガレット。遠慮はいらない。私も父も娯楽書以外は全て目を通したゆえ、最近では手に取ることも無い。君が久しぶりに手に取ってくれたから、きっとその本も喜んでいる。」

(ほんとうに。。。)

「良いと言っているだろう。王宮図書にも無いものもあるからな。オルティース公爵家のみの特権を満喫してくれ。ちなみに、気に入ったものがあれば、王都に持って帰れるぞ。」

(・・・ぜんぶ。。)

「ちょっと待て。今、全部と唇を動かした気がするが?それはダメだぞ。。流石にこれだけを持って帰ると。。。できないことは無いんだが、君が読書に耽ってしまっては、私と過ごす時間が無くなるだろう?」

 少しむすっとしてしまった。本に嫉妬するなど。大人げないにもほどがある。

 だが、彼女はと言うと、目を丸くしたかと思うとクスッと笑った。


(はい。私が手に取っても良いと。。読んでも良いと仰って下さるなら、少しずつにいたします。)

 さらりと書かれたメモを見て、

「それは有り難い。」

 とホッと胸を撫で下ろせば、

(今までは本しか無かったのですが。。。私も旦那様とのお時間を。。少しだけでも。。。頂戴したいです。)

 遠慮がちにペンが動いた内容にたまらなく嬉しくなってしまった。

「少しなどと言わずに四六時中でも構わないぞ!!」

 と前のめりになってしまうと、

(お仕事がありますでしょう。)

 またもクスッと笑われた。

「・・・まぁ。辞めても暮らせるだけの財力はあるんだが。。」

(お仕事してくださいませ。)

 とさらに笑われてしまったが。。。とても距離が縮んだ気がする。メモではなくこれをマーガレットの生声で聴けたなら。とつい欲が出てしまう。



 つい脱線したが、明日からの予定についても相談すれば、俺が大まかに決めたスケジュールでも問題なさそうだった。時間もかなりゆとりを持たせてあるから、どこか気になったりすればそちらを優先できるし、当日気分が乗らなければやめてしまっても構わないのだ。

 そんな緩い日程にしておいたので、マーガレットも気負うことなく受け入れてくれた。



「ふふふーん。今日はおっさかなー。海のおっさかなー。どーんなお料理ー。」

 先を行くシャルルの独特過ぎる鼻歌。。今から晩餐だ。

「ぼーくはくーだものー。がんばーったごほうびーフルーツー。たっぷりまんぷくー。」

 つられる様にブルーも中々に個性豊かな鼻歌だ。


「本当におしゃべりできるのねぇ。かわいいわぁ。」

「従魔契約を3匹もするとはな。」

 両親にもブルー・シャルル・ヒスイの事は伝えた。もちろん使用人たちにもだ。数週間の滞在では、奔放な彼らが言葉を我慢することなど出来なさそうだし、無理をさせるのは可哀想だからな。

 公爵家の使用人たちに関しては、外部に情報を漏らすような者はいないので問題もない。


 料理が運ばれてくるまで続いたブルーとシャルルの鼻歌に、控えている使用人たちもほっこりしていた。


「うわー!お、お、お魚にゃっ!!!」

「フルーツてんこ盛りっぴよ!!」

 目の前に並んだ料理に、二人が興奮する。


「お前たちのリクエストだろう。驚いてどうする。とりあえず涎を拭け。」

 俺とマーガレットの間に席を設けた2匹の口を拭いてやる。

「だってだって、主様ー。すごいっぴよぉ。」

「ここまでだって思わなかったにゃ。」

 俺とマーガレットに口を拭かれつつ、興奮は冷めやらないようで、目の前のさらに釘付けだ。


「さてと、それでは父上の挨拶に、私の挨拶だろう?それから食事前の御祈りをしてだな。」

 目を細めてチラリと2匹の顔を見ながら、意地悪を言えば、

「待てないにゃぁぁぁぁ。」

「短く。。。短ーくお願いっぴぃぃぃ。」

 2匹が机に突っ伏して嫌々としてくる。そんな姿もかわいいものだから、さらに意地悪を。。。と思ったが、皆の視線が痛いので、


「では、父上。」

 と促せば、

「ふむ。短くと言われたのでな。。では、いただこうか。」

 クツクツと笑いながら父が杯を上げて食事が開始された。


「パパさん。いい人だにゃぁ。」

「それに比べて主様ー。意地悪っぴ。」

 などと言いながらも、口はものすごい勢いで目の前の皿を平らげていく二人。。


 まぁ。シャルルは猫だからなぁ。魚の一匹や二匹はいけるだろうが、ブルーはどこに入っていくのだろうか、と言うほどたくさん食べている。


「マーガレットちゃん。お魚料理が苦手だったら遠慮なく言うのよ。」

「そうだな。王都のように内陸では川魚だからな。海魚を初めて食す者の中には、匂いが苦手な者もいるからな。」

(とっても美味しいです。このカルパッチョというのも初めてですが、さっぱりとしていますし、お魚は蕩けるようでとても好きです。)

 さらりとメモを書けば、それを見た両親や使用人たちも嬉しそう。


「そうかそうか。カルパッチョの魚は生で使用している。ならばソテーも問題ないだろうな。」

「えぇ。とっても嬉しいわね。せっかくモルディートに来たんですもの。王都で食べられないお料理を食べて欲しかったのよ。」

(とっても嬉しいです。)

「まぁ。本当に?私たちも嬉しいわぁ。」

 今夜もマーガレットは両親たちに喜ばれたようで何より。


 和やかに進んだ夕食も。

「もうダメにゃ。」

「お持ち帰り希望っぴよ。」

 子供用の椅子に座っていたシャルルはそこでぷっくりと丸くなったお腹をさすり、ブルーにいたっては鳥にあるまじき大の字になってしまった。相当食べ過ぎたようだ。


「持ち帰りって。。どこで覚えてくるんだ?」

 呆れつつ、シャルルを抱きかかえれば、確かにいつもよりもずっしりと重みがあり、ブルーはそっとマーガレットが手のひらに乗せた。


「では、明日からはこのような予定、になるかもしれません。あくまでも概ね、という事で気分次第で変わるとは思います。」

「ふむ。承知した。あとはこちらで。」

「お願いします。」

 父と少ない言葉を交わせば、母はもちろん意味を理解していたのだが、マーガレットは少しきょとんとしているように感じた。


 とりあえず部屋へと向かう。

「先の父との会話だが、気になったのか?」

 そう問いかけてみれば、少しためらってから頷きが返ってきた。

「大した話ではなくてな。護衛の件だった。私は君と二人で出かけたいが、公爵家としては護衛を全く無しでは外出は認められないのでな。せっかくのデートを護衛付きではつまらぬだろう?だから離れて警護するよう頼んだのだが。。。不要な気遣いだったろうか?」

 俺の勝手な判断だったので、一応聞いてみれば、ブンブンと勢いよく首が振られた。彼女も大袈裟なのは必要ないようだ。


 という事で、一つ一つマーガレットが疎外感を味合わないようにして行かなければならないだろう。

 身内だけが分かる。というのは、分からない側になるととても気になってしまうものだからな。


 食後のお茶を飲みながら、ブルーとシャルルを寝かしつけると、ヒスイはいつも間にか戻ってきており天井にハンモック的な寝袋を吊り下げてその中に入っていた。


 マーガレットは今日も俺と同じベッドだ。

「おやすみ。」

(おやすみなさい。)

 そんなやり取りができることが幸せだ。これが王都に戻っても当たり前になっていく日常が訪れてくれることを願いながら、明日のデートに備えゆっくりと目を閉じる俺なのであった。




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