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4.あの日の出来事


 マーガレットに触れた途端、流れ込む”公爵”の記憶。


 そのあまりの内容に衝撃を受け言葉を失う。


 だがマーガレットに関する記憶は意志とは関係なくとめどもなく流れ込み、脳を焼き尽くさんばかり。。

 そのどれもが彼女の心を壊すのに十分な内容で。。。彼女が言葉を紡げなくなったことも”医師”としても理解できた。



 問答無用に流れ込む記憶でひどい頭痛に襲われ、痛む額に手を当てるが、脂汗が止まらない。

「すまない。。マーガレット。。。君と話をしていたのは。。。夢の中。。だったのだな。。高熱に浮かされて見た夢を。。現実と思ってしまったようだ。。。すま。。なか。。った。。」

 頭痛は最高潮で。。。必死に取り繕った言い訳だけして意識を手放した。




-----真っ暗な闇の中。


 マーガレットと出会った記憶が呼び起こされる。

 あれは1年ほど前。。


 公爵家の嫡男として、25歳で後を継ぐことが決まった。

 普通ならば、爵位を継ぐまでか、最悪その際に、婚姻もするのが貴族の一般常識。

 爵位を持てば伴侶同伴が必要な場面はことのほか多いものだ。


 だがアルベルトは違った。


 結婚などという煩わしいことに興味が無かった。

 しかし、王家とも近しい家柄。個人的な我儘が通用するわけでもない。


 近いうちに予定している。と嘘を吐いた。


 由緒正しき公爵家。婚姻を結ぶには”貴族”の身分が必要。。

 社交界に顔を出す年頃の貴族階級の娘たちを思い浮かべるが。。。

 どれも気に食わない。

 わがまま放題に育てられ、高慢ちきな女か、わがまま放題育てられ、家畜のように丸々とした女のどちらかだ。。

 オルティース公爵家の財力は今年の国家予算を賄えと言われてもゆうに供出できるほど蓄えられており、わがまま放題な嫁が着飾る宝飾品を貪るように金を使ったとて、そこは問題ない。金ならあるし、足りぬでも宝石の類が領地から採れる。。知れた散財だ。

 しかしだ。。跡継ぎの為に子作りをしろと言われたところで、興味の欠片も湧かぬ女では、勃つものも立たん。。


 セバスチャンに命じ、国内全ての貴族令嬢の名簿を作らせると、一つだけ覚えのない名を見つけた。


 王都に居を構えるセリーヌ伯爵家の長女マーガレット。

 この国では15歳になると貴族階級の娘は例外なく社交界デビューをしなくてはならないはず。。

 だが、一度たりとて姿を見たこともないが、そもそも名も聞かなかった。

 

 その伯爵家が傾きかけているからかと思ったのだが、次女として名が挙がっているクリスティーヌは知っている。社交界デビューもしているし姿も見たことがあるのだ。。。


 何かがおかしい。。そう思い、家令であるセバスチャンには言わずに水面下で調べを進める。

 世間が知らぬ娘ならば使いようがありそうだ。。。セバスに見つかれば何かと五月蠅い。


 そして、分かった。

 社交界に出る事すらままならない病弱な娘らしい。。という表向きの説明はすぐに手に入った。

 だが、実のところは髪色が2色で世間には出せないというのが本音らしい。

 この国で2色の髪色を持つ者は、悪魔の使い”魔女”であると忌み嫌われているのだ。。

 また、セリーヌ伯爵といえば、裏カジノで膨大な借金を抱え、破産目前らしい。。


 ここまで調べ上げた時、”契約結婚”を思いついた。


 借金を肩代わりする代わりに、長女を差し出させるのはどうだろうか。

 こちらとしても、正式な妻など要らない。社交に出す気もない。となれば髪色など何色でも関係ない。そもそも”魔女"などという迷信など興味もない。

 病弱だという名目であるのだから、家から出さねば、今まで通り問題なくやり過ごせる。

 実際に病弱だとしても、それはそれ。一度結婚さえしておけば、興味のない嫁が死んだところで痛くも痒くもないし、次の嫁をもらわぬ言い訳にもなる。


 これ以上にない、良策だ。。

 しかも筆頭貴族の公爵家からの話であれば、伯爵家ごときが断りを入れる事は難しいだろう。


 だが、両親と妹を見る限り、見目は良さそうだ。跡継ぎを作っておくのも良いかもしれないが、そうなると知能レベルが気になる。公爵家を継ぐのであれば馬鹿は困る。



 そうして下調べ代わりに、取ってつけたような理由で伯爵家に乗り込む。

 何だかんだと時間を引き延ばしたが、長女を見るには至らなかった。。。のだが。。。

 帰りの馬車に乗り込んだ時だった。。


 屋根裏部屋と思しき窓際にたたずむ女性が見えた。。

 やせ細りどこか虚ろな表情ではあるが、美しい横顔。。。そして金色の髪に一束の栗色が混じる2色の髪色。。

 間違いない。。彼女がマーガレットだ。。その一瞬で興味が沸いた。



 そして次は目的を軽く告げて訪問する。

 もしもこちらの条件に合うのであれば、妻にどうかと検討している。と。。。

 そう伝えると、伯爵の顔色がすぐに変わった。ニンマリと笑う顔は明らかに娘を売り飛ばす気でいるのが明らかだ。


 伯爵としては、正式な妻として次女を送り、公爵家とつながりを得たかったようだが、こちらの条件を聞けばすぐに意図を理解したようだ。


 そうして交渉を始める。

 まず、知識レベル。公爵家に相応しいだけの知力があるか問えば、部屋に籠っているため、時間があれば本を読み、知識だけならば官吏クラスだという。貴族女性では稀有な知識量であろう。ここは十分すぎる程にクリアした。


 次に、品格。家から出さぬとはいえ、無作法者が屋敷をうろつくのは我慢がならない。最低限のマナーがあるのか問えば、社交が必要ではないためダンスはできぬが、それ以外は最低限はできるとのこと。ここは家に来てからでもある程度は矯正できるであろうから、最低限あればクリアだろう。


 さらに、従順な性格かどうか。。

 ここで伯爵は口を噤んだ。。だが、口を割らせるのは軍部の仕事柄得意だ。強めに威圧をかけただけですぐに吐いた。。虐待まがいの事をしているらしい。暴言暴力を振るっても反抗はほぼ無いらしい。。。虐待による傷が背中に残っているらしいが、まぁ、反抗心が無いのならば問題ない。


 そして最後に。。。今度はこちらが口を開くか迷った。。

 何せ、犯罪まがいの事をこれから口にするのだから。。。

 迷ったが、重要事項であるので、口を開く。

「こちらは条件が合えば妻にもらうが、条件が合わねば当然要らぬ。だが、公爵家に入る以上、跡継ぎを考える。そもそも相性が合わねば跡継ぎもできぬだろう?味見をするのは了承できるか?」

 その言葉に伯爵も驚いたようだが、流石はギャンブルに溺れた男。女好きも聞き及んでいただけあり、すぐさま意図を理解したようで、満足気に大きく頷き、

「もちろんでございますよ。夫婦生活において最も重要。マーガレットは外に出たことがありませんから、純血は守っておりますが。。無くなったところで今後も外に出せぬ身。問題などございません。。相性は大切でありましょうからな。。ですが流石に、生娘を差し出すのです。”タダ”とは。。。参りますまい?」

 喜色満面。ハエのように手を擦り合わせながらこちらを見る。


 貴族の娘は純潔が何より大切とされる。婚約者とならば婚前交渉をとるものもいるが、それ以外で何かあれば、貴族間での婚姻は難しくなる。公爵のこの発言は、公爵が婚姻を結ばねば、マーガレットが貴族へ嫁ぐ道を完全に途絶えさせるということ。非常識も甚だしく、一歩間違えれば犯罪者となる可能性もあった。


「もちろんだ。もしも婚姻が成立しなくとも味見が完了した時点で、貴殿の借金の3分の1は払うとしよう。それでいかがか?」

「そんなにも。。。ですか?。。それでしたらいつでもお好きなようになさってください。。風呂に入れさせねばなりませぬので、今から。。とは参りませんが。。。」

「風呂の件がクリアするならば、今からでも良いと聞こえるが?」

「公爵様のお好きなようになさいませ。」

「ならば早い方がいい。細かいことは気にせぬ。案内せよ。」

 そう言って案内させる。使用人用の廊下へと入っていく。

 予想通り、この借金まみれのこの男はあっさりと娘の将来よりも金をとり、屋根裏部屋へと向かっていく。


 行く道すがらに

「立会人は要りませぬか?マーガレットが暴れでもすれば、公爵様にご迷惑が掛かりますれば。。」

「ならば、マーガレット嬢の気に入りの者はいるだろうか。」

「はぁ。執事のベンの事を好いておるのではないかと、使用人たちの間では噂になっておりますが。あやつなら確かに、公爵様を拒むことがあれば説得させらるかと。。」

「フッ。そうか。好いた相手がいるのならば、さらに良い。伯爵よ。勘違いしているようだが、説得をするつもりは毛頭ない。そんなことに興味はない。だが。。好いた男の前で。。となれば、私の前で今後、逆らう気も失せようというもの。」

「公爵様も悪い趣味をお持ちで。」

 ゲヘヘッと笑う伯爵は、到底父親とは呼べぬ者だったが、こちらとしても非常識を重ねようとする身。それで丁度よい。


 何も知らぬ執事を合流させ水桶を持たせた上で、長女の部屋を訪れる。

「ベンよ。お前はこれから立会人だ。意味は分かるな。公爵様が満足なさるよう尽力せよ。」

 伯爵からの命令に、執事は明らかに動揺したが、40歳ほどに見える彼は夢見るような年でもない。苦い現実を受け入れたのだろう、諦めたように頷いた。


 部屋に入れば、屋根裏部屋特有のカビ臭さと埃っぽさに顔を顰める。

 父親と執事を従え、見ず知らずの男性の入室に何事かとマーガレットは驚きの表情を見せ、

「・・・どなた。。。ですか?」

 と戸惑いの一言。

「お前は黙って公爵様のおっしゃる通りにしていればいい。決して逆らうでないぞ!!満足していただくようにせよっ!!」

 伯爵はまるでゴミを見るかのように娘を一瞥すると、公爵には媚び諂う笑みを見せ、「どうぞお楽しみください。」と言って部屋を後にした。

 

 その一言でマーガレットの顔色が青くなった。確かに聡い娘のようで、すぐに父親の言う意味を理解したようだ。

 公爵が一歩前に進めば一歩後ずさる。だがそれも狭い屋根裏部屋ではすぐに追い詰められる。

「・・・ベン。。。どういうことなの?」

「お嬢様。。伯爵家の為にございます。」

 怯え助けを求めるように入口に控える執事に問いかけたが、悲しさを含ませた瞳で執事はそれだけを言ってすぐに顔を背けた。


「そういう事だそうだ。」

 公爵はニヤリと笑うと、マーガレットの手を強引に掴みあげ、近くの寝台へと突き飛ばす。

 倒れた彼女の上に馬乗りになると、胸を鷲掴み、

「今から私が君の身体が公爵家に相応しいか調べる。抵抗は無駄だ。君の父上とこの執事も了承済みだからな。。まぁ泣き叫んでくれた方が面白味はあるがな。。」

 睥睨した次の瞬間には、ドレスの胸元に手をかけた公爵の手が下へと力の限りに下ろされた。

 虐待を受けていたという通り、伯爵家の令嬢には相応しくないみすぼらしいワンピースはいとも簡単に引き裂かれ、コルセットもつけていない身体は、薄い下着だけとなった。

 

 マーガレットは恐怖に震えが止まらない。

「・・・ぃやっ。。。やめて。。。」

 栄養失調なのか、フルフルと首を振るのも、おびえた声も、抵抗する腕も。。何もかもが力なく弱かった。

 すでに公爵が最初に掴んだ手首にはくっきりと手の跡が赤く残っている。


 不健康そうに痩せており、食事も満足なものは与えられていないと見える。肌も髪も同じく、艶もなくかさついているが。。。それを補って余りある美貌と磨けば美しくなるであろうキメの細かい肌が目の前にあった。そして話通りに背中に見えるアザ。。

 伯爵家とは思えないかび臭い屋根裏部屋に不釣り合いな美しい貴族令嬢が肌を晒し、そして深窓の令嬢にはあり得ない痣が残る。。この状況の異常さが公爵の嗜虐心に火を灯した。


 チーフを出し、両の手首を縛り上げ、残った下着も剥ぎ取れば、羞恥に身体を捩って、僅かでも隠そうとしていた。


「無駄な足掻きだ諦めろ。おいベンといったか?彼女は風呂も入っていないのだろう?であるならば、私が触れるに値しない。拭き上げろ。」

「・・・かしこまりました。」

 ベンという執事は持ってきた桶にタオルを浸すと、彼女の身体を丁寧に拭いていく。


「やめて。。。お願い。。見ないで。。。。ベン。。許して?。。。お父様に謝るから。。」

 執事を好いているというのは本当なのだろう。裸を見られた羞恥もあるのだろうが、泣きじゃくりながら、手を止めない執事に懇願していた。

「お嬢様。この婚姻が成立できれば、伯爵家は持ち直すことができるのです。」

 その言葉を聞いてマーガレットの瞳が絶望に落ちていく。。。


 だが、公爵の悪趣味は止まらない。


「おい。ベン。。俺が味見をできるよう、そいつの身体を慣らせ。」

「・・・かしこまりました。」

「・・・ぅうそ。。。ぃやぁぁっぁぁぁぁぁ。。」

 公爵の要望に執事は応えた。。マーガレットからは拒絶の叫びが上がるが、それを公爵は顔色も変えずにまるで書類を確認するかのようにベッドサイドから見下ろしていた。


 そうしてしばらくして機が熟すと

「では、代ろうか。」

 とジャケットを脱ぎながら、息の上がったマーガレットの所へと公爵が上がる。

 その頃には、もう彼女に反抗も拒絶も意味がないのだと悟ったのか、虚ろな目が公爵の姿を追うだけだった。


「ようやく理解してくれたようで嬉しいよ。」

 満足げに黒い笑みを浮かべた公爵の顔は悪魔よりも悪魔らしかった。。

 そうしてマーガレットにとって、地獄の時間が始まった。。



 事が終われば、期待以上の身体に公爵は満足した。身体の相性が良いのか得も言われぬ快感をもたらしたのだ。今まで遊んできた女性では味わえなかった感覚であった。

 顔も美しく、それを自分が歪めているのだと思えば征服欲も満たされた。確かに背中にはこれから先も消えぬであろう虐待による傷跡が多くついていたが、それも嗜虐的な自分の趣味とよく合っていていい眺めであった。


「伯爵よ。さすがに一度では良く分らぬ。あと数度は来ようと思うのだが。。条件を改変したい。一度の訪問ごとに貴家の借金の1割を払うこととする。3度以上は訪問するつもりであるから、貴殿にとって損はなかろう?」

「それはそれは。ありがたいことで。」

 公爵の条件はあっさりと受け入れられたのだった。



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