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22.テイマー?


 ふうっ。無事に仕事が終わった。まぁ日付も変わった夜更けのため、出迎えはひっそりとセバスと部屋付きの侍女だけだったが。

 日本人である俺からすれば身の回りのことは全てできるのでこうした出迎え自体いらないのだが、公爵家としては必要だろう。俺も慣れてきた。


 セバスから午後からの報告事項を軽く聞きそれに対しての指示を出し部屋へと戻る。すでに侍女が湯あみや寝装などの準備を整えてくれていたので、下がらせる。


 すると。。。


「主さまぁ。僕も一緒にお風呂入りたいっぴ。」

「えー。お前がいいなら俺も入るにゃ。」

 すでにベッド(猫用)で寝ていたシャルルとブルーが俺の姿を見かけて近づいてきた。


「猫や鳥も入るのか?猫は水が嫌いだろうし、鳥の羽は油分が落ちるから湯は良くないと聞くが。。」

 顎に手を添えて、日本での当たり前を言ったのだが、

「だーかーらー。俺もブルーも普通の動物とは違うにゃ。」

「うんうん。お風呂くらい大丈夫っぴよ。」

「ま、まぁ本人がいいのなら。。」

 と風呂へ行きかけたところで、ハタと気づく。。


「というか。。お前たちオスで良かったか?」

「メスだったとしても、主様の裸を見て、欲情しないにゃ。」

「人間はぜーんぶ脱いで毛がなくなるから恥ずかしいかもだけど、僕たちは何にも脱がないから平気ぴよ。」

「あー確かに。」

 ふむふむ。と納得。まぁ俺としても公爵の身体だからな。恥ずかしがるのは公爵であって、俺じゃない。しかもこの身体、鍛え抜かれているのでバッキバキに腹筋も割れてるし。むしろ堂々とできるしな。


 風呂に浸かれば、

「ふあぁぁぁ。きもちいいにゃ。」

「うんうん。今まで鳥と思われてたから、水浴びしかできなかったぴよぉ。お湯が恋しかったぴよ。」

 日本人の俺よりも、湯船に浸かる姿が様になっている。なんならタオルを頭に乗せてやりたいくらいだ。。温泉じゃないんだけどな。


「二人とも今までも風呂に入ってたのか?」

「森の中にお湯が沸いてるにゃ。」

「うんうん。大きい森なら1か所くらいはあるぴよ。」

「何っ。温泉があるのか?」

 ザバンっ。と思わず身を起こせば、二人に水しぶきがかかってしまう。


「顔に水がついたにゃ。」

「鼻に入ったっぴ。」

 二人からじっとりとクレームの目線が来たので、

「悪い。つい、な。それで、温泉があるのは本当なんだな?効能とかもあるのか?」

 元日本人としては、この展開は見逃せない。


「もちろんにゃぁ。少しだけだけど癒しの効果があるにゃ。気持ちもいいし、お徳にゃ。」

「魔力の高い魔獣が入った後なら、魔力が残ってたりして、怪我とかが治ったりもするぴよ。」

 なんと、効能がさらにプラスされることもあるのか。。


「それは興味深いな。。」

「けど、残念にゃ。大きな湯場は少ないから、主様が入れるような大きさの場所は滅多にないにゃ。」

「うんうん。そういうところは、大抵、強い魔獣がテリトリーにしてるから近づけないっぴ。」

「・・・チッぬか喜びか。」

 つい舌打ちしてしまった。そんな行くこともできない場所ならば、知らぬ方が良かった。。無駄に聞いてしまっただけに、がっかり感が増してしまうじゃないか。。


「ところで。。。」

 シャルルが俺の顔を窺うように覗き込んできた。

「・・・なんだ?」

 少しばかり警戒しながら問い返せば、

「ちょっと聞きたいっぴよ。」

 ブルーも追随してきたので、僅かに身構えておく。


「ねね様は主様の奥さんにゃ?」

「そうだが。。。」

 なにゆえ、当たり前のことを聞いてくるのだろうか。。不思議に思い心の中で首を傾げると、


「なんとなく距離があるぴよ?」

「そうにゃ。主様がすごく気を使ってるにゃ。」

 まるで片眉を上げているかのようにちょっと含み笑いをしながら俺を見てくる。。

 時計塔での過保護っぷりは流石にやりすぎたか。と思いつつも、マーガレットが苦しむ姿は見たくないので仕方がない。


「まあな。いろいろ事情があるのだ。関係の修復。。。ではないな。初めから私の一方的な悪行で彼女を苦しめてしまった。現在は私の懺悔の時だ。一生をかけて彼女に許しを請うつもりだ。」

 流石に事細かくは話すことはできない。が、何かの時にはマーガレットを守ってもらうことになるかもしれない。少々の事情は話しておくべきとふんわりと伝えた。


「あー。そういうことだったにゃ。聞くと面倒そうだから、深追いはしないにゃ。」

「ねね様の声が出ない理由は把握したぴよ。よっぽど酷いことしたぴよねぇ。」

 ジトっとした目で俺を見ながら妙な感じで納得されてしまった。


「ちょ。。おい。。そんな目で見るな。。まぁ君たちの視線が思うよりは酷いことをしたとは自覚があるんだが。。」

 だがそれは、俺じゃなくて”公爵”だから。と言い訳したいのにできないもどかしさ。。


「まぁ。頑張るぴよ。」

「何かあれば、俺たちがいるにゃ。」

「うんうん。もう僕たちの主様なんだから遠慮なく頼って欲しいぴよ。」

 ブルーとシャルルから肩をトントンとされながら慰め。。。られた?


「頼もしいな。では困った際には遠慮なく頼むとしよう。君たちの方が彼女も心を開くだろうからな。。」

 そう言いながら、ふと以前から気になっていたことを聞くことにする。


「ところで、何故私のことを”主様”と呼ぶのだ?アルベルトと呼べばいいだろう?君たちと私は種族も違うし特に主従関係ではないだろう?」

 動物(?)なのだから、特に畏まる必要もないだろうと思って聞いたのだが、二人は俺の言葉を聞くと顔を見合わせながら非常に残念そうな顔をした。


「もしやと思うけど。気づいてないにゃ?」

「それだと、ものすごーく残念な人ぴよ。。」

 本当にものすごく残念な人を見る目がこちらに向く。


「・・・何が?」

 俺としては二人がどうしてそういう顔をしているのか。。さっぱり思いつかないのだ。

 

「僕らをテイムしたぴよ。」

「ちゃんと名前をつけてくれたにゃ。」

「・・・・・?」


 えーと。。。突拍子もない話に思考が一時止まる。。。

 どういうことだ?テイム、ということは俺がテイマーということになる。となれば漫画の中だと、契約するはず。。なんのアイテムも持っていないし、契約っぽい流れになった覚えもない。強いていうなら、うちで飼うことにしたのと、ペットに名前は必須だと思って付けたこと。。くらいだろうか。


「・・・どこかに契約するポイントはあったか?そもそもテイマーとしての自覚もない。」

 そこまで言うと再び顔を見合わせた二人は「ふー。」とこれ見よがしの大きなため息をついて、デジャヴのように残念な顔を向けてきた。


「主様は自分について関心がないにもほどがあるにゃ。」

「自覚が無いのにできちゃうところは流石とは思うっぴ。。でもぉ。。」

「待て待て待て。そんな顔をしたくなる気持ちは分からなくはないが、そういった方面に疎いのだ。だから君たちが知っている範囲で教えてくれないか?」


 そうして”テイマー”について聞く。

 まぁ。大方はゲームや漫画とさして変わりはしない。そう言った能力を持つ者は能力に応じた生物をテイムでき、使役できるのだそう。


「でも、主様みたいに、何も冠してないテイマーは珍しいにゃ。」

「うんうん。ビーストテイマーとかフェアリーテイマーとかドラゴンテイマーとかっぴ。」

「ほうドラゴンとかもあるのか。強そうだな。」

「それはそうぴよ。捕まえる相手より自分が格上じゃないとテイムできないぴよ。」

 そりゃそうだよな。と苦笑する。もしも弱かったら使役する魔獣に自分がやられることになりかねないだろうからな。


「そうなると何も冠していない私は最弱テイマーか。」

 と考えこもうとしたところで、

「違うにゃっ!!」

「勘違いぴよっ!!」

 と慌てふためいた二人に思考を止められる。


「何にもついてないテイマーは最上級にゃ。」

「・・・なんでそうなるんだ?ドラゴンとか使役できた方がいいだろう?」

「違うっぴ。。何にもついてないってことは、なんでもテイムできるってことぴよ。」

「そうにゃ。俺も話は聞いたことあったけど、何にもついてない”テイマー”を見るのは初めてにゃ。」

「うんうん。契約できて本当に嬉しいぴよ。」

 いまだ実感の沸かない話に若干冷めている俺と、興奮が止まらない二人の温度差がすごい。。



 風呂に浸かりながら、”テイマー”と”聖なる力"について熱弁されて、実際、風呂に浸かっている時間も相当長くなってしまったので、とりあえず今日のところは、終了ということになった。


 二人の濡れた毛を拭いてやろうと、新しいタオルに手を伸ばしかけた。すると、

「タオルはいらないっぴ。」

 といったブルーが羽を数回ふんわりふんわりと羽ばたかせると、温かい風が身体の周りに起きた瞬間に。。。


「・・・乾いた。」

 今の今まで滴っていた髪のしずくはどこへやら。さらっと気持ちよく乾いていた。

「風の魔法は便利にゃ。毛づくろいの手間が省けるにゃ。」

 シャルルも満足げにくるっと回って乾燥具合を確かめた。もちろん風魔法の使い手のブルーは得意げだ。


 さっぱりとして二人を誘いベッドに潜り込めば、シャルルの温かさもあって、一気に睡魔に襲われた。



 セバスの声で初めて朝を迎えたことを知るほど熟睡したようだ。珍しく深く眠ったことで目覚めはすっきりさわやかだ。


「おはよう。」

『おはようございます。』

 朝食の席に着けば、皆の顔が揃う。マーガレットにヨランダ様と子供達。副官デリーと猫に小鳥。

 この食堂も賑やかになったものだ。


「マーガレット、この後、王妃様がご所望されたバラを庭園に取りにいくのだが、君も散歩がてら一緒にどうだ?」

 食後のコーヒーを飲みながら、彼女を散歩に誘う。

 一応、王妃から公爵邸のバラを所望されたのは事実。東の領地固有種のバラを温室で栽培しており栽培方法も特殊なため、公爵領か、公爵邸しか手に入らない希少種であり、時々王宮に献上しているのだ。


 マーガレットを連れて温室まで行くと、すでに献上用にラッピングされたバラが用意されていた。

 もちろん彼女用も作らせておいた。

 それを受け取れば、出仕時間まで少々時間がある。あと10分ほどは庭を散策できそうだ。


「足は大丈夫か?」

 昨日の今日で、脛の打ち身は治っていないだろうから、確認すれば彼女は嬉しそうに自分用のブーケを見つめて頷いてくれた。やはり女性は花をもらうと嬉しいらしい。


 いつもなら、池に隣接した四阿に向かうところだが、たまにはベンチに座るのもいいだろうと、バラ園を抜けた小道のベンチに向かっていると。。。


「しっーーーー。」

 という声が聞こえそうなほどの顔芸をしているシャルルを前方に発見した。

 羽を上下にそーっと動かすブルーを見ると、屈めということだろう。


「マーガレット、面白そうだ。そっとあの子たちのところへ行ってみようか?」

 コクンと頷きが返ってくるのを見て、二人でそーっと猫と小鳥が隠れるポイントに向かう。


 そうしてそこまで来ると、シャルルが指さす方向には生垣。。。にちょうどいい隙間が空いている。

 俺はマーガレットに目配せすると、彼女も分かったようで息を潜めてその隙間を除く。


 葉の隙間から見えてきたのは、人影が。。。2つか。。


 だが、聞こえてきた話し声で、二人が分った。


 俺の副官デリーと、マーガレットの侍女アナベルだ。


「昨晩は閣下の護衛として共に戻ってきたのが深夜でして。。」

「はい。夜勤の侍女よりそう聞いております。」

 という日常会話。アナベルはここ数日、父親の看病のため実家に戻っており、今朝返ってきたところだった。


「確か、御父上の看病でご実家に行っておられたとか。。」

「はい。母だけでは大変でしょうから。」

「しかし、アナベル殿とてお疲れになってしまう。。たまたま昨日貰い物をしたのだが、良かったら。。甘いものは疲れを癒すと聞きますから。」

「・・・え?これって。。図書館前にできた有名店の。。並ばないと買えないクッキー。。こんな高級なお菓子。。。」

 アナベルは少し戸惑っているようだが、

「頂き物と言ったではありませんか。お気になさらず。」

 顔までは角度的に見えないのだが、ものすごーくいい笑顔で話しているのだろうな。。仕事中には聞かない声色だ。。


 だが。。。俺としてはもっと気になる部分が。。

 昨日来客はなかったぞ。。俺の副官なのだ。あいつに客が来ていたのなら把握している。。


 いや。ちょっと待てよ。。。


 そう考えこんでいるとシャルルが足をちょんちょんと突いてくる。俺が何を考えこんだのか気になったのだろう。

 マーガレットに筆談用の紙とペンを貸してもらい、


(昨日、来客はなかった。。デリーは2時頃から訓練場から呼び出されたといって2時間近く私のもとを離れた。)

 そう書き留めた。俺の文字を読み終わった面々は興味津々に植え込みの隙間に目線を戻す。


「私では、こんな高級なお菓子にお礼もできませんわ。」

 まだアナベルは困惑中のようだ。

「いつも元気なあなたですが、マーガレット様専属になるほど優秀です。自分の疲れなどは隠してしまわれるでしょう?」

「・・・そんなことは。。」

「ほら、僅かですが、目の下に疲れが。」

「・・・え?」

「今のところ私しか気づいておりませんよ?閣下とて気づいてはいらっしゃらないでしょうから。。せめて気休めにでも菓子をもらってください。」

「ありがとうございます。」

 今度は素直にもらうことにしたようだ。


「・・・そうだ。礼というならば、一つアナベル殿にお願いをしても良いでしょうか?」

「私にできることでしょうか?」

 またアナベルの声に戸惑いが見え隠れする。


「えぇ。あなたにしかできませんよ?その店の併設されたカフェに一度、入ってみたいのですが、女性かカップルばかりでしょう?私のような軍人一人ではとても入れません。実は栗が好きでして、季節限定のモンブランがとても美味いと聞きまして。一緒に行っていただけると助かるのですが。。」

「・・・っ!!!ホントですか?私も一度行ってみたかったんですぅ。でも一人じゃ入りにくいし。。私も栗が大好物なんですっ!!ぜひっ!!」

 アナベルの声が一転、歓喜に打ち震えだした。


(アナベルの栗好きは私も知ってますよ。。いつもポケットにも栗を入れてますもの。)

 マーガレットの筆談に、俺も頷きを返す。


 俺でも知ってる情報だ。栗の時期だというと、料理長にも掛け合って栗料理を一品でも多く出してもらうように頼んでいるのを見かけてしまったことがある。

 そして、デリーが栗が好きなど初めて知った。戦線で食料が乏しかった際に、栗を見かけたが、手間がかかるという理由で採りもしなかった。。とてもケーキ屋に行って季節限定を食したいほど好きとは思えない。


 となれば答えは一つ。アナベル狙いだな。。


 生垣の向こうの足音は軽やかに去っていく。



 それを確認して俺たちも隠密行動を解除。少し足が疲れた。マーガレットであれば、しびれているかもしれない。

 彼女に手を貸して、本題のベンチに腰を下ろす。


(デリー様はアナベルを気に入っているのでしょうか?)

 マーガレットからの質問。

「そうだな。特段好きとも聞いたことのない栗を好物だと偽るくらいには好いているのだろう。」


 お互い。。というかシャルルもブルーもそう捉えたようだった。


「明後日、デリーは休みだが。。アナベルも確か休暇日だな。。となれば。。。ケーキ屋はその日だな。」

 俺はまるで仕事のように、ニンマリとしながら偵察スケジュールを頭の中に構築していくのだった。



 

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