ステージ3 ②
『武・・・気を落とすなよ。まだ強化外装甲の訓練は始まったばかりじゃないか。』
『しかしだな、俺の強みが全く活かせない。これでは・・・』
・・・・・・・・
さっきまでの強化外装甲の訓練は地獄だった。俺はまともに動かす事さえままならなかった。しかし始め
てという事で、まともに動かせる事が出来たのはほんの数人だった。まだ慌てる必要は無いのかもしれな
い。しかし俺の機械音痴は自分で言うのもあれだが相当なものだろう。とても不安だ。また、ステージ2
で使えていたあの力も今は使え無くなっている。やはりステージが変わると使えなくなってしまうのだろ
うか?またあの力を使えるように訓練しなければ。もっとも今あの力が使えても意味があるのかは疑問だ
が。しかし今回は前回の記憶がしっかりあるのだ。そうだ俺はなんとしてもこのステージを突破しなけれ
ばならないのだ。しかし何故俺はここまで頑張ってたんだったっけ?何か大事な事を忘れているような。
う~ん、どうしても思い出せない。
『はあ・・・』
『どうしたんだ、武?』
『ジオか、お前は良いよな~。機械の才能があってさ。』
『何を言っているんだ。お前らしくもない。』
『だってさ、お前は強化外装甲を動かせたんだからな。凄いよ。』
『まだ始まったばかりじゃないか?それに前のステージのお前は凄かったじゃないか。どうしたんだ?』
『・・・・・・・あの時とは違うよ。今は・・・』
ガタッ
『あ、おい武。何処へ行く。』
ガラッ
『さあ、皆席に着け。講義の時間だ。』
『初めまして。私はオッシー・カーバインだ。本当は先程の強化外装甲の訓練も担当だったのだが急に
用事が入ってな。すまんな。まあ明日以降はビシバシ行くんでそのつもりで。』
『・・・・・』
『まあ、それは置いといて今回は簡単な歴史の講義だ。今の我が国の状況を皆に理解しておいて欲しい』
『えーでは・・・・・』
そこからオッシー教官の歴史の講義が始まった。まずこの国はオーラシア共和国。この国というよりは
この星といったほうがいいだろう。そしてオーラシア共和国はまだ統一されて20年程しか経っていない。
それまでは、西のオーラシア共和国と東のソーバ連邦で争っていたらしい。しかし、ソーバ連邦は敗北。
だが、主要な人物はまだ捕まってはいないらしい。
またソーバ連邦が一方的に仕掛けてきて開戦したようだが、今でも何故仕掛けてきたのかは不明だそうだ
その戦争の際に開発されたのが、強化外装甲なのだそうだ。しかし初期の物は『強化外骨格』と呼ばれ
今よりも断然小さかったらしい。その為兵士個人の体格や能力に大きく依存するものだったそうだ。
だがもっと大型の強化外装甲が出てきてそれに駆逐されてしまった。だから今でも
強化外装甲と呼ばれているそうだ。
『さて今日の講義はここまでだ。現在我が国に主な敵はいない。しかし、ソーバの残党軍はまだいる。
あまり平和ボケしていると痛い目にあうぞ。それと、数か月後には統一20周年の式典が行われる。
お前たちも警備任務についてもらう予定だ。そのつもりで明日からの訓練は行うからな。』
『えーーー』
『それでは解散。』
・・・・・・・・・・・・・・
それから数か月、強化外装甲の訓練が始まった。オッシー教官の言う通りそれはとても厳しいものだった
強化外装甲も人型である以上射撃訓練や、近接格闘術等は、初期の基礎訓練と似ている所もあった為、
俺もイメージする事は難しくなかった。しかし実際に操作をするとなると、話は別だった。
やはりどれだけ訓練しても、上手く操縦する事が出来なかった。勿論上手く出来ないのは俺だけでは無か
った。そういった奴の中には諦めて、辞めていく奴も出てきた。しかしそれは基礎訓練の時も同じだった
あの時は俺も余裕でクリア出来ていたから出来ない奴の気持ちは分からなかった。しかし出来ない側の
立場になり、初めてその気持ちが理解出来たのだ。確かにこんな気持ちは惨めだ。辞めてしまいたい
気持ちも分かる。さらに俺は基礎訓練では優秀だっただけになおさらだった。しかし俺は諦めなかった
何故ならジオはやはり才能があったらしく今やトップの成績であり皆からも羨望の眼差しで見られていた
逆に俺は、どんどんと人が離れていき今や俺は一人で行動するようになっていた。それでもジオには
負けまいと思っていたからだった。それに何かとても大事な事を忘れているという心のもやもやもあった
からだ。ともかく統一から20周年の記念式典の日が近づいてきたのだった。
『えー、皆この数か月本当に良く頑張ってくれた。式典当日はオーラシア首都のトリントンに行き
そこで警備に就いてもらう。式典会場は大統領府だ。そこは正規兵が固めている。私達はそこから大分離
れた場所で警備に就く。またジオは私と共に強化外装甲で警備に就く。後で呼ぶのでミーティングを行
う。他の者は基本、立哨での警備だ。必要事項は追って連絡する。何も無いとは思うが皆気を抜く
なよ。以上だ。』
勿論俺は、立哨での警備になった。
現在、俺は警備任務中だ。なんて熱いんだ。こんな真夏に式典などやらなくてもいいだろうに。
『はい、押さないで下さい。これより先は車両も人も入れません。』
『なんでだよー』
『すみません。迂回をお願いします。』
『チッ、面倒くせーな。』
早く終わらないかなーと思っていたその時だった。それは突然現れた。
『ねえ、あれ何?』
『何って?え、空からロボット?』
何だって。空にロボット?何だと、そんなの聞いて無いぞ。どうなってんだと思ったその時だった。
『皆、通信は聞こえるか。オッシーだ。会場から北東方向に敵襲と思われる強化外装甲が確認された。
我々は会場から南西方向にいる。現在正規軍が対応中だ。とりあえず我々は民間人の避難を最優先で
行うぞ。』
『はい。』
・・・・・・・・・・・・・・
『どうなってんだ。』
『うわー殺されるんだー。』
『軍の強化外装甲だ。実物は初めて見るなー。』
『皆さん、落ち着いて避難して下さい。現在軍が対応中です。慌てずにゆっくり避難して下さい。』
『うわーどうすればいいんだー。』
『おい、お前押すなよ。』
『お前こそ。』
駄目だ、反対側ですらこれでは、向こうではどうなっているんだ?
ドーン
爆発!!軍の強化外装甲がやられた。まずいのではないか?
『こちらオッシー。皆、慌てずに民間人を避難させるんだ。』
とはいえまずいな、強化外装甲は会場に重点的に配備されていた。そこには政府要人が多数おり、当然な
のだが、それを守る為に多くは迎撃に向かえない。数機で迎撃に向かいやられてまた数機で迎撃に向かい
やられての繰り返しだ。周辺の基地に援軍を呼んではいるだろうが、これではいずれ・・・
それに敵が手練れだ。こんな奴がいったい何処に?
『ジオ、私と共に迎撃に向かうぞ。』
『は、はい教官』
『心配するな、お前は後方支援だ。絶対に前に出るなよ。』
『了解。』
・・・・・・・・・・
『こいつら強すぎる。くそ、またやられた。何としてでも時間を稼ぐんだ。もうすぐ援軍が来てく・・』
『うわー』
ドカーン
『くそ、また部下が。確かにこちらは無限に援軍が来る。奴らもそれが分かっているからここまで
急いでいるのだ。しかしこの突破力は何だ。たった5機だというのに。止められない。
こちらとて最新型の不知火だぞ。敵のあのフォルム、イーグルに似ているような。しかしこのような動
きが出来ただろうか?いや敵の練度が異常だ。』
ドカーン
『またやられた。まずい挟み撃ちに・・やられる。』
『危ない、危ない。間に合いましたか。』
『援軍だと・・』
『助太刀します。』
『感謝する。』
何だこの戦いは・・・レベルが違い過ぎる。俺は後方から牽制するだけで精一杯だ。また一機やられた。
数はこちらのほうが多いのに、レベルが違い過ぎる。何で近接武器の大刀だけであそこまで立ち回れるん
だ。オッシー教官とあの隊長機がいなければとっくに崩壊しているぞ。
ん、あそこ狙えるぞ。良し、今だ。
『ジオ、罠だーー。』
『え、うわーー。』
『くっ。』
『教官!』
『大丈夫だ。しかし右腕部がやられた。くそ敵に突破されてしまった。』
『申し訳ございません。俺のせいで。』
『気にするな。死ななくて良かった。それに時間稼ぎは出来た。大統領を始め政府要人はおそらく脱出出
来ただろう。』
・・・・・・・・・・・・
『くそ、大統領達には逃げられたか。』
『あの2機が邪魔しなければ。』
『まあいい。我々の目的達成までもう少し。予定道り演説を行うぞ。慌てて逃げたらしい。放送設備
もそのままだ。』
『初めまして。オーラシア共和国の皆さん。我々はソーバ連邦軍です。』
『な、何だって!!ソーバ連邦は負けたはずだ』
『ソーバ連邦は20年前先の大戦で敗れました。いえ、敗れたと多くの人が思っているでしょう。しかし
実際はそうではない。理想の実現まで力を溜めていたのです。ではその理想とは何か?それは、
争いの無い平和な世界です。私たちは今まで愚かにもたくさんの血を流してきました。それは統一が
なされてから20年がたった今も変わらない。貴方方の敵はソーバ残党軍だけでは無いはずだ。
人種、宗教ありとあらゆる揉め事を抱えている。まあ今この話をしても結論は出ないでしょう。
とにかく我々は、皆がもう争わなくても良い世界へする方法を知っています。今日はそれを皆様に知っ
て欲しくて参りました。その準備が出来次第また皆様にご報告させて頂きます。
それではまた近いうちに・・・・・』
争いの無い世界?本当にそんな事が出来るのか?確かにこの星は俺が元々いた世界よりも文明も科学も大
分進んでいる。それでも人間性というものはそう簡単にどうにかなるものでは無いぞ。
一体どうやって・・・
『くそ、やられた。軍の核が盗まれた。』
『え、オッシー教官それでは、あの襲撃も演説も陽動だったと?』
『どうやら、そのようだ。これから軍は大忙しになるぞ。』
それから俺達は事後処理をして、帰路に着いたのだった。