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第四話

 先に言っておくが僕は女性が嫌いな訳では無い


 ただ、彼女たちが信用に足る人物でないだけだ


 笑みを零せば口元を隠し、涙を流せば目元を隠す。コロコロと変わる表情の裏で獰猛な獣を飼っている。その場の感情を平気で取り繕い、簡単に嘘を吐く。


 そんな化物がこの国には跋扈している。


 きっと、そうならなければこの社交界では生きていけないのだろう。


 δ─



 この学園は寮生活の学徒も居れば、王都に屋敷を持ち、そこから通う者もいる。後者は大抵伯爵以上の貴族だ。無論、僕の家も王都内に屋敷を持っている。だが、僕は入学初日から寮へ転がり込んだ。あぁ、《《あの家ほど居心地の悪い場所はない》》。


 アイツらは今も何食わぬ顔でゲルダス家に仕えているのだろうから。


 ─リンゴンリン


 その日の授業を終えると、僕は真っ先に寮の自室へ戻る。放課後のベルは煩わしい時間の始まりを告げる鐘。お茶会、勉強会の誘いを始め、様々な口実を持って紳士淑女たちが僕に話しかけてくる。それはひとえに例の派閥争いのため。


 何故、一介の伯爵家がこんなにも狙われているのか。理由は簡単、僕の家がとてつもない財力を有しているからだ。


 ゲルダス家は祖父が子爵の時代に賜った地を開拓し、大量の鉱脈と農地を手に入れた。その鉱脈から採れる鉱石たちは磨けば忽ちに地上の太陽と化し、『ゲルダニウム』と呼ばれる宝石となった。また、他にも多くの宝石の原石が発掘され、それらを国に献上することで我が家は伯爵の地位を得ることとなった。また、その過程で得た財産は多大なる税を収めてもまだ余りある物で、父曰く10世先の代まで遊んで暮らせるほどだそうだ。


「ゲルダス様!」「ゲルダス殿...」「ゲルダス伯爵」「デルタ様〜」


 ほら来た。すぐさま退散しなければ。


 迫り来る呼び掛け達を掻い潜り、一目散で自室へと向かった。


「はあ、はあ」


 授業も剣技と体術の科目は取らぬほど運動は苦手だというのに、ここ最近は走ってばかりだ。


「ふぅ」


 やはりここが1番落ち着く。必要最低限の物しか置かれていない純なる場所。人は殺風景と嘲るだろうが僕からしたら憩いの部屋をどうして綺羅めやかに飾り付けなければならないのか不思議で仕方ない。


 棚から茶葉を取り出し、魔法給湯器で湯を沸かす。茶を淹れるにしても、己の手で淹れるに越したことはない。己の味覚は己が1番分かっている。


 そういえば、子どもの頃は魔法と聞いて心躍ったものだけれど、実際はちょっと使うだけで疲れるし、今は魔道具という便利な道具があるからわざわざ使う必要もない。


 クツクツ と湯が煮える音が身に染みて心地好く、椅子に座り、その時を待つ。僕は少し煮過ぎた位の渋さが好きだ。


 外の光景は見るだけでも騒がしいが、防音壁で造られたこの部屋はその喧騒を一切遮断し、静寂を守る。


 僕はただそれを見つめて、茶を嗜むだけだ。あの頃のように。いつものように。


 ─コンコン


 来客は珍しいことではない。故にノックすらも通さぬようにしているが、唯一それを許さなければならない者がいる。


「父からの遣いか?」


「はい。緋翠卿より、伝言がございます」


 呼称から家の従者ではない(第三者)。父なりの気遣いか。それが逆に気を重くする。


「読み上げます。『15日後にゴルモンド公爵家とのお見合いが決まった。場所はゴルモンド家本邸。3日前には帰るように』。以上でございます」


「──わかった。もう下がっていい」


「はい。失礼致します」


 部屋の前に人の気配が無くなったことを確かめ、僕は思いきり叫ぶ。


「ふざけるな!!!!!!!!!」


 どうして今なんだ!! ただでさえ、心休まる日々を過ごせていないというのに!さらに父は僕に負担を強いるというのか!!それに、よりにもよって《《あの公爵家》》だと!? これじゃあ、ますます彼らに余計な勘繰りをされるじゃあないか!!《《アイツ》》の差し金か? あの髭面、僕の事をわかったフリをしているだけで結局僕を見ていない! 金と権力、目に見える力に溺れた汚らわしい大人だ! 《《あの時からずっと──》》


「どうして《《僕だけ》》なんだ......」


 茶の香りはサビ、半端な温もりがクルクルと窓の外を映していた。

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