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kurokuro 短編小説集

ファイヤーファイア

作者: kurokuro

ファイヤーファイア! ファイヤーファイア!

[ヒーローパンチ!!!]

ヒーローには、なれない。絶対に。だって、私はバケモノだから。


XXX年十二月三十一日


化物と呼ばれる人間がいる。正確には、特殊な能力を持った人間だ。化物は、産まれた時から国の研究所でイジラれまくる。十五年だ。十五年間私は、研究所でイジラた。そして今もイジラれている。私の能力は火を放つことができる。火を放てば体が熱くなり、息が苦しくなる。けれど、もう、何とも思わない。慣れてしまったから。毎日毎日、してるから。放心状態と言うヤツだろうか? それとも、心まで化物になってしまったのかもしれない。私は、何のために生きているのだろうか? こんな状態になってまで、ヤツラに従って、苦しくなって、何のために。何て思ったとしても、私は、なにもしない。気づけば、本日の研究が終わっていた。長い長い、コンクリートの廊下を歩き、自室のような独房のような場所に入る。

「おっ! かぁえりぃ~」

私と共に暮らしている友人。

「ただいまぁ!」

彼女を見ると元気になれる。

「お帰りのハグぅ」

そう言いながら抱き付いてくる。安心する。私がヤツラに反撃しないのは、きっと彼女の存在が大きいのだろう。物心が付いた時から一緒にいる、友人。私の精神安定剤のような存在。

「ささっ座ってぇ、何と! クッキーを焼きました! ハイ! 拍手!」

私は彼女に言われるがまま座り、盛大に拍手する。気を良くしたのか、彼女はルンルンになって台所に入って行く。言い遅れていたが、部屋に戻ってからは次の研究があるまで待機だ。その間化物は外に出る以外、何をしても良い。大抵はテレビを観たり雑誌を読んだり、彼女みたいに料理をしたりと各々、暇を潰す。

「はい、どうぞ~私特製のクッキーだよ~」

チョコだ。チョコが入ってる。私はチョコが大好きだ。

「食べよ! いただきまぁす!」

私もつられて、いただきますと言う。

「ん~美味しい! 食べてみて!」

一枚手に取り、一口で食べる。うん、美味しい。

「あっテレビつけていいよ」

私は空いている右手でリモコンを取り、つける。朝のニュース番組から、ヒーロー番組にチャンネルを変える。

「好きだね、ヒーロー」

「だって、カッケェもん」

カッケェのだから仕方がない。

「ヒーローは正義の味方なんだよ、カッケェじゃん!」

それもそうだ、と六枚目のクッキーを食べながら、返してくる。

「アハハは」

いきなり彼女が笑ってくる。

「にゃに」

私は持っているクッキーを押し込んで、聞いてみる。

「頬張りすぎだよぉ、リスじゃん! リ~ス! 二人しか居ないんだから、失くなんないよぉ」

確かに、口のなかでゴモゴムしてるけど、まぁ良いか。とりあえず、口の中にあるクッキーを飲み込んでから、私も笑った。彼女ももう一度笑い、二人の笑い声が重なった時だ。

[ピピピピピピ]

アラームが鳴る。彼女の時間だ。

「それじゃ、行ってくるね」

彼女は笑顔のまま、扉を開け出て行く。


十一時三十二分


帰ってこない。三十二分も帰ってこない。いつもなら、十五分程度で帰ってくるのに・・・まぁ大丈夫か。だってあの娘、強いもん。そうだ、扉の前で待ち伏せしてやろ、それで驚かさせてやるんだ。


四十六分


遅い。遅すぎる。なにか、あったんじゃッ

「扉の前で何をしている。外に出るのは禁止されているはずだぞ・・・丁度良い、来い」

研究者、何故? どうして、私の時間は終わったはずじゃ。

「ア、」

「どうした。さっさと来い」

・・・どうして、何故? 何で、私は、私の足は、動いているんだろう。行きたくもないのに、勝手に動いているのだろう。

「ほら、入れ」

知らない扉。それから、呻き声。今から何をするのだろう。

「オイ」

「はい」

あっまただ。勝手に動いた。手はドアノブに掛けてるし、まるでこの体が私の物じゃないみたいだ。

「んッ、重っ」

ギギギと音を立てながら開ける。足が勝手に動く、勝手に前に出る。扉は閉まるが、今は、それどころじゃない。

「え~?」

化物だ。正真正銘の、バケモノだ。きっと元は、研究されたネズミか何かなのだろうけど。まぁ言われなくても分かる、どうせ。

[ソレを殺せ]

二階からガラス越しに見ている研究者達の一人が指示してくる。やっぱり、そんなことだろうと思った。


五十九分


ごめん、死んで。私は右手から火を放つ。十秒経ったら止める、手が火傷するから。大抵の生物はこれで死ぬ。

「イタイ」

喋るのか、気味が悪い。次は左手で火を放つ。少し長く十二秒。

「アツイ」

クソ。心が痛む前に殺す! 次は両手で・・・ん? 今、心が痛む前に、って。なんだ、私の心はまだ化物じゃないのか。それとも、あの娘に教えてもらったからかな。


-??年


「今日、毎日育ててたネズミを殺したんだ」

「それで」

「・・・何かこう、胸が、スッと、ポカってなったんだ」

「そっか。それはね、心がイタイって言ってるんだよ」

「心が。でも、痛くはないよ」

「分かってないだけだよ~本当は、そうなの!」

「・・・無理があるよ」

「でも、ポカってなったんでしょ」

「それは、そうだけど」

「じゃあ次からそうならないように、良いことを教えてあげるよ」

「いいこと」

「そっいいこと。心が痛む前に、殺せば良い」


XXX年十二月三十一日十二時十八分


「アりガと」

いつの間にか、私は、抱き締めていた。バケモノの体が溶けて行く。真っ白の肌が見える。ああ、最悪だ。私の友達だ。最愛の人だ。

「アァ、アッ、うぐぐ、ごめん」

声は震えるのに、涙は出ない。死ね

「成功だ」

ガラス越しに聞こえる。

「全部、燃やしてやる」


XXXX年一月一日


「助けて、誰か、ガァ! 熱い、熱いヨォ! 踏まないでぇ」

あの日、私の身体中から出た火によって世界の半分は燃え尽きた。研究者の女は殴り殺し、男は火を調節して、半年掛けて焼死させた。研究所を出た後の記憶はなかった。気づけば辺りが燃え盛ってた。そして、気を戻したときには、私の体の左半分がバケモノとなっていた。研究者が言った成功とはこの事だろう。化物は、能力を使いすぎると正真正銘のバケモノになる。だから半分と言う極限の状態となった私はヤツらにとっては、成功体になるのだろう。そう思えばヤツらは成功体である私に殺されてハッピーだろう。それから、たった一人の友達であり最愛の人でもある彼女を失ったのは、今でも足を引っ張る。しかし、私は止まらない。唯々歩き続ける。だって苦しむ顔を見るのは、最高にハッピーになれるから。次会う人間は蹴り飛ばしてやろう。熱さに悶えながらソイツを使ってサッカーでもしよう。女がいたら、脅してセックスでもしてやろう。今思うだけでも、ハッピーになれる。忘れていられる。でも、一つ心残りが有るとするならば、もう一度、もう一度だけ、クッキーを食べたいな。彼女が準備をして、私が焼くんだ。それで、それから、死体の山の上で笑って食べるんだ。心残りはそれだけだ。













        フ

        ァ

        イ

        ヤ

        ┃

        フ

        ァ

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