シーン7 宗弥
シーン7 宗弥
暗い。何かを・・考えようとしても思考が暗い。俺は鈍く、富士子を求める。前頭連合野に想いの枝を伸ばしてみる。これから先、更新されないであろう記憶が再生されるだけなのが虚しい。暗いが色を濃くして心に沈む。
残酷すぎる。裏切り者に身を落としたのも、それに甘んじて来れたのも、富士子がそばに居たからこその話で刹那が凍る。
助けたかったんだ。守りたかったんだ。愛しただけだ。俺は・・・無事を願って、取り戻したくて・・・だから・・・選んだ。・・だけなのに・・・。
なのに・・富士子が選んだのは・・俺じゃなかった。要・・お前はいつも俺の斜め45°上を行きやがる。失意を抱き締めて左膝を左手の人差し指で打つ。富士子は・・どこまでも・・要で・・今更ながらにそう思いながら、膝頭に埋め込んだ内耳モニターに打電する。
“スパルタンとの接触完了“と。
句読点を入れ、スパルタンがテーブルを叩いて俺に伝えた打電を打つ。知らないコード進行、俺には解読不能だ。スパルタンは、誰に、何を、伝えているのか・・俺にとってはただの点の羅列でしか無い打電。
自分の鍛えられた能力が妬ましい。
覚えている。
正確に、寸分違わず、打つ事が出来る。
あの日、拉致された富士子を助けたい一心で、サヤのメッセージに返信した。なぜチームに言わなかったのだろうと後になって考えてみたら、たどり着いた答えは簡単で、明快で、単純だった。
嫉妬。
小さく、熱い、気狂いじみた嫉妬が、打ち明ける事を拒ませただけだった。クソ!!!あの時、チームに話していたら何かが変わっていただろうか。要に話せていれば、今とは違う道筋になっていただろうか。
俺の青春は、散々に砕け散った。
2人の恋路に、俺は窒息する。
美しい姿をした俺の混沌、富士子。
もう、会うこともないだろう。
運命の星よ・・なんて・・酷いことを俺の上に落とした・・俺の親友だぞ!!俺の永遠を誓った女だぞ!!俺の天職だったんだぞ!!この世はもう俺の敵だらけだ・・・・愛が俺を蝕んだ。
嫉妬で誤作動した思考に導かれ・・・俺が今を作った。
こんな自分の小ささを認めたくはない。俺は、もっと、さっぱりとしていて、軽快な性格だ。自分でもそう認識してた・・・だからこそ、なおのこと・・ツラい。
俺はこんな男だった。
痛い奴、痛すぎる、俺。
俺は、俺を、俺自身をわかっていなかった。
本陣から新潟分屯基地に移送された戦闘装備品の中から、準備と訓練にまみれるアルファーの目を盗んで、ドサクサまぎれに、予備の内耳モニターをサヤに指示された通りに4つ盗みだし、1つは自分の膝頭に挿入した。指示されるがままに、残り3つは指定された住所に速達で送った。
どこに、どう届いたのだろう。
あの内耳モニターは。
この打電を、今、誰かが受信している。
あの作戦で、要は所在不明になった。ファイター、チャンス、トーキーは香港の地下組織に潜った。俺はコロンブス直属となり、連絡士官として病院に詰めて富士子の回復を見守った。至福だった。富士子の側にいられた。アルファーとは連絡不可の厳命が下り、自分の犯した罪から距離がおけていたのに、俺は、今、何をさせられている・・・。
そう思いながらも俺は膝頭を打ち続け、やめることが出来ずにいる。