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国守の愛 第3章 red eyes ・・・・  作者: 國生さゆり    
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シーン6 走る車内

 


 憂鬱ゆううつに悩めば、我が身ひとりを持てあます要がいた。試行錯誤しているつもりがどうどうめぐりで、泥沼に足を取られたかのような思考に沈む。助手席の車窓から後ろに流れる景色を、ぼんやり眺めていた要のスマホが振動した。黒のスラックスパンツの後ろポケットから、左手でスマホを取り出してクリックする。



 “ あなたを失ったと知った時から、私はどんな試練しれんにも耐えられました。あなたへの想いの方が深かったからです。でもたまの日、時間が1人だと私を苦しめた。もう、そんな日は私には来ない。帰って来てくれてありがとう“ 富士子からだった。



 ヘッドレストに要の頭がのる。・・・今の宗弥を知ったら、富士子はどんなに心を痛めるだろう・・・か。宗弥が成り立つ道を見つけなければ。愛が僕を弱めませんように・・・。要はそう願う。



 “ 必ず、迎えに行きます“と返信を返す。


 すぐに返信が来る。


 “ はい。お気をつけて“



 運転席のファイターに要が「正直なところ、お前は宗弥をどう思ってる?」と聞く。ファイターは車の速度を落とし、要にチラリと視線を送ってハンドルを握り直すと「フレミングがコロンブス預かりになって1年半。人の心を変えるのには、十分な歳月さいげつだと思う」その声は押し殺したかのようで、アンセントはキリのごとく鋭かった。



 ファイターの声に忍耐を嗅ぎ取った要は、ファイターの横顔をジッと見る。ファイターはへそがついたまま、羊水と血液もそのままにフルーツバスケットに入れられ、育った施設の門前に捨てられた男だ。努力と苦学のてに、工科高校出身初の特戦群所属になった。生まれを己の努力で克服した男が忍耐をかおらせている。宗弥のとった行動は恵まれた環境で育った人間の傲慢ごうまんか、・・・・。



 要が視線を前にもどしながら「本来の宗弥は慎重だ。どうして、捨身すてみになるのだろう」と口に出すと、ファイターは「底辺ていへんが感じる不条理の飢えを知らないから、正義感の頭で考えてるんだろう」と無機質に言った。



 対局たいきょくの宗弥とファイターが居てこそのアルファーだったと、要は改めて思う。チームとしての意思決定を下す時、二人の意見をおもんじていたと実感する。その肩翼を失ったアルファーの損失そんしつは大きい。先陣OK、イケイケの戦闘狂ではもういられない。転換の時なのだ。責任をより重く感じる、クソ!!



 黙り込んだ要に、「フレミングの家族はどんな人たちだ?」とファイターが聞く。「父親の樽太郎ソンタロウさんは、献身を絵に描いたようような人物だ。母親の秋子アキコさんは、元は盾石グループの秘書課に勤務していたが、今は家庭に入っている。妹の晴子ハルコさんは結婚して海外で暮らしだ」と上の空で答えた要は、「海外ってどこだ?」と言ったファイターに反応した。電話をかけ始め、1コールで出たトーキーに「フレミングの妹、晴子さんの動向どうこうと、身辺調査を最優先でおこなってくれ」と頼んだ。



「了解しました。あの、イエーガー、確認したいことがあるんですが、どうも、釈然しゃくぜんとしなくて」と言ったトーキーの歯切れの悪さに、要はスピーカーフォンに切り替えながら「何が釈然としない?」とトーキーに答えをゆだねて聞いた。



 「フレミングに、ひざを人差し指で叩くくせありましたっけ?」とトーキーの声が車内に響く。「いや、ない」と即答する要。



 「ですよね。打電を打つような仕草しぐさなんです。しかしながら、我々の打電コードではありません・・・・ですが、引っかかるんです。どういう事でしょう」とつぶくように言ったトーキーに、ファイターは思いつきで「コードを海外部隊との共同作戦時のものに、置きえてみたらどうだ」と言い、聞いたトーキーは「あっ!」と声を上げ、「了解!妹さんの件も早急、調べます」と言うや、通話を遮断しゃだんした。



 要は「フレミングは、僕らに何かを伝えてる」期待を胸にそう口にする。同じ思いのファイターはうなずくのと同時に車をUターンさせていた。



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