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国守の愛 第3章 red eyes ・・・・  作者: 國生さゆり    
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シーン37 長い夜の始まり



   シーン37 長い夜の始まり



 “ガス燈“に入店したトーキーとオルガはテイクアウトを待つ間、窓辺のテーブルに対面で腰掛けてそれぞれスマホを眺めていた。店主がテーブルに歩み寄り「お待たせしました。BLTサンドイッチ4つ、カツサンド4つ、チーズハムサンド4つ、ツナサンド4つ、12888円になります」と言いながら、ベーシックな丸紐クラフト紙袋2つをテーブルに置く。その物腰がしごく柔和にゅうわな店主の人柄を香らせる。こういう人物こそ一皮剥ひとかわむけばなんとやらだと、ひそかに思ったトーキーはスマホ画面から目を離さず「あと1ゲームで終わる。レジで支払いして来てくれ」とぞんざいな口調でオルガに言い、事前の段取りとは違うとあわてて席から立ち上がったオルガは「お、お客さんからの注文だ。急げよ。店長にドヤされる」と本心をぜた声を荒立ててレジへと歩み出した。敵地かもしれない喫茶店で食事を調達するなんて・・アルファは無敵かよ。オルガの背に冷たい汗が浮く。



 店主の目が外れた気配を感じとるやトーキーは「ああ!もう⤴️、クソ!」と声を跳ね上げ、スマホを持つ左手の親指をせわしく動かしながら、テーブルの裏に右手をしのばせて盗聴器の取り付けに掛かる。隅木すみきの裏に設置した終わると席から立ち上がり、2つの紙袋を右手にぶら下げて「余計なこと言いやがって、速攻でやられたじゃないか、店長なんてこわかないよ」などとブツブツ言いながら、レジまでダラダラと歩く。目と歩幅で店内を計測しているのだった。


 

 ビルの物陰からトーキーとオルガが店外に出たのを確認し、ホッと息を付いて歩き出したファイターは[送る。ファイターからイエーガー、喫茶店の表も裏口も、向かいのビル屋上からも監視可能だ]ひそめた声で内耳モニターに入れた。




 東京タワーの駐車場に停めた車内で、ジリジリとたぎる心地で待機たいきしていた要は[了。FFPはどうか?]と聞く。[問題ない]とファイターが答えると、歩道を歩きながらのトーキーが[送る。トーキーから総員、店内はレトロな純喫茶という感じでした。ただ、設計図で見た面積よりも室内は小さく、70年代には学生運動の参加者が出入りしていた喫茶店です。おそらくカウンターの裏に隠し部屋があります。監視カメラが設置してあったのでハッキングすれば店内の様子は見て取れます。なお、カウンター内には取材記事で紹介されていた店主夫婦がいました]と報告を入れ、トーキーの左隣を歩いていたオルガが[送る。オルガからそ、総員、入店しカウンターに座った白人の女性が、カバンから出したニューヨークタイムズを店主の奥さんに渡しました。事が動いているこの時ですし、この時間の新聞受け渡しは不自然です。暗号文などの可能性を考えてみてはどうでしょうか]、[よくやった、オルガ。女の写真は撮ったか?]と要が聞く。[はい]とこたえたオルガは続けて、[送る。オルガからターキー、これから女の写真を送信します。顔認証にかけて下さい]と言いながらヴェルファイアの助手席ドアを開け、席に座るや写真を送信する。[届いた。最優先でやる]と本陣で3チームの連携をバックアップしているターキーが確約かくやくする。



 後部座席に乗り込んだトーキーは早速PCを起動させて、ガス燈店内にある監視カメラをハッキングし始め、要は[送る。イエーガーからターキー、女の写真をアルファー、ベータ、シータの総員に送れ]と入れつつ、コンソールボックスの上にある紙袋を1つつかんで、内にあるサンドイッチの全てをサイドテーブルの上に出す。要の鋭い嗅覚は芳醇ほうじゅんな肉の香りをとらえたが、食欲は全く湧いてこなかった。



 要の隣に座っているトーキーは右手を差し伸べて適当につかんだBLTサンドイッチに、クルリと巻いてあるクッキングシートを器用な左手の指先でいとも簡単にぎ取って食べ始め、ドアを音もなく開けた運転席にファイターが乗り込み、コンソールボックスの上にのる紙袋からカツサンドを取り出しつつ要に振り返って「道端みちばたからの監視は難しい。立ち止まっていたら返って目立つ。出と入りは店内の監視カメラが頼りだな」と言い、要はスマホに届いた女の顔を頭にきざみつけ、スマホを座面に置いた左手をサンドイッチの山に伸ばし、ファイターの顔を見ながら選んだサンドイッチを手にして「屋上からの方が人の流れを見渡せる。好都合かもしれない」と言い、口にしたのがチーズハムサンドだったとわかり、今の要にはその味は重く上手く飲み込めずで、0を手に取って胃へと流し込むようにして食べるのだった。



 4種類のサンドイッチを完食した要をオルガも食べつつ、時折ときおり、振り返って医師の目で観察していた。吐き気をもよおしながらもエネルギーを補給するためだけに、食べ切った要の頑強がんきょうともいえる意志をオルガはたりにして思う。目的の為ならこの人はどんな事でもするだろうと。



 オルガは襷掛たすきがけした紅殻色べにがらいろのボディバックからピルケースを出し、薬を選んで「これを」と要に差し出す。ファイターが「なんの薬だ?」と運転席から口を挟む。疑っているのかと思えばムッときたが表情には出さず「胃腸薬と鎮静剤にアリナミンです」と答え、要は「ありがとう」と言って受け取り、口の中に放り込んで0をあおって飲み下した。“炭酸で薬は“と思いながらもオルガはファイターの顔にしっかりと視線を向け「ファイター、まだ辞令はくだっていませんが、すでに私にはアルファーの一員としての自覚があります。信頼して頂けると嬉しいです」太くふくれた声で、1つ、1つの言葉を粒立てて発し、ファイターはオルガがそう言いつらねるさまをジッと見ていたが、右の口角がひくつかせ始め、我慢できずに笑い出し、笑い声の合間に「お前、ガキ大将だっただろう」と言ってはなお笑い、一部始終を見ていた要も「ファイターに小言とは大した奴だ」と言い出した。



 ピアノを弾くように、キーパットをすべらかに叩いていたトーキーが「オルガ、気合が入ってるな。歓迎するよ」と微笑み、[送る。ターキーから総員、女の身元が判明。ロシア大使館の広報部勤務ジーナ・バシキン、3年前に赴任ふにんしています。引き続き、情報集めます]と みょうにピシリと報告を入れたターキーが、[オルガ、怖いもの知らずのイケイケは大歓迎だ。アルファーはキツい、覚悟しろ。僕もお前を歓迎する]と猫の手よりも柔らかい声色こわいろで言いえ、[あ、ありがとうございます。が、頑張ります]と硬い発音のオルガに総員が笑い声を上げた。



 そこに[送る。ブリーズからアルファー総員、フレミングの体内発信器を捕捉ほそくした。外苑東通りを飯倉片町方向に向かってる。徒歩とほだ。イエーガー、どうする?]と入り、雰囲気を一変させた要は[了。宗弥は真っ直ぐガス燈に向かう気だ。盗聴器の設置は完了している。トーキー、監視カメラのハッキングは?]とトーキーの横顔を見た要に、PC画面に目をえたままのトーキーは「あと、5分で完了させます」とピリリと答え、要は[ブリーズ、宗弥が到着する前に片付けましょう。今の宗弥はなりふり構わずで散らかし放題に行動します。そうなったら報告書が百科事典並みになります。中村ビル後方のビル屋上からアルファが援護します。シータは表から突入してください。裏はアルファが固めます。ファイター、車を出せ。トーキー、座標をシータに送れ]とするどい語気で指示を放った。

 


 シリア・アラブ共和国大使館にレクサスNXで向かっていたカンマルは、要とブリーズの会話に聞き入っていた。出たとこ勝負の作戦が始まる。表情を引きめた一瞬のカンマルを、助手席のトムは見逃していなかった。




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