シーン30 後の始末
シーン30 後の始末
証拠収集に急遽、本陣から派遣された10人が立ち働く、一軒家の展示場のような2階リビングを、ウロウロとしながらのサラマンダーが「衛星画像を見てくれ」と落ち着いた口調で左手に持つスマホに語りかけた。「承知した。フレミングが潜伏していた家を衛星画像で正面スクリーンに出し、サラマンダーとの会話をスピーカから出してくれないか」と覇気に満ちたコロンブスの声が響き、スマホ越しに聞いていたサラマンダーは「正面に見える道の出入り口を、12方向で頼む」と注文を付ける。
「いいぞ、サラマンダー」とコロンブスがgoサインを出し、サラマンダーは説明し始める。
「俺たちは途中で報告した通り、丁を尾行してこの場所にたどり着いた。2台の車に分乗した丁たちは、車から降りて来た時にはすでに、フル武装していた。奴らは取り囲み陣形で進み、丁の背後11時方向からカンマルとアリシア、1時方向の公園からゾロ、D、ピッコロ、9時方向からCIAのトム、俺は3時方向から展開した。進行して2分後、袋小路の一番奥の家、すなわちこの家の3階から狙撃が始まり、最初に出入り口の道から数えて2本目、電信柱の根元にあるゴミ箱の付近に、潜んでいた男がダウンした。次にこの家から3軒隣りの家に、侵入しようとしていた丁を阻止しようとしたカンマルが丁と格闘戦になり、気絶させた丁を確保する為に、カンマルが引きずって運び出している最中、陣形を入れ替わったアリシアが狙撃された。そして家から飛び出して来た男が、この男をAとする。2軒隣の生垣に潜んでいた男、この男をBとする。この二人は格闘した挙句、AはBの首をへし折った。そのAの左膝を、CIAのトムが確保する為に撃った。本陣に移送中の丁にはゾロとデス、AにはDとピッコロが付いて個別で移動してる」と言うや深く、ため息にも似た息を吐き、間を取ったサラマンダーのニガリ切った横顔を、静寂を身に宿してオレンジ色の3人掛けソファー中央に座り、サラマンダーの報告を聞いていたカンマルがソロリと視線を上げて見る。
サラマンダーが再び報告をし始めると、カンマルはその視線を鮮血から葡萄茶色に変わり、凝固して、不快感しかない両手に落とした。射音を聞いたカンマルが見たものは、くの字にクシャリとその場にうずくまるアリシアの姿だった。カンマルは即座に[サラマンダー、アリシアダウン!!!搬送の段取りを願います!!誰でもいい、丁確保の応援願う!]と内耳モニターに入れながら、瞬時に丁を捨て、匍匐前進でアリシアの元に戻った。
アリシアは右大腿部の付け根を打ち抜かれ、呼吸するたびに血が噴き出していた。カンマルは捨て身で立ち上がるや、アリシアが着用していた防弾チョッキの両肩部分をそれぞれの手で掴んで、家屋の物陰に引きずり込んだ。
出血の仕方から動脈が切れたと判断したカンマルは、右太もものホルダーからアーミーナイフを取り出し、アリシアのジーンズを切り裂き、即座に射入創に右手の親指と人差し指を差し入れて、切れた動脈の先を探す。激痛に意識を取り戻したアリシアをカンマルは身動きせぬよう力強い左手で、アリシアの胸の中央を押さえつけるのと同時に、アリシアの悲鳴が敵に漏れ聞かれぬよう、口づけでアリシアの口を塞ぐ。アリシアが上げ続ける悲鳴を飲みながらカンマルはぬるぬると血で滑り、股関節に入ろうとする動脈の先端を見つけ出し、ガッチリとした指先で摘んで離さなかった。
ビルトインガレージから飛び出した車を目視した宗弥追尾班のシータ・チーム長ブリーズは[送る。ブリーズからカイエルとバースタインへ、正面の道から出てくる白のフィアット500Xを追尾]と車中で待機する二人に指示を飛ばす。
微かなその声を聞きつけたカンマルは顔を上げ、声を上げる。「シータ・チーム長ブリーズ!!医師のコンラッドは同行していますか!!」と。
駆けつけたシータ医療担当・コンラッドは、麻酔が効く限度ギリのモルヒネをアリシアに投与し、昏睡したアリシアの応急処置をしている間に丁を確保したゾロと、道をズルズルと這う男をデスが取り押さえて、本陣移送の準備を整え、サラマンダーはCIAのトムと共に、もぬけのカラであろう狙撃現場の宅に踏み込んだ。
アリシアは緊急車両に収容され、コンラッドが同行して自衛隊中央病院に搬送された。去り際にコンラッドは「3、7で危ない」とカンマルに告げ、無表情のカンマルが頷く。
本陣に報告し続けているサラマンダーが「共有した写真Hを見てくれ。3階角部屋の窓際にあった三脚から、フレミングともう一人の指紋が出た。もう一人はAと思われる。確認されたし」と伝え、コロンブスは「了解した。丁が潜伏していた雑居ビル302号室から、死後2〜3週間と思われる男の死体が出た。誘拐された敏子の恋人だと思われる」と返す。瞬殺で眉間に深い溝を刻んだサラマンダーが「こっちも死体が5体出てる。それも間違いなく、フレミングの狙撃でだ。しかも、口径がデカいNATO弾を使用してる。装備のほとんどはここにあるようだが、フレミングがどれだけ持ち出しているかが気になる。コロンブス、二人で話したい」と言うと、「わかった」と応じたコロンブスは「スピーカーを切れ」と声を張り、左隣に立つ生田に「5分外す。指揮を頼む」と指示して廊下へと向かった。
ドアを閉めたコロンブスは防弾ガラスで陽光が歪み、フィルムでただの黒点にしか見えない太陽を見上げつつ「なんだ?」と聞く。サラマンダーは「2軒の潜伏先に6体もの死体、国内に銃火器が持ち込まれていたとなると、いくらなんでも覆い隠すのは難しい」と懸念し、「心配するな。CIAとの合同捜査の過程で見つかった事で、我々は日本に不慣れな局員の代行で運転を手伝っていただけだ。それにフレミングの行動は、フレミングがSVRの指揮下に入ってから起きた事案だ」コロンブスは事もなげにそう言ったが、その声は熱波のように重苦しい。
「確かにそうだが、フレミングはこちらで確保した方がいい」めずらしく声をひそめて言ったサラマンダーに、コロンブスは「方法は?」と聞く。
「イエーガー」と一言つぶやくように発したサラマンダーの背後に、カンマルが歩み寄る。その気配を感知して振り返り、カンマルの瞳を見たサラマンダーに、コロンブスが「そこは任せて、こっちに戻ってこい」と言い、サラマンダーはカンマルの目を見たまま「わかった」と応えて通話をOFFにする。
覚悟のカンマルは「自分をイエーガーに、就けてください」個性を殺した声で志願した。
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