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国守の愛 第3章 red eyes ・・・・  作者: 國生さゆり    
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シーン3 車内

 


 シーン3 車内


 後部座席の運転席側に腰掛けた宗弥に背後から「お久しぶりです。フレミング」と気配を消して、最後部の座席に座っていたトーキーが声を掛けた。背筋に戦慄を走らせながらもゆっくりと振り返った宗弥が「…お前な、びっくりするじゃないか」と抗議するや、ファイターは車をスタートさせた。取り…囲まれた…。この俺がトーキーの気配に気づかず、後ろを取られるなんて…ありえない…。俺はにぶってなどいない。…こいつらが…精度を上げたということか……クソ。



 宗弥の隣に座った要が「心配かけたな」とささやく、「いいんだ、よかったな。ほんと良かった。いつ戻った?どうやって、あの切迫状況せっぱくじょうきょうから生還せいかんした?」と言っている宗弥の表情をジッっと見ていた要の視線がスゥーっと前を向く。要はその内心で顔色ひとつ変えずに平然と切迫状況と口にした宗弥に“どこのどの場面の事を言っている、宗弥“ と思えばはらわたが煮え繰り返り、訓練通りの平常心でいられず、無意識に両の手を握りしめていた。



 要の横顔を読んだ宗弥はかすかに顔をしかめ、そんな宗弥にトーキーが紙資料を差し出す。



 怪訝けげんな表情で受け取った宗弥が「なんだよ、これ?」と聞くが、誰も答えず、資料に視線を落とすしか行き場のない宗弥は一読し始める。身体を凍らせて沈黙を深めた宗弥はしばらく何も言えず、意を決した宗弥は決意の目を要に向けた。静かに宗弥の顔を見た要は「どう説明する?」と尋ね、そう問い掛ける声は北極の深海なみに冷たく、暗い。



  トーキーが口を開く。



「新潟分屯基地に入ってから基地の管制かんせいと通信電波が、我々と本陣とがかわわす交信と混線するのを防ぐのに、各通信電波にタグ付けして管理していました。基地内からサヤさんと衛星電話で連絡を取り合っていましたね、フレミング。いつからですか?基地に入る前からですか?作戦終了後、ターキーと僕は全ての通信記録を分析し直したんです。その過程かていで見つけました」トーキーは余計な情報を与えないよう、頭にある文面を読むかのように、たんたん々とする口調で宗弥にめよった。その間もトーキーはいや、宗弥が車に乗ってからだ。鋭い分析眼で宗弥の表情を頭に刻み、その変化を観察していた。もちろん車内に設置してある映像カメラ、音声記録装置も起動きどうさせてもいる。当然のことながら本陣・通信室の個室でコロンブスも宗弥の様子をモニターリングしていた。



 蒼白の宗弥はトーキーの口元に視線を走らせ、その赤い目を要の顔に移して「基地に入った1日目の深夜、俺のスマホにサヤから連絡があった。無事に富士子を取り戻したければ!!情報を渡せと!一つの情報で一食、水一杯と引きえにすると言ったんだ!!」、固く目を閉じて聞いていた要は見ひらいた目で宗弥を見据みすえ「どうして!!チームに報告しなかった!!」ガッンと怒りのままに吐き捨てる。鷹のような要の目は青く冷たい氷河期だ。



「怖かったんだ!!お前たちに何か言えば!富士子が殺されてしまう!!そう思うと・・恐ろしくなったんだよ!!だが!俺は!作戦進行に関わる事は一切話していない!!本当だ!混乱していてこっちは統率とうそつが取れていないとか、何もお前たちの情報はつかんでいないとか、まだチームはmapにいるとか、そんなことしか話してない!!だから!!だから、貨物船からの海上警備がなかったんだ!!」、その弁解を聞いたファイターは車道のはしに車を停め、たまれない要は即座にドアを開けて外へと飛び出した、冷静になる為に。



 要は力任せにドアをスライドさせて閉め、ぐるぐると歩き回りながら内心に問いかける。クソ!!それ以上の事を僕たちは知っているんだ・・・宗弥。・・このままでは・・お前は査問委員会にかけられる。お前は・・・罪に問われるんだぞ。クソ!!なぜ、何もかも正直に話さない・・・僕たちが掴んでいる情報は・・・まだ、何かがけている・・という事か。だから・・・宗弥は口を割らない・・・・・一体・・・なにを隠してる・・クソ!!!



 答えを見出せないままの要が[送る。イエーガーから本陣コロンブス。フレミング確保かくほ。これより、本陣に帰投きとうします]と内耳モニターに入れると、[了。しっくりこないな、何かまだフレミングは隠している。コロンブスから総員、ドローンを使って上空から見ているターキーにフレミングが逃亡を図った場合、狙撃そげきするよう指示した。そのつもりで移送しろ]冷徹だが、この国の門番たる部隊をひきいるコロンブスに容赦はない。



 要のあとを追おうとする宗弥に対して、コロンブスの下知を知った総員は迅速に反応した。チャンスは助手席から飛び出して後部ドアの前に立ち、トーキーは前に出て宗弥をはばみ、ファイターは「待て!フレミング!!」と発すると同時に、運転席から宗弥の右腕を掴んで座席に押し戻した。



 宗弥を鬼の目でガン見しているファイターが「確信に触れる情報を渡していないからと言って、それでいい話じゃないだろう!確かに、あの時俺たちは後手に回っていた。必死だった。そんな時にお前は!!敵との通信手段を持っていたんだぞ!わかるか⁈お前が話してくれていたら、作戦の手順が変わっていたかもしれない!!あんな出たとこ勝負みたいな救出作戦を敢行かんこうしなくても!!良かったかもしれないんだぞ!どっちにしても、俺たちの気持ちはどうなんだ⁈お前をアルファーの一員だと認めてきた俺たちの信頼は!!どうなる!やり場がないだろう!!それにお前は!職務しょくむ宣誓せんせいをして誓った祖国を裏切ったんだぞ!!」とのファイターの言葉を聞き、今更いまさらながらにドキリとした宗弥は歯を食いしばり、ファイターの目から目をそらせず「すまなかった」としぼり出のが精一杯だった。



 身を乗り出したトーキーが「フレミング、あなたは救出作戦立案時、チャンスとのポジション変えを申し出た。あなたが船倉への突入に加わった理由は、単に富士子さんの負傷を現場で確認したいという、純粋なものだったと今でも僕たちは信じています。ほかに意図いとはなかったと信頼していいですか?」と厳しい態度で聞く。



 「もちろんだ。要が所在不明になるなんて思ってもみなかった。画策かくさくなんかしていない」とかぶせるように答えた宗弥を、無表情に見つめていたファイターは「最初の立案通りにイエーガーとチャンスが突入していれば、予定通り20秒早く現場から離脱りだつする事ができていた。そうなっていればフレミング!イエーガーはスパルタンに撃たれずに済んだし、所在不明にもならなかった。俺の言いたい事!!わかるよな⁈」怒りと苛立ちをふくんだ声で聞く。



 「作戦終了後の供述調書きょうじゅつちょうしょを読んでもらえればわかる」そう弁明べんめいした宗弥の声には全てをブン流したような潔さがあった。ファイターはあごを固くして思う。開き直った・・のか・・・・と。



 「半年も黙秘をつらぬいていたスパルタンが昨日、お前となら話すと言い出したそうだ。どういう事だ?」ファイターは表情と感情が抜け落ちた顔と声で聞く。



 苦悶くもんし、眉間にしわを寄せた宗弥が「わからない。何も知らない。スパルタンとはあの作戦以降、何もない。信じてくれ」と言うと、後部座席のドアがスーとスライドして開き、車に乗り込んだ要はしばらく宗弥の顔を見ていたが「宗弥、内耳モニターで聞いていた。今、お前が話した事が全てか?お前を信頼していいんだな?」湖面こめんが山岳を映す透明感で聞く。無言のままうなずいた宗弥に、要は「本当に、いいんだな」と念を押す。宗弥は「富士子を助けたかった。その一心だ。それしかない。俺はチームの信頼を無くした。どう言っても!ダメなのはわかってる!だけど、もう、俺・・は、お前たちを裏切るようなことはしない。もう一度だけ俺を信じて欲しい」説得とも懇願こんがんともいえる姿勢でそう話し、それを見た要は「わかった。チャンス乗れ。ファイター、このまま本陣に向かう」と言い、項垂うなだれた宗弥に視線を向けた要は「いいかフレミング、今、このことを知っているのはコロンブスとアルファーだけだ。これからお前はスパルタンと面談する。できる限り情報を引き出せ。内容によってはお前の処遇しょぐうも考え直されるかもしれない。他に、僕たちに話しておく事はないか?」と再度聞く。



 「何もない。資料に書いてある通りだ・・それが全てだ」と言った宗弥は要の蒼き眼差しを見ていた。



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