表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国守の愛 第3章 red eyes ・・・・  作者: 國生さゆり    
16/42

シーン16 辛くも・・



 シーン16 からくも・・



 話し続けた。

 俺は何もなかったように、話し続けてる。



 あの作戦はビビったとか、右隣に座るファイターに今度釣りに行こうだとか、俺の左に座っている要に「どうした?静かだな」と現実をおおいにシカトした声で話し掛けてみたり、右前に座るチャンスに「今のマイブームは何だ?」と聞いて、「美術館巡りです」と答えたチャンスに、「そうか俺も一時期、ハマってた」とか、正面にいるトーキーと、とうもろこしの早喰い競争をしてみたり、俺はあの頃の、あの日常と同じ様に、アルファーにせっしてる。



  ずうずう々しい、俺。



 俺の美学は台無だいなしだ。

 懐かしさに、涙がこぼれそうだ。

 俺はもっと、イケてたはずだった、クソ。

 居所だったのに、アルファー。

 


 カレーライスを再度おかわりをして、食欲のない胃に噛みくだいて流し込む。



 半分食べたところで宗弥が「辛い!辛いよ!ファイター」と言って、セロリ水をガブガブと飲み「苦いっ!美味いのか、これが!要」と言った宗弥の目から、ポロリと大粒の涙がこぼれ落ちた。クソ!宗弥は手にコップを持つ左腕でグィッと顔をぬぐう。



 その涙を見たファイターが「すまん。ちょっと考え事してて、チリペッパーを多めに入れたようだ」と早口で言い、「何考えてたんだよ」ブッきらぼうに言った宗弥を、まばたきもせずに見たままでいるファイターに、宗弥はキョトンとして「なんだよ」と言い、ファイターは「いや、そろってのめしは、いつ以来だったかと考えてた」と正直にこたえた。要が「2年ぶりだ」ボソリとこぼし、「そうですね」と言ったチャンスは、宗弥をまっすぐに見て「フレミング、僕はあなたの肯定的こうていてきで、スマートで、献身的な立ち振る舞いを尊敬して見習みならってもきました。そんなあなたが、なぜと思わない日はありません」と言ってうつむき、「やめろよ!チャンス」とけわしく言った宗弥に、「誰もが、そう思っている。宗弥」要は静かに語りかけた。



「お前に言われると、なんか、余計よけい腹が立つ」と言って大きくカレーを頬ばった宗弥に、宗弥の左前に座るターキーが「部屋から打電してますね。内容わかって打っていますか?」と不意をつく。宗弥はゴホッとのどを詰まらせる。



 「いつまでも、お前に道化どうけじさせてるわけにはいかない」そう言った要を、むき出しの暴力がきばむく目で見るや、宗弥は「そこまで知ってての仲良しご飯会かよ!!」と吠え、その宗弥に「フレミング!言い過ぎです」とターキーが声を張り、瞬時にその目をターキーに向けた宗弥が「だいたい、なんでお前がここにいる。お前はオメガだろうが」と辛辣しんらつに言う。ターキーは白けた目を宗弥に向け「規定上、申し上げられません。あなたは、コロンブスの直属だという自覚があるんですか」と宗弥を氷点下の刃風はふうで切り捨て、宗弥は素早い右手で、サラダがのる小皿をつかんでターキー目掛けて投げつけた。



 くうを切る皿をトーキーは神速で反応させた右手でね除け、誰もいない方向にタタキ飛ばす。ガチャーンとくだける音が室内に響く。



 無言で立ち上がったトーキーはテーブルに飛び散ったサラダを自分の皿に入れ始め、「もったいない」とつぶやいたファイターも自分の皿に拾い集めた。



 顔に暗鬱あんうつ陰影いんえいを横切らせた要は「宗弥、ターキーはアルファーに配置転換はいちてんかんになった」と告げ、「おい!」と言ったファイターの横顔に、おだやかな視線を向けた要が「いいんだ。責任は僕が取る」と言い、キッパリとした表情で要は宗弥に向き直り「宗弥、お前が打電したのは“ スパルタンと接触完了“とコードを違いの“ red eyes“の2つだよな、誰に、打電してる?僕達に教える気はあるか?宗弥」低くしんのある声でうた。



 斬鬼ざんきの目を要に向けた宗弥は「なんで、知ってる!!!」と声をあらげ、要はチリリとからく、シャープな視線でその目を受け止め「お前が打電しているのは!昔の作戦で使用されていたコードだ!知らなかったのか?お前らしくもない!宗弥!!お前は角度の高い資料を集め!南雲司令の側近に内通者がいたという論文を提出して、教官に大目玉をらうほどにさとしい奴だ。言われるがままにしたが冷遇れいぐうを自分に許すはずがない!!何か言い忘れていること!思い出したこと!話しておきたいことはないか!」無感情を全面に押し出した態度と、平坦へいたんな声で要がまたも問う!!



 クソ!、詰問きつもんする時の声色こわいろで聞きやがった!!無意識に唇を噛み締めていた。red eyesの事をどこまで知っている⁈ 俺にかんして、本陣はどこまで調べがついている!!



 ガタリと音を立ててドアが開き、ベータ総員がアルファーが座るテーブルに鬼神のごとく迫る。先陣を切るベータ長・サラマンダーが宗弥をるような目で刺し「フレミング!!お前!!新潟分屯基地近くの郵便局から内耳モニター3つを送ったな!!どこに送った!!」狂犬のように吠える。



 アルファーは立ち上がり、礼儀をいたベータに対峙たいじした。どの顔も、一触即発だ。



 サラマンダーの前に進み出た要は「どうやって、突き止めたんですか?」と聞く。要の前に割って入った大男デスが「基地周辺のご自宅を一軒、また一軒と尋ねて!ドライブレコーダーのご提出を願ったんだよ!!馬鹿野郎!」と言ったデスに、宗弥に視線をえたまま「デス、余計なこと言うな」とするどい口調で言ったサラマンダーが「フレミング!!言え!吐けよ!これ以上、特戦の名をけがすな!」と宗弥に迫る。宗弥は後ずさりし始め、調理場に向かって走りだす。



 宗弥は恥辱ちじょくまみれて、これ以上生きるのはもう嫌だとせつに願い、シンク下の扉を開けて包丁を探すが、跡形あとかたもなく片付けられていた。それに気づいた宗弥が冷えた目を静かに上げ「最初から、仕組んでいたな。要」ひんやりとするめた口ぶりで発し、真摯しんしな眼差しで向き合った要は「そうだ。宗弥、お前のために」、「俺のためだと!ふざけんな!!お前は何もかも、、なんで!!、、なんで、お前なんだ!!お前だけが!なんで、守られる!!俺と何が違うんだ!!俺がいなきゃ、柔軟性のないお前は!!ただの運動神経だけの!!突撃馬鹿のくせに!!!富士子との間にって入ったのはお前だろうが!!!!!俺は!!任務を遵守していたのに!!!」宗弥の怒号どごうが響く。宗弥は身体をワナワナと震わせて膝から崩れ落ちた。



 宗弥の元に駆け寄った要は「教えてくれ、宗弥。どこに送った?」と聞く要を、宗弥は赤い目でにらみつけ、屈辱くつじょくの宗弥がとぼしく静まり返った室内に住所を告げた。瞬時にトーキーとターキーが廊下へと走り出る。その建物が存在するならば、今の状況じょうきょうを通信室で知るために。



 つばを吐き捨てかねない表情で宗弥を見ていたサラマンダーは背を向け、上着の内ポケットに右手を入れてスマホを取り出すや、コロンブスに電話をかけ始め、チャンスとファイターは歩み寄って宗弥の左右にしゃがみ、へたり込んでいる宗弥の脇の下に手を差し入れて立たせた。



 両サイドをファイターとチャンスにガッチリと固められ、歩き出した宗弥は要に振り返るや「お前と!俺は!何が違うんだ!」と叫んだ。ファイターは宗弥の横顔に「もういいだろう、フレミング。これから先、考える時間は十二分にある」なんの親切も感じない声でそう言い、聞いた宗弥は呆然ぼうぜんとファイターを見上げ「これ…から…」と呟く。宗弥を痛ましく見たチャンスは「行きましょう」とりんとする声で言い、3人は廊下へと出てゆく。



 要は立ち上がることができず、拳を握りしめて声を殺して泣いていた。宗弥をここから送り出す。その布石ふせきをアルファーは打った。これで宗弥はどう見ても、ただの敵方の工作員としか見えない。証拠映像もある。僕は敵がどの国であれ、宗弥を2重スパイに仕立てようとコロンブスに提案ていあんした。刹那せつなな響きとなまめかしい影を背負う世界に、宗弥を送り込む算段さんだんを僕がした。そうしなければ一生、宗弥は、ここでばくく。そんな宗弥は見たくない。あとは宗弥が納得するか、選ぶかの選択だ。クソったれ!決めたのに……僕は…弱虫だ。



 天をあおいで泣く要の姿を見ていたサラマンダーは「Dとカンマルはトーキーとターキーに付け、デスとピッコロはファイターとチャンスに付いて、フレミングの聴取を裏から見守れ。総員、随時報告を上げろ。こっからが勝負だぞ、おこたるな。行け」たいらな、さざ波さえ立っていない湖面のような海の様相ようそうで指示を出し、室内から走り出る総員の背を見送る。クリアランスしぎるこの国で、これからを模索もさくするサラマンダーがいた。



 要に歩み寄ったサラマンダーは「チーム長が、部下の前で涙を見せるな。しっかりしろ!」とげきを飛ばし、要は「すいません」とつぶやいて渾身で立ち上がろうとするが、ならず、要の右腕をとったサラマンダーが要を立たせ、要のまなこんだ目でとらえ「住所という手がかりを掴んだ。これで一つ前に進める。フレミングはこちらの考えにいずれは気づく、あいつは優秀だ。心配するな。しかし最後の最後まで、コンビニか郵便局かで迷ったよ。フレミングの気質を考えると正確な日時を確定させ、知っておきたいだろうとんで郵便局だと判断した。確率は二分の一、きわどかった」と言った。



 こみ上げる涙を噛み殺した要は「あとは、私が捕虜ほりょとなり、宗弥とサラマンダーと共に逃亡して情報を集めます。アルファーを頼みます」と頭を下げる。涙する要に人間らしさを感じつつサラマンダーは「チームにはどこまで話した?」と聞く、「すべてを」と答えた要の眼光が鈍く光る。「よく納得させたな」と言ったサラマンダーに、要は「宗弥がこの国にもう一度、くす機会を作る為だと皆、心のどこかで理解したようです」地の底からくような疲れた声で言った。



 「そうか。・・フレミングはボンクラだな・・こんなにも自分を思ってる仲間を・・」とサラマンダーが呟く。要の血走った目がゆがんだのを見逃さなかったサラマンダーは「いや、もう言うまい。それも人の生き方だ。こちらは作戦通り、フレミングをルートにのせるだけだ。任せろ、バックアップする」と言って、全てを洗い流すようにすがすが々しく笑う。



 皆、どこかで、まだ、宗弥の聡明な心を信じている。コロンブスも、サラマンダーも、ファイターも、トーキーも、ターキーも、チャンスも、だから、僕の進言しんげんを受け入れた。「宜しくお願いします」要は深く頭を下げた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ