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虚想世界のトレジャーガード  作者: 赤梟
第一章 はじめての宝奪戦
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第二話 自己紹介

 余韻にひたるような数秒を経て、イングズが切り出す。


「んじゃま、とりあえず自己紹介でもしておくか? おい、とか、おまえ、じゃ嫌だろうしな」


 ラグと少女が、さんせーい、と声を揃えた。言葉を発さず静観していた金髪の少年も首を縦に振って応えると、四人は円形に向かい合う。

 誰からやるのか、という視線の応酬。三人が自然とイングズに向くと、当人は迷う素振りもなく答えた。

 

「オレはイングズ・ファーベインだ。トレジャーハンターを目指してる。宝奪戦ほうだつせんてのがイマイチまだわからねぇが、卒業すればプロのトレジャーハンターになることに変わりはねぇ。オレは一番を目指すつもりだ」


 目立つ赤髪、一九〇に迫る高身長、黒ジャージの上着は羽織らず腰の辺りで結んでベルトのように巻き、白の袖無しシャツから鍛えられた筋肉質な腕が伸びる。その容貌ようぼう、自信に溢れた口調は、誰の目に見ても頼りになる兄貴分と映るだろう。


「そして──」


 言葉を区切ったイングズは、右手を肩の高さに上げて開くと──。


装備イクイップ先駆さきがけの円剣えんけん〞ッ!」


 高らかに、武具装着の宣言を上げる。

 その瞬間、掲げたイングズの手元から、白い光が急激に伸びていく。光はイングズの背丈ほどの状に広がり、武器の設計図めいた輪郭線りんかくせんを浮かび上がらせると、彼はその光の輪郭を握りしめる。バチバチッ、と弾けるプラズマを伴って、イングズの手の中で巨大な円剣チャクラムが実体化した。〝剣〞でありながら刀身を持たず、厚みのあるそれは斬るよりも叩きつけることに特化した殴打おうだ武器のようだ。


 ニヤリ、と自慢げに笑うイングズに、ラグがここぞとばかりに笑った。


「ぷぷーっ! イングズくんの武器フラフープなの? カッコイイー!!」

「あぁ!? フラフープじゃねぇよ! どこに目ん玉つけてやがんだ! チャクラムだよ、チャクラム!」


 二人のやり取りを見ていたフィーナが楽しげに笑い、金髪の少年までもが鼻で笑うのを見て、イングズは咳払いをしてから話を戻した。


「これがオレの武器〝先駆さきがけの円剣えんけん〞だ。フラフープじゃねぇ。コイツの性能も、オレ自身もガンガン攻めていくタイプだからな。戦いになれば先陣は任せてくれ」


 背丈ほどの円剣を肩に担ぎ、イングズは隣に立っていた金髪の少年に目を向ける。

 それに応じた少年は顔の左半分を覆う前髪を指先で整えると、その手が武器を構えるように開かれた。


「武器は出さなくてもいいぜ。仲間なのは今回チュートリアルだけかも知れねぇしな?」

「構わない。どうせこのあと使うだろうからな」


 抑揚のない声で答えると、少年は迷わず己の武器の名を告げる。


装備イクイップ蛇槍じゃそうピュフィス〞」


 イングズの時と同じく、少年の手から光が放たれた。

 にび色に輝く光は細長く伸びていき、掴むと同時に実体化し、二メートル近い槍の形をとる。


「名前はハウゼ・クロセル。武器は槍だ。功績をあげるためには協力するが、あまり口が達者たっしゃじゃなくてな。出来れば、らくな役回りを頼む」


 淡々と言い終えたハウゼは、槍を腕に抱えて目蓋を伏せる。


「ハウゼか、おまえ雰囲気あるな」

「うんうん、なんかかっこいいねぇ」

「……どうも」


 イングズと少女が褒めるも、ハウゼの返事はないものだった。


「………………」


 その、つたない態度が気に食わなかったのだろうか。ラグは無言でハウゼに視線を向けていた。


 正直を言えば、彼の第一印象は良くなかった。


 総じた感想は、蛇だ。

 整った顔立ちと、顔の左半分を隠す金色の前髪、クールな印象。黒ジャージのファスナーは全開にした着流しスタイルで、中の白シャツが覗いている。素っ気ない態度も彼くらいの器量きりょうしがやれば魅力と感じるのも否定はしない。

 だが、涼やかに開かれた彼の切れ長の眼は、ラグには本能的な嫌悪けんおを感じさせるものだったのだ。


 美しい絵画についた小さな汚れ。気にするほどでもないのに何故かそこだけが見えてしまう違和感のような──。


「……なにか?」


 ふと、目が合ったハウゼに声をかけられ、ラグは慌てて取りつくろった笑顔を見せる。


「ごめん、なんでもないよ」

「………………」


 しばし無言の視線を向けられ、ラグのひたいに冷や汗が浮かぶものの、ハウゼは興味無さげに目蓋を伏せる。心の中で胸を撫で下ろしていると、隣で少女が手を上げた。


「はい! わたし、フィーナ・メルレイン。故郷は小さな漁村ぎょそんなんだけどぉ、泳げないから別の仕事を探してここに来ましたぁ」


 特徴的な間延びした声と、常に絶やさない柔らかな笑顔。笑っているせいか目は横線のように細く、笑みを浮かべて微睡まどろんでいるようにも見える。青いジャージに白の短パン姿で、尻の辺りまで伸びた青色の長髪がふわりと大きく広がり、見ているだけでほんわかする子だな、とラグが思う。


「それで、えっとぉ……ごめんなさい、武器をここで出すのはちょっとぉ……」


 申し訳なさゆえの照れ隠しなのか、体を左右に揺らしながら、胸の前で手を合わせてごめんねのポーズを取る。


 しかし、ラグとイングズが気になったのは彼女の武器ではなく、ジャージの下でさえ大きく揺れ動く彼女の胸元の膨らみだった。揺れる体に少し遅れて続くその動きは、彼女の服の下に秘められた双丘そうきゅうの質量を示唆しさしている。


「ま、まぁ仕方ねぇよな。大事な巨乳ぶきだ。あんまり揺らすと、な……」

「揺らす?」

「そうだね、大きいと大変だろうしね」

「んー……別に大きい武器じゃないんだけどぉ……?」


 困惑するフィーナが疑問符ぎもんふを浮かべるも、その思考を遮ってラグが前に出た。


「俺、ラグ・ラスティン。田舎の山で羊飼いしてました。最近まで山から出たことなくて、はじめて都会に来ました。都会では魔法みたいに武器が取り出せたり、瞬間移動する転送装置があって、びっくりしてます」


 わかるぅ、と気持ちの入ったフィーナの相槌あいづちに照れ笑いしながら、熊茶色の髪の下でラグがクリクリの瞳を輝かせると、イングズが「へっ、田舎モンが」とつぶやく。

 悪態あくたいをつく友人に一睨ひとにらかせ、次の言葉を探しはじめたラグの態度に、変化が見られた。


「で……えっとー、武器がー……」


 先ほどまでの勢いはどこへやら、煮え切らない様子のラグにフィーナが「がんばれぇ」と声を掛けるが、その隣でイングズが悟ったように笑みを浮かべていた。


「おぅ、どうしたラグ、オレの武器をフラフープ呼ばわりしたんだ、おまえの武器も見せるよな?」

「ぐっ……。ふんっ、わかってるよ!」


 この男、体育会系のイメージの割には根にもつタイプらしい。仕方なくラグは両手を突き出し、己の相棒の名を呼んだ。


装備イクイップ薄墨色の短剣ラスト・エクストラ〞!」


 左右の手元に短剣の輪郭線が浮かび上がる。鋼の重量を感じて握ると、薄墨色の光を放ち、二本一対いっついの短剣が実体化した。

 薄墨色の刀身は光の当たり方によっては透けて見えないでもないが、特に変哲のない二本の短剣を見たフィーナが首をかしげる。


「カッコいい短剣だねぇ、恥ずかしがることないのにぃ」

「そう思うだろ? 生徒証パーソナルコイツラグの情報見てみろよ」

「え? うん」


 イングズにそそのかされたフィーナが短パンのポケットから生徒証パーソナルを取り出し、パーティメンバーを表示するアイコンを押すと、この場にいる四人の顔と名前、ライフが表示される。

 それぞれに六〇〇から八〇〇ほどのライフが表示されるなか、ラグの横に記された数字は──。


「ラ、ラグくんのライフ…………〝イチ〞しかなぁぁぁぁいぃ!!」

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