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虚想世界のトレジャーガード  作者: 赤梟
第一章 はじめての宝奪戦
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第十話 加速する戦場

 乱戦の中では、三メートル近い大型の機体バイクは狙われやすく、いい的だ。


 既に臨戦態勢だった宝狩人ハンターたちは、突っ込んでくるバイクを自慢の武器で迎え撃つ。特に遠距離攻撃が出来る魔法系や投擲とうてき系、射撃系武器はでたらめな数打かずうちによる攻撃を「死ねぇ!」とか「殺せぇ!」とか好き勝手にわめきながら、一斉に浴びせかける。


 それを「待ってました」と言わんばかりに、アイナはあせりと狂気が入り交じる顔で笑う。


「ミシャ、巨乳押し付けてしっかり抱きついとけ! 振り落とされても知らないからな!」

「ちょっと! 人前ひとまえで変なこと言わな……きゃぁぁぁぁ──!!」


 宝奪戦のために操作を簡易化かんいかされたバイクは右のハンドルをひねるだけで、一気に最高速度トップ・スピードへ加速した。


 大量の空気を吐き出す送風機めいた排気音に、ミシャの悲鳴が掻き消される。バイクは消費型燃料ではなく、単純に風を吐き出すことによって推進力すいしんりょくを得ているようだ。


 進行方向から魔法の光弾や鉄球らしきもの、剣や投げ槍のたぐいまで飛来する中、安全なルートを見極めながら高速で蛇行する様は圧巻の一言に尽きる。


 しかし、酔狂すいきょうやからがバイクの前に立ち塞がった。恰幅かっぷくのある大男が鎖らしき武器を構え、あろうことか自分からバイクに突っ込んでいく。


「うげぇ、当たり屋は実在した!?」


 玉砕覚悟。倒すことは不可能でも相討ちを狙った捨て身の攻撃であれば、彼女のバイクを止められると考えたのだろう。それを真似まねた連中が一団いちだんとなって波状はじょう攻撃を仕掛ける。


 衝突の直前、アイナは急激に進路を右に変更した。右足で後輪のブレーキを操作し、甲高いスキール音を撒き散らして横滑りドリフトした車体の後部が大きく弧を描き、ろくに速度を落とすことなく障害物ハンターを切り抜ける。


 波状に襲いかかる敵も同じ末路だ。バイクは地上の稲妻とも言うべき不規則な動きをしながら誰も追い付けない速度で疾走、乱戦の人垣を一気にくぐり抜け、ラグたちの背を捉えたのだ。


「この、バカアイナ! 本当に落ちるかと思ったわよ!」

「ふぅ……あたしも」


 親指を立てるアイナに、ミシャのチョップが炸裂する。

 ラグの驚異的な攻撃力は既に情報共有されているのか、バイクは一定の距離を保ち、円を描くように走っている。そのせいで他の宝狩人ハンターも背中を襲うことが出来ず、足を止めてしまった。


 余裕を見せる宝護者ガードを前に、ラグとハウゼには強烈な緊張感がただよっていた。


 あれだけの走りを見せられたのだ。このまま徒歩とバイクで競争したところで、少しの妨害や障害程度では追いつかれるのは目に見えている。


「弓使いを片付ける。ヤツはあと一撃で沈む」


 ハウゼがつぶやく。いくらバイクが速かろうと攻撃手段は体当たりだ。遠距離からの攻撃が出来る弓使いさえ倒してしまえば、ける可能性はある。シャンデリアを落として二人の足を止めたのも弓使いであるミシャだった。ラグの攻撃によって彼女のライフはあと一割程度しかないのも追い風だ。


 だが、ラグはそれを意外な言葉とともに否定した。


「いや、弓のおねえさんは素人しろうとだ。倒すならバイクが先がいい」

「……素人?」


 耳を疑ったハウゼが問い返す。

 宝物庫からここまで、彼女の矢は狙いを外したことがない。こちらが武器で弾かない限りは必ずあたるといっていい命中精度を誇る彼女が素人とはとても思えなかった。


「俺は村にいたとき弓で狩りをしてた。獲物を狙うときは必ず獲物の中心を狙う。腕とか足とか、細いとこを狙っても外しやすいからだ」


 身振り手振りを加えながら、ラグは早口にまくし立てる。


「でも、それは誰かに教わった訳じゃない。誰だって無意識に当たりやすいところを狙う。特に初心者は獲物が動き回るほど、ムキになってそこしか見えなくなる」


 だから彼女はいつも同じ場所を狙う。命中精度が高いばかりに彼女は必ずそこに矢を届かせるだろう。ならば、その軌道を塞いでしまえばいい。


「あの人の矢は、必ず体の中心線を通る。そこだけ防げばいくら矢をたれても問題ない。こっちが矢を防げば防ぐほど焦って、あの人はそこしか狙わなくなる」


 彼女が狙うのははばのある上半身、その中心線上のみ。

 ひたいから腹にかけて守ってしまえば、彼女の攻撃は届かない。


 宝物庫での戦いもそうだった。一度だけハウゼの横腹をかすめたことがあったが、それは抵抗の結果だ。狙われたのは鳩尾みぞおちの辺りだった。


 ラグが彼女の弓を恐れず間合いを詰められたのは、故郷での暮らしと、初心者である彼女の癖を見抜いてのことだったらしい。


 答え合わせのように、宝を持つハウゼを狙って桜色の光の矢が飛んできた。正確に狙いを定めた三連射は腹に二発、ひたいに一発。


 それをハウゼは難なく槍で叩き落とした。種明かしがされればどうということもなく、ただ速いだけの光る棒でしかない。


「……なるほど。なら二人とも叩くしかない」

「言うと思った……。でもどうやって?」


 倒すにしても逃げるにしても、背後のシャンデリアが邪魔だった。散乱するガラス片に足をとられないとも限らず、背を向ければ容赦なく矢が飛んでくる。今も思考の妨害をするように、数秒に一度は必ず矢が飛んでくる。

 その対処をせざるを得ず、ラグたちの考えがまとまるより早く、宝護者ガードを乗せたバイクに動きが見られた。


 円を描いていたルートを外れたバイクが、圧倒的に有利なはずの長距離射程を捨て、正面から突っ込んできたのだ。後部座席リアシートから顔を覗かせたミシャが弓を構える。


「≪アーツ≫、発動──」

「っ!?」


 アーツの発動宣言に応じて、弓から桜色の光が立ち上る。円を描いて走っていたのは、再発動するための待機時間クールタイムを稼ぐためだったようだ。


 だが、それはおかしな選択だった。彼女のアーツによって放たれる桜吹雪は遠距離からでもラグたちに届く。近づくことにメリットなどないはずだ。


 弓の中心とがしらを指先で叩き、引く動作に合わせて五指の間に四条の光の矢がつがえられる。それを天に放てば、またあの超広範囲攻撃がやってくる。フィーナの水の塊ティンクトゥラによる援護がない現状、ラグにそれを防ぐ手立てはない。


 しかし、ミシャは矢を天ではなく正面に構えた。視線の先にいるのは宝を持つハウゼだ。宝を持たないとはいえラグを気に掛ける様子はない。


 おかしい。何かを狙っている。彼女たちはラグのライフが〝イチ〞とは知らないが、範囲攻撃に巻き込まない理由はない。


 ラグの脳裏に、先刻せんこくの映像が浮かぶ。

 宝物庫を満たすほどの桜吹雪。ライフが三割を下回るイングズさえ平気な顔で戦闘を続行できるほど威力が低く、それを当てたところで七割を残すハウゼのライフを削りきることはとても──。


「っ……! いや、違う……!」


 脳裏で再生された映像に強烈な衝撃を覚えたラグは、驚愕に目を剥く。


 ──ある。意味はあった。弓使いである彼女が、あえて近づくだけの理由が。


 天に放った矢は桜吹雪となり、地上に降り注ぐ。

 ならば……ならばそれがもし天ではなく、直接相手の体に撃ち込まれたらどうなるのか。

 宝物庫を満たすほどの幾百いくひゃく幾千いくせんの花びらが全て一人の体に撃ち込まれれば、千に満たないライフ……つまり参加者の誰であろうと、一撃で落とされることになる……!


「ハウゼ、逃げろ!」


 ラグの叫びもむなしく──。


「≪桜花爛漫≫──!」


 ──のがぬ必死の一撃が放たれた。

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