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虚想世界のトレジャーガード  作者: 赤梟
第一章 はじめての宝奪戦
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序章 空に浮かぶ世界

 無窮むきゅうに広がる蒼空に、浮遊する大地があった。

 ひとつの広大な大陸を中心として、それを取り巻くように無数の浮遊島が連なり、空に浮かぶ群島を形成する。


 中心に位置する浮遊大地には巨大な建造物が存在する。

 外周を広大な森に覆われ、楕円だえんを描く巨大な湖をはべるその建物は、最新鋭の設備をもって新設された冒険者アカデミーである。


 浮遊大陸かんを移動する船に乗り、他の空域から訪れた生徒たちは、それぞれ支給されたジャージに着替えたのち、アカデミーの屋上に集められていた。

 年齢、性別を問わず行われた募集に応えた約二〇〇名の生徒たちは比較的若者の姿が多く、皆一様いちように周囲を警戒するように見回している。


 屋上の中心には、鮮やかな彩りの花壇にたたえられた女神像があった。胸の前で浮かぶ水晶に両手を添え、慈愛の笑みを浮かべている。

 その姿をさえぎって、白衣を着た少女が前に出た。


「ようこそ! 我が冒険者アカデミー、記念すべき第一期生徒諸君! ワタシはアカデミーでキミたちを導く教員、ニュウミー・チマモだとも!」


 アカデミーの教師を自称する少女は、見るからに子供だった。

 ぶかぶかな白衣はすそを床に引きずり、垂れ下がるそでが両手を覆う。桃色の髪は両サイドで短く結び、大きな瓶底メガネが顔の半分を隠してしまっている。


 少女は生徒たちの視線を一身に浴びながら、鼻息荒く声を張った。


「デは、さっそく我がアカデミーが誇る、競技性を兼ねた乱戦型お宝争奪戦。≪宝奪戦ほうだつせん≫についテ説明するとも!」


 聞き慣れない言葉でありながら、アカデミーのうた文句もんくとされた宝奪戦という言葉に、生徒たちは静寂をもって応える。


「宝奪戦とは、実際の冒険を想定シた仮想戦闘に、ダンジョン攻略、さらにトレジャーハントの概念を加えた生き残りサバイバルバトルだとも!」


 ニュウミーは白衣の胸ポケットから、手の平に収まる青く半透明なカードを取り出し、皆の前で掲げた。


「入学にあたリ、諸君の手にも渡したこの電子端末。我がアカデミーではコレを〝生徒証パーソナル〞と呼ぶ。各自、生徒証パーソナルの画面を見てほシい」


 生徒たちが一斉に自分の手にある生徒証パーソナルに視線を落とす。

 片手に構えるだけで起動した画面にはそれぞれの顔写真が表示され、その上に、人により多少の差はあるものの三桁の数字が記されている。


「そこに示された数字は、諸君の身体能力をもとにシて算出された、それぞれの命を擬似的に数値化した〝生命力ライフ〞を表していル! 宝奪戦では他の参加者と戦闘になり、攻撃を受けると減少する。ライフを失った者から退場とナるため、自分のライフを守りながら他の候補生やアカデミーの管理下にあるモンスターと戦うことになル!」


 身体能力を基にした生命力ライフ

 であればその数値が現時点で高い者ほど、既に冒険者として優れた肉体を得ていることとなる。

 互いの数値を見せ合う生徒たちがにわかにざわめくも、少女は静まるのを待たず続けた。


「そして、ひとつの宝を奪いあう≪宝奪戦≫に参加する上で、諸君には、ふたつの選択肢があル!」


 ──ひとつ。宝狩人ハンターとなって、他の宝狩人ハンターを出し抜き、ダンジョンのドコかにある宝を奪ってみずからの陣地へと持ち帰るコト!


 ──そしてもうひとつ。宝護者ガードとなって、宝狩人ハンターを待ち構え、宝を奪われないよう守り続けるコト!


「無論、宝を奪われたら、奪い返さなければならナイ! そのタメの戦うすべとなる装備を、これから諸君にひとつずつ与えるとも! 装備には諸君ラの助けとなる≪要素ファクター≫が付加されていル! 何が手に入るかは諸君ラの運次第だガ、必ずや宝奪戦を勝ち抜くタメの助けとなるだろウ!」


 そこまで言いきるとニュウミーは満足げに口角をあげた笑みを見せ、とことこと横に移動する。生徒たちの視線は、自然と彼女の陰に隠れていた女神像へと向けられた。


「コレより女神から武具を授かるための、たまわりのをはじめル!」


 高らかに言い放つと、女神像の手の中で浮かぶ水晶が、まばゆいばかりの光を放った。


「さァ、受け取りたまエ。キミたちの未来あすを切り開く、新たな力を!」


 声に応えるように、水晶から放たれた光は花火のごとく上空に打ちあがり、弾けて散る。


 無数に砕けた光は生徒たちのもとへ降り注ぐと、それぞれの手の中、あるいは体に纏うようにして、形あるものへと姿を変えていく。


 美しく洗練された長剣。持ち主を覆うほど巨大な盾。装飾が見事な杖。皆が見ている前で戦闘衣装バトルコスチュームに変身した少女さえもいた。


 それぞれに手にした装備を誇らしく構えながら生徒たちは、親交を深める仲間と、これから敵となるライバルたちに好奇の眼差しを向けあっていた。


 冒険者として、探求心をその胸に。

 誰にも負けまいと、たぎる闘志はその瞳に。


 今、宝の奪い合いたる《宝奪戦ほうだつせん》の幕が上がる。

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