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婚約破棄はいいですが、その先の事はお考えで?

作者: 花衣

さらっと、そうめんのごとくおよみください。

 拝啓 親愛なるマリアお姉様

 お元気ですか。お姉様が嫁がれてから、わたくしの癒しは無いに等しいものです。アンネローズはわがまま反抗期だし、お父様からの引き継ぎでレイチェルお姉様はいろいろ大変だそうです。ローレンお義兄様はレイチェルお姉様のご機嫌取りに奮闘していますわ。

 今なんて久しぶりにお会いした婚約者様と、初めてお会いする男爵家の御令嬢ナントカ様が、よくわからない罪をでっちあげてわたくしとの婚約を破棄するとか言い始めました。よくわからない罪とは、学園でいじめられたうんぬんです。少し調べたらわたくしがそんな幼稚ないじめなどしていない事がわかりますのに。婚約者様は多少考えが足りない方だったのですね。こんなことでティータイムの邪魔をされて悲しいですわ。

 そうそう、昔お姉様と一緒に植えた薔薇が今年も綺麗に咲きましたの。お姉様と一緒に薔薇を眺めながらティータイムをしたいのに、簡単にできないのが悔しいところです。またこちらに帰ってくるときは早めに教えてくださいね。とっておきの茶葉をご用意しますわ!

 またお会いできる日を楽しみにしています。

 敬具



「おい、聞いているのかセレナ!」



 よく晴れた日、薔薇園の四阿で優雅にティータイムをしながら嫁がマリアお姉様に手紙を書いていたのよ。そうしたら、ドカドカと下品極まりない足音を立てて、婚約者様と見知らぬご令嬢がきて、ありもしないことを一方的に言ってくるとはとてもひどいと思うのよね。ため息も吐きたくなるけどぐっと堪えて持っていたペンをそっと置く。



「……聞こえておりますわ。婚約破棄でしたっけ?どうぞご勝手に。わたくしは了承致しますわ。あとは陛下と公爵様と3人で話し合ってください」


「随分素直に応じるんだな。まあ、いい。それよりもお前がリリーナを虐めていたことに対しての謝罪はないのか!」




 金髪に若草色の瞳に怒りをまとわせて睨み付けているのが、婚約者のレイノルド様。その隣でレイノルド様の腕にしがみついて、生まれたての小鹿のように震えているのがリリ……?なんでしたっけ、忘れましたわ。まあ、見た目は栗色のフワフワな髪の毛にはちみつ色の瞳で、男性が好きそうな見た目(身体を含む)をしてるわね。そんなわたくしはレイノルド様よりも薄い金髪を結上げ、瑠璃色の瞳で少しつり目なせいか冷たい印象を持たれるみたい。本当はそんなことないのに。




「わたくしが、そこのリ……あー、リリーヌ様?を虐めているとは例えばどういうことを?全く身に覚えがないですわ」


「リリーナよ!教科書を破ったり、お母様の形見のブローチを壊したり、噴水に突き落とそうとしたり……挙句の果てには階段から落そうとしたじゃないの!レイ様ぁ、私怖かったですぅ!」


「こんなことをしているのに身に覚えがないなんて嘘が通用すると思っているのか!僕の婚約者としてふさわしくない!」


「はぁ、今お聞きしました幼稚な事は全て否定させていただきます」




 先程まで温かかった紅茶がすっかり冷めてしまいましたわ。とにかくこのお馬鹿さんには現実を教えてあげないといけません。わたくしのティータイムを邪魔をしたこと、許しません。マナー違反ですわ。売られた喧嘩は買うのが我がベルバッハ王家のしきたりですのよ。覚悟はよいですね?




「さて、それでレイノルド、お前はわたくしが誰だか忘れているのですか?わたくしはこの王国の第三王女、セレスティーナ・ルル・ベルバッハ。そして魔法騎士団、第二部隊長でもあるわ。権力を振りかざすことは好きではないけど、お前は王家への礼儀というものは教えられていないの?プライド公爵家は教えなくてもいいと思っているのね、よくわかったわ。それで、わたくしがそこの男爵令嬢にいじめをした?こどものお遊びみたいな方法で邪魔者を排除するとでも思っているの?面白いわね。まあ、妹のアンネローズならしそうだけど。そうそう、わたくしには常に監視している者がいるのだけれど呼びましょうか?」




 椅子から立ち上がり、ヒールをコツコツ鳴らして二人に近づく。普段は鈴を転がしたような声と言われるけど、部隊長としての仕事の時は想像もしない声になるって騎士団長が言ってたわ。失礼ね。扇子を広げ口元を隠し、元婚約者の顔をじっと見る。レイノルドったらこちらのわたくしを直接見たことないからって怯えすぎよ。




「そうやって権力を振りかざして脅すなんてひどい!監視の人だってあなたの手の内じゃない、本当の事かどうかわからないわ!レイ様がかわいそうです!もう解放してあげて、レイ様を自由にさせてあげてよ!レイ様は言ってました、望んでいない婚約だったのに王家の方が無理やり結んできた政略結婚だって!結婚は好きな人同士でするものよ!権力で結んだ結婚なんて幸せになら、んむっ!?」




 子犬のように吠えるぶりっ子さんが煩くて、思わずぷるんとした唇に指を当てる。ふふ、なんて魅力的な唇なのかしら。静かになったぶりっ子さんに笑いかけると睨み返されてしまったわ。




「キャンキャン吠えてうるさいわ。そもそもあなたの発言を許した覚えはないの、おだまりなさい。いいこと、この婚約は公爵家からであって王家からではないのよ。あら、もしかしてレイノルドは知らなかったの?面白いわね。わたくしはこの婚約が決まった時から不服でずっと白紙にしてもらおうとしていたのよ。でも国王陛下もあなたのお父上もなかなか許してくれなくて、気づいたら10年も経ってしまったわ。まさに時間のムダ。それに、レイノルドを好きだと思ったことは一度もないから情すらも湧かないわ。でも今回の件でようやく婚約が解消できるからあなたにお礼を言いたいくらいなの。ありがとう」


「はっ、強がりを。我が公爵家からだと?父上は王家からと言っていたんだ!公爵家の後ろ盾が欲しいからってな!お前と結婚する際には伯爵の爵位を頂く予定になっている、残念だったな。伯爵夫人になるのはリリーナだ!」




 先程まで怯えていたレイノルドがようやく復活したみたい。あらあら面白い勘違いをしてるわ。そんなことよりプライド公爵は嘘ばかり教えるのかしら。凄い教育方針、見習いたくないけど。伯爵夫人と言われてブリッ子さんが嬉しそうにレイノルドを見つめているわ。さて、わたくしも飽きてきたから最後に精神的に右ストレートをキメて終わりましょうか。




「もうこの茶番も飽きたから最後に教えてあげる。伯爵の爵位をもらうのはレイノルド、あなたではなくてわたくしなの。だからわたくしと結婚しなければ伯爵にはなれない。公爵家には三男のあなたと違って出来のいいお兄様達がいるでしょう?この婚約がなくなればあなたはどうする?剣も魔法も勉強もダメなあなたに就職する先はある?あなたは王宮でなにかしらの仕事に就けると聞いているみたいだけど、あれは完全なるわたくしのコネよ。わたくしに文句を言う前に、本当の事をきちんと調べてから来るべきだったわ。これからどうするかは公爵様と話し合うことね。もちろん、この婚約は今すぐなかったことにするわ。可愛そうだから破棄ではなくて白紙にするのよ。これが最後のわたくしからあなたへのプレゼントです。さようなら」




 今まで離れて控えていた部下にお二人を連れ出してもらう。レイノルドは項垂れて、ブリッ子さんは最後まで何か喚いてたけどそんなことはどうでもいいわ。わたくしもこれからどうしましょう。とりあえずお父様に報告……はもう部下がしに行ったから……婚約を白紙にしたのはいいけどもう19歳なのよ!行き遅れの女になってしまう!しっかりしなさいセレスティーナ!これからの事を考えるのはわたくしも同じよ。お父様に一生独身を貫くって言っちゃう?そんなこと言ったら卒倒しそう。それか公爵家を潰しそうだしやめておきましょう。



 こうしてわたくしの婚約者探しが始まるのであった。


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