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黄昏の女神たち  作者: AF
8/12

1338 天使が笑う午後




 思考が行き詰まったので、わたしは一遍(いっぺん)、考察を投げた。ああいうのは放置するに限る。


 翌日の五時間目。

 体育の終わりを前に、ボールを用具室に返しにいくと、先客が薄暗がりに立っていた。


「やあ」


 ひっ。


 声を聞くまで気づかなかったわたしは、思わず肩をふるわせる。


 なんつう、似合いの場所に立っているんだ。わざと? わざとなの? その暗がり、なじみすぎだから。もちっと名前にそった生きかたもアリだと思うよ?


 跳び箱と平均台に囲まれた、入り口の扉ぎわに、早明(さめ)(うら)はいる。手にしたボールをわたしの前のカゴへはなって、シュートが決まると、にこりと笑った。


 ああもう……出ていきたい。今すぐ。


 ちなみに予告された犯行は、いまだ遂げられないままである。


 あいた両手をぶらりとさげて、影はしずかに首をかしげた。


「最近、相思相愛だね」


 聞きなれない単語を頭の中で検索し、意味をのみこむにいたって、わたしは顔をしかめる。


「そんな気、ないけど」

「そう。残念」


 えーと。えーと! だまされるなわたし!


 まったく、実に、これだから嫌なのだ。大体、普通じゃない。こんなこと平気で言う男子、こいつ以外お目にかかったことがない。

 かゆい、かゆい。悪寒がする。わたしは足を速め、早めに用具室を出ようとした。


「何でこんなことしてるのか、まだわからない?」


 ぴた、と、足をとめた。

 用具室の敷居の、わずか手前。

 すぐ左を見れば、暗がりに黒い影がある。


「何言ってるの」


 思った以上に力なく応じた。

 早明浦は、わたしを一瞥したのち、横顔で用具室の奥をながめた。

 そのまま無言でいる。

 すこし、わたしはいらだった。


「予告した破壊は、どうしたの? まだ実現してないみたいだけど」


 心持ち、とげとげしくたずねた。早明浦はぼんやりした表情で、後ろの壁によりかかる。


「あれは。これ以上、きみが気づかない様子なら、実行もやむをえないよ」

「何……」

「本当に、残念だな。あの二人の良好な関係を破壊するのは、ぼくも、本意ではないんだ」


 何を――。


 あわや憤激(ふんげき)しそうになって、わたしはつと、それを聞きとめた。


 今、何と言った?

 ()()()()()()


 思考が――猛スピードで渦を巻く。こんがらがってころがった考察に、新しい角度から一すじ光がさす。


 そうだ、それが(ほど)き目だ。

 疑いなく、正しい糸口。


 こいつは。

 こいつの正体は。


 呆然としていた。早明浦は壁から身を起こし、用具室の戸口をくぐった。あかるい光に照らされた、体育館の中に立つ。

 振り向いて、言う。


「遅れるよ、萩山さん」


 そうして、それから満足そうにほほえむのを、わたしは夢心地で見ていた。


 こいつは。

 転入生は。

 早明浦は。


 ――


 手先にすぎない。




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