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SLAP ASSEMBLE

SLAP04

作者: 隼 メイ

 そろそろ結論を出さなくてはならない。

 そう思い続けて、もう何年経っただろうか。

 今の状況は私の望んだところではない、だがそれ以外を知らない私は何が出来るだろう・・・いや、私は何をしたいんだ?


 法要は盛大で、あの人は主催者として多くの客と談笑していた。

 それは、母の死を悼むというより、それを利用した商談の場のようで、私には不快だった。

 今年度、あの人の会社はまさに空前の利益を出していた。

 もともと機を見るのに長けた人だったが、ここ数年はさらに好機を得て、売り上げ、利益ともに倍々となっている・・・そこに群がる人々はこの会が何の為なのか忘れている。

 七回忌なので、悲しいという感情はとうに薄れてしまったが、それはあの人を許すということにはならない。


 宴は続いていたが、私は社長秘書という役も、殊勝な一人娘という役もを演じることに疲れてきたので、体調不良と言って抜け出してきた。

 ・・・どこに行くというのだ、父、いやあの人の言葉が追いかけて来るような気がした。


 母は常に、あの人のことを支え続けた、亡くなった今でも、こうやって支え続けている。

「私は、これでいいの、こういうご縁だったの」

 母は縁という言葉を好んで使った、父と母が出会えたのも縁、私が生まれたのも縁、会社の業績が伸びて家庭が疎かになってしまったのも縁・・・。

 一人の死の床でも、あの人のことを案じ続けていた。

「お父さんは忙しい人だから、許してあげて」

 最後に残した言葉が今でも私を縛り付ける、私が今の立場にいるのはその言葉のためだ。

 ・・・でも、私はまだ許せてないよ、ママ。


 あてもなく車を走らせていたら、いつの間にか海辺に来ていた。

 父、母と揃って海に来たことがあったのを不意に思い出した。

 あの時はまだ、母も元気で、父も家庭にいることが多かった。

 砂浜が広がっていて、その先は岩場だ。

 はしゃいでそこまで走った私は、膝を擦りむいて、父がオロオロしていた、母の方が悠然として、それぐらいのケガは大丈夫よ、と微笑んでいた。

 あれはいつだったか、まだ本当に幼いときだった。


 目の前を水着姿の二人乗りのオートバイが追い越して行った、続いて、何か大声を出しながら大型オートバイがそれを追って行った。


 不愉快、という感情も確かに合った、が、それ以上に何か、弾けるような衝動が身体に沸き起こって、私は彼らを追いかけた。

 思い切りアクセルを踏み込むとタイヤはスキール音を立てて、加速が背中をシートに押し付けた、こんなことは初めてだ。


 私は彼らの背中を遠くに見ながら、いったい何者なのかを考えた。

 色恋のもつれ?それにしては二対一というのは変だ、三角関係?女の方が二人一組というのは妙だ。

 その時、二人乗りの一方が、銃を持っているのが一瞬見えた、が、それはなぜか手から落ちて、左フェンダーを掠めて後方へ転がって行った、なんだこの人達は。

 さらに二人乗りのほうは砂浜に走りこんで行った、追う大型の方の次の行動は私の想像外だった、堤防に乗り上げたのだ、本当になんなんだこの人たちは!


 私は父の会社で最近突出して売り上げを伸ばしている製品についてのレポートを思い出した。

 UHMIEポリマー、超高質量衝撃可塑性エラストマーは、衝撃で物性が極端に変化する、開発されたときには用途が見込めない物質と言われた。

 それが、銃刀法改正で護身用の銃弾としての用途が見つかった。

 UHMIEは金属並みの硬度と質量を持っていたが、衝撃を受けることで軟化し、貫通力がほぼない非致死性弾頭となる。

 そして売上が急速に伸びたのは捜査特別報奨金制度の改正から、いわゆる賞金稼ぎが犯罪者を取り押さえる目的で使用している・・・。


 堤防を登ったり降りたりしている男は賞金稼ぎか、追われているのは犯罪者か。

 私は、さっきから続いているこの弾けるような感覚が、さらに激しくなったの感じた。


 しかし、このままでは男が二人を取り押さえるのは難しいだろう、今は見えているだろうが、堤防がどこまでも続くわけがない、頭のいいやり方とは思えない。

 私はナビの画面で地形を見た、砂浜と思われるものはもうすぐ終わって、その後は海岸線と道路が近づいてくる、そう、あの岩場だ。

 そこから先はさすがにバイクで行くのは無理だろう、つまりあの二人はやがて道路に出てくる。

 ならば先回りして進路を塞ぐ、左に相変わらず堤防を上下している男と、その隙間から見え隠れしている二人乗りを見ながら、私は砂浜が途切れた先に車をわざとスピンさせるように横向きに止めた。

 タイヤがスリップ音を立てて、車体は激しく横揺れした、身体もシートベルトに押さえつけられるように捩れたが、何も感じなかった。

 私は振り返るように彼らの方を見た、その時、二台のオートバイが空を飛ぶのが見えた。

 スローモーションのように感じたが、もちろん錯覚だろう、しかし、今まで私が一度も目にしたことがない光景は身体に走る知らない感覚を一層強くした、いったい何なのだこの感覚は!!


 前方を塞がれていたので、二人乗りはあっさりと停止した。

 そして、逃亡者と追跡者に奇妙な連帯感が起きていたことに私は気づいた、驚いたことに、その連帯感には私も含まれていた。

 追跡していた男が、連絡先の書かれたカードを渡しながら奇妙なことを言った。

「ご縁があったのかな・・・」

 縁、そう、母が良く口にしていた言葉だった。


 退屈な仕事の中で、唯一自ら望んでやったのはUHMIEの物性テスト、実射試験だった、中でも長距離射撃は、自分で言うのもなんだが、いくらか天賦があると思っていた。

 幼い頃、母から勧められて始めた、護身の為の武道もそれなりの段に達している。

 渡されたカードの裏面にスタッフ募集の小さな文字を見つけて、私は、これまでのことが全てここに繋がっている気がした…縁だ。


 明日は父に会いに行こう。

 お前に何が出来る、と父は言うだろう。

 でも私にはやることがある、その縁があったのだ。


 この感情はなんだ?久しぶり過ぎて忘れていた、これは、楽しい、だ。

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