悪役令嬢になる? もふもふ美少女妖怪ミイコの初めてのバイト
『急募! 私の引き立て役となる悪役令嬢を演じてみませんか?』
「なんじゃ? この貼り紙は?」
「バイト募集のようだな。人間が間違えて、この里にも貼ったんだろう。しかし珍しいな」
妾が住む妖狐の里は、最近あまり人が近寄らなくなっていたのじゃ。残念なことに、この付近の村人は賢くなってしまったらしい。騙して食べ物を簡単に奪えたあの頃に戻りたいのじゃ。
「楽しそうじゃな! 行ってみるのじゃ」
「まぁ、ミイコなら素のままで、悪役令嬢だろうな」
「意地悪をすればよいのじゃろ? 妾の得意分野じゃ」
「食い意地は……あ! 知らないよ〜」
相棒ギンガの注意も聞かず、妖狐ミイコはくるりと宙返りし、その場からスッと消えた。
彼女はバイト募集の面接を受けに行き、持ち前の意地悪パワーがさく裂。即採用となったのだった。
「ミイコさん、物語は主人公の人生ですから、やり直しができません。気をつけてくださいね」
「わかったのじゃ」
セリフを打ち合わせ、それを彼女は正確に記憶した。打ち合わせの間に、着替えも終えた。
「なんじゃ? 妙な着物じゃの」
「ミイコさんは、もっふもふな尻尾があるから、ドレスにしました。頭の狐耳はリボンで隠しましょう」
「むむ…」
「さぁ、出番ですよ。打ち合わせ通りに演じてくださいね」
「任せるのじゃ。意地悪は得意じゃ」
自信満々な彼女は、完璧な悪役令嬢を演じていた。
妖狐である彼女にとって、主人公を騙し、追い詰め、あざ笑うことは、あまりにも容易なバイトだった。
その後、彼女は休憩時間に入った。
「ミイコさん、完璧です! 後は、主人公に逆襲されてバイト終了です」
「逆襲などされたくないが、バイトだから仕方ないのじゃ」
「ささ、お弁当も食べ放題ですよ。次の出番までしばらくお待ちください」
「うむ」
出番の呼び出しがあり、クライマックスだ。ごにょごにょとセリフが進む。
(はぁ、ちょっと食べすぎたのじゃ)
いよいよ主人公が、ざまぁ砲をぶちかます最終段階だ。何気なく頭をかき、ミイコはハッとした。
主人公のセリフが止まり、その視線はミイコの頭に釘付けになっていた。
(リボンが…)
焦って落ちたリボンを拾おうとして、悲劇が起こった。
ビリッ!
「きゃあぁ〜っ!」
次の瞬間、ミイコは天を仰いだ。
(やらかしたのじゃ…)
「いや〜ん! もっふもふ〜」
主人公は、ざまぁを忘れて、ミイコのドレスの裂け目から飛びだした尻尾に抱きついていた。
ミイコの初バイトは、失敗に終わったのだった。




