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ド田舎出身の刀術師 ~剣の道を歩む者~  作者: 甘野 三景
第二章 新たなる居場所
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入学式の朝


「ふあぁあ……あー今日から学院かぁ……ねみぃ」


 現在の季節は春。

 魔術学院入学式の日、しかし、その開会には三時間ほど前の早朝。

 アリシアさんがギルドに顔を出したあの日から、ちょうど三か月ほど経った頃だ。

 まだひんやりとした空気が部屋を包む中、自宅のベッドの上でごろごろと朝のゆったりとしたひと時を味わっていた。


「はぁ、さすがにこのままごろごろしてたら寝そうだな……しゃーねぇ。 さすがに初日から遅刻したくないし、着替えたら朝飯作るか」


 俺は寝転がっていたお気に入りのふわふわの羽毛布団が敷かれたベッドに別れを告げ、ゆるゆると立ち上がる。

 木製のベッドは立ち上がるのと同時に、ギシッ、と軽く悲鳴を上げた。

 ベッドの脇に置かれた木製のクローゼットの中から、丁寧に皺の伸ばされた学院の制服を取り出し、着替え始める。

 まず着るのは、インナーである半袖の白いシャツ。 アウターには黒く丈の短いジャケットで、袖は七分と言ったところ。

 ジャケットの袖の先は少し折り返し、折り返された部分の袖は青く、白いラインが一本入っている。

 ズボンはジャケットと同じく黒い色をしており、横には青いラインが一本あって、ぴったりとしたそれは伸縮性があり動きやすくなっている。

 靴は特に指定されたものがなかったので、愛用の茶色のロング丈のレースアップブーツを履く。

 腰には刀を固定する為に特注で作ってもらった専用のベルトを通し、ベッドの脇に立てかけておいた刀を腰に付ける。

 着替え終わった俺は部屋の隅に置いてある、自分の身長よりも少し大きい鏡の前に立った。

 確認のため、鏡の前で体をひねったりしながら自分の姿を見る。


「ふむ……これで、いいんだよな? アリシアさんがギルドに来た日以降全然着てなかったし、違和感凄いな。やっぱりいつもの服装の方が落ち着くよなぁ」


 いつも仕事をする時などに着ていたのは、アルカに勧められて買った黒のロングコート。

 見た目はほとんどアルカの物と変わらず、違うのはエンブレムが入っているかどうかくらいのものだ。

 制服と同じくクローゼットにしまっていたコートを見て、俺は思う。

(思えばこれも買ってから長いよなぁ。 まぁ防御魔術がかかってて、鎧はいらないし軽いしで重宝してるからなぁ)

 しかし、俺が今着ている学生服も同じ。

 むしろ、この学生服の方が高位の魔術をかけられているくらいだ。

 学生が魔術の実技や実験等で怪我をしないようにとの配慮なのか、多少攻撃系統の魔術を打ち合ってもかすり傷一つ負わないほどだそうだ。

 ただ、上級生ともなるとさすがに変わってくるらしい。

 それはそうだろうなと思う。 上級生にもなれば魔術の技量も上がっているだろうからな。

 まぁ実際にこの服を着て魔術を受けたことはまだないので、何とも言えないのだが。

 ただ、正直なところ、過保護すぎやしないかと思う。


「ま、特に間違ってないだろ。 気になったら先生にでも聞きゃいいか。 ……てか、他の学院生もいるんだし、そっち見て確認するか」


 そんな風に一人でぶつぶつ言いながら二階にある寝室を出て、一階に降りるために階段へと向かう。

 寝室を出てすぐの所にある階段を降りると、居間が見えてくる。

 居間を通り抜け、まっすぐ進むとキッチンがあり、俺はいつもここで飯を作って食べている。

 最初はアルカの家で一緒に住んでいたんだが、さすがに俺も年頃の男。

 家の中ではだらしない恰好をしていた彼女に色々と男の子的な意味で困ってしまい、冒険者としての収入を貯めると、この家を購入し引っ越してきたのだ。

 すでに一人で暮らし始めて二年以上になるかといったところということもあり、料理はそこそこ手慣れたもの。

 誰が食べてもそこそこ美味いと言わせられる程度のものは最低限作ることが出来るはず。

 ま、食べさせる相手なんかいないんだが。 ……一人身は寂しいねぇ。

 とは言ってもだ、アルカの家に居候していた時は俺が飯を作ったりしていたんだけど。

 それもあって料理の技量が上がったっていうのが正しいかな。

 そんなこんなで、俺は朝食を作り始める。


 フライパンに油を注ぎ、熱された油は弾けた際に音を放つ。

 まずはオークの肉を塩漬けにして燻製にしたベーコンをフライパンに投入。

 ベーコンは熱された油と共に、香ばしい匂いを漂わせながら食欲をそそってくる。

 ベーコンの表面が少しカリッとするくらいに焼き、上から鶏の卵をポトリ。

 卵の黄身が半熟程度になるように火を通したら、火を止めてフライパンごと持ち上げる。

 持ち上げたフライパンを用意していた皿の方へとゆっくりと移動させ、焼いていたベーコンたちを滑らせるようにして皿に盛り付ける。


 次は、少し小さめの鍋に水を入れて火にかける。

 その中に豆腐を四角く切り入れ、味噌をゆっくりとかき混ぜながら溶かす。

 ある程度かき混ぜたら、味見をして確認。

 (うん、いい感じかな)

 少し薄味かもしれないが、俺はそれくらいが好みだ。

 そして味噌をしっかり溶かし終えると、火を止めて味噌汁を器へと移す。


 後は勇者が一番こだわった米。

 釜で炊いてあるそれを茶碗へとよそい、朝食の用意は終わる。

 これで勇者のいた時代に再現され、今に至るまで伝わってきた、桜ノ宮家の朝食は一応出来上がりだ。

 まぁベーコンと目玉焼きに関しては、本来なら魚だったりするのだが……あいにく切らしていた。

 俺は出来上がった品々を居間に置いてあるテーブルへ運んで、その場にある椅子へと座る。


「さてと、いただきますっ」


 手を合わせて、いつも通りの挨拶を言う。

 そのまま食事を黙々と食べ始める。


「あ、新聞忘れてたな。 取りに行くか」


 俺はふと、いつも朝読んでいる新聞が手元に無いことに気付き、そんなことをつぶやく。

 つぶやくや否や、茶碗の上に箸を置き立ち上がると、少し早足で玄関に設置してある郵便受けに向かって歩き出す。


「よしよし、新聞入ってるな。 毎朝早くからご苦労さんっ」


 すでに姿の見えない配達員へと労いの言葉を言い、俺は新聞を持って居間へと戻る。

 居間へと戻ると、さっそく取ってきた新聞紙をテーブルの上に開く。


「さて、今朝はどんな情報が載ってるのかねー。 ……何々?」


 そんな独り言と共に、俺は大きく見出しが書かれた記事を見つめる。

 (ん? これは……)

 俺の目に入ったのは、今日入学式が行われる魔術学院に関する記事だった。


「おい、マジか。 軽く聞いてはいたが……同学年にお姫様が入学かよ。 ……そういや、ウチの国の姫様は一つ年下だったな。 俺が一年遅れての入学って形だっていうのを失念してたわ」


 そう、我が王国の第三王位継承権を持つ姫様が、本日オルディア魔術学院へと入学するという旨が書かれた記事だ。

 彼女はあまり人前に顔を出すことをしないことで有名で、一度表に顔を出せば、王妃様譲りの整った美しくも愛らしい姿に目を奪われる人々が大勢いると聞く。

 ただホントかどうかは正直知らない。

 何故なら俺は未だに一度として、有名なそのご尊顔を拝んだことなどないからだ。 王都へ来てからの三年で一度もない。

 それほどに彼女の世間への露出は少ない。

 そんな彼女がなぜ、魔術学院へ入学するのだろうか。

 少し疑問には思ったが、当人に聞くこともできない現状では考えるだけ無駄。

 俺は彼女の入学の理由について考えるのを止め、他の記事をパラパラと見ながら食事を再開する。

 

 食事が終わると、キッチンへ食器類持っていき、洗って片付ける。

 洗い物が終われば、次はすでに日課になっている、魔力と剣技の修練だ。

 アルカと模擬戦を行った日からは、特に力を入れて毎日続けている。

 片付けの後、居間へと戻ってきた俺は置いてあるソファーへ腰かけた。


 まずは魔力を練ることから。

 ソファーの上でそのまま座禅を組み、目を閉じて精神を極限まで研ぎ澄ませる。

 そして、心臓ある辺りから血の流れる様を想像し、魔力を循環させていく。


 最初はゆっくり。

 徐々に魔力を練り込む速度を上げ、体から漏れ出ないように意識して体内を循環させるようにとどめる。

 一番最初に始めた頃は、これがものすごく難しかった。

 模擬戦をしていた時もそうだったが、体から球状に魔力が漏れて出て、光り輝く変な人になることが多かったからな。

 今でこそ、ほとんど体内から漏れ出ないように制御できているが。


 制御が出来たら、次は桜ノ宮一刀流の型の修練。

 刀を持って、いったん外にある庭へと出る。

 まずは得意な"壱ノ太刀 桜花"から。


「ふぅ。 ――壱ノ太刀 桜花」


 俺は軽く息を吐き、精神を集中させると、庭に設置してある人型をした的目がけて抜き放つ。

 硬化の魔術がかけられているため薄っすらとしか傷は付かなかったが、しっかりと六つの斬撃は重なり合うように傷痕を残していた。

 傷痕はまるで花のような形だ。

 綺麗に開いた花びらの一枚一枚を一本の斬撃として考えれば、だいたい合っている。


 今でこそ一番得意な剣技だが、最初は一番苦手だった。

 何せ、桜ノ宮一刀流の剣技の中で一番剣を振るう速度が速い技。

 同時に六つの斬撃を相手に放つとか、最初は意味が分からなかった。

 同時に六つってどうやるんだと親父に詰め寄ったのが懐かしい。

 俺が今までで一番振るうことが多かった技だ。

 何度も何度も反復練習を重ね、何度も何度も親父に怒鳴られ。

 何度やっても一回しか振るえず、ただの一閃にしかならなかった。

 それでもなおくじけずやり続けた結果、俺はついに習得した。


 次は弐ノ太刀 迅雷。

 迅雷は一番習得が早かった剣技だ。

 俺が得意とする雷属性の魔力を纏わせた刀を振るう技。

 迅雷で困ったのは足運びだろう。

 一瞬と言えるほどに短い時間で敵へと迫り、斬撃を放つというのが本当に難しかった。

 瞬間移動じみた移動速度を実現するため、親父に何度追いかけまわされたことか。

 後ろから楽し気に刀を振り回す親父と飛んでくる斬撃を泣きわめきながら走って避ける俺。

 ……今思うと酷い虐待受けてるみたいだな。

 ま、追いかけまわされたおかげもあってか、ちゃんと習得できたわけだが。


 後は漆ノ太刀 刺水散華。

 刺水散華は連続的に放つ刺突の剣技。

 桜花みたいに同時に放つ剣技じゃなかったからまだマシだったが、刺水散華も同じく習得には時間がかかった。

 連続して突きを放つっていうことは、とんでもなく腕が疲れるんだ。

 始めたばかりの頃なんか、筋肉痛で泣きわめくこと……もう何度かわからないくらい。

 基本的に泣きわめいてた幼少期。

 だけど、親父の太刀筋の綺麗さに憧れていたこともあって泣きながらもやってた。

 痛い痛いーなんて言ってな。

 ああ、ホントに懐かしい。

 もう何度も剣技の練習をやってるけど、未だに毎回同じことを考えてる。


「ふぅ……とりあえず、今朝はこれくらいにしとくかー。 さて、時間はー……」


 俺は鞘に刀を納め、庭に常に置いてある時計を見る。

 朝はあまり時間もないと思って早めに切り上げたはずだった。

 だが、俺の目の前にある時計は信じられない時間を示している。


「……え? え? おかしくない?」


 何もおかしくはない。 時計はただただ、正しく時間を刻むだけ。

 おかしいのは俺の感覚の方だろう。

 どうやら集中しすぎていて時間の感覚が狂っていたらしく、俺の目に映った時計が示す時刻は、入学式の始まる一時間前。

 そして入学式の会場に入らなければいけないのが、開会の四十分前。


 つまりだ。

 俺に残された時間は……約二十分程。


「や、やっばいッ!!! せっかく早く起きてたのに、これはやばいぞ!?」


 俺は口調を乱しながら叫ぶ。

 なぜここまで焦っているのか。 理由はとても単純だ。

 自宅から学院までは、普通に歩いて約三十分強。

 今からでは歩いていては、確実に間に合わない。


「クソッ! こうなりゃ全力で身体強化だ!」


 俺は魔力を纏うように循環させ、最大効率の身体強化を施す。

 忘れないようにと、あらかじめ玄関に置いておいた学院指定の鞄を手に持ち鍵を閉めると、風になったかのごとき速度で街中を爆走する。


「ま、間に合ってくれえぇえええええ!!!!」


 俺の魂の叫びは街へと響き、周囲の人々は何事かと目をむいてこちらを向いた。

 そんな人々の視線を浴びながら、俺は学院への道を駆け抜けるのであった。

 

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