象徴詩『夢見の匣』
鑑札付きの樹脂を握り
連れて
欠如から押し入れる
天袋の板を外し
黒い分離世界
電池の切れた懐中電灯
ぼんやりと現れ出でる
幼年の片隅
反響器から甘い声が
小さく波を立たせ
両の手の親指から
巨大の感覚が始まり
ブラウン運動を志向する
閉じた脳髄
虚空に漂い眼の裏に
青鈴の咲く その陰に
花精が出て入るのが
視えた
黄色い生きた瑪瑙の床
液漏れの染みが
一点に垂れ墜ち
溶かして
胎児の己れを覗ける穴が
細く長く
底まで開く
臍の緒を掴んで
離す
簀天井に
黴と夢見が張り付き
地衣類の褥は
幽かに光っている
片鋏の先で固い粘膜を
削った
柔らかさを想い
柔らかい
綴じない瞼
濡らした切れ端を
あてがい
貝の棲家とする
嵐の日だった
海岸で拾った樹脂
風は強く
潮騒が耳を埋ずめ
辺りには誰もいない