ばっかじゃないの!?
「もう…アンタばっかじゃないの!?」
私の恋人の文乃が叫んでいる。
彼女はいわゆる、ツンデレというやつで現在絶賛ツンな状態真っ最中だったりする。
「は…恥かしいんだから…そういうのは家でしなさいよ…。」
あ、照れてる。頬をぷくっと膨らませて、目線はたじろいで、あぁ、なんて可愛いんだろう。
「彩乃、すごい可愛い。」
何故だか無性に意地悪をしたくなって、耳元でそっと囁いてみる。
彼女の耳が真っ赤に染まり宙に
「ばか…。」
という言葉が浮かんで消えた。
彼女と出会ったのは…確か……。
夕暮れの教室で、私は人を待たせていた。
ガラガラガラガラ…
教室の扉を勢いよく開け放つ。
はぁ…はぁ…はぁ。
荒い呼吸の音、汗とシトラスの入り混じった香りが鼻をつく。
「20分も待ったんですけど?」
霧島 文乃は御立腹の様子。そうとう機嫌が悪いのか、こちらをチラリと睨みつけてくる。
「あはは…ごめん…。」
軽く受け流してみる。
じっ…。今度は鋭い視線が私を貫いた。
「ごめん…なさい。」
「まぁ、許してあげてもいいけどね、心が物凄く広いから。」
どうやら、文乃は許してくれるみたいだ。
よかった、ホッと胸を撫で下ろす。
「それで、話って何よ?」
安心した瞬間、単刀直入に本題を切り出される。
「あー、あのね、私、好きな人出来たんだよね。」
「ふーん。それで?」
言葉とは裏腹に文乃は焦っているようだった。
《好きな人って何よ…聞いてないんだけど…。》
ちっとも面白くない。霧島 文乃はそう思っていた。
「…その子さ……私の友達なんだよね。」
その気持ちをかき消すかのように、凛が口を開く。
「友達ねぇ…。」
《一体誰なのよ…じれったい!!》
霧島 文乃はあまり待てない性格である。焦らされるのは大嫌いだ。
「誰?一体だれがすきなの?」
凛の目を真っ直ぐと見ながら、尋ねる。
「…………ふ…みの。」
見つめられた凛が顔を紅潮させながら、そっと呟いた。
「はーーーーーーぁ!?」
直後、霧島 文乃の驚いた声。
「やっぱり、変かな?」
「変に決まってるじゃない!!!変すぎっ!可笑しすぎ…そう気持ち悪い!」
この言葉を口にしながら霧島 文乃は心の中では酷く後悔していた。
『私、ばか、ばかばかばか、いえ、どアホ!!!本当に言いたいのはそんなことじゃないわ、分かってるのに…心はこんなに…正直なのに。』
チクリ…。と胸が痛んだ。その痛みは止まることを知らない。
いや、知らないのではない、ずっと気づいていたのだこの痛みに。
彼女はずっと、気づかない振りをしていた。
そして、そんな自分に対して抱いていた気持ちを凛にぶつけてしまったのだ。
「そう…だよね。気持ち…悪いよね。」
「…ごめんね。」
一言言い残すと、瀬谷茅 凛は教室を一目散に出ていった。
「あ…あ……あ…」
涙がとめどなく溢れてくる。
終わったーーーーー。目の前が真っ暗闇になった。
けれど、終わらせてしまった方が楽になれると思った。
私達は
思い返せば、記憶の至る所には彼女が居て、
彼女の思い出で一杯になる。
これから先は違うのかと思うと、とても悲しい気持ちになった。
………駄目だ。こんなんじゃ駄目だ。
逃げてちゃ駄目だ。
霧島 文乃は一大決心をした。
素直にーーなろうと。
夕暮れのオレンジの日差しが今にも消えかかりそうな空模様。
刻一刻と闇へ近づいていく。
薄暗い更衣室の中で少女が一人埋まっていた。
はぁ…。
ため息が一つ漏れた。
「いつまでそこでうじうじしてんのよ?」
「え、あ、文乃?」
凛が素っ頓狂な声を上げる。
「私以外にだれがここに来るのよ…。」
「こさせたのは文乃じゃんか。」
凛がここに来てしまうような要因を作ったのは他でもない文乃である。
文乃は、返す言葉が見つからなかった。
「…ごめん。」
「謝らないでよ。惨めじゃんか。」
振られて、悲しくて、泣いて泣いて、泣いて。
まるで、使い古した雑巾のようにボロボロな状態だ。
「あー、どーしよ、やっぱ好きだわ。」
振られたら忘れられんのかなって淡い気持ちを抱いていたけれど、この痛みは消えたりなんてしてくれなかった。
涙が溢れて止まらない。
「…嘘よ。」
「え?」
「私、嘘をついたわ。」
文乃が嘘をついたと言っている。待って、嘘って何のこと?
「私、これから嘘をつく。貴女のことが本当はだいっきらい!!!ずーっと離れ離れになればいいのに。」
……彼女は何がいいたいんだろう?
イマイチ、理解ができなかった。
「もう、ちょっと!気づきなさいよ!」
きょとん?としている私をみて、文乃が声を荒げる。
「…ばか…なんだから!」
「…ばかじゃないし。」
バカ扱いされて、ちょっとイラッとした。
「バカも分かりやすいようにもう一度言うわね、今度は嘘はつかない。」
「え、うん…。」
「私も…凛のこと
だぁぁぁぁぁぁぁぁあいすき!!!!!」
それは私が今まで聴いた中で凛が叫ぶ最高の音量の声だった。
驚いた。凛ってこんな声も出せたんだ。
ていうか…今なんて?
もし記憶が可笑しくないのならば、こういったはず。
『私も凛のことだぁぁぁぁぁいすき。』
ハッと気づいてすぐさま自分の顔を真っ赤にしてしまった。
ああ、…気づいてしまった。
彼女の気持ちに。
素直になって、照れている文乃が可愛くて、可愛くて仕方がない。
あぁ、なんでもっと素直になれなかったんだろう…。
やっと気づくことができた。ずーっと幸せだったんだって。
そして、これからも、彼女と2人でい続けることができる限り、ずーっと、ずーっと幸せ。
2人でならどんな困難も乗り越えて行けるはず。
〜おわり〜