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臆病な魔王とダンジョンの秘密  作者: 時潮 デュー
第一章 - 扉とダンジョンと魔王様
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ステータスを書くかどうか迷いましたが、文章で説明するとわかりづらかったので書くことにしました。

おかしな点があればご指摘ください。

 突然の来訪者に驚き、そしてすぐに殺してしまった《枯れ水源の魔水伯》は、幾分か落ち着いてきたところで、ようやくその女性冒険者ことを考えることにした。



「とりあえず、どこの誰だか知っておこう」



 再びモニター画面をつけ、女性冒険者の死体を念入りに確認する。すると、無意識に発動した『観察眼』により、彼の脳内に女性冒険者の情報が入り込んできた。



──────────────────

Name : Angelika(アンネリカ) Sjosten(フェーステン)

Race : 人間  Job : 魔法剣士

Level : 49  Condition : 死亡


Skills :

『準魔法特性(氷)』『準魔法特性(火)』

『魔力強化』『突剣適性』

──────────────────



 魔法剣士とは魔法をそれなりに扱え、剣技スキルも覚えることのできる中間役職という珍しいジョブだ。

 このアンネリカという女性冒険者はどちらかというと魔法に偏った魔法剣士であったらしい。


 それにしても。死亡という文字を見て気が滅入る。本当に人を殺してしまったのか、そう思う反面、イマイチ実感がわかない。

 画面越しだからだろうか。ならば、目の前で殺人を犯す時には躊躇うのだろうか。


 この世界の人々と彼は、違う。というか、そもそもこの世界での彼は人間ですらない。

 だからと言って元は人間、人殺しに抵抗があるはずだと無意識に思っていた。日本人として人を殺すなどありえない、きっとその時になれば躊躇うはずだと。


 この200年あまりを魔王として過ごしたことで、もはや心まで人間をやめてしまったということなのか。



「あー、やめやめ。このままだとネガティブ思考のループに陥る。考えるのはまたその時になってからにしよう」



 しかし、この死体、どうするべきか。

 このまま放置しておけばそのうち魔力が溜まってアンデッド化する。それでも彼としてはなんら問題はないのだが、一度素性を知ってしまった人がゾンビになるというのはどうも気分が悪い。



「だからって死体を親族に返すのも無理だし」



 死体の処理に困って唸っていると、死体を写している画面に人影が写った。真っ黒なローブを着込み、先端に黒光りする石をあしらった古めかしい杖をついている。

 人影は死体を興味深そうに覗き込んでいる。


 この人影は魔人にして《枯れ水源の魔水伯》の部下の1人でもある死霊術師(ネクロマンサー)、名をケネトという。

 死霊術師と言うだけあって、新鮮な死体に興味があるのだろう。


 普通、死霊術師と言えば死体をゾンビして操るという印象を抱く。しかし、本人曰く、死霊となった魂を隷属化し、無理やり体に定着させて操るので、ゾンビになるわけではないという。

 本人の意識もちゃんと存在する、しかし隷属化された影響で術者には反抗できないのだとか。


 そんなことを思い出し、ゾンビにならないのならばケネトに任せてみようと思い立つ。

 そこで、未だに死体の観察に勤しんでいるケネトに、画面越しに声をかけた。



「ケネト、その死体は操れそう?」



 ケネトがその場で頷く。杖を握り締めているその様子は、心做しか嬉しそうにも見える。



「じゃあ、隷属化して戻ってきて」



 待っていましたとばかりにケネトは杖を掲げ、長ったらしい呪文を唱える。石が怪しげな光を放ち、死体周辺に1つの光る玉が浮かび上がる。

 初めて見たのだが、おそらくあの玉が魂なのだろう。杖の怪しい光がその玉と死体を繋げ、やがて玉は死体へと吸収された。



「立て」



 珍しくケネトが声を出して、命令を下すと死体が独りでに起き上がった。その顔は虚ろで、瞳に生気はない。

 ケネトはその様子を満足気に数秒眺めると、城の奥へと歩き出した。アンネリカの死体も、それを追う。


 あまりにも凝視していたからか、再び『観察眼』が発動し、アンネリカの詳細が浮かんできた。



──────────────────

Name : Angelika(アンネリカ) Sjosten(フェーステン)

Race : 死人  Job : 魔法剣士

Level : 49  Condition : 隷属


Skills :

『準魔法特性(氷)』『準魔法特性(火)』

『魔力強化』『突剣適性』

──────────────────



 能力に変化は見られない。これはなかなか強い駒を手に入れたのではないだろうか。

 手数が増えたことに少しだけ喜ぶものの、積極的に人を殺そうという思いは生まれなかった。やはり、それなりの人間性も残っているのかもしれない。


 人間らしい部分があることに安心していると、死体を映していた画面とは別の画面が開いた。

 映っているのはファーのついた黒いコートを羽織った青年である。青年の後ろには城の外の景色が見える。



「ねー、あの侵入者ってどーなったのさー」


「僕が殺した。死体はケネトに任せたから、アルビンも戻ってきて」


「ほいほい、今から帰りまーす」



 この青年も《枯れ水源の魔水伯》の部下であり魔人のアルビンである。

 魔人らしく魔法で戦うこともできるが、接近戦特化として剣術にも秀でている。また、本人が派手な戦闘を好むためか、大剣を気に入って使ってる。


 画面からアルビンが消えたと同時に、隣の部屋から何人かの気配がするようになった。部下が集まってきているのである。

 彼は開いている画面を全て消してから、隣の部屋へと移った。









 侵入者が現れてから十数分後、ダンジョンの奥に位置する魔王の私室、に隣接する大部屋には魔王とその部下5人(と死体1人)が集っていた。



「それが侵入者ですか」



 沈黙を破ったのは、一見すると優男に見える男性だ。名前はイェンス、《枯れ水源の魔水伯》の傍らに立つその姿は魔王の右腕といった風貌で、実際に部下5人の中で最も長く魔王の配下として生きている者だった。


 ケネトはその質問に頷くだけで、それを見たアルビンが代わりに口を開いた。



「そ。人間の冒険者。それなりに実力があって自信があったのか、一人で俺に挑んできた。自分の実力も正確に把握できない愚か者さ」



 自慢げに話すアルビンを一瞥し、イェンスは手を顎に添えて思考を巡らせる。



「これは新ダンジョンの出現と何か関係が…………?」



 イェンスの言葉に魔王が視線を伏せた。


 実はアンネリカが扉を開けたのと時間を同じにして、ダンジョンの外部からひとつの情報を得たのである。それが、新たなダンジョンの出現であった。


 そもそも、ダンジョンとは今から200年ほど前、25人の日本人がここ異世界に魔王としてやってきた時にできたものだ。そして80年前に24個のダンジョンが攻略され、またそこの主であった魔王も倒された。

 つまり、ダンジョンは今現在、ここにしか存在せず、魔王は《枯れ水源の魔水伯》しか現存しない。


 しかし、ここに来てダンジョンの数は26個になった。200年前と同じように25人の日本人が魔王となったと考えられるのである。


 しかしながら、侵入者アンネリカと新ダンジョン出現を繋げるのはいささか早計ではないだろうか。魔王がそう考えていると、考えた末に同じ意見にたどり着いたイェンスが首を振って己の意見を却下した。



「それにしてはタイミングが良すぎるか」


「だな。それに、新ダンジョンを発見したのはあくまで私らだけだろう。人間が発見するにはもう少しかかるんじゃないかい?」



 イェンスに意見するのは褐色肌を惜しげもなく晒す女性だ。布面積の少ない鎧を身にまとい、ハイヒールをはく彼女の体はグラマラスの一言に尽きる。出るとこが出ていながら、引き締まった体をしているのだ。

 また目つきも鋭く、性格もサバサバとしており、姉御肌な印象を与える。


 彼女はイェンスに次いで長く《枯れ水源の魔水伯》に付き従っているロヴィーサという魔人だ。



「ただ、人間が侵入してきたということは、新ダンジョンに関係なく、ここがとうとう見つかったと考えるべきだろうね」



 ロヴィーサの言葉に一番反応したのは魔王である。ついにこの時がきてしまったのか、と体に緊張が走る。



「何にしても情報不足なのは否めません。やはり、以前から申し上げています通り、そろそろ外へ積極的に働きかけるべきだと思います」



 イェンスが魔王へと向き直る。


 わかってはいるのだ、このまま引きこもっていたとしても日本へ帰ることなどできない。

 どころか、情報不足で人間の攻撃に対応できないことこそ危惧すべき事態である。


 アンネリカがやってきた、それは人間にこのダンジョンのことがバレた、あるいは怪しまれていると考えられる。どちらにしても、このまま何も対応せずにいれば危険になることが予想される。


 ただ、外を調べるとは言っても、まさかなんの対策もせずに魔人たちを出すわけにはいかない。見つかればそれ相応の対策を取られるに決まっているし、何より目立つ。

 だからと言って魔物を出しても退治されるだけである。



「ケネト、まずはその死人を使ってここがダンジョンとして人間に周知されているのかどうか調べてきて」


「了解」



 言われるがままケネトはダンジョンの外へと向かっていく。その背が見えなくなると、出入り口付近の段差に座って足をブラブラしていた子供がニヤリと笑った。



「いいの? あれ死体だよ。『鑑定』とかされたら怪しまれるんじゃない?」



 この子供も歴とした魔人である。子供の姿をしてはいるが、実際は産まれてから何十年と経っている。この中では一番の新参者で、あまり魔王に忠実とは言えない。



「ケネトは『偽装』を持ってる。相当高レベルの人が『鑑定』を使わないとバレないよ」


「ならいいけど」



 子供、リナはまだニヤニヤと笑っているが、これ以上追求する気はないようだ。なので、リナを無視して今度はイェンスに声をかける。



「これから1フロア増設するから、しばらくは指揮を任せる。まだ人間に見つかるのは早いから、扉の付近に近づいたやつは抹殺して。ここに人間を入れないで」


「かしこまりました。何人たりともこのダンジョンには近づけさせません」


「ケネトが帰ってきたら教えてね」



 イェンスの綺麗なお辞儀を横目に、魔王は私室へと戻っていった。


2015/05/02 : 誤字と話の矛盾を修正しました。

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