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臆病な魔王とダンジョンの秘密  作者: 時潮 デュー
第一章 - 扉とダンジョンと魔王様
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引き続き主人公回です。




 魔王は体内でロヴィーサだけがもがいているのを感じていた。突然の水没に驚いているようだが、瞳に正気を感じられない。どうやら『狂戦士(バーサーカー)化』を使用しているようだ。どうしたらそんな本気の戦いを始められるのだろうか。

 対してイェンスは水が現れたことから魔王だと悟ったようで大人しく流れに身を任せている。



『イェンス、ロヴィーサの狂戦士化はいつ終わる?』



 イェンスは頭が冷えているようなので、体内から出してやる。出てきたイェンスが濡れていないことに驚いたが、そういえばこの水は自分の体なのだから分断しない限り離れないのは当然だと思い返す。

 また当の本人はそんなことすら気にしていないようで、自分の姿を確認するより先に魔王の前で跪いた。



「まだ使用したばかりなのでもうしばらくかかるかと。この度は身勝手な行動に出てしまい、誠にもうしわ」


『謝罪は城で聞く。ロヴィーサと一緒に理由までちゃんと聞かせてもらうから。さぁ、みんなで帰るよ』


「御意」



 ただ魔王はイェンスのことを疑ってはいない。信頼できる者が欲しいと切実に願って(つく)ったおかげでイェンスの忠誠心は今までの魔物の中で随一である。

 しかし、ロヴィーサだけ疑うなどと不公平なことはできないので、表立ってイェンスをねぎらうことができないのが歯がゆいところだ。


 『水性体質』で小さく体を分断させて空中にばら蒔いておくと、すぐさま意図を理解したイェンスとケネトがそれらを足場に森の上を駆ける。

 分断されたとはいえ自身の一部、分断体を人と同じ固さにするぐらいわけない。ただ一点だけ言うなら、踏まれる感触が伝わってくるのが気持ち悪かった。


 森の上を通る際に、森がどうなっているか見下ろしてみた。すると縦横無尽に駆け回る狼のような魔物や、魔王に併走するように飛ぶ鳥型の魔物などが増えていた。

 そして森の途中にそれらの魔物たちと戯れるリナを発見した。



『リナ、一旦城へ戻ってきなさい』


「え!? このドラゴン、主なの!?」


『ドラゴンじゃなくて龍って言って欲しいな。って、そうじゃなくて。一緒に帰るよ』


「はーい。ヒッポカムポス、おいで〜」



 リナは魔王の体に、ヒッポカムポスという前が馬で後ろが魚の魔物を()び出すとその背に飛び乗った。体を泳がれるというのはなんとも言えない気分だが、踏まれるのとどっこいどっこいか、と魔王は諦めた。


 1階層に上がってきた時と変わらずに割けて階段を見せているグランドトレントに軽く礼を言って通っていく。階段を降れば、古城はすぐそこだ。


 ロヴィーサの狂戦士化はまだ解けていない。

 仕方がないのでロヴィーサ以外には城へ入ってもらい、魔王自身は窓から部屋の中を覗うことにした。



『イェンスの謝罪はロヴィーサが正気に戻ってから聞く。先にケネトの報告を聞こうか』


「了解」



 ケネトから聞いた話を要約すると、ダンジョンの噂は広まっているが確証はない上にここはまだ見つかってすらいない、というとこだ。

 一先ずは安心していいだろう。目先の危険が去ったのがものすごく嬉しかった。これで対策を立てる時間もできた。



『あの死人はどう? 使える?』


「及第点」



 元人間にそこまでの期待はできないか、と考える魔王自身も元人間だということは忘れていた。

 とりあえず死人については置いておくとして、まだロヴィーサが正気にならないので次の問題だ。森フロアの魔物問題である。



『1フロア増設はできたけど、魔物の数が圧倒的に足りない。そこで生み出すよりも手っ取り早い方法を取ろうと思う』


「生み出す以外の方法、ですか?」


『他のダンジョンから連れてこようと思う』



 魔王の言葉を聞き、ロヴィーサ以外の全魔人が驚愕に目を見開いた。そんな方法を思いつかなかったというのもあるが、それよりも魔王が外に対して積極的になったことにも驚いていた。

 魔王としては、引き篭もっていてはいざという時に対処できない、というイェンスの進言を受けて自分の身を守るために最善を尽くしているだけである。



『だから、人間に先手を打つべきだと思うんだ。無駄に事を構える必要はないけど、なるべく人間を出し抜きたい』


「ダンジョンが攻略される前に済ませたい、ということですね」



 やはりイェンスは魔王のことがよくわかっている。



『そういうこと。森フロアの戦力増強は早めに行いたいから、今度は3人に外へ出てもらおうと思ってる』


「選抜は済んでいるのでしょうか」


『一緒に情報収集もしてもらいたいから、得意そうなイェンス。あとアンデッド軍隊を作るのと、1回外に出て慣れたことだろうからケネト。この2人に行ってもらう』


「はいはーい、俺も外いきたいでーす」



 割り込んできたのはアルビンだ。魔王の言葉を遮ったのを攻めるイェンスの視線を華麗に無視している。そういえば外へ行く時は優先的に連れ出すと約束している。



「貴様、主の選抜に異を唱えるか」


「盛大に私闘を繰り広げてたやつに言われたくないなぁ」



 一触即発の雰囲気である。

 しかし、口約束とはいえ約束は約束。ここはアルビンを立てておくべきだろう。



『わかった。イェンスには悪いけど、ケネトとアルビンに出てもらおう。異論はない?』


『なら、私にも、行かせてもらえないかい……?』



 それは体内から聞こえてきた。すっかり忘れていた存在を魔王は見下ろす。

 水にゆらゆらと浮かぶ様は、少し前のように暴れているそれではない。瞳は確かに魔王へと向けられていた。



『効力がきれたか』


『手間をかけたよ……』



 受け答えがしっかりとしたものだとわかり、魔王は窓からロヴィーサを室内へ吐き出した。そして自分も『水性体質』で人の姿に戻る。

 人の体と共に服も作られる。つまり、この服も体の一部なので切られると痛かったりする。



「ロヴィーサが起きたようだから、さっきの話を聞かせてもらおうかな。外へ行く人を選ぶのはその後だ」



 いつも座る席に歩いていくと、律儀にイェンスが椅子を引いてくれた。まるでフェミニストな対応だが、残念ながら魔王は男である。水だけれども。

 拒むこともないのでそのまま着席すると、イェンスは魔王の前に跪く。ロヴィーサもイェンスにならって片膝をついた。



「イェンスから説明して」


「主の命を受けて扉の警護につこうとしたところ、無断で外へ出ようとする不届きものを見つけましたので事情を聞いたところ、答えられないと言われ、勝手ながら処分しようとした次第です」



 不届きもの、今回の場合はロヴィーサのことで間違いない。

 ロヴィーサには特に指示を出していなかったから好きにすればいいと思うのだが、イェンス的には何の命令もない時は待機するのが正解なのだろう。



「じゃあ、ロヴィーサは? イェンスはあぁ言ってるけど、何か反論はある?」


「反論はない。命令にはないことと知りながら、すべて私が自分の意思で行動した」


「その理由は?」



 ロヴィーサはすぐに答えなかった。顔を上げず、俯いて黙るその様は、何か隠し事があるのだと臭わせるのに十分だった。


 秘密の1つや2つ、魔王としては咎めるほどではない。上下関係があるとはいえ、魔王は関係を盾に魔人たちを雁字搦めに束縛する気はないのだ。

 しかし、イェンスとしてはそれが許せないのだろう。魔王が発言を許していないため声こそ出していないが、責めるような視線がロヴィーサを貫く。


 視線に耐えかねたからかどうかはわからない。しかし魔王が、言いたくないなら、と切り出そうとしたところで被せるように答えた。



「外にいる駒に会おうとしたからだ」


「駒……?」



 そんな話は聞いたことがない、初耳だ。

 第一、ロヴィーサは何らかを従えるようなスキルは持ち合わせていない。それは創造主である魔王がよく知っている。

 だとするとおそらく、ロヴィーサは口頭だけでその駒とやらを説き伏せたのだろう。もしくは、知性のない駒であるならば力で従わせたのかもしれない。



「扉がある森を根城にしている盗賊たちだ。もちろん、魔人とはバレていない」



 それを聞いて一先ず問題はなさそうだと判断した。魔王にとって一番重要なのは身の安全であり、魔王に繋がる情報が漏れていないのならそれは自由行動の範囲内である。



「お咎め無しにするけど、今度からは僕に一言ほしいな。不安になるから」


「承知した。次からは気をつけよう」



 イェンスはまだ不満そうだが、ここはこれでおさめてもらおう。事を荒げて問題を大きくしたいのだ。



「それで、今回の調査で外に行きたいのはやっぱりその盗賊たちが理由?」


「あぁ。前に会ってからだいぶたったからね」



 街に行ってないとはいえ、外の事情を知っているロヴィーサが調査に行くのは悪いことじゃない。盗賊なんていう駒もあるのだから、情報収集を期待もできそうだ。



「よし、いいよ。その代わり、その駒を使ってちゃんと調査してきてね」


「わかったよ」



 森フロアも作った。魔王自身はそうそう攻撃は効かない。魔人も2人いる。これが万全とは言わないが、少なくとも調査に出た魔人たちが帰還するための時間稼ぎをするには十分だ。


2015/05/02 : 誤字脱字?を修正しました。

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