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臆病な魔王とダンジョンの秘密  作者: 時潮 デュー
第一章 - 扉とダンジョンと魔王様
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主人公の出番が少ないですね。

ちょっと予定を変えて出番を増やします。


ということで、主人公回です。




 魔王《枯れ水源の魔水伯》は暇を持て余していた。


 普段から暇である魔王だか、今日は相手をしてくれる魔人たちが散り散りになっているので、輪を掛けて暇だった。ちなみに、バスタードソードを手入れしていたアルビンは鍛錬してくる、と言って古城の外へ行ってしまった。バスタードソードで剣道よろしく、素振りでもするのだろう。

 剣道、その言葉から連想させて魔王は懐かしい日本を思い浮かべる。こういう暇なとき、日本であれば様々な暇つぶしがあった。


 例えば、ゲーム。魔王が好きだったのはオーソドックスにRPGだ。王道で主人公が勇者になって悪役を倒すもの、主人公が身を呈して世界を守るなんて展開も好きだ。

 他にも小説やインターネット、外に行けばスポーツなんかもできる。スポーツならこの世界でもできるかと考え、相手がいないかと落胆する。



「はぁ、暇だなぁ」



 普段なら暇だ暇だと言いつつもやることはある。DP(ダンジョンポイント)を使ってチマチマとダンジョンを強化したり。あるいはMP(マジックポイント)を使って魔物を地道に作るったりしている。

 しかし、どちらも今はギリギリ、流石に予備を食いつぶすわけにもいかない。


 まあ、小さい魔物なら一体ぐらい作る余裕はあるかもしれない。

 そこまで考えて、魔王はリナにじゃれついていたカーバンクルを思い出した。あれが一匹でもいれば自分もじゃれて遊べるのに。



「カーバンクルなんて魔物まだ作れないし」



 八方塞がりだ。

 しかし、発想は悪くない。カーバンクルでなくても愛玩用に小型の魔物を一匹呼び出してみればいいのだ。



「そうだ、この際だから魔法開発とかもしてみようかな」



 どうせ日本に帰るための手段を探そうにも、このダンジョンの強化が間に合っていない。そして今はそれもできないとあっては時間が余っているのだ、少し娯楽関係に時間を使ってもバチは当たるまい。

 そうと決まれば即時行動、『観察眼』でまずは今の自分のスキルを見直すことにした。



──────────────────


Name : 枯れ水源の魔水伯

Race : 魔王  Job : ダンジョンマスター

Level : 42


Skills :

『スキル上限突破』『水性体質』

『迷宮創造』『魔物創造』『観察眼』

『魔法特性(水)』『魔法特性(土)』

『魔法特性(闇)』『隠蔽・隠密体質』


──────────────────



 少し前に侵入してきたアンネリカという人間の冒険者、彼女と比較してみると改めて規格外だということがわかる。レベルと比べて持っているスキルの量が異常なのだ。

 本来、レベルを10上げる度にスキルを1つ習得できる。つまり、レベル42の魔王は普通なら4つしかスキルを持てないはずなのである。


 これは魔王の固有スキル、『スキル上限突破』の恩恵だ。これは持てるスキルを2倍にできるスキルで、魔王が強いと言われる所以でもある。

 このスキルによって習得しているスキルが8つ(『スキル上限突破』はスキル効果に含まれていない)になっているのだ。


 『迷宮創造』と『魔物創造』はダンジョンマスターだけが取得できる職業特有スキルで、効力は以前説明した通りだ。ちなみに『観察眼』は魔王の固有スキルである。


 そして、ここがこの世界の面白いところであるのだが、『魔法特性(水)』というスキルを持っていると水属性魔法が()()使えるようになるのである。

 つまり、有名どころだと『ウォーターカッター』だの『アクアボム』だのといった魔法1つ1つを習得する必要はないのである。もっとも、本人のMPが足りる範囲でしか扱えないのだが。


 『隠蔽・隠密体質』については、人間の前に姿を表さずに100年を過ごしたあたりで勝手に身についた。隠れよう、隠したい、そう思って行動するとこのスキルが自動的に発動して見つかりにくくするらしい。


 そして、『水性体質』。これは彼を魔王《枯れ水源の魔水伯》たらしめるユニークスキルである。今は人の形を保っている魔王だが、本来の彼は()()()()()なのである。

 故に、普通の攻撃では魔王を殺すのは不可能であるのだが、その話はまた追々。




 これらのスキルを利用し、新たな魔法もしくは愛玩用魔物を作り出すのが今回の目的だ。理想はカーバンクルである。


 まず、生物を作り出すためには『魔物創造』が必要不可欠だ。しかし、『魔物創造』の画面に映る一覧にカーバンクルの文字はない。他の要素を織り交ぜるしかないだろう。

 他に使えそうなのはなんだろうか。『水性体質』を使えば自分を分断できるのだが、その分断された体が生物であるとするならば、『水性体質』も有効かもしれない。

 しかし、分断させた体はあくまで彼自身だ。別の人格は『魔物創造』で作るとするならば、あとは分断した体と魔物をくっつけることさえできればなんとかなりそうだ。



「つまり、『水性体質』で体を生成、『魔物創造』で魔物としての人格を作り、それらを統合する、と。統合かぁ……」



 しばらく考え、ひとつの結論に至る。

 『水性体質』で分断したとはいえ、それはあくまで水だ。ならば『魔法特性(水)』あたりで操れるのではないか。


 ものは試しと言う、ならば試してみようじゃないかと魔王は立ち上がった。



『主体より300gを分断。水性体質』



 詠唱と共に足のあたりからどろりとスライムのように丸まった水分が出てくる。今はまだ自分の意識下にあるソレに命令し、形を変える。

 カーバンクルに擬態したのは欲望の現れだ。


 そしてその水分に触れながら、次の詠唱を行う。



『身体創造を放棄、自我形成を開始。魔物創造』



 最後に間をあけず、水分に魔力を送っていく。

 『魔法特性(水)』により水分に魔力が含まれていく。そして『魔物創造』の発動と同時に一際大量の魔力を放つ。


 魔力の放出により体が後方へ飛ばされる。咄嗟に『水性体質』で体の水分量を多めにすると、壁にぶつかって体が四散した。気分はさながらスライムである。

 散ってしまった体を1箇所に集めると、再び人の姿へ戻った。体が分断された際、どこに意識があるんだとか疑問に思ってはいけない。魔王自身もよくわかっていないからだ。


 そして足元へ視線を下ろし、魔王は感激した。思わず嬉しすぎて小躍りしそうな魔王を見上げるのは、青いカーバンクルである。



「なにこれめっちゃ可愛い!」



 なぜ水だった体がフサフサのモフモフになっているのかはわからない。そもそも魔王が水分で出来ているのに人になれることも謎なので、この結果は当たり前なのかもしれない。


 魔王が手を広げると、待ってましたとばかりにカーバンクルが飛び乗ってきた。器用に爪で魔王の体を登ると、首にまとわりつく。

 頬に擦り寄ってくるカーバンクルの毛並みの良さと言ったら、地球で言うところのビロードのようである。



「まさか成功するとは! いやぁ、頑張ってみるもんだ!」



 しかし、改めて振り返ると体が虚脱感にまみれている。これは魔力を使いすぎだ時の感覚だ。

 それも当然と言える。なぜなら、魔物一体を作り出すのに必要なのは『魔物創造』のみ。だというのに、今回一匹のカーバンクルを作るだけで『魔物創造』『水性体質』『魔法特性(水)』という三種類のスキルと魔法を使っているのだ。



「今後はこの方法はとれないな」



 カーバンクルは魔王の独り言に首をかしげている。

 すると、頭の中にポーンと電子音のようなものが響いた。



【『水性体質』が成長しました】



 アナウンスだ。魔王がこの世界に来てから幾度となく聞くことになったもので、スキルの選択時や今みたいな成長した時などにその平淡な声を聞いてきた。

 しかし、面倒なのは詳細は教えてくれないことである。今回を例に挙げれば、『水性体質』が成長したことで何ができるようになったのかは自ら調べなければならないのだ。


 それにしても、本当に何ができたのか予想もつかない。

 『水性体質』の成長はこれで3回目である。実は成長する前、魔王はさながらスライムというよりスライムであった。水分のみの体で人の姿になることすらできなかった。

 そして1回目の成長で晴れて人になれた。しかし、残念ながら他の姿になることはできなかった。

 2回目の成長では分断ができるようになった。分断した体が主体の半分以下である場合に限って、人以外の形にすることもできる。



「そろそろ別の姿になれるようになったのかな?」


「ンキュ〜」



 肩の獣を撫で回しながら呟くと、カーバンクルはもっと撫でろと手に頭を押し付けてくる。ご要望通り全身を撫でまくってやる。


 とりあえず試してみるかと思い立った時だった、部屋に誰かが入ってきた。肩のカーバンクルが猫のように毛を逆立てて威嚇する。

 入ってきたのは肉が腐り、所々骨を露出させているオークだった。いわゆるアンデッドで、それを操れる者といえばケネトだけだ。



「ケネトおかえり。どうかした?」


「イェンス、ロヴィーサ、扉の前、戦闘」



 操られているアンデッドオークはたどたどしい言葉で伝えてきた。



「イェンスと、ロヴィーサ? イェンスはいいとしてなんでロヴィーサが……。誰と戦ってるの?」


「イェンス、ロヴィーサ」


「いや、だから誰と……」



 もしかして、イェンスとロヴィーサが戦っていると言っているのか。



「どういう状況?」


「不明」



 ケネトにはわからないらしい。


 カーバンクルが魔王の肩から飛び降りた。部屋の端まで走っていき、隅っこで尻尾を隠して体を小さくするように丸まっている。魔王を見ているが、どうやら怯えているようだった。

 そんなカーバンクルの様子を見て魔王は自分が怒っているのだと気がついた。



「カーバンクル、そこでいい子にして待ってて」



 静かに怒りを蓄える魔王は、部屋にある窓枠に足をかけた。窓の外には草がまばらに生えるねずみ色の大地が広がり、元々は扉のあった場所には上へ繋がる階段がかろうじて見える。

 その後は無意識だった。人の姿では到底階段まで届くはずもないのに、魔王は窓から飛び出した。



『水性体質』



 自由落下にとらわれる直前、囁いた。

 まず体が水へ変わり、そしてその体積が莫大に増えていく。膨れ上がる水はやがて階段へ向けて一筋の線になり、先端に顔が現れる。

 それは水の龍だった。


 龍の姿になったまま階段へ侵入し、階段を水浸しにしながら駆け昇る。階段を隠していたグランドトレントは空気を読んだのか、自らの体を割いて出口を作っていた。

 トレントから出てそのまま森の上空を進んで扉へ向かう。扉の前では聞いていた通り、イェンスとロヴィーサがぶつかりあっているのが見えた。


 もはや弁解を聞く必要もない。

 魔王はその巨体を扉の前に投げ出し、2人を体へ取り込んだ。


2015/05/02 : 誤字を修正しました。

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