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臆病な魔王とダンジョンの秘密  作者: 時潮 デュー
序章 - それは200年前のこと
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ダンジョンものを思いついたので

書いてみたいと思います。

どうぞ、よろしくお願いします。

 それは突然、出現した。


 人里離れた魔物の住まう森の中、冒険者という魔物を倒すことを生業とするものたちがひとつの扉を発見した。

 扉からは異様な雰囲気が漂ってきていたが、ひとりでに開くようなこともなく、それほど危険なものではないと判断した冒険者は静かに扉を開く。


 扉の先は別の空間に繋がっていた。森の中にある扉の先は草原だったのである。そしてその草原の先には、石造りの遺跡がその存在感をアピールしていた。

 冒険者はその遺跡を見て直感する。


 あれは魔物の巣窟だ、と。


 発見した冒険者の褒めるべきところは、その扉のことを確実に伝えるために、遺跡に突撃せずにギルドに戻ったことだろう。

 ギルドはこの情報を元に、大勢の冒険者を集め、扉、そして遺跡を調査することを決定する。






 遺跡はダンジョンであった。

 そうとわかれば簡単だ。今までもダンジョンと呼ばれる場所はいくつかあった。もちろんこの扉のような異様なものは初めてだが、ダンジョン自体は大したこともない。

 ギルドも早々にこのダンジョンを新出ダンジョンとして登録し、それ以上の大規模調査を中止した。


 しかし、その判断は間違いだった。

 もっと考えるべきだったのだ。なぜ突然、遺跡に繋がる扉が出現したのか。遺跡は他のダンジョンと比べておかしなところはないのか。

 疑っていれば、後の対応も相応のものができたであろうに。






 実はこの扉、1箇所だけに現れたわけではない。


 海や砂漠などにも現れたそれらの扉は、それぞれが全く別の場所へと繋がっていた。

 しかし、どれもダンジョンがあることだけは変わらず、そして扉付近のどのギルドも新出ダンジョンとして登録するのみ。


 ダンジョンはゆっくりと確実に、冒険者たちによって攻略されていった。






 必然か偶然か。最初に最奥にたどり着いたのは、一番最初に発見された遺跡のダンジョンだった。

 そこそこ腕に自信を持っていた冒険者たちは、自分たちがダンジョン攻略の一番乗りだと、意気揚々と最奥へ続く扉を開いた。


 最奥への扉は、突如出現したあの扉と酷似していた。そして、その先には




 魔王が鎮座していたのである。



 魔王は「ようこそ、冒険者諸君。私のダンジョンはお気に召しましたかな?」と言うが早いか、冒険者たちのリーダーの首を飛ばした。

 驚きに思考が追いつかず、唖然とする冒険者たちに魔王は不敵な笑みを見せる。


「かなりレベルが上がったな。これぐらいなら俺が摘み取るのにちょうどいい!」


 抵抗らしい抵抗もできないまま、その冒険者パーティーは魔王の前に崩れさった。

 魔王は冒険者たちの死体を一瞥し、呟く。


「もう20レベル程度じゃ、大した経験値にはならないか。はぁ、一般的なゲームよりも難易度高いよなぁ」


 何やら空中を長め、()()を読むような仕草をしながら、魔王は部屋の奥へと引っ込んでいった。






 ダンジョンの奥には魔王がいる。

 その情報が広まる前に、ほとんどのダンジョンは最奥に冒険者を迎え入れた。撃沈していく冒険者たちを数え、ギルドはようやくその事態を理解する。


 しかし、この時点ですでに事態は最悪になりつつあった。魔王たちはまるで()()()()()()()()()、淡々と冒険者たちを殺していく。

 冒険者たちは、ギルドは、()()()()()()()は、知らない。彼らダンジョンに鎮座する魔王たちが神より遣わされし、異世界の()()だということを。




 しかし、絶望的な状況に立たされた人間たちの猛反撃──命を脅かされるという恐怖から繰り出される知恵と力は、平和ボケしている魔王を越えた。

 戦争などテレビの向こう側。この世界より圧倒的に人を傷つけることを規制された世界で生きていた彼らに、それなりの緊張感を持てという方がおかしいのかもしれない。


 とにかく、魔王たちは倒された。発見されたダンジョンの全てが冒険者たちや国の軍隊に一斉に攻撃され、為すすべもなく魔王はダンジョンと共に滅びた。

 彼らが平和なあの世界に帰れたのかはわからない。そもそも、そんな事実を知りさえもしないこの世界の人々がわかるはずもない。


 そして、帰れたのかどうかを知らないものがもう一人。

 圧倒的な平和を甘受していたにも関わらず、好奇心より恐怖心が打ち勝ち、この見知らぬ世界を何よりも恐れた魔王がいた。






 魔王たちには記憶がない。日本という国で生まれ、育ち、平凡な家庭を持っていたと記憶してる彼らは、ただし、自分のことだけは覚えていなかった。自分の部屋も、周囲の人間の顔も、あまつさえ自分の名前さえ覚えていないのだ。

 そんな状態で異世界から連れてこられた彼らだったが、そこでパニックになってしまっては連れてきたものの思惑から外れてしまう。故に、魔王たちはこの状態を()()()()()()性格の持ち主から選ばれていた。


 そうして選ばれた魔王たちは自分のことを曖昧なまま、ダンジョンを建造し、冒険者たちをおびき寄せ、各々の目的(世界を征服するだとか、ひたすらレベル上げするだとかである)に向かって進み始めたのだ。




 問題なのは、その魔王のうち一人が積極的な他の魔王と比べてものすごく消極的だったことである。


 その者に名前はない。いや、忘れてしまったというのが正しい。彼は、このような自分の状況を、危険だと感じていた。

 臆病だと言われればそうかもしれない。しかし、それが結果的にダンジョンと共に消滅した魔王たちを見送ることになったのである。そして彼は魔王を倒すことのできる人間たちにさらに恐怖心を抱き、さらに臆病になった。






 倒されたくない、生きたまま日本へ帰りたい。


 そのために、この世界のこと、自分のこと、自分をここへ連れてきたもののこと、それらを正確に知る必要がある。


 知るために、生きねばならない。

 生きるために強くならねばならない。


 この世界の人間は怖い。

 人間からの攻撃を防がなければ。






 その穴はとある森の中にひっそりと存在していた。

 深い縦穴である。なんのために存在するかもわからないその大穴は、まだ人間たちに見つかってすらいない。魔物の出る森の奥深くへ入らなくてはたどり着けないからだ。


 穴の奥にはダンジョンへの扉がある。

 しかし、穴はおおよそ人を招き入れるようには作られておらず、扉は誰にも発見されずに徐々に錆び付いて誰も開けたことがないのが一目でわかる。


 ダンジョンの奥には臆病な魔王がいる。

 臆病な魔王は決して無茶をしない。万全の状態を整えている間に、他の魔王はまた一人、また一人と倒され、今では彼一人。


 臆病な魔王は機会を伺った。

 その日を静かに待ち、魔王は少しずつ着実に力をためて過ごす。そうして、200年の時が過ぎたときだ。

 再び現れた無数の扉に人間たちは恐怖した。また魔王が現れたのだと、力を付ける前に倒さねばならないと焦り出す。


 そして、人間たちが魔王を倒さんとダンジョン攻略を開始したその瞬間に、()の魔王は200年越しに行動を始めた…………──。




2015/04/10 : 一部、改変しました。内容に大きな変更はありません。

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