エピローグ
この日、驚く話があった。それは彩乃さんの旦那さんの孝明さんがきらめくあまたの向かいにある悠久乃森という施設で自分の命を止めたと言うんだ。因みに悠久乃森と言うところは簡単に言うと自殺が出来る公共施設。おかしいと思うかも知れないけどそういうものを国が作ったんだから仕方がない。
ヒデの誕生日パーティー中盤、余興的にSalty DOGの活動記録映像を流し始めた頃に帰ってきた彩乃さんが映像に映る孝明さんを見て突如泣き崩れたんだ。そして俺達に孝明さんの事を話してくれた。孝明さんは81歳の高齢で末期ガンだったと言うんだけれど、それでも誰もが驚いた。それは孝明さんがかつてそんな施設は要らないと猛反対して戦っていたからだ。
俺達はすぐパーティーを中断して孝明さんとのお別れに皆で悠久乃森へ向かった。しかしその時にはヒメちゃんはいなかった。パーティー始まって間もなく桂介の奴が現れヒメちゃんを連れ出したんだ。劇場の支配人へ挨拶に行くとか言って。全くアイツは本番前の通しにもいなかったくせに何様だよ?
しかし奴には本当に参った。完敗だ。
孝明さんとのお別れ後、解散となると俺とヒデは家が同じ方向だから二人でビール飲みながらダラダラと歩いていたんだけど、その途中で俺達はとんでもないものを見てしまった。
なんと俺達の30メートルくらい先にあったラブホから桂介とヒメちゃんが出てきたんだ。さすがの俺も慌てた。お陰で昼間から飲んでたのに酔いが吹き飛んだよ。
「ちょちょ、ちょっと、ヒデ!」
「何だよ?」と眠たい目付きで応えたヒデを俺は急いで街路樹へと引っ張り込みヒデに教えた。
「あれあれ」
「あ」
ヒデは固まっていた、呆然と。
遠目からでもよく目立つヒメちゃんだ。ヒメちゃんは例の白いワンピースのままで髪は高い位置で一つに束ねたポニーテールスタイルだった。ちらちらと見える細くて白い首筋は色気がありすぎて正直この時の俺の股間は疼いて仕方なかった。
「桂介の奴、挨拶に行くとか言ってハッタリかましてヒメちゃんと二人でラブホにしけこんでたんかよ……しかも今日この日にさぁ……」
俺の吐いた言葉にヒデは「だな……」と力なく応えた。ヒデには相当なダメージだった思う。
(しかしアイツ、マジでヒメちゃんに純白ワンピース着せてプレイしてやがったのかよ?!)
あの桂介の野郎が本当にヒメちゃんをものにしていたことが分かり俺の闘争心に火が点いた。
(桂介の野郎……!)
桂介には誰もが知っている1号がいる。劇団とは全く関係ない人間らしい。奴にしては意外なほど地味な女だった覚えがある。全体的に古風な印象を受ける内助の功を発揮しそうな大人しい感じの。
そんな女がいる野郎と寝るヒメちゃんはそう言う女と言う事になる。
つまりは奴と寝るような女なら俺にも十分チャンスはあると言う事だ。奴が出来て俺に出来ないわけがない。
俺は奴のように止まり木の女を拵え添えておくような卑怯な男じゃない。
ヒデ、お前の生真面目さは時に大きな後悔を引き寄せる事になるぜ。本気なら尚更寝技を使ってでも勝負しなきゃ。
ヒデ、お前はどうする?
悪いが俺は自分の欲望に従うぜ。
<完>