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第6部

 ティファニーへとバトンタッチしたヒメちゃんが表現会場の扉からこそっと入ってきたのを見逃すことなく見つけた俺はすぐ彼女へと歩み寄り声をかけた。

「ヒメちゃん、お疲れ。名演技だったよ」

「本当ですか? お調子者の誠さんに言われてもちょっと信じられないですけど」

 苦笑いが出る返しをくれたヒメちゃん。この時俺のすぐ横に座っていた大道具をやっている60歳半ばの大吉さんが陽気な笑顔と自慢のしゃがれ声で入ってきた。

「なんだ誠ちゃん、ヒメちゃんにまでお調子者なんて言われてんのか?」

「そーなんですよー。大吉さん、ヒメちゃんに何とか言ってくださいよ」

「ヒメちゃんの言ってることは間違いないからな」

「ちょっと大吉さん! 勘弁してくださいよ!」

「ヒメちゃん、誠ちゃんには近づかない方がいい」

「はい、知ってます!」

「おいっ!」

 そしてヒメちゃんは口に両手を当て肩を揺らし笑いながら意表を突くことを言ってきた。

「だって、誠さん。首元にキスマークついてますよ」

「え!? ウソ!?」

 俺の油断だった。ヒメちゃんの言葉に慌ててスマートフォンですぐ首元を確認した俺。俺の慌て具合にまた口を両手で覆い隠しクスクスと面白可笑しそうに笑うヒメちゃんは言った。

「ウソですよ」

 やはり彼女はかなりの手練れだ。ただのイイ女じゃないことを知らしめされて俺は手込めにしてやろうかと一瞬思った。


       *


 ヒデの一人芝居でも観ていたような状態もこの後のティファニーの登場で様変わりし、ここから一気にクライマックスへと向かう。

 なんとティファニーはヒデの目の前で顔の皮膚を剥ぎ取り目玉を落とすと言う。すごい凝った内容だ。


 モニターに映っているのはヒデとティファニーそれぞれの背面。

「なんかここから見てるとティファニーとヒデがキスしてるみたいだな」

 という俺の呟きに周りの皆「見える見える」の反応。

「ドキドキしちゃうな」と茂。

「おいおい、あれマジでキスしとるんとちゃうか?!」

 大吉さんは声を上げた。その言葉に興味津々となった皆はモニターを凝視。気を利かしてPAルームにいた田中さんは二人が映るカメラを望遠にしてより大きく画面に映し出した。それを見てまほろばの女子はヒソヒソと話をしている。


(舌入れてるかな? ってヒデがキスするわけないか。俺ならどさくさに紛れてスタンプはするけど)


 そして二人は少し離れたかと思うと今度はヒデが一歩一歩後退りしスピーカーがビビり音を出すほどの声で叫んだ。

『うわぁぁぁぁぁァアッ!』

 どうやらティファニーがゾンビへと変身したようだ。ヒデの大声が店内へとみごとに広がり観ていた皆は立ち上がって拍手と笑いで大盛り上がり。

「よし、東条くんがもうじき来るからみんなで迎えるぞ!」

 と田中さんがPAブースから顔を出して言うと皆一斉に立ち上がりヒデを迎え入れる準備に取りかかった。


 準備が整うと誕生日ケーキを手にしたヒメちゃんを中心にして俺達Salty DOGが並び、その後ろにはまほろば一座スタッフが整列した。それから1分ほどで目の前の扉が強烈な勢いで開いた。

 現れたのがヒデだと確認することなく皆一斉にクラッカーを鳴らし「誕生日おめでとう!」と叫んだ。

 面食らったヒデは目をしばたたかせ少し息を切らせながら「何なんだ? これは……?」と口をぽっかり開けたまま突っ立っていた。

 そしてヒデの後ろからはトモちんの声が。

「ヒデ! 何ボケっとしてんだよ!」

「トモユキ? トモユキって、トモちん?」

「そう。さすがにこの顔じゃ分からないか。まあいいや、とにかく後ろ向けよ。ヒデのために用意したんだから」

 まだ状況がよく掴めていない様な視点定まらない表情で再びこっちを見たヒデ。

「さん、ハイ」と俺が合図してみんなでHappy birthdayの歌を。


 ヒデは最初呆然としていたが途中ようやく状況が掴めたようで少し俯き照れくさそうにしていた。そして歌が終わり皆の拍手と祝いの言葉にぺこぺこと頭をさげていたヒデに俺は「早く火ぃ消せよぉー!」と催促してやるとヒデはヒメちゃんが持つケーキの蝋燭の炎を一気に吹き消した。そして再びたくさんの握手が沸き起こった。

 そこへ元気良く現れたパジャマ姿のティファニーがヒデに絡む。

「ヒデさん! まんまと引っかかって、おめでとぉーっ!」

「うるせーっ」

「まさかヒデがこんなのに引っかかるとは思わなかったけどね」

 と今度は一郎がやってきてヒデにも缶ビールを渡した。

そして「さーぷらぁーいず!」とヒデの前に突然可愛い声を出してひょいと現れた小柄の女ゾンビがいた。ヒデはさすがにもう慣れたようでニコニコとして応えた。

「その声、さくらちゃんだな? さーぷらぁーいず! じゃねぇーよっ! 今さら全然驚かねぇーし」

「ですよねー。今さらって言うか、今は。ですよねー」

「何だて、さくちゃん。その言い方は?」

「ヒデさん、さっき中じゃあ物凄かったですよねー」

 と、さくらちゃんがおどけて言うとヒデは軽く照れた表情を見せた後、随分と喉が渇いてたんだろうな、喉を鳴らして旨そうに缶ビールを飲み俺達に向かって言った。

「で、何だて。皆でこんな事わざわざやって。今さらこんな事にはしゃいで喜ぶ歳じゃないぜ俺は」

 ティファニーが缶ビール片手に応えた。

「今週末から『まほろば一座バラエティー企画第一弾! 気の早い肝試し大会 in きらめくあまたぁっ!』ってやるの、ヒデさん知らなかった?」

「それは知らんかった……って、それって、つまり俺はその肝試し企画の実験体だったってことで?」

「ご明察!」

 とティファニーが応えると俺達みんなは笑って盛大な拍手。ヒデの奴は大げさに周囲の皆へとお辞儀を何度も繰り替えした後、大袈裟な地団駄を踏んで叫んだ。

「って、全然嬉しかねぇーよっ! ふざけるなっ!」

 素直じゃないヒデに仕方ないなと俺はヒデの肩へ手を回し無理矢理椅子へと座らせ言った。 

「まあまあヒデ、オマエの誕生日のタイミングが悪かったと思え。それになヒデ。冷静に考えてみろ? 実験のためだったとしてもだ、こうやってわざわざヒデの為にまほろばのフルスタッフが揃って誕生日を祝ってくれたってことは幸せなことだぜ」

「ま、まぁなぁー……」

 ヒデは頭を掻き照れ笑いを見せた。


 こんな風に皆が集まっての誕生日祝いなんてやられた本人は気恥ずかしいと思うけど何だかこんな温かい空気は久しぶりな気がする。

 ヒデ、オマエは本当に幸せ者だよ。皆に愛されてさ。ちょっと憧れてみたりもするよ。

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