禁術使いの少年
初めまして、トリドリトトリといいます。ファンタジー小説ばかり書いていくと思いますが是非よろしくお願いいたします。
アヴォン大陸の海沿いに位置するラフィンティ共和国。
人口約1000万の小さな国。名産物も名所も特にはない。
だがこの国をアヴォン大陸で知らない者はいない。
なぜなら一つだけ誰もが知っている歴史があったからだ。
ラフィンティ共和国は昔、王国という名前で絶対王政を掲げていた。
しかしその王政もわずか三代にして幕を下ろした。
幕を下ろした三代目、絶対王政に終幕を迎えさせた人物こそ
アヴォン大陸全体を全面戦争へ巻き込みラフィンティ共和国を大陸中に知らしめた人間。
シリカ・ラフィンティ。
全面戦争では今まで起こした戦争の何倍もの国民、兵士たちが死んでいった。
同時に天罰と神が言うように不作が続き飢え死にする者が増え病が流行り
最後には戦争が続けれなくなるほど人間の人口は急激に減少したのだ。
アヴォン大陸ではシリカの巻き起こした悲劇をこう呼んでいる。
―――――――『ハマルティア』と。
ラフィンティ共和国の中心部に『ガーネット・ハイスリー』はいた。中心部には巨大な広場があり、さまざまな人種たちが市を開き売り買いを楽しんでいる。ガーネットはその幸せのあふれる光景を微笑ましいかのように見つめたあとゆっくりと足を前に踏み出し歩き出す。明るめの茶色レンガを敷き詰めて作った道を歩くことをガーネットは心から楽しいと感じれた。あまり外を出歩かないガーネットにとってそれは新鮮で面白みがあったのだと思える。
「ガーネット!」
少し低めの声がする方を振り向くと、そこには金髪碧眼のガーネットより8歳ほど年上の青年が子供を担ぎながら手を振っていた。ガーネットは青年を見ると珍しいモノを見る目で相手を見るがすぐに白くて細い手を上にあげて振り返す。
「リオル!久しぶり!」
手を下げリオルと呼ばれた青年へ駆けると子供が一人はいるほどの距離を保ち止まる。そして嬉しそうに口元を緩ませながらリオルにガーネットは尋ねた。
「旅から帰ってきたの?何か月ぶりだろう…半年ぶりくらいかな?うれしいや!
リオル風来坊だから、勝手に帰ってきて勝手にいなくなっちゃうし…」
文句ありげな顔を浮かべつつもすぐに笑顔を浮かべリオルへ笑いかけた。ガーネットの言葉通り『リオル・プレスト』は風来坊として国内では有名だ。ふらっと姿を消してはさまざまな国を見て回り、子供たちに冒険話を聞かせる。ただ話して聞かせるだけでなく、氷の魔導士である彼は氷で話している内容部分を氷で表現し劇のように見せてくれる。そこがまた子供たちには好評だ。リオルは相手が本心から怒っていないことを即座に理解すると同じように笑った。
「半年ぶりくらいだな、ガーネットの顏が最初に見れて俺もうれしいよ。
って…俺のことよりお前が外にいるなんて珍しいな
メリッサは?あいつ外に出ると怒るだろ?」
子供と指で戯れながらリオルはガーネットの赤い瞳を見つめた。ガーネットは少し間をあけながら返答をする。
「今日は外出許可をくれたんだよ!部屋に閉じこもるのは体に悪いしね!」
「嘘だなぁ…?」
「うぐっ…」
ガーネットの必死に考え付いた『嘘』はリオルによって一刀両断されてしまう。リオルは溜息を漏らすと、担いでいた子供をおろし反対方向を指さす。子供は無邪気な笑顔をリオルに向けてうなずくと指さす方へ走って行った。その光景をリオルは目で見届けるとガーネットの頭を掴む。
「お前、嘘つくと目が泳ぐ癖やめたほうがいいし、間が空きすぎ!
なに、また内緒で外出したのか?メリッサ怒るぞ?」
「だって…メリッサ外に出してくれないし、僕は自分の能力を制御できるって
言ってるのに聞いてくれないし…」
拗ねたように頬を膨らませるガーネットを見てリオルは苦笑する。ガーネットには生まれつき異様な力が備わっていた。リオルのように綺麗な氷魔法でもない。傷を治す治癒でもない別の力。この国、大陸ではその異様な力を『禁術』と名称した。そしてそれを扱うものを『禁術使い』という。
禁術は人体、精神に害を及ぼす魔法を指し、生まれつき備わっている者意外は使用を禁止されている。だがどうやっても禁術使いは性質上生まれてしまう。危険な力のため他国では禁術使いたちは居場所を追われたり、ひどい場合は牢獄送りになる。だがこの国では禁術使いたちを受け入れた。条件を付けて。
「ここに住まわせてもらう条件は、力の制御をして一般市民に危害を加えないと。
一般市民に僕は危害を加えるつもりなんてないし、制御だってできるんだよ?」
「メリッサも心配なのさ。もし間違えて能力を使ってしまって
お前が辛い罪を背負ってしまったらどうしようって。
まあ、メリッサは過保護なところもあるけどな」
リオルの説得はあまり意味のあるものではなかったらしく、ガーネットは絶対帰らないと言い切るばかりだ。リオルもいい加減めんどくさくなったのか、ガーネットの頬をつねりだす。
「だー!めんどくさい!メリッサがまた心配して俺のところにきちゃうだろ!」
その言葉からコンマ一秒たった時。
「リオルさぁぁん!」
リオルとは打って変わり高い声が市場中に響き渡った。それと同じくらいにガーネットの青ざめる顔がすぐに理解できる。
「噂をすれば、だな?ガーネット」
「うわぁあぁ…もうなんでこのタイミング…」
絶望のせいか笑顔がなくなったガーネットが見る先には薄い水色の髪をもった少女が息を切らせながらガーネットたちの前で立ち止まり、息を整え始める。整え終わったのか勢いよく顔をあげると瞬時にリオルがつねっていない方のガーネットの頬にビンタを入れた。
「バカ兄!なぜ勝手にいつもどこかへ行くんです!リオルさん好きすぎてきもいです!」
「痛!キモイはないと思うけど?!
実の兄に対して…!それに誤解招くからやめて!」
叩かれた部分を抑え、ガーネットは少女に怒りだす。少女こそ先ほどまで会話で名前が出ていた『メリッサ』。メリッサはガーネットの血のつながった妹で、治癒魔法の使い手。メリッサは怒られたことが気に食わないのか口をへの字にすると勢いよく言葉を発する。
「兄さんは禁術使いなんですよ!もっと配慮してくださ…あっ…」
禁術使い、その言葉に周りの人々がまるで化け物を見るかのような目で視線をガーネットに送った。メリッサの声はよく通るせいか遠くにいる人々も視線をガーネットたちに向けた。
「…メリッサ…本当にやってくれるよね…」
「ご、ごめんなさい…」
ガーネットは後悔しているメリッサを睨みつけるが、仕方ないと割り切ったように溜息をつく。あれほど心地よかった道は今では居心地が悪い。悪いどころか吐き気に襲われそうにガーネットはなっていた。その光景を見ていたリオルが、そこで動き出す。
突然指を鳴らしたかと思うと、鳴らすリズムと同じタイミングで氷の蝶が何十匹という数飛び回り始めた。周りの人々は蝶を見ると歓声を上げ、ガーネットたちから視線を外す。
「ガーネット、メリッサ。今のうちに家に帰れ。今日は外に出ない方がいい」
リオルはそう短めに言うと、二人を隠すかのように彼と二人の間に氷のカーテンを作る。大きく手を鳴らし全員の視線をリオル自身に集中させた。
「今の蝶はどうだったでしょうか!今からショーをいたしますので是非ご覧ください!
お子さんやお姉さん方、お兄さん方もきっと喜んでくださることを保証いたします!」
巨大な歓声が響き冷気が漂う中、ガーネットとメリッサは無言のまま小走りで自分たちの家へ向かった。
どうだったでしょうか?ハマルティアは『罪』という意味を持っています。どんな罪を起こした戦争だったのか、ガーネットたちがどうやって関わっていくのか是非長いお付き合いをいただけるとうれしいです。