青い目をした(☆)
あ〜おい目をしたお人形は〜♪ という歌、ご存知だろうか。赤い靴がどうのこうのとか言う歌に通じるもののある、ちょっとレトロな童謡だ。
瞳に青や緑の色素はない。虹彩の色はメラニンの量によって決まる。茶色はメラニンが多く、青色は少ない。ヒトも動物もそれは同じだ。
青い目の動物を見た時、大抵のヒトは何かしらの感銘を受けるようだ。猫の碧眼は珍しくはないが、犬や馬だと驚くヒトは多い。ダップルカラーのダックスフントの青い目は仲々可愛いが、ハスキーや狼犬などの薄いブルーの目は綺麗であると同時に何やら酷薄そうな印象を与える。何を考えているのか分かり辛く、前触れもなく突然噛まれそうで怖い、などと言うヒトをよく聞く。
上の写真はジェイちゃんの親友の愛犬、モーガンちゃんだ。モーガンに初めて出会った時、彼女の白に近い碧眼はジェイちゃんに強い印象を与えた。
「狼みたいな青い目で、とにかくすっごくカッコイイんだ! キリリとしてさ、もしかしたらエンジュよりも賢いかも」
しかしモーガンはおっとりさんだった。お座りと伏せがようやく出来る程度で、性格にも特に際立つものは無く、おまけに無駄吠えが多い。私が見たところ、彼女の碧眼はキリリとしていると言うよりも、焦点が合っていない。残念な感じだ。天は二物を与えずって奴ですな。
あろうことか、海辺で見つけたアザラシの腐乱死体に全身全霊でスリスリゴロゴロしたモーガンちゃんにジェイちゃんの幻想は一瞬にして打ち砕かれた。エンジュなど、つい数分前まで仲良く遊んでいた癖に、凄まじい異臭を放つモーガンが近づくとグルルル…と牙を剥いている。
「……ヒトも犬も、青い目の動物が馬鹿だと馬鹿さ加減が際立つよね」
なんたる言い草。勝手に入れ込んでおいて失礼な奴だ。エンジュを撫でつつニヤニヤ笑って自分の弟を見るジェイちゃんに、弟が怒りのタックルをかます。茶髪緑眼のジェイちゃんの弟は金髪碧眼だ。
ジェイちゃんは青い目の馬が嫌いだ。動物に対してのみ絶対的な博愛精神を発揮する私は彼を差別主義者と呼び軽蔑する。(注:ナメクジは地球外生命体なのでカウントしない。)
そんなジェイちゃんが乗馬クラブに遊びに来た時のこと。ある一頭の馬を見て、ジェイちゃんが息を飲んだ。
「何なんだ、この馬は……」
それは完全純白の超高級馬。微かなウェーブが掛かった尻尾は地面に届き、更に飼い主の趣味でタテガミも1メートル近くある。そして勿論ガラスのような碧眼。
「あぁ、凄いでしょ? ここまで白い馬って滅多にいないんだよね。タテガミの量も長さも半端無いからグルーミングが大変そうだよね。いつも綺麗にしてるけど」
私の言葉など全く聞いていないジェイちゃんが一言。
「こんな気味の悪い馬、生まれて初めて見た……」
「は? 目が青いから?」
「目もそうだけど、このダラダラと長いタテガミとか尻尾とか、色素の薄さとか、なんかもう全体的に幽霊みたいで気持ち悪い……」
人の気配にハッとして振り返ると、馬のオーナーが背後に立っていた。慌ててジェイちゃんの脛を蹴る私。
「なに? 痛いな〜、イズミってすぐ足が出るよね。言いたいことがあるなら、ヒトらしく言語でコミュニケートしようよ」 顔をしかめつつも黙らないジェイちゃん。
「それにしてもこの馬、ホント気味悪いね。今晩、悪夢に出てきそう……」
アホのジェイちゃんのせいで、白馬のオーナーは私が挨拶しても挨拶を返してくれなくなった。
碧眼の馬を嫌うのはジェイちゃんが馬慣れしていないからかと思ったら、プロのトレーナーにも差別主義者がいた。
アーチー君という名の青い目のペイント種(白と黒・茶色などのまだら模様の馬)に乗っていた時のこと。
「ちょっとその馬、もっと向こうに繋いでくれないかしら? 青い目ってなに考えているのか分からなくて嫌なのよね。いつ蹴られるか分からないから」
そう言う彼女の目は鮮やかなブルー。
鏡に映る自分自身と目が合う度に彼女は一体何を想うのか、非常に興味深い。
2014年5月17日。
アメリカクラッシク三冠の第二戦、プリークネスステークスの生放送を観ながらコレを書いています。カリフォルニア産の三歳馬、カリフォルニア・クロームを応援中。血統が全てと言われるサラブレッド界で、カリフォルニア・クロームのお母さんは僅か$8000ドル(80万円くらい)で買われた馬なのだ。それって私が普段乗っている馬より安い。ハッキリ言って激安。そしてクロームは家族経営の小さな農場に生まれ、家族に可愛がられて育った。
クロームの最大のライバル、ソーシャル・インクルージョン、かなり入れ込んでいる。クロームは落ち着いている。
ゲート入りに問題なし。
クローム、ナイススタートを切る。
ヴィクター・エスピノーザ騎手、最高のポジションを確保。
そして……
完全勝利!!!!! \(≧∇≦)/
三週間後のベルモントステークス、馬もヒトも誰も怪我をしないよう、綺麗に走って欲しいものです。
追記
一応断っておくが、私は競馬とその周囲の金と欲に塗れたドロドロは無論嫌いだ。しかし走っている馬の姿にはやはり目を奪われるし、才能のある騎手は素直に凄いと思う。そしてトレーナーの中には万死に値する最悪な人種もいるが、馬を心から大切にする人達がいるのも確かなのだ。




