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Body Condition Score(☆)

挿絵(By みてみん)


 朝食のヨーグルトに入れる果物を切るついでに、リンゴの蜜の入った部分を小さく切り分けた。


「チュチュちゃ〜ん。おやつですよ〜♡」

 水槽に声をかけると、焦茶と薄茶のブリンドルカラーの砂ネズミが懸命に背伸びする。甘いリンゴを両手で持ってシャリシャリと食べるチュチュの喉元を指先でくすぐると、チュチュがリンゴを口に咥えたまま首を伸ばして目を細める。チュチュはアゴの下を撫でられるのが好きだ。うっとりと目を細め、短い首をありったけ伸ばし、そして時々バランスを崩してコロリと転がる。しかしリンゴは離さない。愛い奴め。


 私がチュチュを撫でるのを見た友達が、私とジェイちゃんが目を離した隙にナデナデにトライすることがある。そして0.1秒後には指先に開いた穴に悲鳴を上げる。


 チュチュを撫でるのにはコツがいるのだ。まずお気に入りのおやつを与え、チュチュの口を一杯にする。口に隙間があれば噛まれる確率は100%に限りなく近いが、口が塞がっていれば噛まれない。そして夢中でモグモグし始めたところを狙ってまず耳の後ろ、それからアゴの下、そして喉の順番でくすぐってやる。背中とかお腹を触ろうものなら絶対に噛まれる。


 説明しながら実演してみせるのだが、一度噛まれたヒトで二度目にトライしようというツワモノは今のところいない。ジェイちゃんは一度もトライしない。奴はデカイ図体の割りに臆病なのだ。時々自主的にリンゴの皮やカボチャの種をあげているみたいだが、それも手渡しではなく必ず上の方から落としている。チュチュもよく知っていて、ジェイちゃんの手が水槽に近付くと垂直跳びする。砂ネズミのジャンプ力はかなり凄い。ジェイちゃんがビクリとした拍子にカボチャの種を床に撒き散らして私に叱られる。


「あっ!またそんなの飲んで、BCS7.5!」

 シリアルを食べつつ朝っぱらからコーラを飲んでいるジェイちゃんに私が白い目を向けると、ジェイちゃんが慌ててチュチュを指差した。

「チュチュだって太ってる!奴もBCS7.5くらいある!」ジェイちゃん、自分を齧歯類と比べてどうする。


 BCSとは Body Condition Score といって、動物の太り具合を見た目で判断するのに使う。ちなみにBCS4-4.5くらいがスレンダーな健康体でBCS5が普通。BCS1は餓死寸前、9なら風船状態パンパンMaxだ。普通のヒトからみたらBCS4はかなり細くみえるはずだが、それが多くの獣医さん達が内心推奨する理想体型。飼主さん達が「うちの子全然普通よ〜」と言うなら大体BCS6くらいある。まぁ年寄りのラブラドールなら6でも全然オッケー、ってかビックリするくらい。でもまだ若い小型犬がウエスト無しでアバラを指先で数えることができなかったら要注意です。


 話を戻すと、ジェイちゃん只今BCS7.5。指でぐりぐりやってもアバラなど数えられないどころか存在せず、犬風に四つん這いになって上から見ればウエストゼロで胸より腹が横にはみ出ている。ちなみに人間風に二足歩行していても腹は前向き出ている。触診してもパンパンの腹の中、内臓がどこにあるのかさっぱりわからん。


「デブっ」と言うと、「でも昨日のラケットボールは僕が勝った」と言い返してきた。そうなのだ、ジェイちゃんは体脂肪率の割りに運動神経がいいのだ。というか、実はかなり抜群なのだ。スキー、水泳、ランニング、テニス、ラケットボール、バスケ、野球、フットボールから卓球まで、実に器用にこなす。特にラケットボールは、元選手で州大会などに出ていたヒトと互角に戦う。悔しいが私では歯が立たない。


「チュチュだってデブなのに、イズミはチュチュのことは可愛がる。差別反対!」

「チュチュはいいの。可愛いもん」

「え?僕もクマのプー◯ん風で可愛いでしょ?」

「どこが?!ディ◯ニーに訴えられるよ!」


 しかし、とつくづくとリンゴをシャリシャリ食べるチュチュを見た。

 確かにコイツ、最近ちょっと太り気味だな。もっと運動させてあげたいが、床に放すと結構素早くて捕まえるのが大変だし、エンジュに野ネズミと間違えて狩られたりしたら一大事だ。エンジュは家に時々出没するネズミを狩るのが得意なのだ。


 一時期近所にネズミが大発生して、その中の一匹が夜中にジェイちゃんの部屋を駆け回ったことがある。ネズミくらいで騒ぐな、と言って私は無視したのだが、エンジュが嬉々として駆けつけ、あっという間にネズミを台所の隅に追い詰めジェイちゃんを救助した。


 そして私は知っている。エンジュは決して私の庇護下にあるモノには手を出さないが、しかししばしばチュチュのケージを舌舐めずりしながら見つめていることを。


「まぁチュチュもちょっと運動必要だね。滑車でも買うか」

「……イズミが個人的に自分の財布から買うんだよね?」

「まさか、家族出費とみなして共同の財布から買います」

「僕は奴を家族の一員と認めたことはない」

「チュチュが家族じゃなかったら、この家で公認のデブはジェイちゃんだけになるよ?」

「……」

 私も吹雪もエンジュもBCS4なのだ。

「で、でもラケットボールの試合では…」

「ウルサイ。デブに発言権はない」

「差別反対」

「あのねっ、デブは迷惑なの!手術の時に脂ベトベトで手が滑るから、何回もグローブ替えなくっちゃダメで、時間とお金の無駄なの!おまけに脂肪からじわじわと無駄に出血して、いつの間にか手術野に染み込んできたりして、ホント超迷惑なの!」


 黙り込んだジェイちゃんに運転させて、チュチュダイエット作戦へ向けて滑車を買いにペットショップに行った。

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