第8話 ガーネットの古代遺跡 2
リクトの攻撃が、左目を潰した。
部位破壊というシステムは、例えば目や腕と言った部位に個別に設定されている見えないHPが失われることで成立する。破壊された部位は自然治癒せず、ヒールをかけるか死亡して生き返らなければ再生しない。破壊部位をヒールする際は通常HPは回復しないので、戦闘中に破壊された部位を使うにはかなりのリスクが伴う。
とはいえ、1発2発攻撃を与えただけでは、部位の破壊など出来ない。その部位をよほど集中的に攻撃するか、クリティカル――腕や足なら切り落とし、目なら目を潰さなければ部位は破壊できない。それは当然、容易なことではない。
まして、相手は動かぬ的ではないのだ。ゴブリンミニスターはソラの攻撃をものともせず、よろけたカイに追撃しようとしていた。それを、ソラの見たことのない銃を使って、一撃で正確に目を撃ち抜いて見せた。
リクトの攻撃はそれでは止まらず、2発ほど打ち続けて、止まった。1発は右目を潰し、1発は顔に当たった。現在、ゴブリンミニスターは両目を失い、暗闇状態になっている。
「リクト……?」
「接近しても押し負けるからな。敵を呼んじまうのは問題だろうが、弓じゃ速度に劣る」
「そうじゃなくて」
「説明は後でする。あれは俺たちがやるから、集まってきた雑魚を頼む」
「う……わ、わかった」
気を抜けばパーティ全滅してもおかしくない状況で、リクトの装備を問い質している暇は確かにない。直に姿を現した雑魚ゴブリンに向かって、ソラは詠唱を開始した。
「カイ、援護するから攻撃は頼む!」
「任せろ!」
ろくに状況を掴んでいないはずのカイは、戸惑う様子もなく言った。
クリティカルでも出さない限り、遠距離物理系は火力に劣る。急所である首や頭を狙い撃ちするが、相手のHPはかなり高く決定打にはなり得ない。防御力があればダメージ覚悟で突撃することも出来るが、先程一気にレッドラインまで持って行かれたことを考えると、そんなことはとても出来ない。
倒せないようなら、隙を見て離脱する必要がある。だが、そんな隙が出来るのかどうか――
こんなところで全滅するわけにはいかないのに。
ゴブリンミニスターは咆哮し、潰れた目にヒールをかける。ヒールは術者の目を治した。部位回復のため、HPには影響はないが、敵がヒール持ちだと分かり、3人はげんなりした。ヒールを使うか使わないかで、めんどくささはかなり違う。
ゴブリンミニスターが杖をリクトに向けた。リクトが咄嗟に横へ跳んだその直後、魔法がそこを通過する。かすっただけなのに、HPは三分の一近く削られている。
魔法を撃った直後のディレイタイムに、カイが攻め立てる。リクトも銃を撃ったが、大量の攻撃を仕掛けて、ようやくゴブリンミニスターのHPを三分の一削れた。
集まってきていた雑魚ゴブリンは、すでにソラによって一掃されている。この辺りで逃亡するなりして街に戻る隙を得ないと、本当に死んでしまう。同じことをカイも思ったのか、カイはソラに向かって叫んだ。
「ソラ! 先に離脱しろ!」
「え……待ってよ、2人を置いていけない!」
「魔法じゃ役に立たない。先に逃げててくれ、すぐに追いつくから!」
死亡フラグ満載の台詞である。だが、仮に死んでもペナルティが発生するだけで、本当に死ぬわけではない、はずだ。
「……っ!」
ソラが葛藤する。その間にもゴブリンミニスターの攻撃は激しくなっていく。
「……絶対死なないでよ!」
ソラはそう叫んで、転移結晶を使った。光に包まれて、姿が消える。
「んじゃ、俺たちも離脱しなきゃな、リクト」
「その通りだが、今のままじゃ厳しいかもな、カイ」
ゴブリンミニスターの攻撃対象は今のところカイだ。しかしダメージ量はともかく攻撃量で見ればリクトの方が多い。そもそも、最後に1人残すのでは最後の1人が逃げ切れないのは分かり切っている。
ともかくゴブリンミニスターと距離を取ることを考えて、2人は攻撃を始めた。
消耗と回復を繰り返しながら、ようやく攻防は一段落つき、リクト・カイとゴブリンミニスターの間に10メートルほどの距離が空いた。魔法使いであるゴブリンミニスターにこの程度の距離は問題ないが、やっと訪れたチャンスである。相手を倒そうと言うのではなく、ただ逃げられればいいだけ。
「リクト!」
「分かってる!」
転移結晶を手に握る。ゴブリンミニスターを背に直線の通路を駆け抜けながら、2人はほぼ同時にそれを使用する。
その直前、リクトはカイとモンスターの間に己の身を滑り込ませた。
カイはすでに転移結晶を使用している。光に包まれて消えるまでのほんの一瞬の間に、攻撃によってHPを失ったリクトの姿を見た。
「りくっ……!」
叫びは届かない。為す術もなく、カイは石榴の街に転移した。
戦闘シーン難しい……。
似たような描写が続いてます。