第6話 死なないデスゲーム 2
広場では、いち早くリクトを見つけたカイが駆け寄ってきた。
「遅いっ! 連絡も取れないし、何かあったかと心配したんだぞ」
「ああ、悪い」
「悪いじゃない! さっきの演説、リクトも聞いただろ?」
「ああ。どうするんだ?」
「どうするもこうするも、ゲームをクリアするさ。もともと、それが目的だったんだ」
「そうか」
どこかぼんやりと、他人事のように返事をするリクトに、何かあったのかとカイが問い質そうとしたとき、ようやくソラが追いついてきた。
「カイ! 1人で勝手に走り出すんじゃないわよ! 鎧来てるくせに無駄にすばしっこいんだから!」
「ソラが遅いだけだろ。少しはAGI上げろよ」
「うっさいわね私は後衛よ。ふんだ、リクト見つけたから良しとしてあげるわ。……リクト、無事?」
「ああ、無事でなかったらここにいないだろ。……ゲーム攻略に動くのはいいが、なら早く準備した方がいいんじゃないか?」
先程から、少なくない――というより、かなり多くのプレイヤーがアイテムショップへと向かっている。攻略に動く動かないは別としても、死んだら何が起こるか分からない以上、HP回復アイテムを少しでも多く得ようとするのは当然の動きだ。中央広場で呑気に会話しているリクトたちは、むしろ状況が見えていないようにも思える。
「今さらだろ。どうせもうないさ。それに、変な放送の前にダンジョンに潜る準備しようと思って、ポーション系多めに買っといたんだ」
「そりゃ、ずいぶんタイミングいいな」
「だろ? それに、ラビットの肉もあるし。馬鹿高いポーション買わされるよりマシだ」
通常価格のポーションはとっくに売り切れている。あるとすれば、この状況に足元を見た高額のポーションだろう。ろくに稼げない低レベルプレイヤーにはとうてい手が出せない。安全に狩りを進めるためのアイテムを買うのに危険な狩りをしていては意味がないからだ。それなら、大人しく街に引きこもっているだろう。
もう少し混乱が収まり、少なくともデスペナルティについてもう少し詳しい情報が入らないと、この状況はほぼ変わらないだろう。情報が入ったとして、かえって悪化する可能性もないことはないが、高レベルプレイヤーが本拠地を移せば、ある程度の問題は解決する。その為には、高レベルプレイヤーが1日も早くガーネットを攻略し、次の街へ行く必要があるのだが、それもまだまだ先の話だ。
「とりあえず、レベル上げないとな。ガーネットの適正はPLv20だったか。マージンを取って、25くらいにはしないとな」
まだPLv20にもなっていないリクトは、これから相当レベル上げの努力をしなければならない。そもそも、早いところカイ・ソラとレベルを並べなければならないのだ。レベル差6は、許容範囲だが問題ないと言うほどではない。ましてリクトは無職、職業登録による恩恵を受けていないのだから。
「そうだな。とりあえず、フィールドに出ないことには何も始まらない。安全策をとって、東に行くか?」
「仕方ないわね」
だが、狩るならなるべく安全に、という考えは共通のものだった。南では低すぎるが、北では不安が残る、というプレイヤーがこぞって東に集まっている。結局、3人は北に移動することになった。
しばらくプィシーキャットを相手に戦ってきた結果、少なくとも戦闘面に関して、システムの変更は感じられなかった。スキルの増減も確認されていない。システムウィンドウも、ログアウトの消去以外に変更はないように思えた。
リクトのPLvは19に上がり、カイとソラのPLvは24になった。リクトのレベルを上げるためにリクトが中心になって戦ったと言うこともあるが、このふざけたイベントが始まる前と今とで何がどのくらい違うのかを確かめながら戦っていたため、それほど経験値を確保していない。レベル上げもそうだが、今日はシステムの確認が主な仕事だった。
「特に目立った変化はないみたいだな」
ホッとしたようにカイが言った。
「そうね。不利なシステム変更がなくて、本当に良かったわ」
ソラも同調する。もちろんそれに異論などなく、リクトも頷いた。
今のところ、確認できているのはデスペナルティの増加だ。それも、あの声が言っていただけで、どの程度のものなのか、つまりどのくらい痛いのか、分からない。こればかりは、じゃあちょっと、と確認できることでもないのだから。
だが少なくとも、戦闘面では今までと同じように動ける。ならばあとはこちらの精神力の問題で、きちんとやれればそう簡単に死ぬこともないだろう。
「じゃああとはレベル上げね。5の差はけっこう大きいし……」
「でもこればっかりは、パーティで戦っている以上そう簡単には縮まらないさ。これ以上開かなければいい。少なくとも、イン時間で差が付くことはないわけだし」
誰もが24時間常時ログインしっぱなしのこのゲームだ。ここから先は、単純に努力と度胸の結果と言うことになる。
ちなみに食事や睡眠と言った人間の基本的行動に関しては、以前と同様、取った方が万全に動けるが、取らなくてもそれで死ぬことはない、ということになっている。ただ、睡眠不足や空腹による体力不足や集中力不足で死ぬことは大いにあり得る。無茶は良くないと言うことだ。
「レベル上げは最優先だが、そろそろ休まないか。というか、腹減った」
「それもそうだな。いったん戻るか」
リクトの希望により、3人は一度、街まで戻ることにした。
宿で取った少し早すぎる夕食は、ホワイトラビットの肉を野菜と一緒に煮込んだホワイトシチューだった。そこそこ美味しく、まだ腕の立つ料理人などいるはずもない今の状況では、十分恵まれていると言えるだろう。
食事の後、また2時間ほど狩りを続けた3人は、宿に戻って眠りについた。