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第5話 死なないデスゲーム 1

 プレイ開始から1週間。後に何度も振り返ることになるこの日は、まさに運命の分岐点だった。

 この日、リクトは狩り場を街の東に移して、索敵と隠密を常時発動しつつパーティ戦ではあまり使う機会のない遠距離武器のレベル上げをしていた。

 あのあと少し調べてみたが、索敵や隠密のスキルは戦闘に入るとほぼ確実にキャンセルされてしまうらしい。失敗と言うよりは仕様に近く、キャンセルを防ぐにはレベルを上げる必要があるようだ。SLv20越えでキャンセル率が低下するらしいが、それが早いのか遅いのかは意見が分かれるところだ。βテストの時はSLvのマックスは100だったそうだ。恐らくそれは今も変わってないとの見方が多い。

 索敵や隠密のスキルを取ったものの、レベルを上げられずに放置というパターンはある意味王道だそうだ。索敵がなくとも視界範囲のモンスターの位置は分かるのだから、少なくとも初期の間はほとんど不自由しない。高レベルのフィールドで隠密や索敵をしてくるモンスターが登場すれば、分からないが。

 職業登録者にはスキル経験値のボーナスが多少付くというのも、昨日知った。しかしあまり有名な情報ではない。ほぼ全員登録するんだから、あまり意味のある情報ではないのだろう。

 現時点で、リクトはほぼ常時、索敵と隠密を同時使用している。戦闘中は、さらに戦闘スキルを使用している。最大で5つ、スキルの併用を確認した。

 併用数が減れば、その分スキルの精密さが上がるらしい。スキルを1つ増やすと、スキル効果のレベルが1下がっているようだった。ただし経験値はほぼ同量もらえるので、レベル上げを考えるなら、スキル併用はかなりのアドバンテージになる。というか、これが出来ないと未登録でやっていくのはかなり難しいだろう。

 どうしてこんなことが出来るのかは、分からない。リクト個人の能力に由来するのか、あるいは未登録者の固有能力なのかもしれない。リクト以外で無職のプレイヤーに話を聞けば分かることだが、今のところそう言う心当たりはない。探せば1人くらいはいるだろうが、いくら何でも無茶だ。

 ブラックラビットを相手に、物陰から弓を引いて狙いを定める。確実にクリティカルとなる頭を狙って、矢を放つ。そうやってラビットを倒し、経験値を稼ぐ。PLvが17に上がり、スキル経験値も順調に溜まっていた。この調子で、と今度は銃を手に持った時だった。

 世界が止まった。

「……っ!?」

 世界から色が消えた。プレイヤーを除く全ての動きが止まった。突然の事態だった。銃を手に取ったまま、動けない。

 空から、声が降ってきた。

“ごきげんよう。まずは、ネイトルストーン・オンラインをプレイしている諸君に、感謝を述べる”

 何かイベントが始まるのだろうか。リクトは思った。今日で1週間、祝いがてらにイベントを発生させるには、ちょうどいい頃合いだ。いささか唐突に過ぎるが。それとも、何が重大なバグが発生して、急遽ログアウトする必要に迫られたのだろうか。

 なんて――呑気な考えだったんだろう。もっと危機感を持つべきだった。いや、持ったところで何が変わったかも、わからないが。

“さて、では本題を告げよう。ただいまをもって、諸君のシステムウィンドウからログアウト項目を消去する”

「はっ?」

 言われたことの意味が理解できず、ぽかんとして――理解した途端に、リクトは慌ててシステムウィンドウを開いた。

「…………ない」

 さっきまであったはずの、ログアウトの文字が消えている。

“確認できただろうか。つまり君たちは、この先このゲームから脱出することは出来ない”

 本気なのだろうか。未だに信じられないが……ログアウト出来なくなっているのは、確かだった。

“同時に痛覚レベルを上昇させる。……安心してくれたまえ。通常の戦闘では痛みを感じない。これはデスペナルティの1つとなる”

 デスペナルティに、痛覚が発生する。ふざけている。それでは、ゲームではない。

 それとも、これが目的なのか。一体何がしたいのか、この声の持ち主は。    

 ふと、頭が何かをかすめた。デスペナルティ……デスペナルティがあるということは、死んだ後も生き返ることが前提となっている。ゲーム内の死は、相変わらず現実ではない。

 ゲーム内の死――? どこかで聞いた単語だ。確かアレはそう、一昔前に流行ったという、小説や漫画のストーリー。現実が近づきすぎたせいでいつの間にか見かけなくなった、それは――デスゲームという、ジャンル。

“つまり――諸君、これはデスゲームではない。繰り返す。これはデスゲームではない(・・・・)。安心したまえ。このゲーム内でいくら死んでも、現実の身体に何ら影響はない。ログアウトできないこと、痛覚レベルの多少の上昇の他に、諸君にとってデメリットとなるシステム変更はない”

 これは、擬似的なデスゲームなのだろうか。実際に死ぬことはなくとも、死を躊躇う状況を作り上げることで、ゲームが一種の現実と同期(リンク)した。

“我々が諸君に求めることはただひとつ。ゲームをクリアせよ。諸君の生命は我々が責任を持って管理する。安心して励んでくれたまえ”

 ふざけるな、誰かの叫びが聞こえた。出せ、帰せ、何を考えている? 当たり前に発生した罵声は、声の主には当たり前のように、何の影響も与えない。

“ゲームをクリアしたとき、諸君はゲームの世界から現実へと帰還するだろう”

 勝手な言い分だった。それに対抗する術を、リクトを含む全てのプレイヤーは持っていない。この場では、奴は神だった。横暴な神。自由な神。ろくなものじゃない。

“ゲームをクリアせよ、クリアせよ、クリアせよ。それが生きる道だ。健闘を祈る”

 無情な響きと共に、声は失われ、世界が色を取り戻した。戦闘中だった他のプレイヤーは、先程まで嬉々として攻撃していたそれから、逆に逃げまどっている。

 訳の分からない状況と、突然与えられた情報。頭が考えることを放棄したがっていた。

 プレイヤーは一目散に安全地帯である街へと逃げ込んでいた。1人フィールドに残っていたリクトは、しかし隠密スキルの効果もあって、まだ何からも狙われていない。だがいずれは狙われるだろう。そうなる前に街へ戻るのか――?

 リクトの選択は戦いだった。“消音(サイレンサー)”を使わなかったことで、銃声が辺りに響く。その場所めがけて向かってきたブラックラビットを、リクトは片っ端から撃ち殺した。距離が近づけば武器をレイピアに変えて、殺した。さすがに数が多すぎて、HPがどんどん削れていく。

 モンスターを一掃したとき、HPはイエローを通り越してレッドラインに浸食していた。それを無感動に眺めていたリクトは、カイからフレンド・コールが入っていたことにようやく気づく。

「あ……」

 何を、やっているのだろう。

 むなしくなりながら、モンスターがまた湧き出して来る前に、リクトは街へ転移(テレポート)した。


キャラが取ってるスキルの一覧とか、いりますかね?

自分でもあまり細かく決めてないというか、名前に悩む……!

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