第4話 始まりの前 4
「それにしても、よく気づいたな」
ソラが不要アイテムを売りに行ってる間、リクトとカイは道端で先程の出来事について話をしていた。
「何が?」
「モンスターだよ。気づかないで不意打ち食らってたら、危なかったな」
「そりゃそうだけど。お前ら、索敵持ってないのか?」
リクトにとっては、索敵スキルはかなり便利で、あるとないとでは大違いだ。索敵を使わないという選択肢はないくらいなのだが、2人にとっては違うのだろうか。
「一応持ってるけどなー……。今回みたいなレア湧きの不意打ちでない限りは、ほとんど危険はないし。それに索敵ってキャンセル率高いだろ。だから、あまり使ってないんだ」
「へえ……。まあ確かに、キャンセル多いよな。最初の時は苦労した」
「それに、そうでなくてもスキルの同時使用ってほとんど出来ないからな。索敵に回すのはもったいないし」
「……え? 同時使用、出来ない?」
今、おかしな言葉を聞いた気がする。スキルの同時使用不可? 索敵も?
「ああ。特に索敵や隠密なんかの常時発動スキルは、集中力使うし。だからキャンセル率も高いんだけどな。取っても使いこなせなくて、結局ほとんど使わないみたいだぜ」
「ちょ……っと待て。同時使用って、スキルを2つ以上使うことだよな」
「? ああ」
「索敵もその枠に入るのか?」
「当たり前だろ。じゃなかったらもっと普及してるだろうし。知らなかったのか?」
「じゃあ隠密は? 攻撃スキルの……例えば銃は、精密射撃と連射を併用した方がよくないか?」
「併用できりゃ強いだろうけど、出来ないんだから仕方ないだろう。剣士や魔法使いが人気なのは、その辺の使い勝手の良さも理由だって話だ。隠密だって、併用できたらもっと普及してるさ。……どうしたんだよ?」
「いや……」
カイの言葉が真実なら、今リクトが行っているスキルの併用はあり得ないことになる。そして、カイが嘘を言う意味も理由もない。
「あ、でもパッシブスキルは別だぞ。あれは発動する必要がない、持ってるだけで効果があるものだから」
「例えば?」
「剣系スキルなら、二刀流か。片手剣を使う奴が新規スキルで獲得する。両手に武器が持てるようになるんだ。獲得しても、使うかはまた別だが」
「そうか」
「んで、だ。お前、索敵けっこう使ってるんだろ? どんくらい使った? レベルは?」
「索敵のレベルか……。索敵は、暇があれば使ってたからな。(隠密と一緒に)」
だが、あまりきちんとレベルを見ていなかった。せっかくだから見ておこう、とスキルウィンドウを開く。
「えっと、21……だな」
「21? リクトのPLvは16だったよな?」
「ああ」
ついでに、隠密はSLv19である。プレイヤーのレベルよりもずっと高い。
「索敵ってレベル上がりやすいのか……?」
「かもな」
「だが、あの使いにくいスキルをよくここまで……。ある意味俺らよりすげえよ」
「うっせー。知らなかったんだよ」
「はいはい」
しかし、スキルの同時使用が本来は出来ないことだったとは。知らずに誰かにぽろっと言っていたら大変だったな。今の内に知ることが出来て良かったと言うべきか。
「PLvもその調子で早く20にしてくれよ。そうしたら遠慮せずにボスに挑める」
「いやいや、適正20だからって20でボスに行くなよ」
「お前なら行ける。大丈夫だって」
「だからその変な信用止めろ。……カイ、お前、索敵、持ってるって言ったよな」
「あ? ああ」
「レベルは?」
「大したことはねえよ。ええと……3」
「3?」
「だから、使ってないんだって。お前だってあるだろ、取ったはいいけど使ってないの。それと一緒だよ。突っ込むな」
「悪かったよ。だがボス部屋には行かないぞ。……というか、明日はちょっと単独行動取りたいんだが」
「なんで?」
「お前らと一緒にレベル上げしてても、追いつかないだろ。ま、ソロで追いつくかは分からないが」
それに、スキルの併用について少し詳しく調べてみたかった。
カイは少し迷うように首を傾げてから、仕方がないな、と了承した。
「他のゲームでも、何だかんだでお前は別行動多かったからな」
「お前らなんぞについて行けるかよ。……今日は疲れたからな。もう落ちる。頼むから、俺のいない間にレベル上げるなよ」
「本気で言ってるのか?」
「いや」
「だろうな。じゃあ、また明日な、リクト」
「ああ。ソラにもよろしく頼む」
リクトはシステムウィンドウからログアウトボタンを選択した。リクトの体が光に包まれる。一瞬の後、そこには誰もいなかった。