第3話 始まりの前 3
プレイ開始から、6日。一昨昨日からカイ・ソラと正式にパーティを組み、リクトは主にレイピアを武器に戦っていた。PLvは現在15。ちなみにカイとソラは22である。現在のフィールドは街の北2つ目。あと1つ行った先には、最初のイベントクエストの舞台であるガーネットの古代遺跡がある。古代遺跡の適正レベルは20。リクトにはまだ早いが、カイとソラならばもう向かってもいいところである。
ちなみに現在のトッププレイヤーは、今日にも遺跡を攻略するかと言ったところまで進んでいる。それが悔しいのか、ソラはしきりに遺跡へ行きたがっていた。いくら何でもまだ早いと、それは見送られているが。
パーティを組み始めた……というか、合流した3日前。初期装備のまま戦っていることや、登録をしていないことなんかを散々怒られ、リクトは革鎧を購入した。しかし登録に関しては拒否。無職の道を突き進んでいる。……こう書くとマイナスのイメージしか湧かないが、多様なスキルを持っているというのは武器になる。どれもこれも、使えることが前提ではあるが。
現在3人がいるフィールドでは、プィシーキャットがいる。アクティブ型モンスターで、可愛い外見に反して鋭い爪や牙を突き立ててくる。体感する痛みはなくとも、視覚的に痛い。戦闘は主にリクトがモンスターの気を引き、カイがダメージを与える。そしてとどめをソラの魔法で与えていた。
この辺りは人が多い。東や南では弱すぎるが、遺跡に行くと強すぎる。そんなプレイヤーが今は一番多く、そしてそういうプレイヤーはリクトたちがいる遺跡の手前までの北フィールドに集まるのだ。経験値的にはいいが、モンスターの奪い合いになってまともに戦えていない。これまではレベル不足を理由に遺跡へは行かなかったが、多少無茶をしてでも遺跡に行った方がかえって楽じゃないか、とカイが提案する。リクトも人の多さには辟易していて、これなら東でソロで狩っていた方が良かったなあと考えていた頃だったので、多少ためらいを覚えつつも、それを承諾した。
“ガーネットの古代遺跡”は、1階層からなる石造りの迷宮である。主なモンスターはゴブリン。適正レベルは先述したように、PLv20。道は3人が併走できる程度に広く、モンスターのポップ率はフィールドに比べて高い。
その迷宮を、カイとソラのβテストの知識を活用して、入り組んだ迷宮を比較的短時間でボス部屋を除いて一通り渡った。マッピング機能により、一度行った場所には地図が描かれ、いつでも確認することが出来る。モンスターのレベルの高さにリクトは2、3度死にかけ――というか死んで、蘇生アイテムで生き返った――しかしその甲斐あって、かなりの経験値を稼ぐことが出来た。レベルは1上がり、直にもう1つ上がる。
今はポップ率の低いポイントで休憩を取っている。ソラがヒールをかけ、それで失ったMPをリクトがマジックヒールで回復させる。それで足りない部分をポーションで補っていた。残念ながら、ガーネットにはセーフティエリアはないらしい。もう少し先に進めば、具体的には次のアメジストの古代遺跡から、セーフティエリアが現れるようだ。セーフティエリアならば、座り込んで自然回復に任せることも出来るのだが。
今は周囲にはモンスターはいないが、警戒を怠ることは出来ない。リクトはもはや癖になっている索敵と隠密のスキルをかけ直した。最近はキャンセル率も減って、ほぼ常時かけていられるようになったが、長引くにつれ効果は減少していく。定期的にかけ直す必要があった。
「結構、広いんだな。やっぱり」
「一応イベントダンジョンだからね。あっさり終わったらつまらないよ」
「まあ、そうなんだけどな」
リクトはまだ“ガーネットの古代遺跡探索”のイベントクエストを引き受けていない。このクエストを引き受けていなければボス部屋に侵入することは出来ないらしい。一応レベル10からクエストを受けることは出来るのだが、リクトにはしばらく遺跡に来る予定はなかった上、そもそもクエストの存在について知らず、スルーしていた。カイとソラはすでに引き受けているが、パーティ内にクエストを引き受けていないメンバーがいるため、ボス部屋には入れない。
「それにしても、以外と戦い慣れてるな、リクト」
「は? 2回死んだけど、嫌味か」
「違うって。レベル16で、しかも前衛で、まだ2回しか死んでないんじゃないか。しかも囮なのに。よほど勘がいいんだな」
「偶然だろ」
「偶然は何度も続かないよ。いいことじゃないか」
「買い被られても困るんだが」
「はは。だからって無茶はしないから、安心していいよ」
「頼むぜ、まったく」
「うん。……ところで、リクト」
「何だ?」
カイは心底不思議そうに、どうして盾を持たないのに攻撃を防いでいるのか尋ねた。
「あ? どういう意味だ?」
「どういうも何も、そのままだよ。何度か、攻撃を防いだじゃないか。でもリクトは盾を持ってないだろ? 何をやったんだ?」
「あー……? もしかして、シールドのことか?」
リクトは近接戦闘ではレイピアを使うが、片手剣士に多い盾を持っていない。それでは防御が心許ないので、“シールド”スキルを盾代わりに使っている。攻撃を一度しか使えない上、タイミングが難しいのと集中が出来なかったりでキャンセル率が激しかったが、ようやく成功率が上がってきたスキルだ。
「シールド……って、アイテム? 魔法?」
「魔法スキルだったかな」
「魔法スキル……だから登録しないのか?」
「それもある」
「そうか。それにしても、戦いながらスキルを使うとか、よく出来るな」
「けっこう難しいし、失敗も多かったけど、まあ何とか」
「やっぱり、勘がいいんだな」
「こういう戦い方をする奴がいなかっただけだろ」
「そんなことないさ。βテストのときにも、そういう使い方を考えた人はいたけど、うまく行かなくて結局諦めたんだ」
「へえ……」
それは初耳だ。まあリクトの場合は、装備の思考操作で体と頭の動きの違いに多少慣れていたから、習得が早かったのかもしれない。
雑談に興じていたリクトに、索敵スキルがモンスターの接近を伝えた。
「……?」
だが、モンスターの種類が不明のままだ。つまり、まだ戦ったことのないモンスターか、リクトよりずっとレベルの高いモンスターだと言うことになる。ゴブリン程度なら判別できるので、今まで戦ってきたモンスターではない。だがカイもソラも、今まで戦ってきたモンスターでガーネットに出てくるモンスターは全てだと言っていた。それとも、レア湧きとでも言う、滅多に出てこない代わりにやたら強いモンスターが、運悪く接近してきていると言うことだろうか。
「カイ、ソラ。何か来た」
「え?」
「何かって……モンスターか?」
「プレイヤーではないな。種類は不明。普通のゴブリンじゃない」
「ええと……?」
「強いってことだよ。レア湧きかもしれない」
「それは……」
カイの表情が引き締まる。今のレベルでは、リクトはもちろん、カイとソラでも、レア種に勝てるかは怪しい。挑戦してみるのもいいが、デスペナルティで経験値やアイテムを失うのはなるべくならば避けたいところだ。
「どうする?」
「……一度帰ろう。どうせ、今日はボス部屋には行けないんだ」
「了解」
残念そうな顔で、ソラが転移の光に包まれ、姿を消す。次にカイが。リクトも転移結晶を使って、街へと戻る。
その間際、ゴブリンにしては大きい影を、微かに認めた。
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