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第1話 始まりの前 1

 チュートリアルが終わり、リクトは最初の街、石榴(せきりゅう)の中央広場に降り立った。そこがそのまま、兄妹との待ち合わせ場所である。ぐるりと辺りを見渡し、人混みの中から見知った顔を探し出す。とはいえ、2人のアバターもリアルそのままではないし、髪の色が変わるだけでも印象は変わるものだ。探し出すのに苦労するな、とは思っていた。

 ちなみに兄妹はチュートリアルを受けていない。チュートリアルで得られるメリットよりも、チュートリアルをすっ飛ばすことによるスタートダッシュの方がメリットが大きいと判断したから、らしい。チュートリアルで行われるのは最低限の操作法やモンスターとの戦い方の教授である。アイテムや武器をもらえ、レベル3~5相当の経験値を確保できるが、方法をすでに知っているプレイヤー、つまりβテスターには面倒でしかないものだろう。それに、みんながチュートリアルをやっていて競争相手が少ないうちになるべくレベルを上げておくというのは合理的である。

「リクト!」

 早々に探し出すのを諦め、ぼんやりと立っていたリクトを、待ち人は首尾良く見つけ出した。

「よう」

 そこにいたのは、茶色い髪と目の美少年と、青い髪と目でポニーテールの美少女であった。ちなみに、リクト本人は思ってもいないが、端から見ればリクトも十分な美少女(・・・)である。

 待ち人たる幼馴染みの兄妹――プレイヤー名はカイとソラ――は、すでに初期装備を脱していた。

「お前ら、レベルいくつよ」

「10」

「10だけど?」

 すでに見習い期間を抜け出している。なら、もう登録は済ませたのだろうか。尋ねてみると、肯定された。

「装備から見ると……カイが剣士、ソラが魔法使いって所か」

 軽鎧を身につけ、背に大剣を背負っているカイと、水色のローブを纏い、杖を手にするソラ。これで剣士と魔法使いでなかったら、そっちの方が驚きである。

 リクトは2人とパーティを組む予定である。であるなら、あまり仕事が被るのは良くないだろう。カイは完全にアタッカーだし、ソラは後衛だ。魔法使いと言っても攻撃から回復までいろいろだが、聞いてみたところ攻撃魔法を中心に取得する予定らしい。前衛と後衛が1人ずつなら、後衛よりは前衛に入るべきか。回復専門がいない以上、出来れば回復魔法も確保したいところだが、前衛で回復が出来る職業は何があっただろう?

 というわけで、尋ねてみた。

「前衛で回復? それなら、やっぱり聖騎士じゃないかな」

「聖騎士……てことは、神殿か」

「でも、やりたい職業があるならそれをやればいいじゃない。あまりパーティを気にする必要もないわよ」

「まあ、そうなんだけどな。確かに、せっかくの見習い期間だし、いろいろ試してみるとするか」

「うん、それがいいよ。そういえば、リクトはチュートリアル受けたんだよね。今のレベルは?」

「3だが何か?」

「3か。まあそんなもんだよね。もうパーティ組んじゃう?」

「は?」

 何を言っているのだこいつは。まだ武器すら決めていない状況で、何故パーティを組まにゃならんのだ。

「断る」

「ええ? なんで?」

「いくらなんでも早すぎるだろう。最初くらいソロでやらせろ」

「ああ、それもそうだね。じゃあ、レベル10……見習い終了のときに連絡するってことで。どう?」

「……わかった」

 まあ、それが妥当だろう。レベル10からはデスペナルティが入るわけだし。

「じゃあ、さっそく行ってくる」

「ちょっと待って。フレンド登録してないわ」

「ああ、そういえばそうだな」

 フレンド登録をすれば、相手がログインしてさえいればいつでも連絡が取れる。システムウィンドウがフレンド登録の可否を問うてきたので、YESに指を触れる。開かれたフレンド登録者一覧に、カイとソラの名とログイン中を示すアイコンが描かれていた。

「他にはないよな? じゃあ、行ってくる」

「行ってらー」

「待ってるから早くしてね。じゃあカイ、私たちも狩りを続行よ!」

「分かってるよ」

 これ以上レベルを上げられたらさすがに追いつかない気がするのだが。リクトは呆れと諦めをこめて、溜息をついた。


 見習い期間の間に、武器を色々と買っておこうと、リクトは総合会館に立ち寄った。見習い用の格安武器はここで手に入る。チュートリアルではショートソードを貰ったが、剣だけでもロングソード、バスタードソード、レイピア、ナイフと様々ある。それ以外に槍、弓、銃、杖。リクトはこれらの武器を購入した。他にも、格闘家のための装備や忍者のための装備も当然ある。

 防具は防具で色々売っているが、防具の場合は初期選択の武器に応じて見習い期間限定の性能がいい防具がチュートリアルで配られる。例えば剣や弓、革手袋などの物理系武器なら革鎧、杖や楽器などの魔法系武器ならローブが支給されるのだ。リクトが今着ている服も支給された革鎧だ。これは見習い期間の終了であるレベル10の時に自然消滅する。それ以後は、新しい武器を装備しない限りは初期装備が自動的に装備される。見習い用のお試し防具は、はっきり言って支給防具より性能が悪い。よって、こちらを購入するプレイヤーはほとんどいない。リクトも、購入する気は全くなかった。

 これらの武器の値段は一律100リラ。ちなみに初期の手持ち金額は3000リラである。

 ちなみに武器防具の他に貰えるアイテムは、HP・MPポーションや転移結晶を5個ずつ。チュートリアル参加者への餞別である。

 武器を購入したリクトは、さっそく試してみるために街の南の門をくぐる。石榴の南のフィールドにはホワイトラビットが現れる。こちらから攻撃しない限り攻撃してこない非アクティブ型で、攻撃の練習にはもってこいである。ちなみに戦わずとも、例えば木なんかを相手にスキルを発動しても経験値は溜まるが、当然モンスターと戦った方が効率がいい。

 武器を装備し、まずは適当に振りまわす。それから、それぞれの武器が対象となっているスキルを1つずつ選択して、実際に使ってみる。そうして取捨選択していって、使用武器の候補として残ったのは、レイピア、弓、銃、カッコでナイフ。結構残っている。

 当然、使用武器は1つである。ともかく、絞らなければならない。だが絞りきってしまうのはもったいない――優柔不断なことをつらつらと考えていたリクトは、あることを思い出した。

 武器に対応するスキルを選択していったとき、剣系のスキルは流用のきくものが多かったと言うこと。ついでに言うなら、弓と銃のスキルはほぼ同一であった。

「無理に絞らなくてもいいか……?」

 まだ見習い期間は残っているし、レベル10になったからといってすぐに登録しなければならないわけでもない。しばらくはこの4つを使い回してもいいかもしれない。

 ちなみに、リクトは武器スキルの他に、基本スキルで“索敵”と“隠密”、魔法スキルで“ヒール”“マジックヒール”“シールド”を取っている。こんなスキルの取り方、特に魔法使いになるわけでもないのに魔法スキルを取っている辺り、職業登録をしない、無職へのルートが垣間見えている。魔法使い以外の職業では、魔法スキルはかなり制限される。神殿職業なら話は別だが、今のところリクトには登録先に神殿を選ぶつもりはない。 ステータスを開く。ゲーム内では夕暮れだが、現実時間は午後9時。途中で食事休憩を取ったとはいえ、ずいぶん長い時間プレイしていたものである。ゲーム内では1日半が経過している。もちろん、この1日は24時間ではなく、一昼夜8時間程度で回っているが。

PLv(プレイヤーレベル)は6……か」

 リクトがチュートリアルをしている間にレベル10まで上げた2人と比べればかなりのローペースだが、2人とは下地が違う上、あちこち迷いながら進んでいるのだからそれも当然だろう。気にする必要はない……気になるけれど。

 とはいえ、そろそろ時間だ。フレンド・コールでカイを呼び出して、ログアウトする旨を告げる。そして街へ繋がる門をくぐり、石榴の街に入ったその場所で、リクトはシステムウィンドウからログアウトを選択。NSOネイトルストーン・オンラインの世界から消失した。

説明多いですが最初だしと思って勘弁してください。

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