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#6(改稿)

 虚空に次々と現れる艦影。

 ジェラルドが指揮するドルドリア帝国軍第二十三遠征艦隊艦隊は、続々とメノール宙域へ到着していた。

「星図、出ます」

 オペレーターの言葉のあと、メノール宙域の星図が投影された。

「試作艦の現在位置は、このポイントのようです」

 フォルカーは移動中の光点を指して説明した。

 試作艦を示す光点がときおりレーダー上から消失するのは、恐らく通信状況が不安定だからだろう。

 光点は主星メノールへ向かって、最大戦速で航行しているようにみえる。

「先ほどまでは、主星メノールから比較的離れている宙域を航行していたのですが、急に進路を変えたようです」

 フォルカーは、いぶかしげな表情を浮かべたジェラルドに説明をつけたした。

「獲物を見つけたということか」

「間違いないでしょう」

 試作艦のレーダーは、何かを捉えたのだろう。だが、艦隊のレーダーにはまだ何も映ってはいない。

 艦隊を構成する艦船同士は、本来ならレーダーの相互リンクがなされているはずなのだが、活動期にはいった主星メノールから発せられる強力な電磁波は、艦の計器に深刻な影響を与えている。そのせいで、試作艦とのリンクが分断されてしまっているようだ。

 リンクを回復するためには、電磁波の影響を受けない距離まで試作艦に近づく必要がある。

「我々も移動を開始する。全艦の準備が整いしだい、試作艦を追え」

「了解しました」

 フォルカーは敬礼をかえした。


 ユーリは億劫そうな足取りでブリッジへやってきた。

 アヤネとスズネも一緒にやってきて、それぞれオペレーター席とレーダー管制席にすわる。

 いまタルタロスの操舵をしているのはウェルナーのようだ。

「何がおこった?」

 ブリッジへ着くなり、ユーリは彼の代行で艦の指揮をとっていた副長のギンジに訊いた。

「国籍不明の船がこちらへ進路を変え、急速で接近中です」

「国籍不明?」

「はい。現在、急速接近中です」 

 国籍不明船の挙動からして、友好的な相手である可能性はきわめて低いであろう。

「振り切れそうか?」

 ユーリはウェルナーに視線を向けた。

 どうやら今は操舵に集中して軽口をたたいている余裕はなさそうだ。

「難しいでしょう。ハイパージャンプドライバへ飛び込む前に追いつかれてしまうことが予想されます」

 ギンジがこたえた。

 現在、タルタロスは全速力で主星メノールの重力圏を航行し、それを利用して加速しているている最中だ。

 迎え撃つため減速反転しようものなら、たちまにメノールの重力に囚われ、そのまま灼熱の恒星へと引きずり込まれてしまうことは容易に想像できる。

「進路そのまま。メノールの重力圏を脱したら迎え撃つ」

 そういって、ユーリは司令官席に座り、足を組んでふんぞり返った。


「頭ぁ! あいつら、どんどん加速していきやすぜ!?」

「なんて奴らだ、メノールの重力を利用していやがる」

 言葉にすると簡単だが、よほど艦の性能と操舵手の腕に自信がなければ、普通なら選択しない航路だ。

 ましてや重くて足が遅い戦艦クラスの船であるならばなおのこと。

 それをあの若造はあっさりやってのけている。

「だが……」

 ベロムはニヤリとした笑みを浮かべた。

「所詮は戦艦。こちらの速力の比じゃねぇな」

 たしかに向こうは速度を上げた。しかし、決して引き離されているわけではなく、距離は徐々にではあるが縮まってきている。

「お、おい! こ、ここ、このままではメノールに引き込まれてしまうではないか! 何とかしろ!」

 バイロンは、情けない声をあげた。

「か、頭ぁ! そいつの言うとおりですぜ。艦の姿勢を立て直さないと、このままメノールに突っ込んじまいやすよ!!」

「よぉし、艦首を六十度あげろ! やつらと同じようにメノールの重力を利用してさらに加速だ!」

「りょ、了解しやしたー!!」

 操舵手は重くなった操縦桿を引き起こすため、返事に気合を乗せて叫んだ。


「ユーリ、重力圏を抜けたぞ!」

 叫んだのはウェルナーだった。

 不明艦との距離はかなり縮んでおり、会敵まであと十五分もないだろう。

「慣性航行を行いながら艦首を一八〇度回頭しろ。減速しつつ、ハイパージャンプドライバとの相対速度は合わせたままにしろ」

「あちらもなかなかやりますな」

 ギンジは素直な感想をのべた。

 タルタロスよりは小さな艦とはいえ、こちらに追随してきたのだ。その腕前は褒めたたえるべきであろう。

 ただ、通信可能圏内に入っても一切のコンタクトもなく、こちらからの呼びかけにも応じない。これは明らかな敵対行動であるといえる。

「姿勢制御が完了しましたよ」

 今、ユーリの傍らにはコトハではなくミカゲがいる。

「よし、総員戦闘準備。艦を戦闘形態へとシフトさせろ」

「タルタロス、戦闘形態へ移行します」

 アヤネが復唱すると、タルタロスはその姿を双胴の戦闘艦へとゆっくり変化させていった。

 やがて、メインスクリーンにはCG処理がほどこされた国籍不明艦の姿が拡大投影される。

「見たこと無ぇ船だな」

 それは白く真新しい船だった。

 まるで艦体そのものが一つの巨大な砲身で、それに艦橋と対空火器がついているようなイメージをうける。

「デ、データベースにも、が、該当する艦型はないよ」とスズネ。

 その船は、タルタロスを正面から見据えるような位置で停船している。

「マスター、国籍不明艦から通信が入ったよ」

「いまさらかよ……。まあ良い、出せ」

 ユーリの指示をうけ、アヤネは通信用コンソールに指をおどらせた。

 ほどなくして、メインスクリーンに髭面の男の顔が映しだされる。

「小僧ぉ、地獄の淵から舞い戻ってやったぞ」

「……誰だ、お前」

「っな!?」

 邪悪な含み笑いを見せていた男の表情がかわる。

「て、てめぇ! このベロム様を忘れたってぇのか!?」

「だから、誰だよ……」

 半眼のまま小指で耳の穴をほじくりながらユーリ。

「誰かこいつのこと知ってるやつ、いるか?」

 ユーリの言葉にスズネは何かいいたそうな表情を浮かべた。しかし、他のみんなが知らないふりをしているようなので黙っていることにした。

「おい、待て! 本気で言ってるのか!? あのアンドロイドみてぇな姉ちゃんはどうしたんだ!!」

「あいつなら席を外してるぜ」

「こ、ここ、この野郎……徹底的に人をコケにしやがってぇええ!!」

 ベロムは顔を真っ赤にし、わなわなと声を震わせた。

「マ、マスター! て、敵艦のジェネレーターから異常な熱源反応が、か、感知されたよ!!」

 悲鳴を上げるスズネ。

「俺を生かしたこと。そして、コケにしたことを後悔して死にやがれ!」

 ベロム艦の艦首がほのかに光り始めた。

 ユーリの眉尻がぴくりとあがる。

 集束されたイオン粒子が砲口から漏れでて輝いているのだ。

「撃てぇ!」

「光学シールドを艦の前面に展開! エネルギーを全部シールドに回せ!」

 ベロムとユーリの声が重なる。

 その直後、ベロム艦の艦首から強烈な光の帯がはなたれた。


「試作艦、主砲エネルギー充填率百五十パーセント!」

 リュディガー艦隊旗艦ファーブニルのブリッジでは、十五分ほど前からあわただしくなっていた。

 メノールからの電磁波が少し弱まり、ベロム艦との戦術情報伝達システムのリンクだけが復帰した。

 すると、ベロム艦が主砲のエネルギーを充填させている最中だった。

 彼らが何らかを射程内に捉え、攻撃準備に入ったという証拠だ。

 しかし、まだ電磁波の影響を受けているせいで索敵システムのリンクまでは復帰していない。ゆえに彼らがどんな艦と対峙しているのか把握できないでいた。

「だめです! 距離が遠すぎてこちらからの操作が伝達するまで数十分を要します!!」

「諦めるな。コントロールを続けろ!」

 フォルカーは汗をぬぐう。

 しかし、間に合わないことは明確だった。

 試作艦は主星メノールを挟んだ向こう側にある。

 快速艦を急行させても数時間はかかる。

 このままでは、メモリーキューブが傭兵艦もろとも宇宙の塵になってしまう。

「充填率二百パーセ――あっ、撃ちました!!」

「なに!」

 部下の報告にフォルカーは、試作艦の情報が逐一表示されているディスプレイを見入ってしまった。

「だから言ったんだ……っ!」

 怒りを拳に強く握り締めたフォルカーは、ジェラルドに聞き取れないほど小さな声で吐きすてた。


「どうなった!?」

 全てのシステムがダウンしてしまった試作艦のブリッジに、ベロムの声がひびく。

 重力制御は停止し、ディスプレイも照明も消え、体は無重力の中をただよっている。

「EMPです。この試作艦、高出力の主砲を持ってるくせに、電磁パルス対策が脆弱すぎなんです!」

 つまり、この艦は自らが生みだす主砲のエネルギーを制御しきれず、主砲発射時にイオンジェネレーターから漏れでた高電圧によってEMPを発生させてしまったのだ。

 しかも、それによってみずからシステムダウンに陥っている。

「なんて間の抜けた話だ……」

 ベロムは眉間を押さえた。

 今のところは、傭兵からの反撃はない。

 さすがにあの攻撃を受けて無事で済んでいるわけがない。

「き、きさま! 誰が傭兵艦を撃沈せよと命令したのだ!」

「うるせぇ! はなからテメェらの言いなりになるつもりなんざ無かったんだよ!」

 胸倉に掴みかかるバイロンの腕を握り締めたベロムは、そのまま壁へ投げつける。

「おのれ!」

 腰のホルスターからレーザー銃を抜くバイロン。

 無重力に漂いながら不安定な体勢で撃った銃は、ベロムに掠りもしなかった。

 まるで汚物でも見るような冷徹な視線をバイロンに投げかけたベロムは、胸元から大口径のレーザー銃を取り出し、躊躇なく引き金をひく。

 ベロムが放ったレーザーは、バイロンの頭部にこぶし大の穴をあけた。

 その光景を目の当たりにしたドルドリア兵たちは、あまりの出来事に体を硬直させた。

 艦橋の海賊たちは、数の上で圧倒的にドルドリア兵より優位だからだ。

「復旧を急がせろ! 下手な真似したら全員ぶち殺すからな!」

 手近なものを掴み、実を引き寄せながらベロムはさけぶ。

 この目で撃沈したことを確認するまでは、油断ならない相手であることに違いはないことを知っているからだ。


 タルタロスもまた、一時的なシステムダウンに陥っていた。

 体が宙に浮くのは、重力制御装置が停止しているせいだろう。

 だが、タルタロスはベロム艦とは事情が異なっていた。

「みんな、無事かぁ?」

 闇の中にユーリの緊張感のない声がひびく。

 システムが停止したせいで、ブリッジは闇に包まれている。

 闇に漂うすすり泣きの声は、スズネのものだろう。

「私は無事だよ~」

 この声はアヤネのものだ。

「俺も平気。タルタロスはうんともすんとも言わないけどな」

 がちゃがちゃと音がするのは、ウェルナーが操縦桿を動かしているからだろう。

「どうやら、最高出力で展開した光学バリアがビームと干渉しあって、ジェネレータに多大な負荷をかけてしまった結果、オーバーヒートを起こしてしまったようですな。まあ、照明はすぐにつくでしょう」

 ギンジの言葉通り、ほどなくしてブリッジに明かりが戻ってきた。

「ジェネレーターが冷却されればシステムも復旧するでしょうけど、もう少し時間がかかりそうですね」

 穏やかに言うミカゲは、先ほどからコンソールパネルを操作して、息を吹きかえしたシステムの再起動を急いでいる。

 レーダーなどのシステムは次々と復旧していくが、火器管制システムと光学バリアシステムの復旧には、まだかなりの時間を要しそうだ。

「いかがなさいますか?」

「通信システムの復旧は終わったか?」

 ギンジの質問を質問でかえすユーリ。

 逆に問われたギンジは、視線をアヤネへと向けた。

「艦内だけ」

「じゅうぶんだ。格納庫につなげ」

「ほい」

 言葉の意味が分かったアヤネは、格納庫で待機中のコトハへと通信をつないだ。

 艦長席に備え付けられた通信用ディスプレイには、パイロットスーツ姿のコトハが映しだされた。

「カタパルトは復旧したか?」

「しばらくは使えそうにありません」

 コトハの背後で機材などが宙を漂っているのがみえる。

「あれを処理してきて欲しいんだけど、出られそうか?」

 あれとは、もちろんベロム艦のことを指している。

「何とかいたします。それについてお願いがございます」

「どうした」

「もし重力制御が復旧しても、格納庫の重力はそのままにしておいてくださいませ」

「わかった」

 コトハがどうするつもりなのか理解は出来なかった。しかし、コトハには考えがあっての言葉だろうし、それ以上にコトハを信頼していたので、ユーリは二つ返事で許可をだした。

 通信を終了したあと、浮き上がっている体を艦長席へと引きよせ、ベルトで体を固定する。そのまま足を組んでまるでつまらない映画でも見ているような表情でメインスクリーンにうつるベロム艦を眺めた。


「ミカ姉ぇ、サク姉ぇ、出撃命令です」

 通信が切れたのを確認したコトハは、振り返って二人の姉に命令をつたえた。

「出撃ったって、カタパルトなしでどうすんだよ」

 逆さまで宙に浮いているサクヤが口をとがらせる。

「私の指示通りにしてくれれば大丈夫。二人ともVMPに搭乗して」

 そう言いのこし、コトハは壁を蹴って自分の愛機へと向かった。

「ここはぁ~、コトハちゃんのお手並み拝見といきましょうかぁ~」

「だな。空戦成績はあいつのほうが上だしな」

 ミカヤとサクヤは互いに頷きあい、コトハのあとを追うようにそれぞれの愛機へと向かう。

 VAMPは無重力下で格納庫内を機体が漂わないよう、ランチバーを床に係留させている。

 コックピットへ潜りこんだコトハは、VAMPの起動操作を手早く行ったあと、作業員に機体とデッキを固定しているロックを解除するようにハンドサインを送った。

 作業員は戸惑いながらもロックをはずす。すると、機体はふわりと浮き上がった。

「ミカ姉ぇ、サク姉ぇ、二人も私と同じようにロックを解除してください」

 車輪を機体内へ収納しながらコトハ。

「それでどうすんだよ」

「姿勢制御スラスターと補助スラスターのみで艦外へ出ます」

「それはまたぁ~、簡単に言ってくれちゃうわねぇ~」

「私は二人になら出来ると判断して言っているのですが?」

 二人の姉に淡々と言葉をかえすコトハ。

「へっ、やってやろうじゃねぇか。まずはコトハからいきな。次はあたしがいく」

「作業員のみなさ~ん。危ないから下がっていてくださいね~」

 ミカヤはさりげなくフォローにまわる。

 作業員が退避したのを確認したコトハは、少しずつスラスターを吹かせ、ゆっくりと艦外へ機体を流していった。


 タルタロスのブリッジでは、アヤネが出撃していくコトハたちの様子を報告する。

「コト姉ぇの『スレイプニル』がゆっくり発艦、続いてサク姉ぇの『ドゥラスロール』」

 二機のしなやかな流線型の漆黒の機体がブリッジの前にあらわれた。

 ふたりの機体には、主翼やスラスター部には宇宙戦用のブースターユニットが装備されている。主翼前方のカナード翼は、この機体が大気圏内でも高い空戦能力を有していることを物語っていた。

 美しい流線型フォルムを持った機体は、二枚の垂直尾翼に死神の鎌を持った女性天使のシルエットが赤く描かれていた。

 機体の形状はほどんど同じ二機だが、『ドゥラスロール』の方には二枚の垂直尾翼のほかにブレードのような下部垂直尾翼が一枚ついている。

 二機に遅れて姿をあらわしたのは、ブースターユニットに超ロングレンジのスナイパーライフルを装備した機体だ。

 カナード翼こそないが、『スレイプニル』からの派生機体なのだということはひと目でわかる。

「ミカ姉ぇの『ダーイン』発艦。その場で変形して、左胴艦首へ着艦したよ」

 ダーインはスマートな人型へと変形し、タルタロス艦首でエイム姿勢のままスナイパーライフルを構えていた。


 その頃、リカルドとファレルはタルタロスの艦内をさまよっていた。

 タルタロスの全システムが一時的にダウンしたあと、カエルスから食堂にいてもやることがないと自室へ戻るように言われた。

 それは、彼らにとって最大のチャンスとも言える機会が巡ってきたことを意味していた。

「意外と広いな」

 ため息まじりにつぶやくリカルド。

 広いとはいっても、貨物船や旅客船ではなく戦闘艦なのだから、その広さは知れている。

 とはいえ、乗り込んで間もない人間が、見取り図なしに歩き回るのは少々骨がおれる。

「……兄さん……あれ」

 ファレルが指差したのは、メイン通路からそれるように伸びた薄暗い通路の先、ライトでぼんやりと浮かび上がっている電子扉だった。

 近づいてみると、扉の上にはラボの文字。

 ファレルが開閉ボタンを押すと、扉はぷしゅんという空気が抜けるような音を立ててあっさりとひらいた。

「……あいた」

 システムダウンの影響で、艦内のセキュリティーがリセットされたのだろう。

 ここ以外のエリアも電磁ロックは全て解除されているに違いない

 部屋の中は小さな研究室といった感じだ。

 部屋の中ほどにデスクがあり、ディスプレイとコンソールが備え付けてある。

 部屋は透明なガラスのようなもので仕切られており、その奥には何かの巨大な装置が設置されていた。

 おそらく、これが解析用の装置なのだろうと見て取れる。

 目的のものは、その装置のトレイの上にあった。

「……兄さん」

「ああ、やっと見つけた」

 ガラス壁には入り口はなく、どうやらラボの隣にある小部屋を経由して仕切りの向こう側へ行く構造らしい。

 小部屋への入り口には鍵はなく、簡単に入ることができた。

 小部屋は装置の制御をするための部屋らしく、よく分からないパネルやコンソールがたくさんあった。

 装置部屋への扉は、かなり分厚い。

 扉にはいくつかのランプが備え付けてあり、今はクリアを意味する緑色のランプが点灯していた。

 そして、ここもやはりあっさりとひらく。

 リカルドの口の端がゆるむ。

 中へ入ったリカルドは、装置のトレイに乗せてある文様が刻まれたようなキューブを手にとり、ガラス壁の向こう側にいるファレルに顔を向けて頷いてみせた。


 システムが少しずつ復旧しはじめるベロム艦。

 画面が復活したメインディスプレイには、信じられないものが映っていた。

「なっ!?」

 ベロムは思わず驚愕の声をあげる。

 そこに映っていたのは、まったくダメージを受けていない傭兵艦。

「何なんだ……あの艦は……」

 ベロムは声を絞りだす。

 傭兵艦のそばに漆黒のMAVPが三機。うち一機は人型になって艦首でライフルを構えている。

 戦闘機形態のままの二機がスラスターを噴かせてこちらへ移動を開始しはじめた。

「か、艦首砲は復旧したか!?」

「撃てやすけど……」

「再充填を開始しろ!」

「し、しかし、またEMPが……」

「うるせぇ! 言うこと聞きやがれ!!」

 目を血走らせ、唾を吐き散らしながらベロム。

 わざわざVAMPを出撃させたということは、傭兵艦が動けない理由があるに違いない。

 艦首砲の射程が長かったので、傭兵艦との距離はかなり取ってある。

 VAMPが飛来するまでに二射目を撃てさえすれば勝機はあるはずだ。

 そう考えていたとき、艦に衝撃がはしった。

「な、何事だ!?」

「か、艦首砲に被弾!!」

「やつらの船か!?」

「ち、違いやす! 艦首のVAMPです!」

「何ぃ!?」

 ベロムが驚くのも無理はない。

 スナイパーライフルの驚異的な射程距離もそうだが、あの距離から艦首砲を正確に撃ちぬいてきた射撃技術が人間離れしているのだ。

 だが、まだ艦首砲が使用不可能になったわけではない。

「充填急がせろ! フル充填する必要はねぇ。射撃可能になりしだい、発射してしまえ!!」

「へぃ!」

 要するに最後の一瞬で勝利してさえいれば良いのだ。

 ベロムは、額から流れる汗をぬぐうことも忘れ、メインディスプレイを睨みつけつづけた。


「サク姉ぇ、敵艦のシステムが復旧し始めているみたい。対空兵器には気をつけて」

「へっ、あんなヘボ艦の豆鉄砲なんか食らうかよ! あ、でもミカ姉ぇ、支援はたのむぜ!」

「こんな遠距離からぁ~、敵の小火器類だけを狙い撃てる自信はないかなぁ~」

 『スレイプニル』は、スズネの専用機『ドヴァリン』ほどではないにしろ、各種センサー類が強化された隊長機仕様になっている。

 中近距離から戦闘に参加し、各機に指示を出すのが彼女の役割だ。

 『ドゥラスロール』は近距離特化。『ダーイン』は長距離狙撃仕様に改良されている。

 コトハとサクヤは、ベロム艦へ向けてVAMPをさらに加速させる。

 まだ肉眼でベロム艦を確認することはできない。

 そもそも宇宙での艦隊戦は、兵装の射程距離が広いのと、弾速が凄まじく早いので、何万キロも離れて撃ちあうことがほとんどだ。

 ディスプレイに敵艦の姿がうつるのは、超長距離カメラが発達しているからにすぎない。

 いかにVAMPが高速とはいえ、発艦してから敵艦へ到達するまでにはそれなりの時間を要する。

「敵艦と接触までおよそ五分。敵艦の対空火器射程圏内まで三分」

 『スレイプニル』の機首カメラも、ようやくベロム艦の様子とらえた。

 対空砲が旋回し、こちら側に狙いを定めているのがわかる。

「対空火器の注意は私がひきつけるから、サク姉ぇは敵艦の左舷から回りこんで接近して敵の対空火器を無力化して」

「おっけー! 落とされんなよ!」

 サクヤはそう良いのこすと、右に大きく針路をかえた。

 コトハは『スレイプニル』の速度を更にあげる。

「コトハちゃーん。私はどぉすれば良いのぉー?」

「ミカ姉ぇは、引きつづき敵の主砲に攻撃を加えつづけて。今のタルタロスがあれを食らえばひとたまりもないから」

「了解よぉ~」

 言葉と同時にミカヤの第二射目が『スレイプニル』を追い抜いていった。

 ビームはベロム艦の艦首に命中して小爆発をおこす。

 ベロム艦の艦首はかなり焼けただれ、ところどころでプラズマが発生しているが、まだ主砲の機能を完全停止させるまでには至っていない。

 いかに艦首が重装甲でも次の攻撃は耐えられそうになさそうだが。

 ――問題は、ミカ姉ぇの三射目が早いか……敵艦の主砲発射のほうが早いか……。

 顔は無表情のままだが、コトハは内心で少しだけ焦っていた。

 『スレイプニル』は、ベロム艦の防空圏内へと突入した。

 対空火器が一斉に火をふく。

 バレルロールでそれをかわしたコトハは、対空火器の狙いを自機に引きつけたまま右舷へ旋回した。

 無数の弾幕が背後から押しよせ、さらにミサイルもせまる。

 神業とも呼べる操縦で弾幕を回避するコトハ。機体を人型へと変形させて一瞬で背後に向きなおると、手にしたアサルトライフルでミサイルを一発残らず撃ちおとした。

 再び戦闘機へと変形し、ベロム艦の直下へ向かって加速する。

 その直後、ベロム艦の右舷で光輪が広がった。

 サクヤがベロム艦とすれ違いざまに下部垂直尾翼で右舷側対空火器類を一閃したのだ。

 ベロム艦の右舷を無力化したサクヤは、即座に機体を人型へと変形させ、甲板上へ降り立つ。『ドゥラスロール』の下部垂直尾翼は、VAMP用の大剣となって右腕のマニピュレーターに握り締められている。

 左舷の対空火器が『ドゥラスロール』を撃墜しようと旋回するが、至近距離すぎて狙えないようだ。

 サクヤは、それを一つ一つ叩き斬っていく。

 対空火器の脅威が消え、コトハは旋回してふたたびベロム艦へと加速したとき、艦首砲に発射のきざしが確認できた。

 ミカヤの状態を確認するが、どうやら間に合いそうにない。

 サクヤは艦の中央ほどにいる。彼女の武器も艦首砲は射程外だ。

 コトハは急いでベロム艦の再分析をする。時間にすればほんの数秒。彼女は艦底部にイオンジェネレーターから艦首砲へエネルギーを送りこむケーブルが露出している箇所を見つけた。

「船の大きさに見合わない兵装を取り付けたツケでございますね」

 機体を更に加速させ、ライフルの照準はベロム艦のウィークポイントともいえるケーブル露出箇所にあわせる。

 『スレイプニル』のブースターパックに固定されているアサルトライフルが火を噴いた。

 発射されたビーム弾はベロム艦へと吸い込まれ、ケーブル露出箇所は小爆発をおこす。

 ケーブルを完全に破壊されたわけではないが、そのせいでエネルギーが遮断され、一時的に発射不可能におちいるベロム艦。

 稼げた時間は数秒だろう。だが、じゅうぶんな時間だ。

 次の瞬間、ミカヤが放った超ロングレンジスナイパーライフルが放ったビームが艦首砲に命中し、艦首部分を完全に崩壊させた。

 コトハはふたたび機体を人型に変形させ、ベロム艦のブリッジ前へと降りたった。

 ブリッジの窓越しにベロムら海賊たちが恐怖におののいている顔がみえる。

 ブリッジの奥では、ドルドリア軍士官の軍服に身を包んだ男が顔面に大穴をあけて倒れている。

 よく見ると、艦橋には他にも数名のドルドリア軍兵士がいるようだ。

 しかし、そんなことは問題ではない。

 彼らはユーリに弓を引いたのだ。コトハにとっては、それだけで万死に値する。

 あえてベロム艦と通信をつなげたコトハは、一言だけこう言った。

「冥途へ送って差しあげます」

 そして、アサルトライフルの銃口をブリッジへむけ、ありったけのビーム弾を撃ちこんだ。

 ブリッジが粉々に崩壊する。

 その衝撃でイオンジェネレーターのエネルギーが暴走をはじめた。

 機体をすばやく変形させたコトハとサクヤは、すぐにその場から飛びさる。

 エネルギーの暴走は次第に艦全体へと広がり、船体を崩壊させながら大きな光輪となって散った。

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