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#1(改稿)

 宇宙海賊ベロム・ロイジャーは、終始ご満悦の様子だった。

 新調したばかりの海賊船の性能は、予想していた以上のものだったからだ。

 むさくるしい髭面は、完全に緩みきっている。

 ブラックマーケットで手に入れたドルドリア帝国の旧式戦艦は、退役済みの旧型艦とはいえ、海賊行為をするには過分なまでの戦闘力を有していた。

 そして、緒戦を飾るにふさわしい相手を見つけ、略奪行為を行ってきたばかりなのだ。

 それは、傭兵艦の護衛を従えた、国籍不明の輸送船だった。

 いつものように僚艦のフリゲート艦二隻を先回りさせ、ベロムが乗座する旗艦で背後から追い立てた。

 傭兵艦はすぐに転進してベロムの迎撃にあたったが、駆逐艦三隻など戦艦の相手にもならない。

 ベロムは何の被害も出すことなく傭兵を蹴散らすことができた。

 その事実こそ、彼を満足させる大きな理由だ。

 だが、輸送船のほうは思ったほどの収穫はなかった。

 こんな辺境を国籍の識別コードも出さず、傭兵の護衛だけで航行しているのだから、なにか秘密の財宝でも積んでいるのではないかと期待したが、輸送船が積んでいたのはネグリアード人の奴隷二人とわずかな美術品のみ。

 とくに妙な模様が入った箱は、不自然なほど厳重に保管されていた。

 とはいえ、ネグリアード人の奴隷は、ヒューマノイドの中でも比較的丈夫な身体を持っているため、とても高値で取引されている。

 美術品に対しての目利きを持たないベロムだが、恐らくそこそこの稼ぎにはなっているはずだ。

 新生ベロム海賊団の初戦を飾るには、十分な成果といえる。

 ベロムの海賊戦艦は、僚艦のフリゲート艦二隻をともなって漆黒の辺境宙域を航行していた。

 艦首に掲げられた海賊旗がはためいている。

 ブリッジでは、ベロムを含めた艦橋要員たちが陽気な歌を大声で大合唱していた。 

「がっはっは! これでこそ大金を出した価値があるというものだ!」

 ベロムは艦長席でふんぞり返り、艦長席の肘かけを豪快に撫でまわす。

 交易船を護衛していた傭兵の駆逐艦は、こちらの主砲を一撃くらっただけで轟沈した。その爽快感が忘れられない。

「ベロム海賊団の名を、全宇宙に轟かせてやるぜ!」

 そう豪語して顎ひげをなでながら豪快に笑ってみせると、手下たちもそれに合わせて歓声をあげた。

 レーダー監視をしていた手下のアルバが、前方を航行する船の存在に気づいたのは、そんなときだった。

「頭ァ、レーダーに艦影がありやすぜ?」

 「こんな辺境宙域にまたか?」

 艦長席にあるレーダー用サブディスプレイに目をやると、アルバの指摘どおり前方から輸送船をあらわすマーカーがまっすぐこちらへ向かってきていた。

「数は一隻。民間の交易船っすかねぇ」

「こんな辺鄙な場所を単艦で航行しているんだ。武装商船か何かだろ。艦影を拡大表示しろ」

 ベロムの指示をうけ、アルバがパネルを操作するとデジタル処理された艦影がブリッジのメインスクリーンに拡大表示された。

 そこに映し出されたのは、真紅の大型船だった。船体に刻まれた黄色のラインが美しい。

「派手な船だな」

「それに図体のわりに足の速い船っすねぇ」

 アルバが指摘したとおり、その船は大型船であるにも関わらず、船足は巡航艦なみだった。

「見ろ、あの高速戦艦なみのスラスターユニットを。ありゃあ、そうとうカスタマイズされてる船だ」

 輸送船のスラスターユニットは、正面から見据えてもはっきりと見えるほどの大きさがあった。

「国籍を示すマークも社名を表すマークも無いってことは、個人であそこまでカスタマイズしたということになる」

 それらがマーキングされているはずの箇所を拡大し、手下たちに説明をするベロム。

「つまり、あの船の持ち主はかなり羽振りがいいに違いない」

 ベロムがそう締めくくると、手下たちは奇声をあげて喜んだ。

 今日はツイている。ベロムは舌なめずりをした。

「主砲をぶっ放して、脅しをかけてやれ。当てるなよ?」

 ベロムの目は、狩人のそれになった。

 ただし、その狩人は相手をなぶり殺す性質タチの悪いそれだ。

「分っかりやした!」

 アルバの声も、まるでゲームを楽しむかのように弾んでいる。

「砲手、正面の輸送船を掠めるように一発ぶっ放せ!」

 軍隊と違い、海賊は家族のような気質がある。

 だから、あれこれ細かな指示を出さなくても、これだけで意思疎通が出来る。

 ベロムの艦から放たれた無警告の凶弾は、真紅の輸送艦のやや左を掠めるように飛翔していった。


「マ、マスター!? ぜ、前方の国籍不明艦隊が、う、撃ってきたよ!?」

 スズネ・スメラギは、桃色のボブヘアを振り乱して慌て叫んだ。

「ただの脅しだ。当たりゃしねぇよ」

 ユーリ・シュリックは、艦長席でふんぞり返りながらやる気のない半眼を向ける。 

「ビームは艦左舷を通過。艦への損傷はなし」

 艦長席の横に並び立つコトハ・スメラギは、目の前にいくつも広げたホログラムの小さなディスプレイをタッチ操作して、必要な情報を読み取って淡々とした口調で報告した。

 彼女が画面を操作するたび、和服を模したメイド服の袖がゆれ、お香のような香りがただよう。

「前方の国籍不明艦隊の詳細が出ました。戦艦一隻、フリゲート艦二隻。戦艦はドルドリア帝国の旧式戦艦であったと思われます」

 報告を聞いたユーリは、めんどくさそうな表情を浮かべ、鮮やかな金髪を搔いた。

 スズネが慌てている以外、ブリッジ内のどこにも突然の襲撃を受けているというような緊張感が全くない。

  コトハは、側面の視界を遮る長い黒髪の一部を指で耳にかけ、ちらりとユーリに視線を移し、なおも淡々と報告を続けた。

「いずれも悪趣味な装飾が施されてあり、艦首には海賊旗が掲げられていることから、個性の欠片もない海賊であると思われます」

 表情一つ変えず、辛らつな評価を口にするコトハ。

 ちなみに海賊が戦艦クラスの艦船を所有しているケースは、極めてレアである。

「海賊からの通信だよ。停船しろってさ。マスター、どうするの?」

 オペレーター席のアヤネ・スメラギは、振り返ってそう言いながら、ずり落ちた眼鏡の位置を指で整えた。

 アヤネとスズネは双子の姉妹で、顔の作りも体格も、髪型までもが同じだった。

 スズネとの違いは、アヤネは髪色が小麦色なことと眼鏡をかけているということだけだ。

「ったく……、めんどくせぇ。おい、コトハ。大人しく退けろと言ってやれ」

 ユーリは、まるで野良犬でもあしらうかのように手をひらひらさせていった。

 コトハは、かしこまりましたと深く頭をさげたあと、アヤネに向かって海賊との回線を繋げるように指示をだした。


「頭ァ、輸送艦から通信ですぜ」

「命乞いだな。繋いでやれ」

 にんまりと笑みを浮かべるベロム。どんな惨めな命乞いが聞けるのかワクワクしていた。

 しかし、予想を反して通信用スクリーンに映し出されたのは、丈の短い着物のような衣装を身にまとう、整った顔立ちをした黒髪の少女だった。

 その表情は、恐怖どころか一切の感情がこもっていないようにみえる。

「お初にお目にかかります。そして、もう二度とお会いすることもないかと思います。わたくしは、傭兵艦タルタロスの艦長ユーリ・シュリック様の補佐をしております、コトハ・スメラギと申します」

 スクリーンの向こうで少女がやたらと丁寧に頭を下げたため、ベロムは挨拶冒頭で棘のある言いまわしをされたことが頭から抜け落ちてしまった。

 口調や服装、感情が現れない表情などから、ベロムはコトハが奉仕用アンドロイドなのではないかと思った。

「あなた様の艦隊は、当艦の針路を著しく妨害しております。速やかに針路をあけてくださいませ」

「頭ァ、このアンドロイド、故障しちまってるんじゃねぇですか?」

 アルバは自分の頭を指で突きながら、大きな前歯をむき出しにして笑った。

 どうやら、アルバもコトハをアンドロイドだと思ったようだ。

 海賊たちの反応に眉一つ動かさず、コトハはさらに言葉を続けた。

「なお、こちらの要望が聞き入れていただけない場合は、実力をもって強制的に通過させていただきますのでご了承くださいませ」

 コトハの言葉があまりにも予想外だったため、ベロムたちの思考がしばし停止する。

「それから、私はアンドロイドなどではございません」

 コトハは、さり気なくそう付け加え、再び頭をさげた。

 しばしの静寂が海賊艦のブリッジを支配する。

 その後、どっと笑いが沸きおこった。

「おい、聞いたか!? 貨物船ごときが実力で俺たちを突破するんだとよ!」

 ベロムは額に手をあて、天井を仰ぎ見ながら必死に笑いをこらえる。

 彼にとってコトハの言葉は、今まで聞いたどんな話よりも笑える冗談に聞こえた。

 コトハが生身の人間かアンドロイドかなどどうでも良い。こんな笑える冗談を真顔で言えるなら是非自分の傍に置きたいと思った。

「だれか、あいつらの自分が置かれた状況を理解させてやれ」

「ククク、了解しやしたァ」

 アルバは笑いをこらえながら、砲撃手に指示をだした。

「いいか、ブリッジには当てるな。スラスターを狙えよ。積荷とあの女を頂くんだからよ」

 ベロムは、そう指示を付け加えて不敵な笑みをうかべた。。

 海賊艦の主砲が旋回し、真紅の貨物船のスラスターに照準をあわせる。

「ありゃ? 頭ァ、貨物船に異変がありやすぜ?」

「異変?」

 ベロムは拡大投影されている真紅の貨物船に目をやる。

 真紅の貨物船は、ブリッジから前方が二つに割れ、割れた船体を外側に向かってゆっくりと回転させた。同時に船底からは、細長い筒状のものがするすると伸びだしてきていた。

 二つに割れた胴は、九十度回転したところで止まり、内部に収納されていた砲塔郡が主砲は甲板部に、副砲は船体側面にそれぞれ姿をあらわした。

「…………は?」

 完全に思考が停止したベロムは、間の抜けた声をもらす。

 先ほどまで貨物船だった船は、みるみるうちに双胴の戦闘艦へと変貌したのだ。

 真紅の戦闘艦の下部から伸びでた筒が内部からスパーク光を放ちはじめる。

 次の瞬間、そこから何かが射出されたかと思うと、フリゲート艦の一隻が艦首から穿たれ爆散した。

 焦りの色を滲ませながら状況を報告するアルバの声は、もはやベロムの耳には届いていない。

 真紅の戦闘艦は砲塔を旋回させ、もう一隻のフリゲート艦に照準を合わせると主砲を斉射した。

 何条ものビームに貫かれたフリゲート艦は、瞬く間に爆散する。

 光球が咲くのは一瞬で、あとには無残な姿をさらすフリゲート艦だったものが空間をただよう。

「か、頭ァ!!」

「ぜ、全速前進、あの艦に取り付け! 直接乗り込んで船ごと奪ってやるんだ!!」

 手下の叫びで我にかえったベロムは、ディスプレイに投影された真紅の戦闘艦を指さし、唾を撒き散らしながら力強く命令をくだした。


「マ、マスター! か、海賊が向かってくるよ!?」

 慌てた口調で振り向いたスズネは涙目だった。

「直接乗り込んでくるつもりなのでしょう」

 そんなスズネを尻目に、コトハはいたって冷静な口調でいった。

「適当に応戦しつつ、光学シールドを艦の前面に集中して展開しろ」

 椅子の背もたれに預けていた上体を起こし、ユーリはやれやれといった口調で指示をだす。

「コトハ、艦の水と食料の備蓄状況はどうなってる」

「ともに三十パーセントを下回っております」

 それを聞いたユーリは、そうかとつぶやいて首から下げた羽ばたいた鷲を模ったチェーンネックレスを指先でもてあそぶ。

 水は飲料水としてのほかに、宇宙船の推進剤としても使う。

 イオンジェネレーターで水素と酸素に分解したあと、水素を燃料として使い、酸素は艦内に供給していた。

「ウェルナー、海賊艦の強襲用パイプを任意の場所に合わせられるか?」

 ユーリは、拡大投影された海賊艦の側面から姿を現したパイプを指さす。

 海賊艦は、散発的な砲撃を繰り返しながらタルタロス目掛けて急接近していた。

 闇雲に撃った海賊艦の重イオン砲は、タルタロスの光学シールドに阻まれ霧散した。

 海賊艦の主砲が光学シールドに干渉するたび、タルタロスは小刻みに揺れるが、スズネ以外のクルーに慌てる素振りは全くみられない。

「俺を誰だと思ってんの」

 操舵席に座るウェルナー・プレガディオは、操舵桿を握ったまま軽い口調でこたえた。

 海賊艦の主砲の光によってウェルナーの整った顔が浮かび上がると、彼が楽しそうに目を細めながら舌なめずりしているのが見てとれた。

「第三ハッチから乗り込ませてやれ。コトハ、ミカヤとサクヤを第三ハッチに向かわせておけ」

「かしこまりました」

 コトハは深くお辞儀をすると、すぐに携帯端末で二人を呼びだした。

「マ、マスター、な、何をするつもりなの!?」

 スズネだけは、海賊に艦内を蹂躙される妄想が膨らんで慌てふためいている。

「心配すんな。水と食料を分けてもらうだけだ」

 ユーリはやる気のない半眼でこたえた。

 タルタロスは、ゆっくりと後退をはじめる。

 タルタロスが放った主砲は、海賊艦の武装を一つひとつ沈黙させていった。

 着実に戦闘力を奪われていく海賊艦。しかし、その勢いに衰える様子はない。

「マ、マスターぁ!」

 スズネは今にも泣き出してしまいそうな声をあげた。

「ミカ姉ぇとサク姉ぇが配置についたよ」

 ディスプレイのコンソールパネルを操作するアヤネ。メインスクリーンが二分割され、右側の画像がタルタロス艦内のものに切り替わった。

 やや広い空間の床には、赤い絨毯が敷き詰められており、壁の埋め込み式飾り棚には、美しい花などが生けられている。

 そこの二人の女性の姿があった。

 彼女らが見据える壁には、エアロック式の大きな丸いハッチが映っていて、その上には『3rd』とかかれた表示灯がある。

 タルタロスの第三ハッチは、来賓用の特別搭乗口だった。

 銃の点検をしていたミカヤ・スメラギは、監視カメラの作動音で自分たちに画像が切り替わったことが分かったらしく、顔の横にかかった栗色のウェーブヘアを指で上品に背中へ流しつつ、柔和な笑みを浮かべてカメラに向かって手をふってみせた。

 その動作に気付いたサクヤ・スメラギは、監視カメラに向かって負けん気の強そうな瞳をむけ、がさつな口調でといかけてきた。

「おい、ユーリ。あたしらは、ここで敵をぶっ殺すだけで良いのか?」

 口を開かなければかなりの美人なのだが、その口調のせいで全てが台無しである。

 長い赤毛も首の後ろで無造作に束ねただけで、彼女からはお洒落に気を使うという女性的な要素が感じられない。

 ハンドマイクを手に取ったユーリは、ただ一言だけ告げた。制圧しろ、と。


「一番砲塔、二番砲塔大破! 四番スラスターユニットに被弾、出力低下!」

「気にするな! 接舷して乗り込んでしまえばこっちのものだ!」

 被弾時の振動で激しくゆれる海賊戦艦のブリッジは、海賊たちの怒号で満たされていた。

 真紅の傭兵艦は、よほど強力なバリアを搭載しているらしく、こちらの攻撃がまるで通じない。

 しかし、勝算が全くないわけではない。

 傭兵艦というのは、艦の機能を最大限まで無人化させている。そうすることで人件費をおさえ、費用対効果をあげているのだ。

 そこに勝機があるとベロムはふんでいた。

 艦の性能が劣っていたとしても、乗り込んでしまいさえすれば、こちらには腕利きの白兵戦要員を大勢抱えている。

 あの艦を制圧することなど造作もないはずだ。あれが手に入れられるなら、こんな中古の旧式戦艦など惜しくもない。

 だからこそ、新調したばかりの戦艦がいくら損傷しようが、気にすることなく突貫させることができた。

 ベロムは、目の前の戦闘艦を駆って全宇宙を暴れまわっている明日の自分を想像して、悦に浸ったいやらしい笑い声をもらした。

 傭兵艦が間近まで迫り、むこうのブリッジが肉眼でも確認できる。

 人影は少ない。ベロムの読みは正しかったようだ。

「敵艦への接舷が完了しやした。強襲用のパイプを伸ばしやす!」

 海賊戦艦から伸ばされたパイプは、真紅の傭兵艦へと結合される。

 傭兵艦との回廊となったパイプ内では、三十人の屈強な海賊たちが得物を手に突入口が強制開放されるのを心待ちにしていた。

 ロックを意味する赤いランプがオープンの青にかわり、ぷしゅんと空気が抜ける音をたててエアロックが左右にひらく。

 そこで彼らが目にしたのは、二人の美しい女性の姿だった。

「ようこそ~、タルタロスへ」

 長い栗色のウェーブヘアの女は、穏やかな笑みを湛えながら深くお辞儀をした。

 両腰にぶら下げた火薬式のハンドガンは、女の物腰や和服を模したメイド服に不釣合いで物々しくうつる。

「本日、皆様のご案内を勤めさせていただく、わたくし『ミカヤ』とぉ、隣にいるのは妹の『サクヤ』でございますぅ」

 間延びした口調で自己紹介を終えると、海賊たちに向かってにっこりと微笑みかけた。

「おい、聞いたか? この姉ちゃんたちが艦を案内してくれるってよ!」

 海賊の一人がそういうと、どっと笑いが起こった。

「じゃあ、まずは姉ちゃんたちには、俺らの相手をしてもらおうか!」

 ベルトのバックルに手をかけ、嫌らしい笑みを浮かべながら歩み寄ろうとした海賊の頭部が吹き飛び、後ろにいた仲間の顔に返り血や肉片を撒き散らす。

 いつの間に抜いたのか、ミカヤの銃口からは煙が立ち上っていた。

 場の空気が一気に凍りつく。

「勘違いなさってはダメですよぉ~。私たちがご案内さしあげるのは~、タルタロスではなく冥途へですよぉ~」

 そういって、もう一丁の銃もホルスターから静かに抜くミカヤ。

 それに合わせて妹のほうも腰の刀をすらりと抜きはなち、不敵な笑みを浮かべていった。

「さあ、踊れ。死の円舞ロンドをな」

「て、てめぇ!」

 我にかえった海賊たちは、怒声をあげてなだれ込もうとする。

 サクヤは、監視カメラに向かってハンドサインをおくった。

 すると、重力の縛りから突然開放される。

 無重力で体が浮き上がった海賊たちは、狭い範囲に密集しているせいで互いが邪魔になり、思うように身動きができないでいた。

「では、序章プロローグといきましょう~」

 ミカヤは体を宙に漂わせ、背後の壁を足場に二丁のハンドガンの連射させる。

 弾丸は海賊たちの眉間を正確に撃ちぬき、血球と脳漿を飛散させた。

 彼女の愛銃は五十口径の自動拳銃で、その反動は凄まじい。

 それを片手で軽々あやつり、しかもことごとくをヘッドショットで仕留めている。

「おい、ミカ姉ぇ! あたしの獲物も残せよ!」

 次々と屠られていく海賊たちに慌てたサクヤは、ミカヤが弾倉の交換をしている隙に壁を蹴って海賊たちの中へ飛びこんだ。

「永遠を踊りやがれ」

 すれ違いさまに二人の海賊の頚動脈を斬りさく。

 海賊たちは激しく噴血させるが、サクヤは一滴の返り血を浴びることもなかった。

 なんとか姿勢をととのえて反撃を試みようとする海賊もいたが、銃を構えればサクヤが手首ごと斬り落とし、ミカヤが額を撃ちぬく。

 強襲用パイプのなかは、ものの数分で死屍累々と化した。

 サクヤは血振りをして、無重力空間にただよう体の運動エネルギーを相殺して床におりたつ。

「まったく、弾もタダではありませんのに~」

 ミカヤは柔和な笑みのまま、眉尻だけ下げて嘆息をついて銃を両腰のホルスターにおさめてサクヤの横に立った。

 その瞬間、重力が戻り、無重力をただよっていた海賊たちの体や血が一斉に床へおちる。

「やっぱり、得物はこいつにかぎるぜ。仕留めたときの感触がちがう」

 サクヤは、そう言って柄頭にキスをした。

「女の子がそんな野蛮なことを言っちゃだめよ~」

「ミカ姉ぇが言うか……」

 敵を仕留めた数は、ミカヤのほうが多い。

「じゃあ、さっさとブリッジを制圧しちゃいましょう~」

「って、おい! 一人で行くなよ!」

 ミカヤは、サクヤの言葉を無視するように海賊艦内部へと入っていった。


「突入口の制圧が完了したようです」

 コトハは深々と頭をさげた。

「敵艦のメインコンピューターへのハッキングも完了したよ」

 アヤネはコンソール上で指を躍らせながら、次々と海賊艦のシステムを掌握していく。

「二人の端末に艦内の配置地図を転送してやれ。それから、スズネはVAMPヴァンプに搭乗して艦外作業の準備をしろ」

 VMPとは可変機動装甲ヴァリアブルモビルパンツァーの略称で、タルタロスには九機のVMPを搭載が搭載されていた。

 戦闘機形態と人型形態という二つの形態へと変形が可能であり、必要に応じてその形態を変形させて運用する。

「え、な、なんで……?」

 スズネは、不安げな上目遣いを投げかけた。

「物資搬入作業をするためだ。戦闘じゃねぇから安心しろ」

 そんなスズネに笑みをかえすユーリ。

「アヤネはそのまま作業を続けろ。コトハ、俺たちも行くぞ」

 二人に指示を言いのこし、ユーリは席をたってコトハへ視線をむけた。

「かしこまりました」

 コトハは最敬礼したあと、ブリッジから出ていくユーリに付きしたがった。

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