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#15(修正)

「被害状況を知らせろ!」

 ジェラルドは苛立っていた。

 ここまで鮮やかに出し抜かれるとは、全く予想していなかったからだ。

「VMP五機が撃墜。防空駆逐艦はローグ、ハーミット、ジャベリン、ソードブレイカーの四隻が大破し戦闘不能。重巡航艦ティポーン、戦艦サラマンドラがそれぞれ爆沈しました」

「防空駆逐艦は全滅か……っ!」

 ジェラルドには、それよりも気になることがあった。

 これだけの艦艇を有していながら、一隻たりとも反撃を試みていないのだ。

「なぜ、誰も撃ち返さなかったのだ」

 反撃を禁止するような指令は出していないし、艦隊からの援護があれば、VAMP隊にもここまでの被害は出なかっただろう。

 上手くすれば、揚陸艇が敵艦と合流する前に拿捕できたかもしれない。

「それなのですが、火器管制システムがエラーをおこしていて、一切の攻撃ができなかったようです」

「全ての艦艇でか?」

「全ての艦艇で、です」

 ジェラルドは怒り任せに拳を振り下ろし、指令席に備え付けられている操作パネルを叩き割った。

 しんと静まり返るファーブニルのブリッジ。

「閣下……今はシステムも復旧しております。ご命令を……」

「全艦、第一種戦闘態勢で待機。MAVP隊は全機発進。月に隠れた奴らをいぶりだせ」

 ジェラルドは睨みすえ、腹の底から搾り出すような声で搾り出すような低い声で命令した。


 タルタロス、月の渓谷に身を潜めていた。

 ユーリは揚陸艇から降りるなり、VAMP整備員たちに向かってさけぶ。

 タルタロスの格納庫では、VAMP整備員たちが慌しく動いてた。

「今回は、俺も出撃するからな」

 整備班長をつかまえたユーリは、自分の機体を準備するよう指示をだす。

「ユーリ、俺も出撃させてくれ」

 そういって近づいてきたのは、リカルドだった。

「まだ、戦闘は無理だ。お前はファレルと一緒にタルタロスで待て」

 出撃準備の進捗状況を確認しながら、リカルドをあしらう。

「手助けしてもらうばかりで、まだ何もお前たちに返せていない。少しは借りを返させてくれ」

 リカルドの真剣な眼差しを、ユーリは半眼のまま見つめかえしていた。

「死ぬかもしれないんだぞ?」

「覚悟のうえだ」

「お前が死んだら、ファレルはどうなる?」

「それは……っ」

 リカルドは、思わず言葉につまる。

「いや、ファレルも理解してくれるはずだ。このまま借りを作ったままでは、ベラルージュ王族の名折れになる!」

 それを聞いたユーリは、大きなため息をついた。

「まったく……王族ってのは、めんどくせぇ人種だぜ……ったく」

 ユーリは、全身から呆れと諦めの色を滲ませながら頭をぼりぼりと掻く。

「良いか、お前はスズネの護衛だ。絶対、前線には出るな」

「わかった」

 こくりと一つ頷くと、リカルドは自分の機体へといそいだ。

「良いのですか?」

 ユーリの傍らで、リカルドの後姿を目で追うコトハ。

 コトハは、すでにパイロットスーツへと着替え終えていた。

「スズネには護衛をつける必要あったし、まあ、仕方ないだろう」

 そういって、ユーリは整備員が持ってきた真紅のパイロットスーツを受けとる。

 ユーリがパイロットスーツを着ている間に、彼の愛機であるヴェズルフォルニルが運ばれてきた。

 パイロットスーツと同じく真紅の機体の形状は、コトハのスレイプニルとどことなく似ていた。

 大きな違いは、主翼に補助ブースターが備え付けられていることと、スラスターノズルの形状が高出力型になっていることだろう。

 ユーリは、愛機に向かって歩きだした足をはたと止めた。

「コトハ」

 振り返らずに名を呼ぶ。

「はい」

「死ぬなよ?」

 二人の間には、まるで時間がとまったような空気がながれた。

 一切の音が消え、心臓の鼓動だけがきこえてくる。

「……はい」

 いつもの堅苦しい返事ではなく、一言そうかえすコトハ。

 そして、二人はそれぞれの愛機に乗り込んだ。

 ヴェズルフォルニルへ乗り込んだユーリは、すぐさま各種回線をひらく。

「ギンジさん、聞こえるか?」

 パイロットスーツの上から指先でネックレスを触りながら、ユーリはタルタロスのブリッジへ呼びかけた。

「聞こえております」

「月の周辺は、スズネによってジャミングが施されている。敵VAMP隊に見つからないよう、タルタロスはその位置で待機だ」

「了解しました」

「捕虜は食堂でカエルスに監視させるから、伝えておいてくれ」

「承知しました」

 その間にリカルドのVAMPが出撃していく。

「スズネ」

「は、はい」

「護衛のためにリカルドをそっちへ向かわせた。とはいえ、お前の機体には戦闘能力が備わっていない。とはいえ、敵には見つからないように注意しろよ」

「りょ、了解だよ」

 格納庫では、出撃準備が完了したVAMPから次々と出撃させていた。

「他のVAMP隊は、敵編隊を全力で歓迎してやれ。派手にいくぞ!」

 その瞬間、レッドランプがブルーにかわる。

 ヴェズルフォルニルは、射出機によって機体を急加速させた。


「ちっ」

 ドルドリア帝国軍VAMP編隊長のアーロン・マクベス大尉は、愛機のレーダーを見て舌打ちした。

 ジャミングが酷くて全く機能していない。

「隊長のマクベスだ。見てのとおり、ジャミングが酷くて敵艦の捜索は手探りになる。VAMP隊各機は、三機編隊ケッテを組み、敵艦の発見につとめろ」

 マクベスが指示を出すと、部下たちは短時間であらかじめ決められている小グループへと分かれた。

「敵は手練だ。いかなる場合でも三機編隊で行動し、各個撃破の隙を与えるな」

 敵の戦力は不明だが、かなり腕がたつ連中であることは先ほどの戦闘で証明済みだ。

 得体の知れない敵からのプレッシャーを感じ、アーロンは額に冷や汗を滲ませていた。


 アヤネは愛機のスヴァルジファリを人型に変形させ、月面の各所に愛機のミサイルポットを利用したセンサー式のトラップを仕掛けていた。

 こんなもので敵機撃破までは狙えないだろうけれど、足止めくらいにはなるだろう。

 コックピットから見える景色は、まだしんとしていて、戦闘に伴う爆発光などは見えていなかった。

 最後のトラップを仕掛け終え、ミサイルポットを補充するためタルタロスへ戻ろうとしたとき、突然ミカゲからの通信がはいった。

「アヤネちゃん、トラップの準備は順調?」

「手持ちの装備は全部設置し終えたから、今からそっちへ戻ろうかと思ってたとこだよ」

 作業に遅れがあるわけでもないし、アヤネは母からの通信に違和感を感じた。

「なら、アヤネちゃんはタルタロスへは戻らないで、あれを見つけたアステロイドベルトまで行ってちょうだい」

「マスターからは、そんな指示受けてないよ?」

「みんなには秘密で、こっそり指示を受けたのよ」

 訝しむアヤネ。

「アヤネちゃんにしかできない仕事があるからって、マスターは出撃で慌しかったでしょ? 揚陸艇で指示をうけたの」

 どうにも腑に落ちないが、母の言葉は自然にも思えた。

「あのね、時間がないの。今から言うことをやってちょうだいね?」

「…………」

 にっこりと微笑む母からは、有無を言わさぬ威圧感のようなものを感じとった。


 ミスティックレーダーが敵の機影をとらえる。

 感応波を利用しているミスティックレーダーは、ジャミング下であっても有効だった。

 ユーリは、前衛VAMP隊で二機編隊ロッテを二つ組んで敵を待ち構える。

 ユーリとコトハ、サクヤとラッドがそれぞれのパートナーだった。

 ラッドはこの編成に不服らしく、先ほどからぶつぶつと文句を言い続けている。

「ミカヤ、射程内に敵をとらえたら、問答無用でぶちかましてやれ」

「了解~」

 ミカヤは四機の更に後方、月の山脈の影に身を潜めて狙撃のチャンスをうかがっていた。

 今回の戦闘でダーインが装備したライフルは、スナイパーレールライフル。

 二本のレールに電流を流し、電磁誘導によって弾を撃ちだす武器だ。

 レーザーライフルと比べると弾速は落ちるという欠点はあるが、照射型のレーザー兵器やビーム兵器と違って発射ポイントが特定されづらいという利点がある。

 超高速で飛行する物体を狙う場合、たとえわずかでも弾速が落ちるという欠点は致命的で、多くのスナイパーは使いたがらない武器なのだが、ミカヤならその欠点を技術で補うことができる。

 ミカヤは、双眼鏡のようなスコープを覗きこんでいた。

 ダーインは、人型に変形し、腹這いになってライフルを構える。

 超高倍率のスコープが敵編隊の機影を捉えた。

 そのうちの一機を赤いレティクルの中心に据えてから、未来位置を予測して敵機の進行方向へ少しだけずらして有効射程内まで近づいてくるのを待ち構える。

 トリガーを引く指先に全神経を集中させるミカヤ。聞こえてくるのは、自分の心音だけだ。

 レティクルの色が赤から青へと変わり、敵機が有効射程内へ入り込んだことを知らせた。

 すばやくトリガーを引き、狙った敵をスコープで追いつづける。

 その敵は、しばしの間のあと、まばゆい光輪と化した。


 突然、味方のVAMPが爆発した。

 アーロンは、それが敵からの狙撃だとすぐに理解した。

 照射光が無いところをみると、実体弾を使った狙撃だろう。

 周囲に小惑星などはなく、月から狙ってきたものだと思われる。

 月までは、まだかなりの距離があり、この距離から弾速で劣る実体弾で狙い撃ちしたのだとしたら、敵には凄腕のスナイパーが含まれているということになる。

 冷や汗が噴きだした。まるで地獄へいざなわれているような気分だ。

「アーロンから各機。敵に凄腕のスナイパーがいる。直線で飛ばず、回避運動をとれ」

 アーロンからの指示を受けた各機が蛇行飛行させはじめた。

 不規則な動きをしていたほうが狙い打ちされる危険性は減る。

 若干、陣形が崩れてしまう。だが、狙撃によって一方的に撃破されるよりはマシなはずだ。


 ユーリは、敵の編隊飛行の乱れをレーダー上で確認していた。

「敵の陣形が乱れた。この隙をついて蹂躙してやれ」

 四機のVAMPが一斉にバーニアを噴かす。

 月の地表付近を飛んで敵編隊へ接近した。

「斬りこみは、俺がやるぜ!」

 ラッドは、VAMPを更に加速させる。

 そして、敵編隊に向けて、搭載しているありったけのミサイルを発射した。

 ミサイルは、敵VAMPを三機撃墜する。

 ラッドは、そのまま敵編隊を抜けた。

「はりきってやがるな、ラッドのやつ」

「ミサイルの無駄撃ちでございます……私の忠告は、馬の耳に念仏だったようでございます」

 愉快そうにつぶやくユーリと、呆れた口調をかえすコトハ。

 ラッドの突貫によってユーリたちの位置を知られたらしく、敵編隊の三分の一がこちらへと転進してきた。

「ワルツのお誘いだ。相手してくるぜ、ユーリ!」

 サクヤは、嬉々として叫ぶ。

 機体を加速させ、敵編隊の中を舞い踊った。

 迫りくる敵機がばら撒くレーザーバルカンを鮮やかに回避し、互いの機体の腹部を掠めるほどの距離ですれ違う。

 ドゥラスロールの下部垂直尾翼が敵機と接触し、派手な火花を散らせた。

 敵VAMPは、機首から機尾にかけ真っ二つに斬りさかれて爆散する。

 敵VAMP編隊は、慌ててサクヤから距離をとりはじめた。

 コトハは、その動きを目で追いつづける。

 コトハのヘルメットにはミサイルの照準機能がついていて、対象を目で追うことでロックオンすることが可能だった。

 敵機をロックオンするコトハ。ロックオンの数は五機だ。

 コトハが操縦桿の発射ボタンを押すと、機体両翼に吊り下げられていた二基の大型ミサイルが敵編隊目掛けて発射された。

 ミサイルは、敵編隊の手前で炸裂し、無数の小型ミサイルと化して敵機に襲いかかる。

 逃げ惑う敵機。主翼に被弾したVAMPが軌道を乱す。そこへ次々と小型ミサイルが襲い掛かり、敵機を粉砕した。

 緊急で人型へと変形し、ミサイルを次々と迎撃する熟練パイロットもいた。

 だが、完全に足を止めてしまったことで、ミカヤにカメラ機能を有する頭部を狙撃された。

 レーダーが機能せず、カメラまでも失ったVAMPは、ミサイルの迎撃が不可能になり、そのままミサイルの餌食となってしまった。


「こいつら……一体……っ!」

 短時間で立て続けに九機のVAMPを失い、アーロンは驚愕していた。

 スピーカーからは、味方の悲鳴や怒号が聞こえてくる。

 だが、まだ数の優位が失われたわけではない。

 まずは、混乱に陥っている味方の秩序を取り戻す必要がある。

「落ち着け、敵の数は少ない! 見ろ、今の攻撃で敵はミサイルを撃ちつくしているぞ」 現時点で確認できている四機のうち、斬り込みをかけてきた白亜のVMPは、最初の攻撃でミサイルを全て撃ちつくしている。

 クラスターミサイルは脅威だったが、それもあの二発で撃ち止めのようだ。

 下部垂直尾翼で相手を切り裂いたVAMPにいたっては、ミサイルすら積んでいない。

「落ち着いて対処すれば、数に勝る我々に分がある!」

 その言葉の効果か、乱戦状態だった宙域に少しずつではあるが秩序が戻りつつあった。

 目の前の四機も脅威だが、何より対処しなければならないものがある。

「第二、第四小隊は、月面へ向かって敵スナイパーならびにジャマーを探しだし、これを破壊しろ」

 スピーカーから了解した旨の返答がかえっきた。

 六機のVAMPが戦闘宙域から離脱を試みる。

 白亜のVAMPが追撃する素振りを見せた。

「各機、味方の離脱を援護しろ!」

 アーロンの指示を受け、数機のVAMPが白亜のVAMPを牽制する。

 白亜のVAMPは、人型に変形して急制動をかけ、手にしたビームアサルトライフルで反撃を試みた。

 だが、秩序を取り戻した正規軍パイロット相手に不意打ちでもない攻撃がそうそう当たるものでもない。

 六機のVAMPが月方面へ飛び去っていくのを確認し、アーロンは小さく笑みを浮かべた。


「ユーリ! こいつら指揮系統を回復させたぞ」

 ラッドは、ビームアサルトライフルを撃ちながら焦りの声をあげた。

 放たれたビームのほとんどが虚空へと消え、かろうじて撃破できたVAMPはたったの一機だ。

 その間にもロックオンアラートが鳴りつづいていて、ラッドは慌ててVAMPを人型に変形させて飛び去った。

 その後ろを多数のミサイルが追尾していった。

「秩序の回復が予想してたより早いな」

 バックパックのレーザーキャノンで敵機を撃ちながらユーリ。だが、その攻撃はあっさりと避けられてしまう。

「さすがは正規軍といったところでしょうか」

 そういいながら、コトハはユーリの攻撃を避けた敵機を撃墜した。

 ユーリとコトハは、お互いにカバーし合いながら戦っているので、着実にスコアを伸ばしている。しかし、サクヤとラッドは二人ともスタンドプレイになっていて、逆にそこを突かれて窮地に陥る場面すらあった。

「あいつら、何やってやがるんだ」

 ユーリは舌打ちをした。

「コトハ、お前はサクヤのカバーにまわれ。俺はラッドをサポートする」

「了解いたしました」

 ユーリは、停滞し始めた状況を変えるため、それぞれの僚機を変えることにした。


 六機のドルドリア軍VAMPは、月の軌道上に達していた。

「レーダーが使えない以上、肉眼での発見となる。周囲の状況に目を凝らせ」

 第二小隊長のロレッタ・ヘイグ中尉は、部下たちに命じた。

 眼下には、月の広大な地表がみえる。

「手がかりもなしに、この中から探し出すなんてね……」

 ロレッタは小さなため息をついた。

 月が惑星より小さいとはいえ、それでも十分に広い。

 そのうえ肉眼での捜索になるため、敵のテリトリー内であるにもかかわらず、VAMPの飛行速度も落とさなければならない。

「これじゃあ、ただの標的じゃない」

 ロレッタは、ひとりごちた。

 二つの小隊は、第二小隊が前衛を担当し、第四小隊が後衛を担当している。

 それぞれの小隊は、隊長機を先頭にして、左右後方に一機ずつ僚機を従えていた。

 敵機の捜索は、難航するかに思われた。

 その時、ロレッタの右後方を飛ぶ僚機が狙撃をうけ、火だるまになりながら月面に激突して爆散する。

 第四小隊長のリック・ポーター少尉は、味方機が狙撃を受けた瞬間、弾が七時の方向に貫通したのを確認した。

「ちっ! 攻撃の方角は分かったか?」

「一時から二時の方角と思われます」

 ロレッタの質問に即答するリック。

「分かった。第二小隊は、このまま直進して敵の捜索にあたる。第四小隊は敵スナイパーの撃破に向かえ」

「了解。第四小隊は敵スナイパーの撃破に向かいます」

 リックは命令を復唱し、僚機を引き連れてスナイパーが潜んでいると思われる方向へ針路をかえた。


「あら~? バレちゃったかしらね~」

 ミカヤはVAMPを立ち上がらせ、スナイパーレールライフルをバックパックに装着させた。

 接近する敵小隊の動きには、まだこちらを発見したような素振りは見えないが、このままでは発見されるのも時間の問題だろう。

「ん~、たしかアヤネちゃんが敷設したトラップがあったわよね~」

 もともとは、タルタロスへ接近する敵機の足止め用に設置されたトラップだが、スナイパー仕様の機体が三機のVAMPを同時に相手にするのは、いささか厳しい。

 ミカヤはダーインを戦闘機形態へと変形させ、あえて目立つように敵小隊の前に姿をさらした。

 コックピットには、すぐにレーダー照射をうけているアラートが鳴った。

「ふふ、せっかちさんね~」

 まるで逃げるようにダーインを後退させるミカヤ。

 ロックオンアラートが鳴ったかと思うと、すぐにミサイル接近を知らせる警告音に変わった。

 フレアをばら撒きながら、右へ旋回してミサイルを回避する。

 ミサイルは、フレアに針路を惑わされ、月の岩山に当たって爆発した。

 敵小隊は、ダーインを機銃の射程内におさめようと、更に加速する。

 ミカヤはダーインを岩山の影に飛びこませ、人型へ変形させて機体を忍ばせた。


 リックは、目の前で敵機が岩山の裏へ隠れるのを見て笑みを浮かべた。

「ベナントとワイラーは地上から敵機を追え。俺は左側から回り込んで敵機を挟み撃ちにする」

「了解」

 リックの命令を受けた二機は、月面へ降下させるために減速し、VAMPを変形させようとした瞬間、左右から無数のミサイルが襲ってきた。

「なっ!?」

 ろくな回避運動もできないまま、瞬く間に撃墜されるベナントとワイラー。

 山の左側から回りこんだリックを待っていたのは、自分にしっかりと照準を合わせていた敵機の姿だった。

 スナイパーレールライフルの至近弾を受けるリック機。

「そんな、バ――」

 リックの意識は、まばゆい閃光の中に消えた。


「ど、どうしよう……」

 こちらに向かってまっすぐ飛んでくる敵VMP小隊を見て、スズネは激しく動揺していた。

 それは偶然であり、敵に見つかったわけではないのは分かっている。

 黙ってやり過ごせば見つからない可能性のほうが高い。

 だが、スズネの性格がそれを不可能なものにしていた。

 そして、僚機の同様は、兵士としてまだ新米であるリカルドにも伝わっていた。

「敵に見つかったのか!?」

「え、いや、た、たぶん……」

 スズネは「たぶん見つかっていない」という意味でいったつもりだが、リカルドには「たぶん見つかった」という意味に聞こえた。

 リカルドの胸の鼓動が一気に高まる。彼にとっては、はじめての実戦だ。

 VAMPのマニピュレーターに握られたビームマシンガンを確かめるリカルド。

「俺が何とかする!」

「ま、まって……っ!」

 そして、スズネの制止も聞かずに飛びだした。

「うぉおおお!!」

 恐怖に飲み込まれそうになる精神を必死におさえるため、咆哮をあげる。

 だが、リカルドは、敵に照準を合わせたまま引き金を引くことができなかった。

「リ、リカルドさん!?」

 スズネは思わず声をあげる。

 このままでは、中途半端な返事をしたせいでリカルドが撃墜されてしまう。

 敵小隊は、リカルドに向けてビームバルカンを発砲してきた。

 敵のビーム弾を浴びたリカルド機は、脚部や左腕を消失させる。

「くっ、俺は何もできないまま死んでしまうのか……!?」

 リカルドが死を覚悟したとき、

「だめぇええ!!」

 スズネの叫び声とともに、目の前を何かが遮った。

 リカルドの盾になるように飛び込んできたそれは、敵のビーム弾によって爆散した。

 爆発の衝撃で我に返るリカルド。

 気付いたときには、無意識でトリガーを引いていた。

 リカルドが無意識で撃った弾は、先頭を飛ぶ敵VAMPのコックピットを粉砕した。

 だが、その後ろを飛んでいたVAMPは、リカルドの頭上を通り過ぎてスズネのドヴァリンへ向かった。

 再び敵機からばら撒かれたビームバルカンの弾は、ドヴァリンのレドームを破壊する。

「きゃあああ!!」

 そして、敵機が再攻撃に移るためVAMPを人型へ変形させようとした瞬間、機体を穿たれて爆散した。

「二人とも~、大丈夫~?」

 スピーカーから流れてきたのは、ミカヤの間延びした声だった。

 それを聞いたリカルドの身体から、一気に力が抜けた。

「こちらは無事だ。スズネも生きている」

 ドヴァリンの通信マイクは、スズネの泣きじゃくっている声をはっきりと捉えている。

「だが……」

「ジャミング、切れちゃったね~」

「俺のせいだ」

 リカルドの盾になるように飛び込んできたのは、スズネがジャミング用に展開していたドローンだった。

 しかも、メインシステムであるドヴァリンのレドームも大破してしまっている。

 ジャミングが切れたということは、月面に潜んでいるリカルドたちだけではなく、タルタロスの位置も知られてしまっているということだ。

「まあ、起きちゃったことは仕方ないし~、リカルドさんもスズネちゃんも戦闘不能みたいだから~、とりあえずタルタロスへ帰艦しちゃいましょうね~」

 ミカヤは、落ち込むリカルドに能天気な口調で移動を促した。


「マスター」

「ああ、分かっている」

 急に敵の動きが変わった。

「おい、逃げるのかよ!」

 戦線を離脱していく敵機に向かって叫ぶサクヤ。

 追いすがろうとするが、それはすぐに断念した。

 常に最前線で戦っていた彼女の機体は、すでに中破していた。

「なんで急に撤退したんだ?」

 まだ戦えるぞと言いたげなラッドだが、彼の機体も損傷が著しい。

「理由が分かりました。ジャミングが切れております。敵にタルタロスの位置が知られたようでございます」

「なあ、それって……」

 サクヤは声を絞りだした。

 ジャミングが切れたということは、スズネの身に何かが起こったということになる。

「これから艦隊戦が始まる。タルタロスへ戻れば全て分かることだ。俺たちも帰艦するぞ」

 ユーリたちは機体を転進させ、タルタロスへと急いだ。

残すところ最終話とエピローグのみになりましたっ!

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