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#13(修正)

「前方に艦影」

 ドルドリア帝国軍第二十三遠征艦隊帰艦『ファーブニル』のブリッジで、女性オペレーターが驚きの声をあげた。

 この宙域は人類未踏の地のであり、自分たち以外の船がいるはずはない。

 あるいは、偶然に迷い込んだ冒険者か海賊でもいたのだろうか。

「スクリーンに拡大投影しろ」

 ジェラルドは、オペレーターに命じた。

 スクリーンに投影されたのは、見覚えのある真紅の輸送艦だった。

 ――しかし、なぜここに?

「前方の艦から入電。当宙域の占有権を主張しております」

 思考をめぐらせる間もなく真紅の輸送艦からのメッセージがとどく。

「前方の船以外の艦影はあるか?」

「いえ、レーダーに他の艦影はありません」

 ジェラルドの口元がゆるむ。

 何故、奴らがここにいるのかなどどうでもいい。最初からいなかったことにすれば良いだけなのだから。

「主砲発射準備。ターゲットは前方の輸送艦」

「警告なしで発砲なさるのですか!?」

「あの艦をよく見ろ。アルスレーナ宇宙ステーションで暴れた海賊船だ」

「あ……」

 指摘されてオペレーターも気がついた。

「主砲準備。照準は前方海賊船!」

 オペレーターは、気を取り直して砲術課に指令をつたえる。

「主砲準備完了」

「撃て」

「主砲発射」

 ファーブニルの主砲が一斉に火を噴いた。

 まばゆい閃光は、一本残らず真紅の輸送艦へと吸い込まれる。

 閃光に貫かれた輸送艦は、船体を分断させながら何度も小爆発を繰りかえし、最後はプラズマと化して闇に散った。

「海賊船の爆散を確認」

 ジェラルドは、その映像を満足げにながめた。

「全艦、タビト恒星系第二惑星へ進軍せよ」

 勝利の余韻にひたりながら、ジェラルドは全軍に号令をかけた。

 加速に伴うGが全身を包みこむ。

「ファレル姫をここへ連れてこい」

 オペレーターに命じるジェラルド。彼の計画は、大詰めをむかえていた。


 メナスの端末に指令がとどく。

 内容は、ファレルをブリッジへ連れて行くというものだった。

 彼は、正直なところ気乗りがしなかった。

 リュディガー司令のファレルに対する扱いは、粗略でまるで物でも扱うような態度だった。

 だが、軍という縦社会に所属している以上、上官の命令には従わなければならない。

 メナスは、自分の無力さに半ば諦めをいだきながらファレルの部屋へとむかった。

 ファレルの部屋に行くのは、彼のささやかな楽しみの一つなのだが、今日は足取りが重い。

 部屋の前でしばし躊躇ったあと、意を決してノックした。

「メナスです。入ります」

 部屋へ入ると、ファレルはいつものようにベッドに腰掛け、小さな窓から外の闇を眺めていた。

「殿下。リュディガー司令がお呼びです」

 首だけをゆっくりと向けるファレル。

「……そう」

 一言そうつぶやくと、ゆっくりとベッドから立ち上がった。


 第二十三遠征艦隊はタビト恒星系第二惑星にあたる、テラ型の美しい惑星軌道上にきていた。

 第二十三遠征艦隊は、戦艦三隻、戦闘空母二隻、重巡航艦四隻、軽巡航艦八隻、駆逐艦十三隻、補給艦や輸送艦などの支援艦十隻の総数四十隻で構成された艦隊だ。

 その中でひときわ大きな戦艦が、艦隊旗艦のファーブニルだった。

 ファーブニルは艦隊旗艦としての機能を有しており、そのために全長七百メートルと通常の戦艦より遥かに大きく設計されている。

 ファレルにあてがわれたゲストルームは、ブリッジからは最も遠い場所に位置している。

 だから、呼び出してからブリッジに来るまで、それなりの時間を要した。

 ファレルを呼び出してから15分。ブリッジの電子扉が開き、ファレルを連れたメナスが現れた。

「遅くなって申し訳ありません。ファレル殿下をお連れいたしました」

 敬礼をするメナス。ファレルは無表情のまま、彼の横にたっていた。

 ジェラルドはファレルに近づき、力任せに腕をつかむ。

「さあ、力を示すのだ。ファレル姫よ」

 なかば無理やりブリッジの中央へとつれてきた。

「……どうすれば良いのか分からない」

「簡単なことだ。メモリーキューブをかざして念じれば良いだけだ」

 ファーブニルの艦橋がしんと静まりかえる。

 兵士たちの視線がファレルにそそがれた。

 ファレルは、首から下げていた勾玉型のメモリーキューブ握りしめる。

 ここまできたらユーリたちを信じるしかない。

 しばし躊躇したあと、メモリーキューブを頭上にかざして道を指し示すように念じてみた。

 メモリーキューブが淡い光をはなつ。

 その光が一点に集まると、その光は惑星に向かって伸びていった。

 光はブリッジの床で遮られてしまったが、解析員がすぐに光が差した先の解析をはじめる。

「解析結果がでました。東経三十二度五十八分十一秒、南緯十五度二十二分四十八秒」

 解析員が読み上げた座標がメインスクリーンに拡大投影される。

「山岳地帯の中腹に人口建造物を発見しました」

 そこには、朽ちた石の柱が数本たっており、ボロボロの石畳がみえる。その石畳は絶壁へと続き、まるで神殿の入り口のような石造りの入り口が確認できた。

「陸戦部隊を編成しろ」

 部下に命じるジェラルド。

「ファレル姫も一緒に来てもらおうか」

 そして、ファレルの腕を引きよせ、高圧的な態度でいった。


 ユーリたちは、まるで絶壁に張り付くように続く細道を使って、遺跡へと向かっていた。

 そこは人ひとりがやっと歩けるほどの幅しかなく、場所によっては壁に背中をはりつけて進まなければならないようなところもあった。

「こんなところで~、あれに襲われたら大変ね~」

 周囲には翼竜が飛び回っている。ミカヤがいう『あれ』とは、翼竜たちのことだ。

 さいわい、満腹なのか彼らはユーリたちに興味を示さないでくれている。

 翼竜たちの動きに注意しながら絶壁の道をすすむと、やがて目的地が見えてきた。

「潜め!」

 身をかがめて号令をかけるユーリ。

 遺跡の前にドーム状の光があらわれ、その中に多数の人影がうつる。

「物質転送装置……!?」

 驚きの声をあげたのは、コトハだった。

 物質転送装置は各国で研究が進められているしろものだが、それを完成させた科学者は現在まで一人も存在していない。

 現在の科学力とくらべても明らかにオーバーテクノロジーだ。

 つまり――。

「アーティファクトか……」

 ユーリが核心をつく。

 光が消え、現れたのは武装した兵隊たちと、常装姿の男があらわれた。

 彼らは、ドルドリアの国籍章のかわりに見慣れない所属章をつけている。

「あの男がドルドリア帝国軍第二十三遠征艦隊司令官のジェラルド・リュディガー准将でございます」

 その男の右腕には、ドルドリア帝国軍准将をしめす階級章がつけられていた。

 そして、ジェラルドの隣にはファレルの姿があった。

「ファレ――!」

「待て!」

 ユーリは、飛び出していきそうなリカルドの腕をつかんで止める。

「ベラルージュが襲われたときも、ああやって武装した兵士が突然現れたんだ」

 リカルドは、悔しそうに拳をにぎりしめた。

「なぜ、敵がメモリーキューブに詳しいのか、これで合点がいきました」

「どういうことだ?」

 サクヤが訊いた。

「つまり、あいつも守り手の一族だったってことだ」

 コトハのかわりに質問に答えたのは、ユーリだった。

「ドルドリア帝国が~、物質転送装置を開発したなんて話は聞かないわよね~」

 あごに人差し指をあて、小首をかしげてミカヤ。

「これまでの流れから推測すると、リュディガー准将の行動は、ドルドリア帝国の意思と無関係にあると考えられます」

 次々と遺跡の中へと突入していく兵士たちを眺めながら、コトハは淡々とした口調でいった。

「あいつが相当きな臭いやつだってことだけは理解したぜ。で、これからどうすんだ?」

 サクヤの質問に全員の視線がユーリにあつまる。

「チャンスをうかがう」

「そんな悠長な……!」

 リカルドは、思わず声をあげた。

「チャンスは必ずある。だまってついてこい」

 ユーリはそういうと、遺跡の中へと消えたジェラルドたちを追った。

 足音を殺しながらドルドリア兵と一定の距離をおいてついていく。

 遺跡の奥は広く、中は明るかった。

「どういう原理なんだ……?」

 リカルドは、天井を見渡しながらつぶやく。

 ライトなどの人工的な光源などは一切はなく、それでいて内部が淡い光に包まれていた。

「おそらく、天井部から取り入れた陽の光を何らかの手段を用いて増幅させているのでしょう」

 そんな推論をたてるコトハも、光の増幅方法までは分からないようだ。

 先頭を歩くユーリが歩みをとめ、皆に静止の合図をおくった。


「ファレル姫、出番だ」

 遺跡の最深部でジェラルドは、ファレルの背中を押しやり、強引に隊列の先頭に立たせた。

 ファレルの目の前には、二メートルほどの高さの埃にまみれた石柱がある。

「…………」

 ファレルが指先で石柱を撫でると、埃の下からは青く艶やかな柱の表面があらわれ、そこには古代文字がびっしりと刻まれていた。

 そして、ちょうどファレルの目線の高さに、勾玉をはめ込むことができるくぼみがあることに気づく。

 ファレルは首から下げた勾玉型のメモリーキューブを握りしめ、それをくぼみにはめ込むことを躊躇した。

「さあ」

 ジェラルドは、低くうめくような声でファレルをうながす。

「殿下……」

 ファレルの世話係として特別に同行を許されていたメナスは、そんなファレルの様子を心配げにみつめていた。

 ファレルは意を決したように小さく頷くと、くぼみの中にメモリーキューブをはめこむ。すると、まるで吸い込まれるようにメモリーキューブが石柱へと沈みこみ、そこから青い光がはなたれる。

 光はファレルを頭から足先まで、まるでトレースするかのように照らしてから消えた。

 そして、しばしの間のあと、遺跡内を地響きがつつみこむ。

「ふははは、封印は解かれた!」

 両手を広げ、歓喜の声をあげるジェラルド。

 その様子とは裏腹に、ドルドリア兵たちは緊張した面持ちで臨戦態勢にはいった。

 メナスはファレルの手をひいて、石柱から遠ざけた。それにあわせてジェラルドも後ろにさがる。

 まるで霞みが晴れるように正面の壁が消え、中から全身を羽毛で覆われた大型の恐竜が現れた。

 頭の先から尻尾の先まで十メートルを超え、額から突きでた二本の鋭い角と前足が進化したと思われる翼が特徴的だ。

 ドルドリア兵は、一斉にアサルトレーザーライフルを撃った。

 光弾が一斉に恐竜へとそそがれる。

 だが、弾があたる瞬間、障壁によって弾がはじかれてしまった。

「っな!?」

 ドルドリア兵が浮き足だつ。

 次の瞬間、恐竜が口をあけ、額にある二本の角が輝きをはなつ。

 すると、恐竜の口の前に放電するエネルギーの固まりがあらわれ、それがビームとなってドルドリア兵をおそった。

 ビームを食らった数人が蒸発する。

「な、なんだあれは……!?」

 驚きの声をあげたのは、リカルドだった。

「ガーディアンだよ」

 リカルドとは対照的に、落ちついた声で答えるユーリ。

「アーティファクトには、必ずガーディアンが存在する。秘められたテクノロジーが強力であればあるほど、そのガーディアンも強大になる」

 ユーリは銃をかまえ、柱の影からジェラルドたちを覗きみた。

 ファレルの隣には、若いドルドリア兵が一人。ジェラルドとは離れている。

「リカルド、お前はここにいろ。ミカヤとサクヤはドルドリア兵を牽制してくれ。コトハは俺と来い!」

 ユーリは、言い終わると同時に柱の影から飛びだし、コトハもそれにつづいた。

「あー、クソッ! 貧乏くじも良いとこだぜ!」

 ぼやくサクヤ。兵たちへの牽制ということは、ガーディアンの攻撃範囲内に飛び込むということだ。

「ほら~、ぼやかない、ぼやかない」

 サクヤは新手の参戦に混乱しているドルドリア兵の中へ突進し、背後からミカヤが援護射撃をする。

 何人かがライフルを構えて応戦しようとするが、その直後にガーディアンの尻尾でなぎ払われた。

 銃で牽制するユーリ。

 ユーリが撃ったハンドコイルガンの弾は、ドルドリア兵のライフルを正確に撃ちぬき、使用不能へと至らしめていた。

 突然、ガーディアンが舞い上がる。

 宙に舞い上がったガーディアンは、まるで睨めまわすように見下ろし、その視線をファレルにさだめた。

「ファレル!!」

 ファレルが声が聞こえたほうへ視線を向けると、そこには柱の影に隠れたリカルドの姿があった。

「兄さん!?」

 ファレルに驚きと喜びの表情が入り混じる。

「兄上様ですか?」

 メナスの質問に首肯するファレル。

 メナスは周囲を見渡し、戦況を冷静に確認した。

 ガーディアンは、確実にこちらをターゲットにしている。リカルドの位置まで駆け抜けるにも、目の前では乱戦が繰り広がられており、それも難しそうだ。

 メナスはファレルを庇うように立ち、じりじりと後退する。

「撃て! ガーディアンを仕留めろ!」

 ジェラルドの号令で、ドルドリア兵たちのライフルが一斉に火をふいた。

 だが、やはりライフルのビームはガーディアンには届かない。

 ガーディアンは、ドルドリア兵たちを飛び越え、ファレル目掛けてまっすぐに降下してきた。

 メナスは、とっさの判断でファレルをユーリのほうへ突き飛ばす。

「……っ!?」

「逃げてください。殿下」

 メナスは、迫りくるガーディアンの攻撃を紙一重でかわした。

「うおぉおおお!!」

 そして、ライフルの銃身をガーディアンの外皮に押しつけ、ゼロ距離でありったけのビームを撃ちこむ。

 ビームは障壁に遮られることなく、外皮の一部を焼き飛ばした。

 だが、ガーディアンに怯むようすはなく、振り向きざまにメナスの上半身を噛み千切った。

「メナス!?」

 ファレルが叫ぶ。ユーリの腕を振りほどこうともがいた。

「だめだ、ファレル!!」

 リカルドが必死で叫ぶが、その声はファレルの耳に届いていない。そんなファレルにコトハが近づく。

「失礼いたいします」

 コトハはファレルが息を吐ききるタイミングを見計らって、胸に強烈な掌底打ちをくらわせた。

「っ!?」

 ファレルは、一瞬息を詰まらせたかと思うと、そのまま力なく崩れおちる。

 ユーリは、そんなファレルを肩にかつぎ、リカルドのもとへ連れ戻ってきた。

「おい、ユーリ! 撤退するのか?」

 ドルドリア兵たちを撹乱中のサクヤが叫んだ。

 ガーディアンが無差別に暴れはじめたうえ、ミカヤとサクヤの横槍があるせいでドルドリア兵は混乱の極みにあった。

「いや、まだだ!」

 ガーディアンを睨みつけてユーリが叫ぶ。

「お前、まさか……!?」

 ユーリは、驚愕の声をあげるサクヤに笑みをかえした。

「閣下、ここはいったんお引きください!」

「くっ、やむをえん……」

 護衛の兵士に守られるかたちで後退するジェラルドは、腕につけた端末をすばやく操作する。

 すると、彼らの姿がドーム状の光に包まれた。

 光はしだいに小さくなってゆく。そして、その光が消えるとジェラルドたちの姿も消えていた。

 自分たちを置き去りにして司令官が撤退したことを知り、ドルドリア兵たちは更なる混乱におちいった。

 その間も仲間の兵士が次々と倒されていく。

 ドルドリア兵たちは既に戦意喪失していて、ガーディアンの一方的な虐殺がはじまっていた。

「この方たちも~、ドルドリア軍の精鋭でしょうに~」

 ミカヤは、まるで買い物で悩んでいるかのような仕草で頬に手をあてつぶやく。

「まずは、ガーディアンの頭にある角を叩き潰すぞ」

「おい、マジでやるのかよ……」

 うんざり顔のサクヤ。

「あれを倒さないと~、アーティファクトが手に入らないですからね~」

 ミカヤはいたってマイペースだった。

「翼も厄介でございます」

「翼の対応はコトハに任せたぞ」

「かしこまりました」

 コトハは小さく礼をすると、即座に行動に移った。

 兵士たちの混乱に乗じて、ガーディアンの背後に回りこむコトハ。

「俺たちも行動に移るぞ」

 ユーリが動き、サクヤもしぶしぶそれにしたがう。

 ミカヤは、後方からガーディアンの顔を狙って狙撃をおこなった。

 ミカヤのアサルトライフルから発射された実体弾は、障壁に阻まれることなくガーディアンの表皮を砕く。

 兵士たちを蹂躙していたガーディアンの意識がミカヤへと向いた。

「死にたくなかったら俺の言うとおりにしろ!」

 ユーリは、生き残っているドルドリア兵に叫ぶ。

 生き残っているドルドリア兵は九名。既に三分の二以上の戦力が失われていた。

「とりあえず後退しろ!」

 そう叫びながらターゲットをミカヤに絞らせないため、ユーリも銃を撃つ。

 兵士たちの中に動揺と戸惑いが広がった。

「邪魔だから退けって言ってるんだ。このグズどもが!」

 しびれを切らしてサクヤが叫んぶ。

 兵士たちのあいだを抜け、ガーディアンの前に立ちふさがるようにおどりでたサクヤは、居合い抜きでガーディアンの胴を斬りつけた。

 切っ先がガーディアンの腹部に深く刺さりこんで止まる。

「邪魔だってんだ、こんちくしょう! ユーリ、何なんだよこいつは!? 血が全く出ねぇぞ!」

 サクヤはガーディアンの腹部に足をかけ、刺さったままの刀を力いっぱい引き抜こうと試みるが、なかなか抜けてこない。

 ガーディアンは、刀を抜こうと四苦八苦しているサクヤを見下ろし、口をあけてエネルギーを集束しはじめた。

「うわ、やっべぇ!!」

 慌てるサクヤ。

 そこへ柔和な微笑みそのままに、ミカヤが二丁のハンドガンを連射しながら駆け寄ってきた。

 ミカヤの銃から放たれた五〇AE弾は、ガーディアンの表皮を破壊し注意をひきつけるに十分な効果を発揮する。

 ミカヤに向きなおるガーディアン。集束するエネルギーの前方の空間がゆがみを見せた。

「ミカヤ、横へ飛べ!!」

 ユーリは、反射的に叫ぶ。

 それに反応したミカヤが横へ飛んだ直後、ガーディアンが放ったビームブレスはゆがんだ空間で掻き消えた。

 それはミカヤの頭上の空間からあらわれ、先ほどまで彼女がいた空間を焼きつらぬく。

 ビームブレスを吐き終わったガーディアンは、たたんでいた翼の前足を大きく広げ、再び羽ばたきあがろうとした。

「その瞬間を待っておりました」

 その直後、コトハが背後から右翼の付け根を短刀で斬りとばす。

 不意に片翼を失ったガーディアンは、尻尾でコトハをなぎ払った。

 それを二本の短刀をクロスさせて受けたコトハは、そのまま勢いよく吹っ飛ばされて遺跡の壁へと叩きつけられた。

「――っ!?」

「コトハ!!」

「心配……ございませんっ」

 痛みに顔をゆがめ、口の端から流れた血をぬぐいながらコトハは、壁にもたれたままで駆け寄ろうとするユーリを制する。

「それよりも、今がチャンスでございます」

 コトハに言われてガーディアンをみると、ガーディアンの右目にはクナイが突き刺さっていた。

「ミカヤ、サクヤ!」

 ユーリが叫ぶ。

「はい~、サクヤちゃん、たたみ掛けちゃうよ~」

「言われなくたって分かってるっつーの!」

 左右のハンドガンを交互に撃ち、ガーディアンの注意を引きながら左側面に回り込もうとするミカヤ。

 ガーディアンはビームブレスで応戦するが、右目を失っていて狙いが正確に定まらない。

 サクヤはガーディアンの右側から走りこみ、尾から背中伝って頭部まで駆け上がり、右の角を一閃、返す刀で左の角も斬りおとした。

「ドルドリア兵! ライフルを斉射しろ!!」

 サクヤがガーディアンから飛び退くのを合図に、ユーリは後方で待機していた兵士たちに号令をかけた。

 戸惑いから一瞬の間はあったが、隊長らしき兵士がユーリの号令に従うと、残りの兵士たちもそれにならってライフルを一斉に撃ちはなった。

 彼らが放ったビームは、障壁に阻まれることなくガーディアンの身体を焼きつらぬく。

 全身を焼きつらぬかれたガーディアンは、二、三歩たたらを踏んだあと崩れるように倒れた。そして、全身からまばゆい光を放ったかと思うと、ガーディアンの身体ごと光が収縮していき、それは一枚のメモリーチップに姿をかえた。

「血が出ない理由は、これだ」

 ユーリは銃を胸のホルスターに収め、サクヤにむかっていう。

「まさか、ガーディアンがアーティファクトだったとはな……。倒さなけりゃならないわけだ」

 サクヤはうんざりした表情をかえし、刀を鞘におさめてその場に座り込んだ。

 ユーリはゆっくりとメモリーチップに近づき、それを拾いあげてズボンのポケットへと押しこめると、壁にもたれかかったままのコトハに近づく。

「大丈夫か?」

「心配ござ――!?」

 コトハは、返事の途中で強引に手を引かれ、思わず言葉を止めてしまった。

「じ、自分で歩けますから」

「良いから無理をするな」

 身体を支えるためとはいえ、腰に手を回されてコトハは思わず赤面してしまう。

 ミカヤとサクヤは、その様子をニヤニヤしながら眺めていた。

 そんなことをしていると、ドルドリア兵の隊長らしき中年の男がユーリのもとへ歩みよってくる。

「ひとまず、礼を言わせてもらいたい」

「いや、礼には及ばねぇよ。俺たちもあんたらを利用させてもらったしな」

「そうか」

 男は、差し出した手を引っ込め、肩をすくめてみせた。

「それより、あなんたらも俺たちと一緒に来い」

「正気か?」

 男は思わず聞きかえした。

 兵士たちの間にもざわめきがおこった。

 共闘してガーディアンを倒したとはいえ、敵同士であることには変わりない。

 上官であるジェラルドが欲していたものは、目の前に若い男が持っていて、戦力はこちら側のほうが多い。

「俺はいたって正気だ」

「我々がメモリーチップを奪還するために行動を開始するという可能性を考えないのか?」

 男の言葉を聞いて、ユーリは小さく笑った。

「仮にあんたが言う可能性が現実になったとしても、俺たち全員を制圧するには、ちょっとばかり戦力が不足しているぜ?」

「違いない……」

 ガーディアンとの戦いぶりを思いだし、男は苦笑いを浮かべた。

「我々の待遇は?」

「とりあえず、捕虜だな。それとも、ドルドリアを見限って俺の仲間になるか?」

 笑って訊ねるユーリ。ざわめくドルドリア兵。

「……いや。それは、やめておこう。上官には捨てられたが、少なくとも私は祖国を捨てる気はない」

「そうかい。じゃあ、武装解除させてもらうぜ」

 そういうと、ユーリはミカヤとサクヤにドルドリア兵の武装解除を命じた。

「そういえば、自己紹介がまだだったな。私はラルフ・ウィアー大尉だ」

「ユーリ・シュリックだ。ユーリで構わない」

「短い間だが、よろしく頼む」

 ユーリとラルフは、短く握手をかわした。

「ファレル……気付いたか?」

 そんな時、ファレルを介抱していたリカルドの声が聞こえた。

「……兄……さん?」

 上体を起こし、額に手を当てながら記憶の整理をするファレル。

「メナス……メナスは?」

「メナス?」

「私と一緒に居たでしょう?」

 リカルドは、ガーディアンに手傷を負わせた勇敢な若い兵士の存在を思いだした。

「彼は……」

 表情を曇らせるリカルド。

「……そう」

 彼の表情から全てを察したファレルは、悲しげな表情を浮かべてうつむいた。

「手厚く弔ってやりたいところだが、あまり時間がねぇんだ。悪ぃが理解してくれないか?」

 ユーリにそう言われ、ファレルはしばしの無言のあと、小さく首肯をかえした。

「よし、宇宙そらへ戻るぞ」

 移動を開始するユーリ。

 短い間ではあったが、世話になった人間の遺骸をそのままにしていくことへの自責の念から、ファレルは何度も後ろを振りかえるのだった。

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