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#12(修正)

 ジェラルドがタビト恒星系へ旅立ってから遅れること二週間。

 フォルカーは、ようやくタビト恒星系外縁部に到着していた。

 高速巡航艦を旗艦とする、軽巡航艦や駆逐艦など足の速い艦種ばかりで構成された総数二十四隻からなる艦隊を引きつれて。

 戦艦を有する第二十三遠征艦隊とくらべれば、進軍速度には雲泥の差がある。

 二週間の差は十分取り戻すことが可能だろう。

 だが、急ぐ必要はない。

 大切なのは、タビト恒星系へ到着するタイミングなのだから。

「クリンク大佐、ご指示を」

 フォルカーはこの艦隊を指揮するにあたり、大佐へ臨時昇進していた。

「全艦、第四戦速で前進せよ」

 第四戦速でもジェラルド艦隊より遥かに速い。

 昇進は一時的なものであるが、この作戦が成功すれば大佐への昇進は確定事項となる。

 フォルカーの理想を実現するためには、それなりの地位はどうしても必要だ。

 それゆえ、この作戦はなんとしても成功させる必要があった。


 タルタロスは、タビト恒星系第二惑星の軌道上にきていた。

 眼前の惑星には水と大地が存在しているようで、水の青、大地の緑、雲の白が美しい。

 この惑星は、周囲を公転する衛星も一つもっていた。

「赤道半径は六千六百八十二キロ。極半径は六千六百五十一キロ。平均気温は二十二度。大気成分の体積比は、窒素がおよそ七十五パーセント、酸素がおよそ二十三パーセント、残りは二酸化炭素やアルゴン、水蒸気となっているようでございます」

 軌道上から観測した結果を読み上げるコトハ。

「海が六割に対して陸地が四割。陸地には樹木が生いしげっており、生物の生息も確認されました」

 ブリッジのメインスクリーン上では、画像が切り替わるごとに、巨大な爬虫類が植物を食べていたり、獰猛な肉食の爬虫類が得物を捕食している様子が映しだされていた。

「現在、この惑星は地球で言うところの、白亜紀から古代三紀の時代にあたると推測されます」

「恐竜時代……か。生物学者が泣いて喜びそうだな」

 ユーリは、うんざりとした様子でため息をついた。

「いかがなさいますか?」

 コトハは、じっとユーリをみつめた。

「いかがもなにも、ここまできて何もしないわけにもいかないだろう」

 ネックレスの飾りを指先で弄びながらユーリ。そのまま、しばらく思考をめぐらせた。

「この惑星を中心に、相互で索敵範囲をカバーしあえる範囲で八方向へ偵察衛星を飛ばせ。スズネはアヤネと協力し、VMPを使って周辺宙域を詳しく解析しろ」

「て、偵察衛星も利用していい……?」

 おどおどしながら上目遣いで訊くスズネ。

 ユーリの首肯を確認すると、急いでデータリンクの設定をはじめた。

「ミカゲさん。ミカヤとサクヤには、VAMPで出撃後、衛星を調査するように伝えてくれ」

「わかりました」

 にこやかに微笑みかえすミカゲ。

「コトハはラッドとリカルドをつれてVAMPで出撃して、この惑星の地表に人工物が無いか詳しく調査しろ」

「かしこまりました」

 コトハは、深々と頭をさげたあと、命令を実行するべくブリッジをあとにした。


「綺麗な星だよね」

 VAMPのコックピットからタビト恒星系第二惑星をながめ、スズネはぽつりとつぶやいた。

 通信の相手は、彼女が唯一どもらずに会話ができる双子の妹のアヤネだ。

「ぼんやり飛んでると、重力につかまって墜落しちゃうぞ」

 そう返したアヤネだったが、VAMPの操縦に自信がないのは彼女のほうで、自分に言い聞かせるという意味合いが強かった。

 操縦技術はもちろん、アヤネ専用のVAMPは重装甲火力重視型。スメラギ五姉妹が操るVAMPなかで一番重くて遅い機体なのだ。

 惑星の重力から逃れるためには、ある程度の速度が必要になる。

 だから、アヤネには美しい惑星を眺めて眼福にあずかるという心のゆとりは、一切持ち合わせていなかった。


 タルタロスから次々とVAMPが発艦していく。

 ブリッジには、ユーリのほかにミカゲとギンジ、操舵手のウェルナーがいるだけだ。

 偵察衛星の配置が完了したらしく、ブリッジ中央にある星図上ではタルタロスの索敵範囲が明るく色分けされていた。

 そこにスズネのVAMPから送られてくる宙域の詳細データが反映された。

 スズネ専用機である『ドヴァリン』は、彼女の感応波と波長を合わせたミスティックレーダを搭載していて、それはタルタロスに搭載されているそれよりを凌駕するほどの性能を持っていた。

 ドヴァリンからの情報によれば、惑星周辺にあるいくつかのラグランジュポイントに、アステロイドベルトが形成されているようだ。

「スズネはその位置で観測を続けろ。アヤネ、お前はアステロイドベルトの調査だ。今、こっちのデータをおくる」

 ユーリは手元の端末を操作し、周辺宙域の詳細データを転送した。

「データ受け取り完了、と。じゃあ、まずはここから一番近いポイントから順に調査するね」

 それまでスズネと並んで飛んでいたアヤネは、右へ大きく旋回しながらラグランジュポイントL2へ向かった。


 ミカヤとサクヤは衛星の軌道上にいた。

 第二惑星とくらべると、質量は八分の一程度しかない。

 表面はごつごつとした岩場ばかりだ。

「何もねぇとこだな、おい」

 ぼやくサクヤ。

「ほらほらミカヤちゃん。そんなことより~、お仕事するよ~」

 間延びしたミカヤの声。

「サクヤちゃんは~、衛星の南半球を調査してね~。私は~、北半球を調べるから~」

「了解」

 二機は散会し、それぞれの方角へと飛び去った。

 ふたりはガンカメラを起動させ、画像をタルタロスとリンクさせる。

 タルタロスのブリッジでは、ユーリがふたりから送られてくる画像を眺めていた。

 画像には、ごつごつとした岩山や深い渓谷など、様々な地形が映しだされている。

 ふと、サクヤの機体から送られてくる画像に目がとまった。

「サクヤ、着陸して周囲の様子を詳しく撮ってくれ」

「おい、こんな断崖絶壁に着陸させる気かよ!」

 サクヤが言うように、そこは切り立った岩山と深い崖が入り混じった地形だった。

「人型になれば何とかなるだろ」

「無茶言いやがって!」

 そういいつつも、サクヤはVAMPを人型に変形させ、自由落下速度を脚部バーニアで調節し、着陸できそうな場所を探しながらゆっくりと降下していった。

 サクヤが着陸したのは、渓谷を見渡せる岩山の中腹。VAMPの頭部を旋回させ、周囲の撮影を実行した。

 谷の幅は百五十メートルほど、深さは三千メートルはあるだろうか。その谷の周囲を五千メートル級の岩山が囲んでいる。

「タルタロスをあそこまで降下させられるか?」

「一般的な能力の操舵手ならね、まず無理だろうね」

 含みのある言い方をするウェルナー。

「お前の腕ならどうなんだ?」

「もちろん……」

 ウェルナーは言葉をためてニヤリと笑った。

「全く問題ないよ」


 三機のVAMPがタビト恒星系第二惑星の軌道上を飛び回っている。

 三機のうち二機は、前進翼の白亜の機体。傭兵国家フレースヴェルグが誇る高性能量産型VMP『ドゥネイル』だ。そして、もう一機はコトハ専用機の『スレイプニル』だった。

 二機のドゥネイルを操縦しているのは、ラッドとリカルドだ。

 リカルドが実際にVAMPを操縦するのは、今回がはじめてになる。

「今回は実際の宇宙空間に慣れるのための出撃だ。無理はせず、飛ぶことだけに専念しろよ」

 ラッドがいった。

 ただ飛ぶだけといっても、今回は大気圏ギリギリでVAMPを運用する。

 惑星からの重力の影響も大きく、気を抜いたら重力につかまり、大気圏へ落下しまう危険性があった。

 とはいえ、ラッドの指導を一ヶ月ちかく受けていたリカルドの飛行は、安定したものだった。

「問題ない。俺にも協力させてくれ」

「では、リカルド様には雲が晴れている地帯の地表調査を行ってくださいませ」

 リカルドの力量にあわせた指示をだすコトハ。

「ラッド様と私は、雲に覆われた地帯に調査用の小型カメラを投下いたします」

「了解だ」

 三機のVMPは、惑星表面を縦横無尽に飛びまわった。

 撮影されたデータは、タルタロスへ直接送られている。

 タルタロスのブリッジには、次々と地表の詳細なデータが送られ、その都度、ミカゲが膨大な量のデータの精査をおこなっていた。

 そして、赤道よりやや南、広大な大陸の北部にある山岳地帯に建造物のらしきものを発見した。


 任務を終えて帰艦したコトハたちは、ブリーフィングルームに集まるように指示をうけた。

 惑星の調査を行ったコトハたちが一番早くに帰艦し、次に衛星の調査をしたミカヤたち、帰艦が一番最後になったのは、最も遠い宙域まで調査に向かっていたスズネたちだった。

「揃ったようだな」

 全員の到着を確認し、ユーリは口をひらいた。

「これからの行動を説明する」

 ブリーフィングルームに集まった全員の顔を見まわすユーリ。

「この惑星に人口建造物らしきものを発見した。

 それを調査するため、地上へ降下する。

 地上へ降下するのは、俺、コトハ、ミカヤ、サクヤ、リカルド、それから揚陸艇の操縦要員としてミカゲさんの合計六名」

「俺は残留なのか? それに降下ならタルタロスごと降りれば良いんじゃねぇか?」

 ラッドは不満そうにいった。

「これから、この宙域には敵の艦隊がやってくるんだぞ。大気圏内にいるときに敵が殺到してきてみろ、宇宙そらから頭を押さえられて手も足もでなくなる。

 タルタロスは、サクヤが見つけた衛星の渓谷内で待機だ」

「地上は危険生物が大量にいるんだろ? 俺もいたほうが戦力に――」

「お前はタルタロスの護衛に残ってもらいたいんだ」

 ユーリは、自らの言葉をかぶせてラッドの発言をさえぎった。

「ラッド様は、私たちが帰る場所を守ってくださいませ」

 コトハも上目遣いで追撃をかける。

「コトハちゃんがそういうなら仕方ねぇ。タルタロスは俺に任せときな」

 コトハに頼られるような言葉を投げかけられ、ラッドは上機嫌で快諾した。

「名前をあげた六名以外は、タルタロスで待機してもらう。

 ラッドは今いったようにタルタロスの護衛。スズネはレーダーの管理だ。

 俺が離れているあいだ、タルタロスの指揮はギンジさんにとってもらう」

「揚陸艇にVAMPは搭載するのか?」

 サクヤは、手を上げながら質問する。

「いや、VAMPは無しだ」

「おい、マジかよ!? キョーリューがいるんだろ!?」

「目的地の地形が特殊すぎて、VAMPがかえって邪魔になる」

「本気で言ってるのかよ……」

 サクヤは動揺を隠しきれない。

「それで~、出発はいつするのです~?」

 顎先に人差し指をあててミカヤが問う。

「今からだ。ミカゲさんには、もう揚陸艇で準備を整えてもらっている」


 戦艦形態になったタルタロスのカタパルトから一隻の揚陸艇が発信した。

 全長五十メートルほどの船体上部中央の大型のキャリースペースを擁した船で、キャリースペースには、人型に変形させたVAMPを二機搭載することが可能だ。

 揚陸艇が完全に発艦を済ませると、タルタロスは転進して衛星に向かった。

「みなさん、安全ベルトは締めましたか?」

 操縦席でミカゲが訊いた。

「これから当艦は大気圏へと突入します。激しく揺れますので、なるべく座席からは立たないようにしてくださいね」

 ミカゲは、メインスラスターのスロットルをゆっくりと押しあげ、揚陸艇を徐々に加速させた。

「窓が小さくて~、とっても残念ですね~」

 外を眺めながらミカヤ。柔和な笑顔を浮かべているが、眉尻は下がっている。

 その隣でサクヤは激しく貧乏揺すりをしていた。

 通路を挟んだ反対側の席のユーリがそれに気付き、

「お前、もしかして怖いのか?」

 ニヤケ顔をうかべる。

「ほ、ほっとけよ!」

 一見、怖いもの知らずに見えるサクヤだが、実は大気圏突入だけは幼少の頃から大の苦手だった。

「意外だ……」

「リカルド、てめぇ! ほ、ほっとけっつってんだろ!」

「サク姉ぇの唯一の弱点でございます」

「コトハまで……っ! てめぇら全員、あたしの刀でケツの割れ目をもう一つ増やしてやろうか!?」

 威勢がいい言葉とは裏腹に、声が震えていて、それがかえって皆の笑いを誘う結果となった。

 揚陸艇の窓外が赤く染まり始める。

「大気圏突入開始しましたよ」

 船体が激しくゆれる。

 そのたびにサクヤは小さな悲鳴をあげた。

「これより当艦は、目的地まで降下を開始します。降下時間は一時間ほどですよ」

 微笑むミカゲ。

 これから一時間のあいだ、サクヤは降下の恐怖と戦い続けることになるのであった。


 大気圏を抜けた揚陸艇は、成層圏を飛行していた。

 宇宙の濃紺と空の青、雲の白のコントラストが美しい。

「サクヤちゃん~、もう大丈夫よ~」

 ミカヤはサクヤの頭を優しく撫でる。

 顔を上げたサクヤの表情は、半泣き状態だった。

 それを見てユーリは肩を震わせている。

「着陸可能な場所ですけど……」

 ミカゲは着陸可能な場所をさがす。

 眼下には、大河が大地を分断するように流れており、陽光をきらきらと反射させて輝いていた。

 河に沿うように草原が広がり、鳥脚類が草をたべている。

 そして、その外側には大森林が広がっていた。

 目的の山岳は、西側に広がる大森林の先にある。

「ミカゲさん、あの平原には降りられないのか?」とユーリ。

「ダメですね。平原に見えますけど、良く見るといたるところに倒木が散乱して着陸には適していません。きっと、あの恐竜さんたちが葉を食べるために倒してるんですね」

 ミカゲが指差す先には、幹に前足をかけ、全体重で樹木を押し倒している竜脚類の姿があった。

「とりあえず、あそこの大河に着水しようと思いますけど」

 目的地からもっとも近い降下ポイントは、ミカゲが指差すあの大河だろう。

 目的地までは十五キロほど。徒歩で向かえない距離ではないだろう。

「そこで構わない」

 ユーリの承諾を得たミカゲは、舵をきって針路を変え、揚陸艇の高度をゆっくりと下げながら着水体制にはいった。

 水しぶきを上げながら水面をはしる揚陸艇。

 徐々に減速させ、西側の河岸から二十メートルほどの位置で止まった。

 河に流されないよう、すぐにアンカーを下ろす。

「外は快晴。気温は摂氏二十八度でございます」

 データを読み上げるコトハ。

 揚陸艇中央のキャリースペースは開閉式になっていて、閉じてるときは甲板として機能する。

 ユーリたちが甲板に出ると、そこには未開拓の広大な大自然が広がっていた。

 コトハは両腕を大きく広げて深呼吸をした。

 空気が澄んでいて、とても美味い。

 森林の先に見える山岳地帯が今回の目的地だ。

 陽の傾きから、まだ午前中であることがうかがえた。

 ユーリは双眼鏡を使って山岳地帯を眺める。

 目的の山は、麓から岩肌が露出したような断崖で、所々に木や草が生えていた。

 双眼鏡のピントを最大にして、人口建造物らしきものをさがす。

「あれか……」

 双眼鏡を使ってもなお、目を凝らさなければ見えないそれは、明らかに人口の建造物だった。

 岩山の中腹にある平坦な土地に朽ちた岩の柱が絶壁にむかって数本立っていて、その先に石造りの神殿のような入り口がある。

 ユーリが双眼鏡を眺めているとき、背後で水柱があがった。

「マスター!!」

 コトハは咄嗟の判断でユーリを突きとばす。

 水柱の中から出てきたのは、巨大な怪魚だった。

 サクヤはすかさず抜刀斬りで対応するが、手ごたえは浅かった。

 怪魚の牙は、ユーリを庇ったコトハの肩をかすめる。

 コトハは怪魚とともに河へ落下した。

「コトハ!!」

 サクヤが叫ぶ。それとほぼ同時に誰かが河へ飛びこんだ。

「マスター!?」

 珍しく慌てた声を上げるミカヤ。ハンドレールへ駆けより、甲板上から援護射撃をおこなった。


 ――けっこう……深いな……。

 川底へと沈みゆく中、コトハはぼんやりと思っていた。

 肩の傷は決して深くはない。

 だが、コトハは自力で浮上することができなかった。

 何でも器用にこなす万能少女であるコトハの最大の弱点。それは、彼女がカナヅチであるということだった。

 揚陸艇の底が遠のいていく。

 水面から伸びる泡の軌跡は、サクヤが銃を撃っているのだろう。

 コトハに迫る何匹もの怪魚を確実に仕留めている。

 薄れゆく意識のなか、自分に向かって近づく人影に気づいた。

 その人影はコトハの手を掴むと、そのまま引き寄せ抱きかかえる。

 コトハの意識はそこで途絶えた。


 闇の中、遠くのほうからコトハの名前を呼ぶ声がきこえる。

 その声は、何度も必死に呼びかけていた。

 意識はゆるゆるとに覚醒するなか、一定のリズムで何度も胸を圧迫されていることに気付く。

 ――誰……?

 そう口にしようとした言葉は、肺から喉にこみ上げてきた水にかわった。

 水を吐き、激しくむせかえる。

「コトハちゃん、よかったぁ~」

「ミカ……姉ぇ……?」

「心配かけんじゃねぇよ!」

「サク姉ぇ……?」

 姉たちの顔には、安堵の色がみえた。

「私は……」

 しだいに記憶がもどってくる。

「マスターを庇って河に落ちて……痛っ!?」

 肩に痛みがはしった。

「大丈夫か? 肩の傷は大したことないぞ」

 そっぽを向いてそう言ったユーリは、全身がずぶ濡れだった。

「マスターが咄嗟に飛びこんで~、引き上げてくれだのよ~」

「ユーリのやつ、誰よりも真っ先に飛び込んだんだぜ。それだけじゃないぞ。人口呼……いてっ!」

 ユーリは、喋るサクヤの後ろ頭を小突く。

「何しやがんだ!」

「時間が惜しい。早く着替えろ」

 ユーリは抗議するサクヤを無視し、コトハに言葉をかけた。

 コトハは指先で自分の唇に触れ、顔を伏せながらユーリの言葉にしたがった。

  

 揚陸艇から河岸までは、ゴムボートを使った。

 皆が上陸したのを確認したミカゲは、揚陸艇を川底へ潜航させる。

 平原に見えていた場所は、苔が生えた倒木や身の丈ほどの草に隠れた岩のせいで思いのほか歩きにくかった。

「予想してたより時間がかかりそうだな」

 ユーリは空を仰ぎみる。

 なんとしても明るいうちに目的地までたどり着きたい。

 ユーリたちは草をかきわけ、森の中へとわけいった。

 森の中は、所々に木漏れ日が差し込んではいるが、うっそうとしげった木々が陽光をさえぎり、薄暗くじめじめとしていた。

 岩には苔が生え、歩きにくさを倍増させている。

「はぐれるなよ。固まって歩け」

 ユーリは、誰にともなく声をかけた。

 草食恐竜はユーリたちに興味を示さなかったが、肉食恐竜と遭遇すればそうはいかないだろう。

「襲われたときは、交戦しても良いのか?」とサクヤ。

「相手次第だ」

 ぶっきらぼうに言ったユーリの返答を聞いたリカルドは、出来る限り戦闘は避けたいものだと心の底からおもった。

 森に入って何事もなく二時間が経過した。

 目的の山までは、あと一時間ほどで到着する。

 不意にミカヤが歩みをとめた。

 サクヤも刀の柄に手を添え、神経を研ぎ澄ませながらあたりを伺っていた。

「何かあったのか?」

 急に進行が止まったので、リカルドはそう訊ねた。

「囲まれたようでございます」

 コトハは、そういいながら後ろ腰に差してある二本の短刀をぬいた。

「ん~、厄介な相手ね~」

 柔和な微笑みを浮かべるミカヤの額から、一筋の汗が流れおちる。

 最初に動いたのはサクヤだった。

 振り向きざまに刀を一閃する。

 切っ先は背後から忍び寄っていた恐竜の首を跳ねとばした。

 血をしぶかせながら倒れ伏した恐竜の体長は二メートルほど。

「ラプトルの一種でございましょう」

 そういうコトハは、よりいっそう警戒の色を強めていた。

 相手はなかなか姿を現そうとしない。それでいて、強い殺気を放っている。

「コトハ、他に何かうんちくはないのか?」

「そうですね。ラプトルは群れで狩りをします。獲物を誘導して捕食するという狩りの方法をとっていたとされております」

「つまり~、私たちが動くのを~、待ち構えているってことね~」

 口調とは裏腹に、ミカヤからはいつもの余裕がみられなかった。

「もっと、状況を打開できるようなうんちくはないのか」

「状況の打開……でございますか? それならば――」

 地を蹴り、森の中へ飛び込むコトハ。

「こちらから誘い出せばよいのです!」

 隊列から離れたコトハに三頭のラプトルが襲いかかった。

 食らいかかってきたラプトルの鼻先をコトハの短刀がとらえる。

 ミカヤの刀とは違って致命傷には至らなかったが、相手を怯ませるには十分だった。

 背後から飛びかかってきたラプトルの鉤爪を避けた直後、岩に生えた苔で足を滑らせバランスを崩してしまう。

 そこへ襲い掛かってきたラプトル。

 だが、ラプトルの牙がコトハをとらえるより早く、ユーリの速射によってこめかみを撃ち抜かれて絶命した。

 何とか踏みとどまったコトハは、よろめいたラプトルの喉元を斬り裂いて止めをさす。

 残ったラプトルは、敵わないと判断したようで一目散に逃げ出していった。

 ライフルを撃ちそびれたミカヤは、くすりと小さく笑ってトリガーから指をはなす。

「無茶するんじゃねぇ!」

 怒鳴るユーリ。

「申し訳ございません。ですが、手っ取り早く状況を打開するには、これが一番だと判断いたしましたので」

「この先、俺の許可無く無茶をすることは禁止だ」

 ユーリは、深々と頭をさげるコトハにそう言い放った。

 ミカヤは、その様子を微笑ましげに眺めている。

 そんな時、ユーリの通信機からコール音がなった。

「マ、マスター、て、敵があらわれたよ」

 通信機から聞こえてきたのは、スズネの声だった。

「予想より早いな。ここへ着くまで、どれくらいの時間がある」

「し、進軍速度から計算して、さ、三時間くらいかな」

「分かった。ギンジさんには、あらかじめ策をあずけている。ギンジさんに従って行動していろ」

 通信機のスイッチを切って、ユーリは皆と向きあった。

「聞いてのとおりだ。あまり時間がない。急ぐぞ!」

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