プロローグ
「しぐ姉、なんの用?」
狭い部屋の中、さつきは自分の姉であるしぐれに問いかける。
五時に自分の部屋に来いと呼び出されたのだ。
「ああん? それが姉に対する態度か坊主」
「……」
「無視ぃ? いつからそんな嫌な正確になったのよぅ。この女ったらし」
「帰っていい?」
「待つでござる!」
元から頭のネジが一本抜けた姉ではあるが、いつもにも増してテンションがおかしい。
喋り方が統一されていない。
「汝を呼んだのは他でもない。我から誕生日プレゼントをくれてやろうと思ってな」
さつきの誕生日は八月二日だ。
そして今日は四月四日。
自分の弟の誕生日すら忘れたのか。
「はいはい。それを受け取ればいいのね?」
突っ込むのはめんどくさいため放置。話を先へ進める。
なんのプレゼントだか分からないが要はそれを渡すためにここへ呼んだのだろう。
「そぉの通り! では」
しぐれはパチンと指を鳴らす。
「……」
「……」
何も起きない。
もう一度、パチンと指を鳴らす。
「……」
「……」
「……しぐ姉?」
「ちょ、ちょっと待って」
携帯を取り出し、慌てた様子でどこかに電話をかけ始める。
なにやら「指鳴らしたら出てくる予定でしょ!」とか怒鳴っている。
首を傾げていると、しぐれは携帯を閉じてさつきに向き直る。
「ふふふ。今までのはさつきを焦らせるための罠。ここからが本番だ」
誕生日プレゼント(日にちを間違っているけど)を渡すのに罠を仕掛けてどうするというのか。
「行くよ」
「どうぞ」
そして、しぐれが再度指を鳴らす。
すると、
「え?」
しぐれの背後に突然、黒い影が浮かび上がる。
最初はおぼろげだったそれらは徐々に人の形を取り始める。
「……しぐ姉。どういうつもり?」
この現象はさつきもよく知っていた。
しぐれの持つ異能の力、テレポートの応用だ。
ある地点にテレポートの力を付与することで、そこに触れたものを指定した場所へ転移させる。普通に瞬間移動することも可能だが、しぐれはこうしていろいろな使い方を編み出している。
「うっふふ~。驚いた? 驚いた? 驚いたわよね?」
満面の笑みを浮かべるしぐれの後ろには三人の人物が立っている。
「驚きはしたけど、まったく事情が飲み込めない」
「だから、プレゼントだって」
「だから意味が分からないって」
さつきが呆れ半分で言うと、しぐれは背後に立つ三人を指差してしれっとこんなことをのたまった。
「だーかーらー、この三人をあんたにプレゼントするって言ってるの」