8.新たな仲間との出会い(3)
シエラは、レオンを連れて街の外れへ向かった。
そこは、スラム街だった。
スラム街は、街の華やかさとは対照的だった。
汚れた建物、狭い路地、絶望した人々。
レオンは、自分の村が襲われる前を思い出した。
平和だった村と、この絶望的なスラム街。
どちらが、本当の世界なのか。
「ここだ」シエラは、ある建物の前で立ち止まった。
それは、古い酒場だった。
「ここに...?」
「ああ」シエラは頷いた。「ここには、様々な人間が集まる」
「その中に、お前が探している人間がいるかもしれない」
二人は、酒場の中に入った。
中は、薄暗く、酒とタバコの臭いが充満していた。
客たちは、疲れた顔で酒を飲んでいた。
レオンは、周囲を見回した。
その時、隅の席に座っている太った青年に目が留まった。
年齢は、レオンより少し上だろう。十八歳くらいか。
体格は良いが、その顔は暗く、目は虚ろだった。
レオンは、その青年に近づいた。
「あの...」
青年は、レオンを見上げた。
「何だ」
「あなた...何か、悩んでいますか?」
青年は、苦笑した。
「悩んでない人間が、この世にいるか?」
「それは...そうですが...」
「俺を放っておいてくれ」青年は言った。「俺は、もうどうでもいいんだ」
その言葉に、レオンは引っかかりを感じた。
「どうでもいい...?」
「そうだ」青年は答えた。「俺は、何の価値もない人間だ」
「弱くて、臆病で、何もできない」
「だから、もうどうでもいい」
レオンは、その青年の目を見た。
そこには、深い自己嫌悪があった。
「あなたの名前は?」レオンは尋ねた。
「...ボブ」青年は答えた。「ボブ・マローンだ」
「ボブさん」レオンは言った。「あなたは、本当に自分が無価値だと思っていますか?」
「思ってる」ボブは即答した。「事実だからな」
「でも...」
「聞きたいか?」ボブは自嘲的に笑った。「俺の惨めな話を」
レオンは頷いた。
ボブは、深く息を吐いた。
「俺は、商人の息子として生まれた」ボブは話し始めた。
「父は、有能な商人だった」
「しかし、俺は違った」
「俺は、臆病で、交渉が下手で、何をやっても失敗した」
ボブの声には、深い自己嫌悪が込められていた。
「父は、何度も俺にチャンスを与えた」
「しかし、俺は全て失敗した」
「そして、ついに父は言った」
「『お前は、もう息子ではない』と」
レオンは、胸が痛んだ。
「それで...今は?」
「街をさまよっている」ボブは答えた。「居場所がない」
「帰る家もない」
「生きる理由もない」
シエラが口を開いた。
「なら、死ねばいい」
「シエラ!」レオンは驚いて叫んだ。
しかし、シエラは続けた。
「生きる理由がないなら、死ぬべきだ」
「お前が生きていても、誰の役にも立たない」
ボブは、シエラを見つめた。
「...その通りだ」ボブは認めた。
「でも」シエラは言った。「お前は、まだ生きている」
「なぜだ?」
ボブは、答えられなかった。
「答えろ」シエラは迫った。「なぜ、お前はまだ生きている?」
「...分からない」ボブは呟いた。
「分からないなら、考えろ」シエラは言った。「そして、答えを見つけろ」
「答え...」
「そうだ」レオンも言った。「あなたは、何か望んでいるはずだ」
「諦めていないはずだ」
ボブは、黙っていた。
しばらくして、ボブは小さな声で言った。
「...強くなりたい」
「え?」
「俺は...強くなりたい」ボブは繰り返した。
「父に認められなくてもいい」
「誰かに認められなくてもいい」
「ただ、自分で自分を認められるくらい、強くなりたい」
その言葉に、レオンは微笑んだ。
「なら、一緒に来てください」
「え...?」
「俺たちと一緒に、訓練を受けましょう」レオンは言った。
「訓練...?」
レオンは、クロウのことを説明した。
ボブは、困惑した表情を浮かべた。
「でも、俺は...役に立たないぞ」
「役に立たなくていい」レオンは言った。「一緒に、強くなればいい」
ボブは、レオンとシエラを見つめた。
「本当に...俺でもいいのか?」
「ああ」レオンは頷いた。
シエラも、小さく頷いた。
ボブは、涙を浮かべた。
「...ありがとう」
ボブは、立ち上がった。
「行こう」
「はい」
三人は、酒場を出た。
帰り道、三人は黙って歩いていた。
レオンは、二人を見た。
シエラは、相変わらず冷たい表情をしていた。
しかし、その目には、少しだけ希望の光があった。
ボブは、まだ不安そうだった。
しかし、足取りは以前よりもしっかりしていた。
「俺たち...やっていけるかな」ボブが呟いた。
「分からない」シエラは答えた。「でも、やるしかない」
「そうですね」レオンも言った。
三人は、それぞれ違う理由で強さを求めていた。
レオンは、家族の仇を討つために。
シエラは、自分の居場所を作るために。
ボブは、自分を認めるために。
しかし、その目的が何であれ、三人は同じ道を歩むことになった。
それが、正しい選択だったのかどうか。
それは、まだ誰にも分からなかった。
しかし、一つだけ確かなことがあった。
この出会いが、三人の運命を大きく変えることになる。
そして、クロウの「教育」が、本格的に始まろうとしていた。
それは、三人が想像もしなかった、残酷で、しかし必要な教育。
友情を試し、信頼を壊し、そして真の強さを植え付ける教育。
灰色の空の下で、三人の物語が始まろうとしていた。
[読者への暗示]
森の奥深く、クロウは三人の帰りを待っていた。
彼の前には、魔法の水晶があり、そこには三人の姿が映し出されていた。
「完璧だ」クロウは呟いた。
「レオンは、復讐を求めている」
「シエラは、居場所を求めている」
「ボブは、承認を求めている」
「三人とも、違う動機で強さを求めている」
クロウは、満足そうに笑った。
「これで、競争が生まれる」
「競争が、彼らを成長させる」
「そして、その競争の中で、彼らの本性が暴かれる」
クロウの目には、冷たい計算があった。
「さあ、実験を始めよう」
「人間の本性を、徹底的に暴き出す実験を」
水晶の中で、三人は森に近づいていた。
彼らは、まだ何も知らなかった。
これから待ち受ける地獄を。
これから破壊される友情を。
これから直面する、自分自身の醜さを。
クロウは、水晶を消した。
そして、三人を迎えるために、小屋へと向かった。
森には、不吉な風が吹いていた。
それは、嵐の前触れだった。
三人の物語に訪れる、巨大な嵐の。




