7.新たな仲間との出会い(2)
街は、予想以上に賑やかだった。
市場では、商人たちが声を張り上げて商品を売っていた。
人々は笑い、話し、日常を楽しんでいた。
レオンは、その光景に違和感を覚えた。
自分の村が滅んだのは、一週間前だ。
しかし、この街の人々は、何も知らない。
いや、知っていても、気にしていない。
「所詮、他人事か」
レオンは苦い思いを抱きながら、街を歩いた。
食料を買った後、レオンは街を観察した。
クロウの言う「同じような人間」を探すために。
しかし、どこを見ても、そんな人間は見当たらなかった。
みんな、普通に生活している。
困っている様子の人はいない。
「どうすれば...」
レオンは、街の広場で立ち止まった。
その時、背後から声がした。
「邪魔だ、どけ」
レオンが振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
年齢は、レオンと同じくらい。十六歳か十七歳だろう。
長い金髪を後ろで束ね、青い瞳は鋭い光を宿していた。
服装は質素だが、姿勢は真っ直ぐで、どこか貴族のような雰囲気があった。
「すみません」レオンは道を譲った。
少女は、レオンをちらりと見て、通り過ぎようとした。
しかし、その瞬間、レオンは少女の目に何かを見た。
それは、隠された悲しみだった。
「待ってください」レオンは少女を呼び止めた。
「何だ」少女は振り返った。その声は、冷たかった。
「あなた...何か、困っていませんか?」
少女の表情が、一瞬だけ変わった。
しかし、すぐに元の冷たい表情に戻った。
「別に」
「でも...」
「しつこい」少女は吐き捨てるように言った。「私に関わるな」
そう言って、少女は歩き去ろうとした。
しかし、レオンは諦めなかった。
「あなたの目...俺と同じだ」
少女は立ち止まった。
「何...?」
「何かを失った目だ」レオンは続けた。「悲しみを隠している目だ」
少女は、ゆっくりと振り返った。
「お前に、何が分かる」
「分かります」レオンは真っ直ぐに少女を見つめた。「俺も、同じだから」
少女は、レオンをじっと見つめた。
しばらくの沈黙の後、少女は深く息を吐いた。
「...ついてこい」
少女は、人気のない路地へと歩いていった。
レオンは、その後を追った。
路地裏で、少女は立ち止まった。
「私の名前は、シエラ・ヴァンクリーフ」少女は名乗った。
「レオン・ブライトです」
「レオン...」シエラは、その名前を反芻した。「で、何の用だ」
「あなたを、誘いに来ました」
「誘い?」
「俺の師匠の下で、一緒に訓練を受けませんか」レオンは言った。
シエラは、しばらく黙っていた。
そして、冷たく笑った。
「断る」
「なぜですか?」
「理由を言う必要があるか?」シエラは反論した。
「あります」レオンは言った。「あなたは、強くなりたいはずだ」
シエラの表情が変わった。
「なぜ、そう思う」
「あなたの目が、そう言っています」レオンは答えた。「何かに復讐したい、そういう目だ」
シエラは、唇を噛んだ。
「...お前には、関係ない」
「関係あります」レオンは言った。「俺も、同じだから」
レオンは、自分の村が滅んだことを話した。
家族を失ったこと。魔王に屈辱を受けたこと。
そして、クロウに弟子入りしたこと。
シエラは、黙って聞いていた。
レオンが話し終えると、シエラは深く息を吐いた。
「...私も、似たようなものだ」
シエラは、ゆっくりと話し始めた。
「私は、ヴァンクリーフ家の娘として生まれた」
「ヴァンクリーフ家...」レオンは聞いたことがあった。貴族の名家だ。
「しかし」シエラは続けた。「それは、嘘だった」
「嘘...?」
「私は、本当はヴァンクリーフ家の娘ではない」シエラは言った。
「盗賊に育てられた孤児だ」
レオンは驚いた。
「盗賊...?」
「ああ」シエラは頷いた。
「私を育てた盗賊団の首領が、ヴァンクリーフ家から私を盗んだと言っていた」
「しかし、それも嘘だった」
「では...」
「私は、ただの捨て子だった」シエラは自嘲的に笑った。
「盗賊団は、私を利用するために、貴族の娘だという嘘をついていた」
「利用...?」
「ああ」シエラは言った。
「私に礼儀作法を教え、貴族のふりをさせて、詐欺に使っていた」
レオンは言葉を失った。
「そして、一ヶ月前」シエラは続けた。
「盗賊団は、王国の騎士に壊滅させられた」
「私は、生き残った」
「しかし、居場所がなくなった」
シエラの目には、深い悲しみが宿っていた。
「私は、何者でもない」シエラは呟いた。
「貴族でもない、盗賊でもない」
「ただの、誰でもない人間だ」
レオンは、シエラの気持ちが理解できた。
自分も、似たようなものだ。
村を失い、家族を失い、アイデンティティを失った。
「だからこそ」レオンは言った。「強くなるべきだ」
「強くなって、どうする」シエラは尋ねた。
「自分の居場所を作る」レオンは答えた。
「誰にも奪われない、自分だけの居場所を」
シエラは、レオンを見つめた。
「お前は...本気で言っているのか?」
「本気です」
シエラは、しばらく考えていた。
そして、決意したように頷いた。
「分かった」シエラは言った。
「私も、行く」
「本当ですか?」
「ただし」シエラは条件を出した。「私は、お前の仲間ではない」
「え...?」
「私は、ただ強くなりたいだけだ」シエラは言った。
「お前と友情を築くつもりはない」
レオンは、少し寂しく思った。
しかし、理解できた。
シエラは、傷ついている。
人を信じることが、怖いのだろう。
「分かりました」レオンは答えた。「それでも構いません」
シエラは、小さく頷いた。
「では、もう一人は?」
「え?」
「お前は、二人を連れてこいと言われたんだろう」シエラは言った。
「もう一人は、どこだ?」
「それが...まだ見つけていなくて...」
「役立たずだな」シエラは呆れた。
「仕方ない、私が探してやる」
「本当ですか?」
「ああ」シエラは頷いた。「この街で、そういう人間がいそうな場所を知っている」




