日銀のETF売却は「国民財産消失」 ~日銀植田総裁3愚策~
◇国債を発行してETFを購入した。いわば「国民の資産」
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は25年9月19日の日銀の金融政策決定会合で、かつての大規模金融緩和策の一環で大量に買い入れてきたETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)を売却する方針を決定しました。
年1%未満の売却(今回は0.05%程度、今後は割合を上げて112年で売却予定)のためにまだまだ今後の方針転換の可能性はあるものの、
これがいかに愚策であるかについてみていこうと思います。
なお、この内容は9月3週の週間ニュースでも取り上げましたが、イマイチ皆さんがこの“一大事”になっていくことについて分かっていなさそうなので個別で解説しようと思いました。
質問者:
まず私も含めてETFだのJ-REITだのが何を意味しているのか分からない上に、
どうして買っていたのかすら知らないと思うんですが……。
筆者:
日銀が買っていたETFというのは日経平均株価225社を分散して購入した商品で、
リスクは一定程度あるものの日本の株式投資の商品の中では一番安定感があります。
J―REITというのは多くの投資家から集めた資金で、収益が約束されている都心のオフィスビルや商業施設、マンションなど複数の不動産などを購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に対して投資額に応じて分配する商品でのことです。
デフレ脱却のための政策で2010年の開始から24年3月に終了するまで、この購入は続けられました。
この目的は、株価や地価を日銀が買い支えることで、外資の買収を阻止のために実施したものと思われます。
ただ、株価は下落するリスクもあるために僕はこんなことをするぐらいなら外資買収規制を強めるなどの措置を取れば済むものと思いましたがね。
質問者:
今は株式は過去最高を更新している状況ですし、
地価もバブル時代を都心では超えている状況だから売却をするということですか?
筆者:
簡単に言えばそう言うことです。
買った際にはどうなるのかな? と言う感じでしたが、結果として言えばETFは購入価格の2倍以上になるまでプラスになったことは良かったと言えます。
ただ、問題はこの売却金額の「使い方」が問題だということです。
質問者:
どいういうことでしょうか?
筆者:
日銀はどうやらこのETFの売却代金を国債償還に使うようなんですね。
このETFを買った代金は国債を発行して作ったお金であるためにまさしく“財源”として扱って良いと思います。
僕は“財源“と言う言い方は好きではないのでこう言い換えたいですけどね「国民の資産」であると。
質問者:
「財源」と言う話ですと「緊縮財政」の話になりますからね……。
ちなみに国債を償還した後、また再発行することではダメなんでしょうか?
筆者:
どの国債を償還するかにもよるんですけど、今はゼロ金利じゃないですからね。
また、一旦返済して国債を再発行すると「利率ガー」「格付けガー」と騒ぎ立てる方たちがいるので、 ここは返済せずに何かの減税に使い国民を救うのが得策です。
質問者:
いちいち騒ぎになると大変ですからね……。
ちなみにどれぐらい「国民の資産」があるんですか?
筆者:
特にETFについては特に保有額は簿価で37兆1000億円、時価では80兆円前後になるとされています。
これは時価だと4年分消費税をゼロにでき、社会保険料にすると1年分タダにできる水準であります。
一気に売るとさすがに株式市場に影響が出そうなので、これよりは分けた方が良いですが、
「有効な国民財産」をどうにか活用しない手立ては無いでしょう。
質問者:
売却代金を予算に組み込むとかしょうもないことをせずに、別建てで減税などに活用して欲しいですよね……。
筆者:
国債の返済に直接充てられず、予算に組み入れられても「減税はありませんでした」じゃ何にもなりませんからね。
個人的には社会保障の軽減(特に低所得者層の)に使うのがベストかなと思います。
社会保険料は逆進性の完全に狂った制度となっていますからね。
税金とほとんど同じ性質なので、上限金額を今のままにした累進制にするべきでしょう。
ただ、予算措置の使い道については国会が決めますので、
日銀が出来ることは国民年金や厚生年金の基金の枠組みにこれらのETFを編入させることだったと思いますね。
元々この基金のお金も株式などで運用されていますから性質としては似ていますからね。
質問者:
この間の筆者さんの週間ニュースでは日本金融経済研究所の馬渕氏によると過去には「ETFを国民1人当たり60万円分直接配布」「年金基金に移す(その分保険料支払いを減額)」といった案も議論されていたそうですがそれらは見送られたそうですね……。
筆者:
ある意味今回の決定をしたタイミングとしてはバッチリだったと思いますよ。
皆さんは自民党総裁選や外国人問題に今は夢中で、日銀の政策決定会合なんて
「利上げしなかったんだ」「ETFってなんぞ?」ぐらいなものとしか見ていないはずです。
実情は「国民の資産」を「国債の償還に使う」ということを宣言したということを認識しなくてはいけません。
◇植田総裁は「正常化したいマン」
質問者:
植田総裁の政策変更については筆者さんはことあるごとに批判されていますよね……。
筆者:
主に今回のETF売却の他に利上げ、国債買い入れ減額などを行いましたがどれもタイミングとしては最悪です。
まず「物価が上がっているから利上げをしている」と言う反論が来そうなのですが、
米などの食品値上がりは2倍になっていますが需要が2倍になったわけではありません。
(外国人観光客などで需要が増えたのであれば受け入れを減らさなくてはいけない)
輸入価格の上昇と賃上げと言うコストプッシュインフレに伴うものと
農家の高齢化による供給力不足です。
更に、手取りに関しては減税がされていないので実質賃金が減っています。
そのために需要が増えているから消費が増えているわけでは無いので、
利上げをしても物価高は収まることはありません。
むしろ利息分は価格転嫁されるまであるので利上げによって物価高は加速すると僕は分析しています。
どう考えても「安定的な実質賃金上昇」が利上げの絶対条件でした。
ボーナス支給月にだけ実質賃金が上がるとかボーナスが無い人は上がっていないも同然なので地獄ですよ。
質問者:
大体預金を持っている方は高齢者ばかりで若い世代はどちらかと言うと住宅ローンが多いですよね……。
筆者:
正直、まだまだ利上げしようとしているので“狂気“としか言いようがありません。
たかだか0.25%ずつ上げるぐらいでそんな……と言う声がありそうなのでちょっと住宅ローンシミュレーションサイトで計算してきました。
実際に住宅ローンで一戸建てを買うのに3000万円ぐらい借金をしているそうなので、
それを借りる標準年数35年で金利1%(今の変動金利がおよそそれぐらい)と1.25%で比較するとします。
金利が1.0%だと返済額が3556万円(月元金59,686円、利息25,000円)なのに対して、
金利が1.25%だと3700万円(月元金56,976円、利息31250円)となります。
おおよそ年収の5倍ぐらいの返済合計額だと比較的楽に返済できると言われていますので、
利率0.25%上げた際の差額144万円を埋めるためには月2万円以上収入が増えないと返済は厳しくなります。
(ちなみに今は現在の変動金利1%ほどということで話をしましたが、固定金利では既にどの銀行でも2%以上で設定されています)
質問者:
たった0.25%差でそんなにも総返済額が変わるのは、やはり元金が多いからですね……。
利上げですぐに借入の利息も上がるわけでは無いですが、ゆくゆくは上がりますからそれは痛いですね……。
筆者:
持ち家の価格が年収との差額分遠のけば、当然結婚や子育てなどの人生設計も遠のくので、結婚を辞めたり産もうとする子供を減らしたりする流れに繋がるでしょう。
利上げはジワジワと国民を蝕む(むしばむ)「少子化政策」と言っても過言ではありません。
ですから僕は現時点の利上げを前面否定しているということです。
しかし、3%ぐらいまで上げて「金融政策の正常化を目指す」という話もあるようなので本当に一般庶民にとってこの「正常化」は脅威と言えます。
質問者:
そもそも「正常化」する意味ってあるんですか?
筆者:
全くないわけではありません。
世の中には「円キャリートレード」と言うのが存在します。
利息の安い円で借り入れを行い、利息の高い海外の国債や株式を購入して運用するのです。
それは健全な状況とは言えないということです。
ただ、日本の実質賃金が下がりGDP成長もない日本の経済状況の方が「異常」なので思い切った金融政策は良いと思います。
むしろ、思い切った大胆な金融政策をしていたのに一般庶民への減税を行わない「政府が異常」であると言えたのです。
質問者:
政府が異常なままで金融政策を更に「正常化」したら……。
筆者:
日本の一般庶民は奈落の底に落とされるでしょうね。
借りることなく住宅を買えたり、円キャリートレードをやり続けていた上級国民だけが儲かるシステムとなりより格差は拡大していくことは容易に予想されます。
質問者:
もう一つの「日銀国債買い入れ幅減少」はどういう意味があるんですか?
筆者:
日銀は24年12月末時点で国債発行残高の52%となる約560兆円を保有することを問題視しており、これを減らすように“努力“しています。
24年8月から月間の国債の買い入れ額を四半期ごとに4000億円ずつ減らし
その後は2000億円に減らす額を緩めるようですが、
27年3月には減額を始める前の24年6月と比べて国債の保有残高は16〜17%減ることを見込んでいます。
ところが日銀の割合が下がれば下がるほど国債の利率の指標である10年物利回りの利率は上がっており(現在1.6%前後)、
「財政破綻」のリスクと言うのは上がっていくんですね。
質問者:
え……! どういうことなんでしょうか……。
筆者:
ギリシャが財政破綻したのはギリシャの通貨EUであり、更に国債の引き受け先がほとんど外国でした。
そのことから、外国に対する国債の支払いが出来なくなって破綻したのです。
確かに一見すれば日銀が国債引き受けの過半数を占める状況は異常とも言えるかもしれません。
ただ、それによって破綻をしないという“安定感”も生んでいたんですね。
特に外資の比率を増やしていけば、上記の僕の理論である「利上げしなきゃいいじゃん」ということも出来にくくなるので金融政策の幅も狭まりますしね。
質問者:
「正常化」しようとしているのがどんどん悪い方向に向かっていくということですか……。
筆者:
まぁ、「正常化」と言うのも「これまでの経済理論」に沿ったものに過ぎませんからね。
植田総裁は学者出身の方ですから、「日本の例外性」に着目することなく「正常化大好き」に走っちゃったんだと思います。
質問者:
この方向性は覆ることって無いんでしょうか……。
筆者:
残念ながら基本的にはこの流れは変わらないと思います。
ただ、諦めたら終わりだと思いますので、僕なりの見解を述べているということです。
植田総裁が“やらかした“ものたちも戻そうと思えば戻せますしね。
ということで、「ETF売却」は「国民の資産売却」であるにも関わらず国民負担減に使わないことと、植田総裁が「正常化」のために実情の良いところを破壊しようとしているということをお伝えしました。
今後もこのような政治経済について個人的な意見を述べていこうと思いますのでどうぞご覧ください。