母、お好み焼きパーティーを開く
はじめまして。
この作品は、亡き母との日々をユーモアを交えて描いたものです。
介護の現場は大変なことも多いですが、母は最後まで“笑い”を忘れませんでした。
時に本気で怒られ、時に本気で笑わせられ――
気づけば私も看護師さんも舞台の共演者にされていました。
第一話は、母が大好きだった「お好み焼き」のお話から始まります。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
母はある日、真剣な顔で言った。
「今日はみんなで、お好み焼きパーティーだ!」
その声は、町内会のリーダーのように力強かった。
居合わせた訪問看護師さんは目を輝かせて、すぐに乗っかった。
「わあ、いいですね!楽しみ~!」
……その瞬間、私の頭の中は大混乱である。
――いや、本気!?
――粉あったっけ?キャベツもネギも豚バラも……冷蔵庫にある?
看護師さんと母はもう完全に「宴会モード」。
母はベッドの上でにっこりしながら、言葉を重ねる。
「ジュージュー焼いてね、みんなでひっくり返すのよ!」
「はい!私はソースたっぷりがいいです!」
二人は盛り上がりっぱなし。
私はキッチンの在庫を真剣に思い浮かべて、冷や汗をかいていた。
――いや、これは現実じゃない。
――お好み焼き粉を探しに走らなくていいんだ!
母は、ベッドの上で本当に鉄板の前に座っているつもりになっていた。
「焼きそばも一緒に作ろうかしら」
「やった! モダン焼きですね!」
看護師さんと二人、すでに架空の鉄板を前にパーティーを開いていた。
私はふっと気づいた。
母が食べたいのは“お好み焼きそのもの”じゃない。
――“みんなで笑いながら集まる時間”を焼いているのだ。
母の顔はとても楽しそうで、今もその光景は鮮やかに思い出せる。
ベッドの上が鉄板に変わり、
病室が笑い声に満ちたパーティー会場に変わる瞬間。
母は、最後まで場を楽しくする力を持っていた。
結局、本物のお好み焼きを作ることはなかった。
けれど私の心の中には、母が焼いた熱々の一枚が、
今も香ばしい匂いを立てている。
母は本当にお好み焼きが大好きでした。
ベッドの上でも「パーティーだ!」と宣言して、
看護師さんと一緒に盛り上がる。
今でも思い出すと、自然に笑ってしまいます。