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先見の巫女は自分の将来(バカップル化)をどうにかしたい  作者: 依馬 亜連
シーズン3

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2:ビッグ・ブラザーな巫女様

〈続きまして、先見の巫女を務められている日向 鈴緒さんによるお祝いのご挨拶です。日向さん、よろしくお願いします〉


 鈴緒が営業スマイルの裏でハラハラしていると、司会担当の放送部からの呼びかけがあった。今日のお仕事タイムである。

 もはや大勢の前で話すことにも、鈴緒は慣れっこだ。内心の不安をおくびにも出さず、微塵も隙のない笑顔で楚々と壇上へ向かう。


 しかしマイクまでたどり着く前に、気付いてしまった。

 乱闘の発端となる、おっぱい星人学生の周囲の奇妙さに。

 おっぱい星人自体は先見の時と変わらず、平均的十代男子像を立体化したような、量産型大学生風である。

 己の没個性感を自覚しているからこその、起死回生を賭けた「揉ませて」発言だったのかもしれない。となれば、個性の出し方が致命的に下手であるが。


 だが現実のおっぱい星人は、周囲から浮いていた。彼の両隣に男性が一人ずつ座っているものの、彼ら三人は周辺の学生から露骨に遠巻きにされていた。そのせいで椅子に座れずあぶれている学生がいるにもかかわらず、誰も彼らの近くに座ろうとしない。


 そしておっぱい星人の両隣は、悲しいかな鈴緒にとって嫌というほど見覚えのある人物だった。

 特におっぱいの右隣は――施設管理課所属のため、本来なら入学式に一切関わらないはずの銀之介だったのだ。

 老け顔気味の今年で二十七歳が、初々しさを漂わせる学生に混じっている時点でかなり危ういが、それに服装が拍車をかけている。


 普段の実直そうなスーツ姿から一変し、ド派手な開襟シャツに白スーツを合わせているのだ。トドメとばかりにシャツのボタンもいくつか外し、鎖骨の傷跡と見事な大胸筋を晒していた。

 どれだけ好意的に見ても、脳筋ヤクザにしか見えない。

 念願の大学合格を果たした、オールドルーキーなヤクザである。なんともドラマチックだ。ドキュメンタリー番組の題材にも打ってつけであろう。


 そしておっぱい星人の左隣に座っているのは、まさかの上井だった。没個性大学生を真っ白な灰に変えたいのだろうか、こちらは過去最大にめかし込んだオシャレスーツ姿である。花の刺繍が満載の赤いスーツを、見事に着こなしていた。

 こちらは大学に入り直してインテリ系コメンテーター路線を狙う、パリコレモデルに見えなくもない。


 ヤクザとパリコレおじさんに挟まれたおっぱい星人は、もはや野次を飛ばすどころではないのだろう。鈴緒が壇上に上がっても、一切顔を上げようとしない。

 ただひたすら小さく背を丸め、自分の膝だけを見つめていた。気のせいか、小刻みに震えているような。


(銀之介さん、大丈夫ってそういうことだったんだね……うん。やり過ぎ……馬鹿!)

 大乱闘の火種すら起こさないという、その気概はありがたいものの。これでは別のトラウマを、学生たちに刻みかねない。いや、絶対に刻んでいる。


 鈴緒は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、お祝いの言葉だけはつつがなく言い終えた。スピーチなど慣れっこなので、心ここにあらずであっても問題ないのだ。

 それに鈴緒が早々に退散した方が、新入生たちの精神衛生的にもいいだろう。彼女が下がれば、ヤクザとパリコレも一緒に退出するはずである。


 彼女がそつのない動作でお辞儀をして、マイクの前から一歩下がったところで、リハーサルにはなかったアナウンスが入った。今までよりも、声が硬い。


〈なお先見の巫女は、国と佐久芽市からの依頼を受けて、当市の先見を行って下さっております。大変、大変ありがたい存在ですので、彼女への誹謗中傷やセクハラ等の迷惑行為は国並びに当市への迷惑行為と見なし、行った方へ厳重な処罰を行います。場合によっては保護者の方への通達や、停学・退学処分も有り得ます。どうかくれぐれも、お気をつけ下さい〉


 巫女当人すら知らない謎ルールの案内に、講堂全体がざわついた。一体この街は、どこのディストピア・シティだというのか。


 なお放送部には式典や文化祭での司会を頼んでいるが、式典での台本については放送部と大学事務局が共同で作成している――と、銀之介から聞いている。

 突如『龍が如く』スタイルで現れた恋人と、RPGの中盤で訪れそうな呪いの街テイストな警告文……そこから導き出されるのはつまり、

(銀之介さん、だからやり過ぎなの! 馬鹿ぁ!)

である。鈴緒は頭をかきむしって絶叫したくなった。


 しかし理性を総動員し、鈴緒はのたうち回るのを寸前で堪える。代わりに髪を一つ撫でてから、ドン引き状態の新入生たちへ視線を向ける。全員、顔が引きつっていた。

 特に見覚えのない面々――恐らく市外からの入学者だろう――の青ざめっぷりが酷い。


 鈴緒はドン引きな彼らの緊張を和らげたくて、にこりと笑いかけた。今日一番の笑顔をキメたはずだ。

 しかし警告文のおかげなのか、かえって新入生ズを怯えさせてしまった。「ヒィィッ!」という引きつった悲鳴と共に、より一層縮こまっている。


 誠に、誠に申し訳ない。

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