27:結局10着で妥協したそうな
鈴緒は高校へ入学すると同時に、先見の巫女の役目を母から引き継いだ。お勤めと学業の両立のため、あいにくと恋をする暇はなかった。友人とは結構遊んではいたけれど。それはそれ、である。
しかし男性の裸だけは、恋人が出来る前から見慣れていた。なにせこんな片田舎の地方都市でも、変質者はいるものだ。
よって男性のモザイク必須部分にも悲しいかな見慣れちゃっていた鈴緒であるが、一つだけ思い違いをしていたことがあったらしい。
それは身長と同じく、モザイク部分にも当然ながら個体差があるという事実だ。どうやら性犯罪者のクソ野郎どもにおかれては、平均的な大きさが多かったようだ。
一方で平均よりも頭一つほど上背がある、彼女の恋人のモザイク部分はと言うと――
(あんな大きいのも、ちゃんと入るんだ……え、どういうこと? 人体どうなってるの? 人ってすごい、わたしもすごい……)
身長相応のサイズ感であった。まさかアレの大きさに、そこまで振り幅があるなんて。誠に人体とは、不可思議な存在だ。
ひょっとすると、探せば発光機能もあるかもしれない。
そんな規格外と初手で相対する羽目になった鈴緒は、現在ベッドにぐったりと横たわっていた。服を着る余裕も残っていないので、素っ裸のままである。一応、布団だけはかけてもらっていた。
サイズ感は玄人向けな一方、銀之介は気遣い屋でもある。よって詳細こそ語れないものの、終始ものすごーく尽くしてもらった実感もあった。
その甲斐もあり下腹部に違和感は残っているが、行為中も現在も痛みは薄い。代わりに至れり尽くせりによって、こっ恥ずかしさで死にそうになったけれど。
つい「至れり尽くせり」パートを思い返してしまい、鈴緒は枕に顔を突っ伏して声なき叫びをあげた。この奇行を、一階で水を汲んできた銀之介に見られてしまう。彼は無表情のまま、目だけぱちくりさせた。
「鈴緒ちゃん、何してるんだ?」
「……なんでもない。眠気と戦ってただけ――けほっ」
しばしの沈黙の末、鈴緒はそう言い繕った。声がかすれており、空咳も出ている。汗もかき散々啼かされたため、喉がからからだった。
銀之介はベッドの縁に座って、甲斐甲斐しく彼女へ水を飲ませた。彼も部屋着のズボンしか履いていない半裸状態だが、今の鈴緒にそれを恥ずかしがる余裕はない。照れより水分だ。
「俺が言えた立場では全く無いが、大丈夫か?」
その通りだったため、鈴緒が水を飲みながら愉快そうに目を細める。そして水で喉を潤した後、気難しい表情でこちらを窺う銀之介へ笑いかけた。
「平気。ちょっと疲れちゃったけど、大丈夫だよ」
銀之介の怖い顔も、この言葉と気の抜けた笑顔によって少し和らぐ。ホッとしたところで、彼はヘッドボードに置かれている紙袋にようやく気付いた。
「これは、チョコか?」
紙袋へ手を伸ばす彼へ、鈴緒がこくりと頷く。
「うん。よかったら食べて」
彼女の言葉を受け、銀之介が礼を言いながらいそいそとローズピンク色の小さな箱を取り出した。そして箱の中に、柔らかな緑色のチョコが並んでいるのを目にして、口元をほころばせる。
「抹茶チョコか」
どうやらお気に召したらしい様子に、膝を抱えた鈴緒もにっこり笑う。
「和食好きだから、こっちの方がいいかなーって。本当は作ろうかなって思ったんだけど、お菓子はちゃんとしたお店の方が絶対美味しいから」
「鈴緒ちゃんの手作りの方が、旨いに決まってるだろ」
「もう、そういうのいいから。早く食べて」
鈴緒は平常運転のべた褒めに白けた声で返しながら、箱の中のチョコを一粒つまむ。抹茶パウダーもかかったトリュフチョコだ。それを銀之介の口にねじ込んだ。
「む、旨いな」
「だからそう言ったでしょ」
ドヤる鈴緒の前に、銀之介が箱を差し出した。いいのかな、と彼女は数秒迷った末に一粒だけいただくことにした。プラリネチョコだったらしく、口に含むとマカダミアナッツのペーストがとろけ出た。思わず顔がほころぶ、優しい甘さだ。
銀之介は二つ目のクランチチョコに手を伸ばしながら、自身の足元へ視線を向ける。そこには鈴緒がつい一時間ほど前まで着ていたラッピング素材もとい、セクシーランジェリーが落ちていた。
「ところで。この下着は、一体どこで買ったんだ?」
鈴緒は指先に付いたチョコを舐めとってから、彼に倣ってベッドの下を覗き込む。着ながら盛り上がったため、下着は変わり果てた姿になっていた。洗えば大丈夫――だといいけれど。
「モールにあるお店。牧音ちゃんと倫子ちゃんに教えてもらったの」
「そうか。君はお友達に恵まれているんだな」
銀之介は感慨深げに、しみじみと言った。しかしこの感想によって、鈴緒は束の間チベットスナギツネのお顔となる。呆れるように目も細められていた。
「……いいこと言ってるのに。判断基準が本当に最低」
蔑む恋人にも、銀之介は真顔のままいけしゃあしゃあと返す。
「その点については申し訳ない。しかしこれが、忌憚なき俺の意見だ」
「覚えようよ、建前」
「善処する。ちなみにこの際なので更にぶちまけると、こういった下着があと五着ほど欲しいぐらいだ」
「はいッ?」
鈴緒がギョッとしながら、裏返った声を出す。銀之介は仰天する彼女をじぃっと見つめ、しばし沈黙した末に
「――あと十五着は欲しいかと」
「どうして増やすの!?」
「折角なので」
折角で十着も増やすのは図々し過ぎるだろう、と言いたいところであるが。根っこが現実主義な鈴緒は、寝乱れたシーツをペシペシと叩きながら、もっと即物的な側面から反論する。
「そんなにしまっておく場所なんてないし、これ、結構高いんだからっ」
「ここに置いておけば良いだろう。代金も勿論、俺が払う」
「うぐっ……でも、そんなに要らないよ」
「要ります。すぐに使います」
「使いませ――んんっ!」
鈴緒の反論は、噛みつくような口づけで強引に打ち切られた。ベッドに乗り上げた銀之介に貪られながら、シーツへ再度縫い付けられる。
それと同時に建前や遠慮を知らない彼の手が、彼女を覆い隠す布団もめくり上げた。むき出しになったままの彼女の肌を、煽るようにくすぐり弄んだ。
ついさっきまで彼によって散々とろかされていた鈴緒の体は、それだけで力が抜けてしまう。理性も再びぐずぐずと溶け始め、小さな嬌声も溢れ出た。
が、根っこが勝気な鈴緒はそれでも潤んだ目を細め、口づけの合間に銀之介をじっとり睨む。
「……銀之介さんの、ばか。エッチ、へんたい、ムッツリ」
彼はこの低IQな罵倒語に、喉を鳴らして低く笑う。こつん、と鈴緒と額を重ね合わせた。
「去年からずっとお預けだったんだ。すまないが、今日ぐらいは大目に見てくれ」
「ぐぅ……」
クリスマスの一件を持ち出されると、もはや何も言えない。鈴緒だってあの日からずっと、銀之介に触れて欲しかったのだから。
「今日、だけだからね……」
なので抵抗を諦め、もう少しだけ彼に付き合うことにした。銀之介の逞しい首に両腕を巻きつけ、ぎこちない動きでそっとキスを返す。




