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先見の巫女は自分の将来(バカップル化)をどうにかしたい  作者: 依馬 亜連
シーズン2

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49/79

11:昔は「おにいちゃんだいちゅき!」って言ってくれてたのに……

 家族や友人からアホだのバカだのと言われ、自分でもその自覚がある緑郎だが、今回のデート同伴はわざとだったりする。

 そう。妹が浮かれまくっていた水着デートに、あえて乱入をかます予定なのだ。


 これは別に、鈴緒が男の(よこしま)な目に晒されてしまうのでは、という危惧からではない。銀之介のことは信頼しているし、自分よりよほど素行もよくて頭もいい上に良識もある。人相は悪いけれど。


 彼は大事な友人であり、そして鈴緒も大事な妹だ。そんな二人が案外すんなりくっついたことはめでたいのだが……反面かなり寂しかったりもする。

(だってさ、なんか二人ともおれのこと『ついで』みたいな扱いだしさ。なんか見つめ合って素直にお喋り出来なさそうな雰囲気出しながら、ちゃっかり微笑みあったりさ。なにその甘々! キーッ、うらやましい!)


 この仲睦まじい両者への純度100%の嫉妬心から、緑郎はデートに割り込むことを決めたのだ。もちろん、月一連載しているエッセイマンガのネタに困っているのも事実ではある。


 そんな自覚ある悪行を働いた彼の部屋のドアが、ある日ノックされた。だらだらとSNSを見ながら作業をしていた緑郎は、慌ててパソコンのブラウザを閉じる。

「はいはい、どうぞー」

 次いでマンガ制作アプリだけを開き、「一生懸命に仕事してまーす!」感を醸し出しながらドアに向かって声をかけた。


 小難しい顔も作っていたものの、ドアを開けたのが鈴緒と銀之介の二人であり、しかもどちらも怖い表情を浮かべていたため、すぐに尻込みしてしまった。

(あ、まさか、わざと邪魔したの……バレた!?)

 自分が自他共に認める、ノンデリのバカ野郎であることを逆手に取っての暴挙だったのだが、さすがに勘づかれただろうかと頬を引くつかせる。


(だって、だって、お兄ちゃん寂しかったんだもーん! 鈴緒、まだ一緒に『パディントン2』観てくれてないし! 銀之介もスマブラしてくれないし!)

「あのさ、どしたの二人とも? 顔、怖いよ……?」

 緑郎がそう、恐る恐る尋ねると。


 鈴緒と銀之介がちらり、とお互いに視線を交わした。二人には三十センチ超の身長差があるので、どちらも首が辛そうである。早急に着座を勧めるべきだろうか。

 しかし緑郎が、ごちゃついた室内で座れる場所を探している間に、銀之介が口を開く。

「緑郎。お前、近々逮捕されるぞ」

「えっ、逮捕? なんで!?」

「罪状は公然わいせつだ」

「公然わいせつ!? どういうことぉ!?」


 ベッドの上の、脱ぎっぱなしにしていたパジャマに手を伸ばしかけた緑郎が目を剥いて仰天した。全く身に覚えがない。

 しかし驚き固まる友人を見つめる銀之介は、相変わらず険しい顔だ。まるで、脱走する亡者を発見した獄卒のごとし。

「俺にも経緯は分からんが。鈴緒ちゃんが今朝、先見で視たらしい。モアトピア内でお前が全裸になって、逮捕されるようだ」

「え、プールで……マッパに?」


(あれかなぁ。水着持ってくの忘れて、パンツで泳いで脱げたのかなー……うわ、おれなら多分やるなー。だっておれだもん)

 己への悪い意味での絶対な自信により、ついそんな予想図を組み立ててしまう。

 鈴緒も怖い表情だが、ここで少しだけ口元を緩めて小さく頷いた。何故だろう、笑いをこらえているようにも見える。

「うん、全裸だったね。それでパトカーに乗せられる時に……ふふっ、『名探偵コナン』の、BGMも流れてたの」


 思い切り途中で笑いながら、鈴緒が珍妙な先見の演出を語る。緑郎の甘い顔立ちが、情けなく歪んだ。

「えええぇー……土地神様もさ、なんかちょっとふざけてない? ってかおれ、ミステリーなんて『古畑任三郎』しか観たことないし……」

 ちなみに彼のお気に入りキャラはもちろん、脚本の三谷幸喜氏から「史上最低のワトソン」との蔑称を受けた今泉君である。とんでもなく親近感を覚えるのだ。


 緑郎は上半身をクネクネと動かして困惑していたが、ここでハッと気付く。

「あのさ、この先見って……警察には?」

 わざとらしい上目になって、二人を伺った。銀之介が鈴緒の旦那様(予定)として連絡係を請け負ってくれるまで、彼が担当していたのだ。私生活でもトラブルメーカー気質な彼は、警察に助けてもらうことも多い。そんな顔見知りの皆さんには、あまり知られたくないのだが――


 銀之介がわざとらしく、片方の口角だけを持ち上げた。こいつが笑うなんて貴重だが、今のは「こいつは風俗に沈めるか」と考えているインテリヤクザの笑顔である。

「ああ。報告するとすぐに『いつかやると思っていた』と返信があった。さすがだな」

「ぎゃっ」

 冷淡な笑顔にふさわしい無慈悲な回答に、緑郎がたまらず悲鳴を上げた。鈴緒はにっこりと微笑んで、すかさず追撃をかます。


「そうそう。さっき牧音ちゃんとね、明日の待ち合わせ時間の相談ついでに、先見のことも言ったらね。こっちも『ついにやりやがったか、アイツ』って返って来てて――」

「ほんとごめん。デートに割り込んで、邪魔しようとしてほんとにごめん。反省してます。だからこれ以上、傷口に塩ってかブート・ジョロキアなすりつけるのは止めて。ほんとにマジでノーサンキューです。切実に」

 緑郎は、身内のひいき目を抜きにしても愛らしい笑顔で、毒まみれな事実をお伝えする妹の言葉を遮り、やや早口で頼み込んだ。


(ってか、なんで牧音ちゃんに言っちゃうのよ、スズたま! なにそのSっ気!)

 妹の想定外の成長ぶりに涙目となりつつ、不格好に笑ってサムズアップをする。

「おれ、おうちで留守番してますから!」

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